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 5月号  2019年



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伊藤伊那男作品

主宰の8句






        
             

 
          

今月の目次







銀漢俳句会/2019/5月号










  




   



銀漢の俳句 

伊藤伊那男 


◎新暦移行と井上井月

 俳句を始めて気になりはじめたことの一つが旧暦と新暦の違いであった。当時、働いていた金融関係の仕事では旧暦を知らなくても何の不便も無いのだが、俳句の世界では知らないと大いに支障をきたすのである。
 太陰暦(陰暦 旧暦)は太陰(月)の満ち欠けを基準にして決めた暦。太陽暦(陽暦 新暦)は太陽の運動(実は地球の公転運動)を基準として決めた暦である。暦には様々な変遷があるが、日本人は陰暦の下に生活をしてきた。一口に言うと一日の空には新月があり、十五日の空には満月が輝いている。この暦に沿って農作業も祭も進んでいたのであった。
 ところが明治初期に突然現在の太陽暦に変更したのである。明治五年十一月九日に明治政府は太陽暦採用の布告を行った。そして一ヶ月も経たない十二月三日には施行され、この日が明治六年一月一日になったのであった。
 この突然の転換については次のような噂が残っている。当時の政府は政治的にも経済的にも基盤が弱く、それにもかかわらず文明開化は怒濤のように進捗しており、財政の逼迫は深刻であった。そこに多分有能な官吏がいて新暦移行を提案したというのである。十二月三日から大晦日までだと二十八日間、つまりほぼ一ヶ月が短縮されて新暦に移行する。つまり年末のどさくさに紛れて一か月分の税金をうやむやのうちに二重取りすることができてしまった、というのである。
 そんな逸話はさておき、この約一ヶ月のズレができたために正月(新春 初春)のあとすぐに寒に入るという現象が起こり、桃の花が咲かない桃の節句となり、天の川の見えない七夕になってしまったのである。
 ところで井上井月の日記──それは明治十七年末からの一年五ヶ月分位が残っている──の日付は概ね旧暦で書き残されている。ところが正月が近づくと旧暦と新暦の表示が混同してくるのである。当然新暦の正月は役所も学校も休みになるので新しい暦で新年を祝う家が増えてくる。だが伊那谷は農業地帯であるから農事は旧暦で続いており昔通りに旧暦の正月で祝う家も多い。そのため改暦後十年以上を経ても井月は正月を二回楽しむ事ができたのである。井月の日記には年始、年始と各家を訪ね歩く記述が続く。井月の酒を前にした喜びの表現は「千両! 千両!」であったという。井月にとってはまさに千両、千両の改暦であったことになる。














 



  

盤水俳句・今月の一句

伊藤伊那男

夕日肩に手応へつよき麦を刈る      皆川 盤水

昭和三十七年の私といえば十三歳。丸刈り頭の下駄履きで田舎道を走り廻っていた頃である。世は第二次池田勇人内閣が所得倍増計画を標榜し、高度経済成長時代に突入していたが、伊那谷では農業機械が入り始めていたとはいえ、まだ稲刈りも麦刈りも人出に頼っていた時代であった。この句はそんな時代の句。「手応へつよき」に実感がある。先生は若い頃、社会性俳句の洗礼を受けているが、その片鱗も窺うことができるような作品である。
                   (昭和37年作『積荷』所収)














