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 3月号  2018年

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伊藤伊那男作品

主宰の八句














        
             


今月の目次








銀漢俳句会/3月号












  




   



銀漢の俳句 

伊藤伊那男 


◎袋廻しと尻取り俳句

 過日、超結社の12人ほどで秋田県増田町の日の丸酒造を訪問した。「まんさくの花」の銘柄で近時人気の酒を醸している。この旅は銀漢亭の客でもある句友のIさんが蔵元と懇意なことから計画してくれたのであった。増田町は横手市に属し、秋田でもとりわけ雪が深い山間部である。11月下旬の新幹線の車窓は盛岡あたりから雪景色に変わった。増田町はいくつかの街道が交差する要衝の地で往時大いに繁盛したという。家の中に蔵がある独特の家屋が街道に軒を連ねている。つまり幾つかの蔵を含めた家全体を更に大屋根が覆っている重層家屋群である。その内蔵の造りは精緻を極めており、たとえば蔵の外壁の漆喰の仕上げは雲母の粉末で研いで光沢を放っている。蔵の中は倉庫ではなく賓客を迎えたり、祝宴をする座敷である。初期のものは柿渋を塗ったというが、大半は漆をふんだんに使った豪華な造りである。そのような蔵座敷で句会も開かせて貰った。
 酒蔵見学であるから、夕方からは宿で酒を飲み続ける。食後「袋廻し」をやろうという。誰かがちゃんと封筒を用意しており一枚ずつ渡される。表に自分の考えついた季語を書き、一句作って封筒の中に入れて右隣に渡す。左隣からは次の封筒がきているのですぐ作句する。一、二分の制限時間なので10人いれば20分位で10句出来上がるのである。私は袋廻しはあまり好きではなく、10年振り位に参加したのだが、瞬間の芸なので、本人も予想もしない発想の句が稀に生まれることがあることは知っている。
 翌日の帰路の新幹線の中で「尻取り俳句」をやるという。それは誰かが一句を出し、その下五が「雪催ひ」であったとすると、次の作者は「ひ」から始まる一句を作る。そのようにして一周すると次は、最後の下五が「雪催ひ」であったとすれば「よひ」の二音を使って始まる一句を作る。三周目は最後の三音「もよひ」で始まる一句を作り、それが続いていく。四周目は「きもよひ」の四音を上五にして始まる句ということになり、だんだん制限が強まっていくのである。酒をかたわらに苦吟を重ねて四音までの尻取りが青色吐息の中で終了したところで、新幹線は東京駅に到着したのであった。
 袋廻しは多少の効用があるが、尻取り俳句は俳句の実力向上にあまり効果が無いのではないか、というのが私の結論である。ただし多作多捨ということも大切であり、楽しい遊びでもある。皆さんも一度は体験してみたらよいのではないかと思う。
 











 



  

盤水俳句・今月の一句

伊藤伊那男
 
最上川見る虎杖を手に余し     皆川盤水


先生は斎藤茂吉を敬愛しており『芭蕉と茂吉の山河』の著作もあるし、茂吉を詠んだ句も多い。当然ながら茂吉縁の地も度々訪ねている。この句は戦時中茂吉が疎開していた大石田の弟子、板垣家子夫宅訪問時の属目。裏の土手に上ると眼下に最上川が流れている。そこに虎杖が繁っていたのであろう。「手に余し」がいい。時を経て私達が大石田へ行くと言うと、先生は是非板垣家を訪問するようにと仰るので訪ね、ご子息の歓待を受けた。
                                   (昭41年作『銀山』所収)











  
彗星集作品抄
伊藤伊那男・選

丹沢の嶺々のむらさき薬喰ひ        久重 凛子
蝋涙やニコライ堂の十二月         島  織布
葛湯呑み一日透明な脳でゐる        松代 展枝
日に干せば湿布の匂ふ褞袍かな       武井まゆみ
三角も丸も一緒におでん鍋         萩原 陽里
利かん気の羊もゐたり聖夜劇        宮本起代子
凩の躓き曲る城下町            新谷 房子
林檎剥く皮に刃元を透かせては       戸矢 一斗
かき寄せて焚くにはをしき柿落葉      保谷 政孝
見なれたる山をしみじみ冬帽子       半田けい子
旅終ふる頃に馴染めり冬帽子        杉阪 大和
寒菊のひと叢に黄を残しをり        辻  隆夫
お年玉こゑの元気な子に育ち        坂口 晴子
枯葉踏む音が良いから好きな靴       白井 飛露







       








彗星集 選評 伊藤伊那男


  
丹沢の嶺々のむらさき薬喰ひ       久重 凜子
 丹沢は東京に近い山塊。私は登山をしている頃、度々登った。登山口から山頂までの標高差は千メートル位あるので登り甲斐がある。山のあちこちの襞には温泉も湧き、猪鍋なども出る。伊豆半島が日本列島に衝突して隆起した山で、小田急線から全貌が見える。日当りの良い山で、句にあるその日は紫色に煙っていたのであろう。類型句はあるかもしれないが、やはり真正面から詠んだ形も調べも良い句である。固有名詞も動かないし、薬喰の取り合わせで、この山の冬の有り様も美しく切り取っている。俳句という表現方法の一つの典型句といってよい。
 
蝋涙やニコライ堂の十二月        島  織布
 教会堂で蝋涙が垂れていることは一年中あることだ。だがこの句のように「十二月」と断定されると、おのずから深い意味を持ってくるように思われる。クリスマスという降誕祭は太陽の復活を祝う冬至祭が根底にあり、人類にとって極めて重要な月であるからだ。一年間の感謝の涙と、新年の祈りの象徴としての「蝋涙」ということになろう。
 
葛湯呑み一日透明な脳でゐる       松代 展枝
 宇陀郡の葛工場を訪ねたことがあるが、あの武骨な葛の根を叩いて晒すことを何十回も繰り返し不純物を除いていく。その精製の極致に出来上るものである。だからこそ「透明な脳でゐる」という表現に納得するのである。ただし俳句的であるな、と思うのは「一日」と付け加えた点である。飲んだその一日、というところにおかし味が加わるのだ。