彗星集作品抄
  伊藤伊那男・選

ただ拾ふだけの生業海鼠漁         柊原 洋征
春愁を折りて千羽の鶴とせり        矢野 安美
鳴き竜のこゑも加はる鬼やらひ       武田 禪次
福笑見目整ひてしまひけり         島谷 高水
我が胸に抜けぬ棘あり針供養        夲庄 康代
御開帳とて石段の千五百          こしだまほ
針山ごと持ち込む媼針供養         白濱 武子
飛石を日なた伝ひに寒雀          谷岡 健彦
大落暉影絵のやうに雁帰る         鈴木てる緒
ほぐしつつ漁網手入れや春の浜       小山 蓮子
笹鳴きの近づきもせず去りもせず      辻  隆夫
玉垣を縫うて潮の香針供養         笠原 祐子
ハチ公の駆け出しさうな春一番       鏡山千恵子
雛市の姫に源氏の名を充つる        谷口いづみ
薄氷にのこる夜風の触れし跡        笠原 祐子
家ぬちより声と飛び出す鬼の豆       唐沢 静男
牡蠣を食ふ喉ごし鳥に似てゐたり      萩原 空木
歯ブラシの二本になりて水温む       山室 樹一
寒鯉の背鰭しづもる日暮かな        堀  英一
これ着れば争ひ止みぬちやんちやんこ    阪井 忠太
万華鏡もつとも奥に大枯野         片山 一行

















彗星集 選評 伊藤伊那男


ただ拾ふだけの生業海鼠漁         柊原 洋征
海鼠漁の漁とも言えない漁の様子を面白く伝えている。もちろん舟から箱眼鏡で覗いて長い竿で突く漁もあるのだが、こうして干潮の海で拾うこともあるのだろう。これを生業(なりわい)と見たところが面白い。

 
 春愁を折りて千羽の鶴とせり       矢野 安美
千羽は大袈裟だと思うけれど、春愁の感覚はいい。愁いのままに特に意識することもなく折り続ける。特に何かがあってということではなく、春だからこそ感じる軽いぼんやりとした憂鬱な感覚、そこはかとない愁ひ、哀しみ、そんな感覚が目的もなく折鶴を折り続ける行為で具体化しているようだ。 

  
鳴き竜のこゑも加はる鬼やらひ       武田 禪次
大寺での節分会であろう。鬼は外福は内の掛け声に呼応して参詣者のどよめきも伝わってくるようである。更に参詣人の拍手に合わせて天井の竜の絵も鳴く。何とも賑やかな節分の光景である。 

  
福笑見目整ひてしまひけり         島谷 高水
福笑は目鼻がちぐはぐに置かれているからこそ面白いのであって、きっちりと置かれてしまうと笑うにも笑えないことになる。「しまひけり」と事実だけを詠んで、そのあとの反応は言っていないのだが、整ってしまう残念さが十分に伝わってくるのである。

  
我が胸に抜けぬ棘あり針供養        夲庄 康代
心象がストレートに出ている句、ということになろうか。針供養をする、まさにその作者の心中に抜けぬ棘がある、というのである。やや付き過ぎの感もあるが、これも一方法である。

  
御開帳とて石段の千五百          こしだまほ
久々の御開帳なのだが、本堂までは千五百段の石段があるという。そう簡単には秘仏にお目に懸かれないのである。「千五百」と下五で止めたところは歯切れがよく、溜息が出た感じも伝わってくる。 