  
日に干せば湿布の匂ふ褞袍かな      武井まゆみ
私の子供の頃は褞袍が必需品であった。暖房設備が行き渡った現在ではほとんど見かけなくなったが、古い温泉宿などで出されて、懐しい思いをすることがある。作者のまわりには褞袍愛好者がいるのであろう。綿が入っているので簡単に洗うわけにはいかず、干すのであろう。「湿布の匂ふ」に現実味がある。少し情け無い雰囲気が出たところが、味わいである。 

  
三角も丸も一緒におでん鍋        萩原 陽里
ごった煮の代表であるおでん鍋を面白く詠みとめた句だ。丸は大根、つみれ、がんもどき、……、三角は厚揚、巾着、蒟蒻……。でも、それだけではなく、この句からは食べる側の人達にも想像が及ぶのである。性格の丸い人、角のある人……そのような人たちが鍋を囲んでいる様子が目に浮かぶのである。

  
利かん気の羊もゐたり聖夜劇       宮本起代子
 聖夜劇の子供達の生態を詠んだ句は沢山あるが、この句は類型を越えて生き残った句である。おとなしい筈の羊でありながら、一人だけ台本通りに動かない羊役がいる。羊仲間に体当りをしたり、動かなかったりしているのであろう。自分の子供であったらはらはらし通し、という場面であろう。

 
 凩の躓き曲る城下町          新谷 房子
城下の直角に曲る道の様子などを捉えて見事。 

  
林檎剥く皮に刃元を透かせては      戸矢 一斗
 確かに剥くときは刃元(・)。「透かせて」がうまい。

  
かき寄せて焚くにはをしき柿落葉     保谷 政孝
 柿落葉の美しさは特別で、ついつい残したくなるものだ。

  
見なれたる山をしみじみ冬帽子      半田けい子
 「冬帽子」の斡旋で年齢の積み重ねなどにも思いがゆく。

  
旅終ふる頃に馴染めり冬帽子       杉阪 大和
厚手のものであるだけに少し時間がかかるのだ。 

 
 寒菊のひと叢に黄を残しをり      辻  隆夫
 寒菊の最後の最後の美しさ。「ひと叢に」が的確。

  
お年玉こゑの元気な子に育ち       坂口 晴子
  孫というものはともかく元気であれば、それだけでいい。

  
枯葉踏む音が良いから好きな靴      白井 飛露
 ささいな事にも楽しみを見つける。これが俳句。


彗星集は通常20句を選句することになっている。3月号には268句出句されているのだが、今回はギリギリ好意的に選んで14句しか選句できなかったことは残念である。参加するということはもちろん大切だが、やはり出すからには全力で選者に挑戦するつもりで投句してほしいものだ。「彗星集」であるから、日頃の自分の殻を破るような実験的な句を出して貰ってもよい。新しい自分の方向を探るような句を作ってみてほしい。
 


      

  












銀河集作品抄

伊藤伊那男・選

先に酔ふおでん屋台の亭主かな    東京   飯田眞理子
冬満月遺跡めきたる村十戸      静岡   唐沢 静男
ひとり居の栖めば都と冬ごもり    群馬   柴山つぐ子
それほどの事無けれども年惜しむ   東京   杉阪 大和
厨口硝煙匂ふ冬帽子         東京   武田 花果
栄西の道念の山霜日和        東京   武田 禪次
それぞれに気に入りの屋根鳩小春   カナダ  多田 美記
手締めの手すぐ火にかざす三の酉   東京   谷岡 健彦
てのひらで拭へば消ゆる冬の虹    神奈川  谷口いづみ
銀杏散る回転木馬駆け出せば     愛知   萩原 空木
夢のまた夢も反故なり古暦      東京   久重 凜子
鮟鱇の骨をあつめて鍋終わる     東京   堀切 克洋
一湾の汪洋として冬霞        東京   松川 洋酔
木枯のころがりて来る炭団坂     東京   三代川次郎
















   
   













綺羅星集作品抄

伊藤伊那男・選 

あたたかき柚子湯も禊めく吉野     東京  伊藤 政三
マヨネーズ逆さに立てて冬籠      長崎  坂口 晴子
鱈船の床に転がるウォッカかな     東京  川島秋葉男
細切れの時間をつなぎ毛糸編む     東京  中野 智子
ななかまど真赤一茶の国に入る     東京  堀内 清瀬
記憶より小さき鎮守冬日和       東京  山元 正規
三方は山一方は風囲          東京  森 羽久衣
風囲安吾の海は吼えつづけ       東京  武井まゆみ
寒がりの父の柩へ冬帽子        東京  大溝 妙子
村人の数の座蒲団枯野寺        東京  渡辺 花穂
湯治客門に迎ふる雪達磨        東京  半田けい子
着々と脂肪たくはへ冬用意       東京  橋野 幸洋
かうべよりこころに欲しき冬帽子    東京  中村 孝哲
凍蝶をガレのらんぷに嵌めたくて    東京  中村 貞代
宗像の肉置きのよき木の実かな     大阪  中島 凌雲
神の留守一つ空きある朱印帳      東京  多田 悦子
均すにも広き古墳や石叩        兵庫  清水佳壽美
暮るる色まとひ初めたる白障子     長野  三溝 恵子
木の実落つひとつの音にひとつの詩   神奈川 大野 里詩