  
針山ごと持ち込む媼針供養         白濱 武子
針山丸ごとというのが面白い。断捨離の媼か。 

 
 飛石を日なた伝ひに寒雀         谷岡 健彦
針山丸ごとというのが面白い。断捨離の媼か。 

 
 大落暉影絵のやうに雁帰る        鈴木てる緒
美しい風景だ。「影絵のやうに」は一幅の日本画だ。

  
ほぐしつつ漁網手入れや春の浜       小山 蓮子
春を迎えて浜辺も活気を呈してくる。ほぐしつつがいい。

 
 笹鳴きの近づきもせず去りもせず     辻  隆夫
微妙な距離を保っているようだ。その均衡がいい。

  
玉垣を縫うて潮の香針供養         笠原 祐子
 紀州加太神社の針供養か、潮の香も漂うところが味わい。

  
ハチ公の駆け出しさうな春一番       鏡山千恵子
かなり激しい春一番。銅像のハチ公も動き出しそう。

  
雛市の姫に源氏の名を充つる        谷口いづみ
雛に源氏物語の姫君の名を付けて歩く。楽しい雛市だ。 

 
 薄氷にのこる夜風の触れし跡       笠原 祐子
感覚の鋭い句だ。「夜風の触れし跡」は繊細な把握。 

  
家ぬちより声と飛び出す鬼の豆       唐沢 静男
 鬼は外の声と豆粒が同じ速度で飛び出す。その並列がいい。

  
牡蠣を食ふ喉ごし鳥に似てゐたり      萩原 空木
何でも喉を通るのだが、牡蠣だからこその一句。 

  
歯ブラシの二本になりて水温む       山室 樹一
つまり……所帯を持ったということか。水温むがいい。 

  
寒鯉の背鰭しづもる日暮かな        堀  英一
池底の寒鯉は日暮にはなおさら静かになると。 

  
これ着れば争ひ止みぬちやんちやんこ    阪井 忠太
綿入れで着膨れた者同士となれば自ずから穏やかに。 

  
万華鏡もつとも奥に大枯野         片山 一行
枯野に向けた万華鏡。小さく幽かに見える「大枯野」。















銀河集作品抄

伊藤伊那男・選


貝寄風や太子の像のみな若き      東京  飯田眞理子
初夢に問へばこの道行けと言ふ     静岡  唐沢 静男
梅が香や出羽三山を訪ふ話       群馬  柴山つぐ子
飛驒の雪性根を据ゑて降りにけり    東京  杉阪 大和
街路灯の内は激しく春の雪       東京  武田 花果
庖丁で切り取れさうなる寒の水     東京  武田 禪次
街の灯をうつす波間の浮寝鳥      埼玉  多田 美記
枝の間に遠富士のぞく梅早し      東京  谷岡 健彦
身ひとつのかろさ諾ふ初湯殿      神奈川 谷口いづみ
日脚伸ぶけふは遠出の放ち鶏      愛知  萩原 空木
初音聞く晩学の辞書膝の上に      東京  久重 凜子
海峡の明るき中を猿廻し        東京  堀切 克洋
寒卵飲んで一句を産みにけり      東京  松川 洋酔
浮寝鳥身を廻しつつ日の中へ      東京  三代川次郎














         





綺羅星集作品抄

           伊藤伊那男・選

雪折れの音のくぐもり鰤街道      東京  坪井 研治
観潮船つかむところを探しけり     長崎  坂口 晴子
買ひし日は似合うてゐたる春ショール  東京  宮内 孝子
鎮守へと径の集まる農具市       埼玉  大澤 静子
焦点の合うて雪虫現るる        東京  伊藤 政三
京都臘八吟行四句
閻魔堂出でうつし世の日向ぼこ     大阪  中島 凌雲
霾ぐもり玉のうちなる干闐(うてん)国      東京  桂  信子
花菜漬開きてゐしが二つ三つ      東京  畔柳 海村
賽子の孫の健脚絵双六         東京  川島秋葉男
探梅行瓦一枚寄進して         東京  半田けい子
鬼やらひ名古屋の鬼は名古屋弁     愛知  山口 輝久