墨の香に心遊ばせ賀状書く       東京  相田 惠子
手ぎはよく終へし水仕や冬銀河     宮城  有賀 稲香
スタンプの如枯葉踏む象の足      東京  有澤 志峯
三輪山へ索麺明かり雪催        東京  飯田 子貢
亡き母の櫛を拭へば冬日濃し      埼玉  池田 桐人
あの燃ゆる辺りが故郷寒夕焼      埼玉  伊藤 庄平
藻畳を渡り嶋神還りけり        神奈川 伊東  岬
柊咲く蘂をつんつん差し伸ばし     東京  今井  麦
青年と言はれてしまひ夜廻に      東京  上田  裕
冬帽脱ぐ日だまりひとつ脱ぐやうに   東京  宇志やまと
てつぺんの星の灯りて聖樹かな     埼玉  梅沢 フミ
天狼星を揺らす秩父の冬花火      埼玉  大澤 静子
冬に入る列車の音は風に似て      東京  大沼まり子
雪催牛舎の藁に上がる湯気       埼玉  大野田井蛙
ビル街にして柊の花日和        東京  大山かげもと
縄跳びの風切る音や青き空       東京  小川 夏葉
羽ばたけぬ白磁の天使冬木立      宮城  小田島 渚
外套の齢は両の袖口に         埼玉  小野寺清人
冬菊の白にも深き色のあり       神奈川 鏡山千恵子
御手洗の四方を降り継ぐ木の葉雨    和歌山 笠原 祐子
陽の帯に入る水鳥を見失ふ       東京  梶山かおり
沈黙は花の数だけ菊人形        愛媛  片山 一行
梟や悪人正機説一行          東京  桂  信子
冬日透く礼拝席の木の香り       東京  我部 敬子
シクラメン押し返へさるる葉のちから  高知  神村むつ代
息白くかかる新聞訃報欄        長野  北澤 一伯
子規まねて糸瓜見上ぐる小六月     東京  柊原 洋征
一つ持つ帽子嫌ひの冬帽子       神奈川 久坂依里子
淀みなき前借の文一葉忌        東京  朽木  直
富士塚へ登つてもみる小春かな     東京  畔柳 海村
掛軸の達磨の睨む寒さかな       東京  小泉 良子
横浜や舫ひ結に注連飾る        神奈川 こしだまほ
雪もよひ暮るるに早き夕支度      東京  小林 雅子
居酒屋の軋む階段年忘         東京  小山 蓮子
宿坊の外廊長し霜の声         千葉  佐々木節子
福引に当りて鐘のシャワー浴ぶ     東京  島  織布
太るとは頭も太る冬帽子        東京  島谷 高水
聖夜わく銀座見守るライオン像     東京  白濱 武子
大銀杏降る富士塚へ登頂かな      東京  新谷 房子
冬の滝絶えず火伏の神の山       大阪  末永理恵子
笑はせていただく法話冬ぬくし     静岡  杉本アツ子
どんぐりの帽子は枝に忘れをる     東京  鈴木 淳子
草の戸のかたちばかりの風囲      東京  鈴木てる緒
白菜や個性のなきを個性とし      東京  角 佐穂子
風呂吹の唐津父の座ありしかな     東京  瀬戸 紀恵
牛の産今夜あたりか雪催        神奈川 曽谷 晴子
熱燗や演歌は北の唄ばかり       長野  高橋 初風
漱石の英字名刺や冬館         東京  高橋 透水
みづうみへ比叡颪の息嵐し       東京  竹内 洋平
追ひかけて追はれる日々や年惜しむ   東京  田中 敬子
赤べこの俯きかげん雪催        東京  塚本 一夫
雲の色運河に映し雪もよひ       東京  辻  隆夫
円空仏微笑み返す帰り花        愛知  津田  卓
手に掬ふほどの初島冬霞        東京  坪井 研治
杉玉の色のととのふ雪の蔵       埼玉  戸矢 一斗
仮の世の旅のはじめの霜の声      東京  中西 恒雄
千歳飴たうとう投げてしまひけり    茨城  中村 湖童
睦むかにあひ寄る小島小春凪      埼玉  中村 宗男
雪兎泣き笑ひしてとけ始む       東京  西原  舞
いつの間に長老の座や山笑ふ      東京  沼田 有希
着々と脂肪たくはへ冬用意       東京  橋野 幸彦
八十路いま小春日和のありがたし    神奈川 原田さがみ
夢淵に合へる三川暮早し        兵庫  播广 義春
龍太亡き俳諧堂や山眠る        東京  保谷 政孝
凩に芯あり海の彼方から        岐阜  堀江 美州
取り箸が本音を突くおでん鍋      埼玉  夲庄 康代
通されて湯の滾りゐる春火鉢      東京  松浦 宗克
冬帽子柩の上に置かれをり       東京  松代 展枝
咳こんで星の飛び散る夜をまた     東京  宮内 孝子
聖夜劇やんちやな星も神妙に      神奈川 宮本起代子
晩学のあせり抑へて師走かな      千葉  無聞  齋
煤払見馴れ遺影のしかめ面       東京  村上 文惠
寒雀寄れば寄るほど脹らみて      東京  村田 郁子
白菜の葉先の縮れ波のごと       東京  村田 重子
寒波来る能登総持寺の太柱       千葉  森崎 森平
瀬戸内の島かげゆるぶ小春かな     埼玉  森濱 直之
散り果つを待ちてやうやう落葉掻く   長野  守屋  明
高千穂の耀へる懸大根かな       愛知  山口 輝久
武蔵野の大根洗ふ崖の水        東京  山下 美佐
鱈鍋の底より海のあぶく噴く      群馬  山田  礁
新蕎麦や安房峠の七曲り        神奈川 𠮷田千絵子
杣小屋に干しある大根皆細し      愛媛  脇  行雲
みちのくの光を紅に林檎の香      埼玉  渡辺 志水












       











     







銀河集・綺羅星今月の秀句

伊藤伊那男


あたたかき柚子湯も禊めく吉野      伊藤 政三 
年末に私も同道した吉野の嘱目である。蔵王権現に近い宿で、吉野建といって、一階が玄関と広間、その下に宿泊の部屋、その下に風呂がある、というような懸崖造りである。その風呂には柚子が浮かんでいた。「禊めく」の措辞が手柄で、修験の地吉野の地名が動かない。私は<吉野建てふ階下なる冬至風呂>と作ったが、政三句の方が断然いい。同時出句の<飲み干せぬ最たるものの葛湯かな>もどうしても容器の底に残ってしまう葛湯の粘りを詠み留めて類例がない。私は<葛湯吹く蔵王権現まなかいに>と作り、点を集めたが、熟練者ならだれでも作れるタイプの句であり、政三句の方が玄人好みということになろう。 