物忘れ競ふ仲間や春うらら       東京  相田 惠子
終日の検査疲れや寒戻る        神奈川 秋元 孝之
学ランの袖は万能みづつぱな      神奈川 有賀  理
寒釣のひとりの音を聞き分くる     東京  有澤 志峯
衣擦の音と出て行く春着の子      東京  飯田 子貢
返す日の濃きひとところ薄氷      埼玉  池田 桐人
道問へば藪の初音に沿ひ行けと     埼玉  伊藤 庄平
浜小屋の閂はづれ春隣         神奈川 伊東  岬
凍星や奥歯に響く発車ベル       東京  今井  麦
引き払ふ畳にくぼみ春浅し       東京  上田  裕
風花のかかりて蒼き豆腐桶       東京  宇志やまと
五輪まで生きると医師があたたかく   埼玉  梅沢 フミ
公魚や湖上にいのち跳ね回る      東京  大住 光汪
煮こごりの魚の目玉譲り合ふ      東京  大沼まり子
かへりみる妻とのくらし日記果つ    神奈川 大野 里詩
日を吸うて日を吐いてゐる寒牡丹    埼玉  大野田井蛙
鳴り龍をいくども鳴かす鬼やらひ    東京  大溝 妙子
雨音に怯へぬインフルエンザかと    東京  大山かげもと
冬帽子第九の響く喫茶店        東京  小川 夏葉
まづは影より寒鯉の浮きてくる     宮城  小田島 渚
蕊の黄をしべにこぼして寒椿      埼玉  小野寺清人
オブラートほどの薄氷池の端      神奈川 鏡山千恵子
針子いま齢重ねて針祭る        和歌山 笠原 祐子
法螺貝に続く裃節分会         東京  梶山かおり
久女忌や首折れてゐる千羽鶴      愛媛  片山 一行
捨針の山七色に供養待つ        東京  我部 敬子
透明人間凍るジーンズ立ててある    高知  神村むつ代
野火守の炎の末を見すゑをり      長野  北澤 一伯
紋別
蟹丼や窓に一幅冬怒濤         東京  柊原 洋征
竜の名を得てさざめける雪解川     神奈川 久坂依里子
観梅といへどおほかた足早に      東京  朽木  直
平成も生ききりしかな飾取る      東京  小泉 良子
獅子舞の金一封の飲みつぷり      神奈川 こしだまほ
香煙の霞か雲か新勝寺         東京  小林 雅子
へこみ癖つきし俎板女正月       東京  小山 蓮子
笹鳴きにあたりの風のゆらぎそむ    千葉  佐々木節子
城下絵図町の名今にあたたかし     長野  三溝 恵子
刺し方も浅き深きや針供養       東京  島  織布
初音聴くためにいつもの木を尋ぬ    東京  島谷 高水
我が影を引き摺り歩く真冬かな     兵庫  清水佳壽美
ボタン押し開く電車や冬霞       埼玉  志村  昌
春近しヘアカタログに折目かな     千葉  白井 飛露
衣脱ぎて弾く福豆二三粒        東京  白濱 武子
さねさしの相模の流れ冬深し      東京  新谷 房子
寒鯉の大きな翳となりにけり      大阪  末永理恵子
幕間の仕出し弁当女正月        静岡  杉本アツ子
雑巾をしぼる手にある余寒かな     東京  鈴木 淳子
近くまで来たと寄り呉れ寒見舞     東京  鈴木てる緒
山積みの目なし達磨や春は明日     東京  角 佐穂子
瑠璃深め糺の森の龍の玉        東京  瀬戸 紀恵
牛乳の膜の厚みや春寒し        神奈川 曽谷 晴子
日脚伸ぶ窓辺にならぶ鳩車       長野  高橋 初風
白魚の光のままをいただきぬ      東京  高橋 透水
昨年の高さのあたり柊挿す       東京  武井まゆみ
万両やことば正しき人とゐて      東京  竹内 洋平
半分をさらに二つに母の餅       東京  多田 悦子
蒲公英の絮球体となる不思議      東京  田中 敬子
豊洲より来し厄除けの鰯かな      東京  谷川佐和子
量り売る故郷の味噌を買初に      東京  塚本 一夫
襟足と襟のすき間の余寒かな      東京  辻  隆夫
切つ先を正眼におき寒稽古       愛知  津田  卓
梅探す寺内の札所めぐりつも      埼玉  戸矢 一斗
雪解靄村のたつきの薄明り       神奈川 中野 堯司
耳遠き母にも初音二度三度       東京  中野 智子
五百羅漢みな耳澄ます初音かな     東京  中村 孝哲
風花とくぐる山門二荒山        茨城  中村 湖童
依代へ依る火とならむどんどの火    埼玉  中村 宗男
浅草の淡き朝日や切山椒        東京  西原  舞
西行の話に戻る花筵          東京  沼田 有希
鯛焼のうはさの店の尾ひれかな     東京  橋野 幸彦
ここかしこ瓦礫持ち上げ霜柱      広島  長谷川明子
使はれぬ琴ひと張りや日脚伸ぶ     神奈川 原田さがみ
背丈より長き福笹抱き戻る       兵庫  播广 義春
色柄を正し大独楽また回る       東京  福永 新祇
節分の日差し項に富むここち      東京  星野 淑子
血を抜かれまた戻されて日脚のぶ    東京  保谷 政孝
缶詰を付けて子猫の貰はるる      東京  堀内 清瀬
種袋振る種ごとの響きして       岐阜  堀江 美州
真言の末席につく初不動        埼玉  夲庄 康代
滲むごと降りはじめたる傘雨の忌    東京  松浦 宗克
わかさぎの釣り上がりたる暗き穴    東京  松代 展枝
重さうで軽々うごく獅子頭       神奈川 宮本起代子
雛にゑさ与へる鷲の眸のやさし     千葉  無聞  齋
春興や琴の譜面は縦書きに       東京  村上 文惠
薄れ日に途切れては鳴く笹子かな    東京  村田 郁子
千代紙の鶴もはばたく春隣       東京  村田 重子
ひそひそと異動の話梅ふふむ      東京  森 羽久衣
探梅の熱海は何処も坂ばかり      千葉  森崎 森平
獅子舞の入り日を喰らふ構へかな    埼玉  森濱 直之
トンネルを抜くる心地や寒明くる    長野  守屋  明
糀食む明神下の寒雀          東京  山下 美佐
嬬恋や春のもたつく峠口        群馬  山田  礁
切通し抜けて二月の海に会ふ      東京  山元 正規
ゆるぎたる水面の光四温かな      神奈川 𠮷田千絵子
平らなるふるさとの海春立てり     愛媛  脇  行雲
白息を功徳のやうに寺詣で       東京  渡辺 花穂
白濁の名湯の素寒見舞         埼玉  渡辺 志水