  

マヨネーズ逆さに立てて冬籠       坂口 晴子
マヨネーズは万能である。例えば奇跡的に助かった登山の遭難者が携帯していたチューブ入りのマヨネーズを舐めて命を繫いでいた、などという話を耳にしたことがある。調理でも和洋中、おおよその料理に合わせられる勝れものである。西洋のマヨネーズは瓶詰が多いようだが、日本はチューブ入りが中心。いつでもすぐ使えるように「逆さ立てて」冬籠りに入る。その視点がユニークで楽しい句になった。同時出句の〈突ついたところの凹む海鼠かな〉も感心した作品だ。余分なことは言わず、観察した「物」の生態だけを詠んで詩に昇華したのである。 


 

 鱈船の床に転がるウォッカかな     川島秋葉男
 根室辺りの嘱目であろうか。ロシアの漁船が蟹や鱈などを下ろし、中古車や家電製品などを積み込む。長い航海のことであるからウォッカの空瓶も多いであろう。半分は空想が混じる句であろうが、ウォッカを配したことで臨場感を深めた。小林多喜二の『蟹工船』の場面なども彷彿させる物語性がある。


細切れの時間をつなぎ毛糸編む      中野 智子
 私の育った時代の主婦は本当に忙しかったものだ。家電製品は未発達であったし、ガスや電気も惜しみ惜しみ使う時代で、セーターやマフラーなども母の手作りであった。家事の合間を縫って毛糸を編む。そのような姿を「細切れの時間をつなぎ」と表現したのは見事、という外はない。あの時代の主婦の姿を余すところなく描き切った。


  

ななかまど真赤一茶の国に入る      堀内 清瀬
 信州には「ななかまど」が多い。晩秋には葉も実も鮮烈な赤一色となる。木質が固く、七度竈に入れても燃え残ることからその名があるという。そのななかまどを配して、信濃とは言わず「一茶の国」と言ったところがミソで、一茶の頑固さを象徴しているのである。


記憶より小さき鎮守冬日和        山元 正規
 久々に故郷に帰ると、昔馴染んだ建物などが思いの外小さく見えて不思議な気持ちになることがある。自分が小さかったからであろうか。あるいはその後さまざまな見分を重ねたせいであろうか……。誰もが感じるそのことが俳句という形になったのである。周辺の木々の葉も落ちた時期でもあり、尚更小さく見えたのである。「冬日和」の取合せがいい。


三方は山一方は風囲          森 羽久衣        
 多分能登の風景なのであろう。日本海の強風がまともに吹き付ける土地柄だけに風囲は能登の風物である。低いけれども三方は山という描写もよく、孤高の集落の様子が簡潔に表出されている。


風囲安吾の海は吼えつづけ        武井まゆみ
 新潟市の護国神社境内の側面は急な斜面となって日本海に落ち込む。私も冬に訪ねたことがあるが怒濤が振動となって身体に響き、恐怖さえ覚えたものである。句の坂口安吾は新潟出身の反骨の小説家。「吼えつづけ」にその生涯を重ねているのである。余談ながら安吾は日本古代史にも造詣が深く、独特の見解には舌を巻いたものである。


  

寒がりの父の棺へ冬帽子         大溝 妙子 
 お父上をなくされたと仄聞した。その場面と知ると尚更感慨が深い。抑えに抑えた父上への哀惜の情が染み出ているのである。「寒がりの」に万感の思いが籠められており、その措辞により、父上の人物像が一層偲ばれるのである。


その他印象深かった句を次に

村人の数の座布団枯野寺         渡辺 花穂
湯治客門に迎ふる雪達磨         半田けい子
着々と脂肪たくはへ冬用意        橋野 幸彦
凍蝶をガレのらんぷに嵌めたくて     中村 貞代
かうべよりこころに欲しき冬帽子     中村 孝哲
宗像の肉置きのよき木の実かな      中島 凌雲
神の留守一つ空きある朱印帳       多田 悦子
均すにも広き古墳や石叩         清水佳壽美
暮るる色まとひ始めたる白障子      三溝 恵子
木の実落つひとつの音にひとつの詩    大野 里詩
















               

 



 
星雲集作品抄
伊藤伊那男・選

秀逸
    
抽斗が嚙む帯締めや久女の忌      神奈川  栗林ひろゑ
遠き日の安田講堂冬帽子        神奈川  中野 堯司
走り書き一つ消しては年用意      東京   山田  茜
万物の呼吸整へ山眠る         東京   辻本 芙紗
言葉にも障子にもあり表裏       神奈川  有賀  理
紅白の花冠解かるる牡丹鍋       大阪   辻本 理恵
カステラに陽だまりの色冬萌ゆる    埼玉   萩原 陽里
切干しを風呼ぶやうに広げけり     東京   福原 紀子
川風に抗ひ通し破芭蕉         広島   長谷川明子
富士塚へ零れ雀や一茶の忌       東京   星野 淑子
小さめの石鹸重ね年の暮        東京   保田 貴子
立山を驚かせたる鰤起し        静岡   金井 硯児
一遍の遊行の笠や落葉積む       東京   須﨑 武雄
短冊の細き筆先一葉忌         東京   上村健太郎
湯治場に冬至湯までの長逗留      東京   倉橋  茂

寒雀人の心のそばに寄る        京都   小沢 銈三
ハンガーの重み入れ替へ冬仕度     長野   桜井美津江
手に擦るクリーム勤労感謝の日     東京   清水美保子
ここからが円墳らしき枯野かな     神奈川  萩野 清司
真つ当に無職勤労感謝の日       東京   田岡美也子
裏庭に午後の日のきて風花す      群馬   山﨑ちづ子
牡蠣小屋の殻弾け飛ぶ一斗缶      東京   秋田 正美
箒目のとほる参道年の暮        埼玉   秋津  結
冬紅葉山並厚き甲斐盆地        神奈川  秋元 孝之
雨を呼ぶ祈禱中なり雨蛙        東京   浅見 雅江
茶事終り炭つぎたして炉を囲む     愛媛   安藤 向山
鰤起し氷見へ大雨をともなひて     東京   井川  敏



   

     



星雲集作品集抄


            伊藤伊那男・選

靴下の踵に穴や十二月         東京  生田  武
ささら鳴る宵宮詣おん祭        東京  伊藤 真紀
木枯や一気に攫ふ湯の煙        神奈川 伊藤やすを
水面蹴り潜く大鷭息長し        埼玉  今村 昌史
遥かなる遠嶺は雪の国境        愛媛  岩本 青山
禅寺に御僧ひとり冬に入る       愛媛  内田 釣月
懐かしき石油ストーブ消す匂ひ     長野  浦野 洋一
水鳥の濁世を知らず集ひけり      埼玉  大木 邦絵
入れ込みの満つる熱気やけとばし屋   東京  大住 光汪
糶市のだみ声高き大晦日        群馬  岡村妃呂子
霜月祭
凍星や里の太鼓の音に揺るる      東京  岡本 同世
冬ざるるダムに沈みし村忍ぶ      神奈川 小坂 誠子
猪鍋を土産話に辞しにけり       埼玉  小野 岩雄
火鉢の火埋めて均して老二人      静岡  小野 無道
野良猫に皆名がありぬ漱石忌      神奈川 上條 雅代
バーゲンの土産にもらふ冬帽子     東京  亀田 正則
畝床の肩を剝き出す大根かな      神奈川 河村  啓
水琴窟の水音も絶え木曾の冬      長野  神林三喜雄
日を重ね嘴の汚るる斑鳩かな      愛知  北浦 正弘
小宇宙なる子規庵の枯糸瓜       神奈川 北爪 鳥閑
帰り花過ぎて瞼にとどまれり      東京  北原美枝子
元馬場の起伏残して枯芝生       東京  絹田 辰雄
笹鳴の聞こえはすれど蘆の原      東京  久保園和美
ちやんちやんこ浅間の鬼にもくれやうか 群馬  黒岩 清女
藁筵雲のやうなる干大根        愛知  黒岩 宏行
最後と思ふ同期会終へ年惜しむ     東京  黒田イツ子
綿虫や灰の如くに海に散る       神奈川 小池 天牛
熊の命絶たれし罠の無情かな      群馬  小林 尊子
郷里問はば鰹追ひきし伊勢の人     宮城  齊藤 克之
黙として車道を歩む冬の朝       神奈川 阪井 忠太
反省の数を数へて大晦日        東京  佐々木終吉
福耳を褒めて羅漢の小六月       群馬  佐藤 栄子
蒸籠の湯気立ち込める冬籠       群馬  佐藤かずえ
年の春一さじ進む離乳食        群馬  佐藤さゆり
逝きし人指折りてきく除夜の鐘     東京  島谷  操
燗酒やなみなみと酌むなみなみと    東京  上巳  浩
西銀座チャンスセンター寒波なぞ    千葉  白井 飛露
遠吠えが遠吠えを呼ぶ冬の夜      神奈川 白井八十八
竿持たずば心安けし冬の渓       群馬  鈴木踏青子
牡蠣洗ふ音も形も武骨なり       愛知  住山 春人
毘沙門の槍天を突き冬に入る      埼玉  園部 恵夏
腰掛けて脛のあたりが冬めきぬ     山形  髙岡  恵
したたかやひ弱装ふ冬の草       東京  髙城 愉楽
凩の一閃に遇ひ立ち竦む        福島  髙橋 双葉
十二月花屋は赤で溢れをり       埼玉  武井 康弘
青木の実植ゑた覚えはあらねども    広島  竹本 治美
稲架高く空にすだれの掛大根      三重  竹本 吉弘
神棚に一枡の籾上げにけり       神奈川 田嶋 壺中
見栄を切る羽子板役者持ち帰る     東京  立崎ひかり
衣擦の音を残して寺襖         東京  田中  道
ゆりかもめ花びらめきて波の上     神奈川 多丸 朝子
人肌でたのみますよと燗の酒      東京  手嶋 惠子
湯を注ぎ梅の香の立つ寝酒かな     東京  豊田 知子
冬満月角を曲がりてまた出会ふ     神奈川 長濱 泰子
白菜の余りて別れしみじみと      大阪  永山 憂仔
到来の大根半分切干に         東京  橋本  泰
すれ違ふ顔それぞれの十二月      東京  長谷川千何子
炙り火に熊の脂の甘み落つ       長野  蜂谷  敦
王冠のごと置かれたるカリフラワー   神奈川 花上 佐都
破れ障子さくらにうめに大花火     長野  馬場みち子
黄落の消失点や神宮前         神奈川 福田  泉
道すべて鱈であふるる港かな      東京  福永 新祇
オリオンの透きて朝刊届きけり     東京  藤田 雅規
優しさも一緒に林檎すりおろす     神奈川 星野かづよ
同期会まづ訃の知らせ十二月      神奈川 堀  英一
外濠の桜の冬芽日を恋ひぬ       東京  牧野 睦子
短日の一戸閉づごと闇の増す      神奈川 松尾 守人
子らの声さへぎる様に大根干す     愛知  松下美代子
荒神を迎へし榊冬日和         京都  三井 康有
枯川の底にあるらし水の音       東京  宮田 絹枝
月高し十月十日の産声に        広島  村上 静子
子規の眼に映るは伊予の寒北斗     東京  八木 八龍
山間の汽笛は重し桃の花        東京  家治 祥夫
出世せし脂乗りたる鰤旨し       神奈川 山田 丹晴
焼芋を割れば女の吐息立ち       静岡  山室 樹一
着陸の近しインドや麦芽吹く      高知  山本 吉兆
雪雲が空を半分占領す         群馬  横沢 宇内
北国の荷らし車の屋根に雪       神奈川 横地 三旦
一盌の茶をたてて聞く雪の音      千葉  吉田 正克
花の名を思ひ出せずに竜の玉      山形  我妻 一男
幾つものサヨナラ燃やす焚火かな    神奈川 渡邊 憲二
落葉にも新しきあり古きあり      東京  渡辺 誠子
初霜を踏めば昭和の諸々が       東京  渡辺 文子













           
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星雲集 今月の秀句

伊藤伊那男


抽斗が嚙む帯締めや久女の忌       栗林ひろゑ
 この取合せならば、やはり久女忌なのだな、と思う。一葉忌でも多佳子忌であってもそれなりに通用はするだろう。だが、句意をじっくりと嚙みしめれば、この取合せの中に久女の生涯が籠められていることに気付く筈である。「抽斗が嚙む」に久女の円滑でなかった人間関係が象徴的に捉えられている。「帯締め」にあの名句〈花衣ぬぐや纏はる紐いろいろ〉を読者は思い出す筈だ。決してムード的な取合せではない。そこに熟練の技が覗くのである。同時出句の〈寒柝を打つたび罅の入るとばり〉の感覚の鋭さ、〈一日の枷解くごとく足袋を脱ぐ〉も「枷」に、緊張感を持った一日の終りが見事に描き出されている。

遠き日の安田講堂冬帽子         中野 堯司
 私には懐かしい句である。丁度大学一年生の終りの頃であった。学生運動がピークに達していた時で、いよいよ東大に機動隊が突入するというその日、私は歴史の一場面としてこの目で見ておこうと、本郷近辺を徘徊したものだ。「冬帽子」という季語である「物」に世相と青春の季節と思い出が籠る。同時出句の〈福耳の少しはみ出す冬帽子〉も同じ冬帽子を詠んで別の味わいを醸し出している。

走り書き一つ消しては年用意       山田  茜
 いつの頃からか、私もやらなくてはならない事は全部メモにして持ち歩き、消していく習慣である。年末ともなれば特にメモの量も多い。「一つ消しては」に年内にこなさなくてはならない仕事の多さがよく出ているようだ。同時出句の〈木枯と共に届くや喪の便り〉の抒情のよさ、〈色じみのまだらになりぬ札納め〉〈一枚の軽さに揺るる古暦〉のきっちりした写生にも感心した。

言葉にも障子にもあり表裏        有賀  理
なるほど、障子貼りは子供の頃毎年手伝わされたが、確かに表と裏はきちんと合わせなければならなかった。手ざわりが違ったように覚えている。この句はそれを比喩にして「言葉にも」、と人事句に持ち込んだのである。そこに作者の興味の有り拠があり、表現の面白さがある。 

紅白の花冠解かるる牡丹鍋        辻本 理恵
この「紅白」は猪肉の薄切りの一枚の中に脂身と赤身が見た目にも鮮かに分かれていることの表現である。このような肉がうまいのである。花弁を重ねたような盛付けを崩していくのだが、それを「花冠解かるる」と詠んだのも美しい。読者が食べてみたい――と思う所まで表現できているのだ。

切干しを風呼ぶやうに広げけり      福原 紀子
 「風呼ぶやうに」が句の眼目。日照時間の短い冬の日を集めて早く干し上げたいという作者の気持がよく出ているのである。日差しだけではなく、風の力も借りたい、というところがいいのである。 

富士塚へ零れ雀や一茶の忌        星野 淑子
 何だかタイムスリップして幕末の時代を見ているようでもある。富士山信仰が盛んであったので、江戸の各所に富士塚が沢山あったようだ。その風景の中に「零れ雀」を配したことで、まるでその雀が一茶の分身のようにも見えてくる仕掛けである。おのずから〈われと来て遊べや親のない雀〉などが胸に浮かぶのである。

小さめの石鹸重ね年の暮         保田 貴子
 ああ、私も、と肯く句である。小さくなった石鹸を捨て切れず重ねておく。だが年末ともなれば、使い切って新年は新しい石鹸で迎えたい――というところであろう。そんな気持ちが「年の暮」との取合せで詩になったのである。同時出句の〈曲家を伝ふぬくもり納豆汁〉も「伝ふぬくもり」に曲家の様子がよく描かれており、何よりも「納豆汁」という季語の斡旋が見事である。

湯治場に冬至湯までの長逗留       倉橋  茂
同音の「とうじ」を二つ使い分けたところが俳諧味である。冬至湯で暖まってから帰って、正月を迎えようというところであろうか。決して駄洒落で終らずに、いい味を出した楽しい句である。同時出句の〈半玉の座るが如く冬牡丹〉の「半玉」の比喩、〈むささびも千年跳ぶや中尊寺〉の「千年」措辞、と各々にうまさを見せた。 
  
その他印象深かった句を次に。

カステラに陽だまりの色冬萌ゆる     萩原 陽里
寒雀人の心のそばに寄る         小沢 銈三
ハンガーの重み入れ替へ冬仕度      桜井美津江
手に擦るクリーム勤労感謝の日      清水美保子
ここからが円墳らしき枯野かな      萩野 清司
真つ当に無職勤労感謝の日        田岡美也子
裏庭に午後の日のきて風花す       山﨑ちづ子















新年俳句大会




2018年1月28日




家電会館講堂・年次総会



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 タペストリー染織家(田中敬子様)作品  2013年に新年会で初登場



   
拡大画像に。




2018/1/28 湯島・家電会館・年次総会・記念スナップ



湯島天神参集殿・宴会場


主宰「天」の受賞者、堀内清瀬氏

















伊那男俳句  


    
伊那男俳句 自句自解(27)
            
仏壇のちさき障子を貼りにけり

 超結社句会「塔の会」の席題で作った句だと思う。当時は金融会社の取締役をしていて多忙であったが、この句会は休んだことはなかった。本名でなく俳号の「伊那男」で、本来の自分を取り戻せる日だという思いがあったし、何よりもほとんどの会員がすでに俳壇で名のある方々であり、上段者に試合を挑むような、闘志を燃やす機会でもあったからである。席題で五、六句は作るので、締切直前まで真剣勝負であった。並の発想では取られるわけが無い。どこにどう障子を貼るのがいいのか……あれこれ過去の旅の場面などを回想する。すると、扉が小さな障子仕立ての仏壇をどこかで見たことを思い出した。この句はその句会でも評判が良く、「障子貼る」の季語では珍しい発想の句だとして、後日総合俳誌でも取り上げられた。俳句作者はあらゆる機会に句材を頭の中に蓄積することが大切だ。それが漢方薬店の小簞笥のように整理されていれば、いつの日か役に立つものだ。
  
木菟鳴いて義仲の山暗くする

 私の故郷、伊那谷の駒ケ根市と隣村との間に、木曾山脈を源とする大田切川が貫流している。平安時代末期、平家の勢力がここまで及び、菅(すが)ノ冠者(かんじゃ)が大田切城を築いて、守っていたという。大田切の名前の通り急流で、以後の歳月の間にその砦の半分は削り取られてしまっている。さて治承四年秋、源頼朝が伊豆で兵を起すと、それに呼応して木曾義仲が挙兵した。諏訪大社が源氏方を支持したこともあり、勢いを得た義仲は、一説には木曾山脈(中央アルプス)を越えて伊那谷に雪崩れ込んだという。もし本当なら軍隊として三千メートル級の山を越えた珍しい例になるのだが……今も空木岳の横に木曾殿越えという鞍部がある。私の郷里は攻められた側であるが、私は心情的に義仲が好きで、度々義仲の故地を訪ねている。木曾は両側を山に囲まれて、日の出は遅く、日の入りも早い。一瞬の光芒を救ったものの悲運の生涯を辿った義仲と木曾の地形を詠み込んだつもりである。
  











  
   


 



銀漢の絵はがき


挿絵が絵葉書になりました。
Aシリーズ 8枚組・Bシリーズ8枚組
8枚一組 1,000円

ごあいさつにご利用下さい。



    


















掲示板



























 
             

銀漢亭日録

伊藤伊那男

12月

 12月17日(日)
終日家。原稿書きや礼状など。鮪刺身、鮭一塩、大根サラダなど。酒は獺祭磨き三割九分。

12月18日(月)
店、「演劇人句会」あと6人。池田のりをさん、三輪初子さん。

12月19日(火)
ひまわり館の「萩句会」の選句へ。あと12人。店にて忘年会。会員から「毎日俳壇」の選者による今年の秀句欄で高野ムツオさんが私の〈土を出て土の一穢もなき蚯蚓〉をベストテンに上げていたと知らせあり。

12月20日(水)
高校同期「三水会」5人。「雛句会」12人、など。

12 月21日(木)
「銀漢句会」あと16人。青柳飛さんあと2日でロスへ戻ると。皆川文弘さん。

12月22日(金)
店の営業本年最終日。野村時代同期の畑中君の学習院時代の友人六名の会。洋酔さん最終日と聞きつけて来店して下さる。そこへ水内慶太さんも。うさぎさんも、宗一郎さんも、近恵さんも。

12月23日(土)
品川発8時10分の新幹線にて、「奈良すす逃げ吟行会」へ。快晴。富士山を仰ぐ。「崎陽軒」のシウマイ弁当が定番。半月程の休暇突入に緊張が解けて眠い眠い。京都から近鉄に乗り換えて大和上市駅(この間、西ノ京で吉村征子さんから柿の葉寿司の差し入れを受ける)。ここで25人集合。小型バスに来て貰い、天武・持統天皇の聖地、宮滝へ。好天。吉野の山々美しい。近くの醤油醸造所の仕込み蔵見学、買う。吉野の宿「一休庵」に荷を置き、蔵王堂、大日寺、吉水院を見学。葛湯も。18時、夕食。猪鍋。最後の雑炊を私が作る。好評。20時から5句出し句会。22時就寝。

 12月24日(日)
6時半から皆は散策へ。まだ真暗。私は残る。9時過、奧千本までバス。西行庵を訪ね、中千本まで徒歩で下山。快晴。奈良の山々、熊野の山々、高見山などの眺望に感激。宿で昼食のあと、バスで飛鳥駅。朝妻力さん他、数名と合流し、天武持統陵を参拝。あと鬼の俎、鬼の雪隠、欽明天皇陵。15五時、「ホテルフジタ奈良」に荷を解く。句会までの時間、町の居酒屋で句を作ろうと入ると、何と、三村一さんが「先生! 」と。昨年、ゲストで来て下さった野村証券の先輩。無理矢理連れて「蔵」へ。30人の忘年会。茨木和生先生から、またまた、極上の鮒鮓到来。5句出し句会あと2句出し句会……。奈良は雨となる。

 12月25日(月)
皆は春日大社の参拝へ行ったようだが私はホテルでぐずぐず。伊勢・河合真如氏の『日本神話の智恵――生と死の科学』を読み始める。8八時朝食。奈良茶粥など。9時発。石切剣箭神社へ。長い参道の商店街を下り参拝。大腸癌手術の折、京都の義母がお守りを送ってくれたことがあり、ようやくお礼参りを果たす。参道で屋久杉の勾玉のネックレスを記念に買う。戻って本宮も参拝。大阪の町を一望する。昼、京都に出て武田夫妻、大溝、花穂、羽久衣、井蛙さんと養源院の宗達の杉戸絵「白象」、後白河院の陵墓、豊国神社の鐘と耳塚、六波羅蜜寺、珍皇寺と巡り、16時、六波羅蜜寺へ戻り、念仏踊を見る。分かれて井蛙さんと「からすま京都ホテル」へ。18時、祇園富永町の「らく山」。W女史と待ち合わせて忘年会。料理が出るわ出るわ……。3時間ほど楽しむ。さすがに連日の強行軍と酒で疲労あり、二次会なしで宿へ。

 12月26日(火)
9時間ほど寝たか。8時起。9時発。六角堂を見て、「イノダコーヒ 三条支店」に行くが開店前。「スマート珈琲店」にいくと行列。矢田寺に寄り、河原町の「インパルス」で朝食。卵トーストがうまい。京阪電車で出町柳。下鴨神社の手前の最近公開された「旧三井家下鴨別邸」に寄る。河合神社の鴨長明の旧跡。下鴨神社。賀茂川を渡り寺町へ入る。四条までずっと寺町を歩き通し、20ほどの寺を見たか。途中、京都御所を通った時、仙洞御所が一般公開していることを思い出し、訪ねてみるとOK。宮内省職員が一時間ほどかけて案内してくれる。眼福! 新京極の誓願寺で締めとする。15時半、「たつみ」で一時間ほど飲む。18時、「味野里香」。W女史、亡妻の従妹の川村悦子(京都造形芸術大教授、画家)と忘年会。

 12月27日(水)
9時発。北大路今宮の「はしもと珈琲」で朝食。卵サンド旨し。風花が雪となる。船岡山を巡る。千本ゑんま堂を訪ね、閻魔像、紫式部供養塔などを見る。大極殿跡を廻って上七軒「芳月」で寿司の昼食。北野天満宮のお土居跡を見て、北野白梅町から嵐電で等持院。16時、聖護院の「河道屋養老」で養老鍋。23時、東京帰宅。

 12月31日(日)
原稿書き。夜、家族揃ってお年取り。

1月

1月1日(月)
昼、家族年始の膳。夕方、杏一家来て12人の新年会。生牡蠣、からすみ、蟹鍋など。

1月2日(火)
11時、ポレポレ東中野にて、北村皆雄監督の映画「海の産屋」を見る。戻って、白味噌雑煮などで酒。昼寝。夜、河豚鍋。牡蠣の土手焼。鰭酒。

1月3日(水)
華子(中一)が宿題でどこかの博物館へ行きレポートを書きたいというので二人で上野へ。東照宮、清水寺などを巡り、「下町風俗資料館」を見学。南京玉簾の実演あり。あとアメ横を散策する小さな旅。

1月4日(木)
「銀漢俳句会 新年俳句大会」の募集句、500句超の選句。

1月5日(金) 店、12時半、毎日新聞「俳句αあるふぁ」編集部、中島三紀さん、カメラマンの武市さん来店。今年、連載の俳句と料理のカラー3頁の料理撮影。初会、3回分、後半四回分。7種の料理を作る。終ったあと、その料理を肴に3人で新年会。

1月6日(土)
朝から家族は越後湯沢へ。寒中見舞300枚ほど宛名書き。年末から仕込んだカラスミの干し具合順調。明日、新年会を予定していた水内慶太さん脳梗塞で入院とて中止に。今日は酒を抜く。

 1月7日(日)
慶太さんのことが気になり早く目が覚める。9時頃、慶太さんから直接電話あり。今月の約束、すまん、皆さんに宜しくと。声はやや縺れているが、この調子なら快復早いのではないか……。と少し安心する。13時、中野サンプラザで「春耕同人句会」。あと10人ほどで「炙谷」、親睦会。道で「未来図」の新海あぐりさん他四人と会い、もう一軒。

1月8日(月)
終日家。句集、本の礼状。その他雑用の1日。明日から仕事スタート。夜家族スキーから戻る。

1月9日(火)
「火の会」初句会8人。「宙句会」あと15人。

1月10日(水)
発行所「梶の葉句会」選句。「きさらぎ句会」あと9人。てる緒さんの丸餅沢山を焼く。

1月11日(木)
発行所、島谷高水さんの句会。終って5人店。入れ替わり、屋内松山、西村麒麟さんなど

1月12日(金)
「大倉句会」あと19人。週に一度、家の清掃に来ていただいている中根さんから出身の三宅島のくさやを貰ったので、店が終わったあと焼く。

1月13日(土)
風邪すっきりせず。寝坊して10時の運営委員会に滑り込む。13時、ひまわり館にて「銀漢本部句会」。60名。あと「テング酒場」にて10人ほどの親睦会。

1月14日(日)
終日家。雑用こなす。カラスミに焼酎を塗って干し上げ終了。七腹。夕食でおひろめ。Good。第三句集のまとめスタート。

1月15日(月)
「演劇人句会」7人。皆川文弘さん新年の挨拶に来店して下さる。

1月16日(火)
井蛙さん元同僚数名と来店。この方たちと今年句会を開くと。山仲間だった今田園子さん。

1月17日(水)
藤森荘吉さんの「閏句会」7人。「三水会」(高校同期6人。武田禅次、坪井研治、池田のりを、木戸敦子さん(新潟)の「三田俳句会」のメンバーら。

1月18日(木)
「春耕俳句会」の「新年俳句大会」の選句。応募句850句ほど! 店、向かいのビルのテナントに入っている方、俳句を始めたいと来店あり。「銀漢句会」あと17人。














         
    






今月の季節の写真/花の歳時記



2018年3月20日撮影  ミモザアカシア TOKYO/HAHIOJI





花言葉 『秘密の恋』『友情』『神秘』『感受性』『思いやり』『エレガンス』


 ギンヨウアカシア(ミモザアカシア)
ギンヨウアカシアは、別名「ミモザアカシア」や「ミモザ」とも呼ばれる常緑高木で、オーストラリア南西部原産です。

         
 サフラン  福寿草  白木蓮  犬ふぐり  
         
 ミモザアカシア        

写真は4~5日間隔で掲載しています。 



2018/3/22   更新



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