     







銀河集・綺羅星今月の秀句

伊藤伊那男

雪折れの音のくぐもり鰤街道        坪井 研治
 私の知っている鰤は飛驒越えの鰤と呼んだ正月の塩鰤。富山の氷見に上がった鰤に一塩を打ち、岐阜の高山に運び塩の再調整をしたあと、歩荷が野麦峠を担いで信州へ届けたという。極めて高価な年末年始の肴であった。もちろんそれは昔の話だが、信州は今も塩鰤が欠かせないし、鰤街道の名も残る。「雪折れの音のくぐもり」に往時を偲ぶばかりである。「くぐもり」にその苦労が籠められているようだ。


観潮船つかむところを探しけり       坂口 晴子
春の彼岸の頃の大潮は干満の差が一年の内で最も大きいため、春の季語となった。鳴門海峡が有名である。この句は渦潮の様子を全く詠まず、ただ「つかむところを探しけり」としか言わないところが異色。だが相当大きな渦潮の間近にいること、船が大きくうねっていることなどが実感を持って迫ってくる。人の動作で潮流の勢いを表現しているのである。 


買ひし日は似合うてゐたる春ショール    宮内 孝子
わかるわかる。男の私でもわかる。店頭でさんざん選び、納得して買ったのに、いざ着用してみると、どうもちぐはぐで似合わない。そのような誰もが覚えのある「ぼやき」である。「あのときは似合っていたのに……」の愚痴がそのまま句になったのである。


鎮守へと径の集まる農具市         大澤 静子
郊外に大型店舗などができた今、農具市を見ることが無くなったように思う。一昔前は村の神社や寺の境内で市が開かれたのである。農作業が始まる前、雪解けの頃である。この句は「径の集まる」が決め手なのだが、きっとまだ周囲に雪があり、道だけが黒いのである。そこが決め手。 


焦点の合うて雪虫現るる          伊藤 政三
「雪虫」は二月頃、残雪の上に姿を現す黒い小さな虫の総称。カワゲラ類が主で、つまり我が伊那谷のざざ虫が羽化する直前の姿である。初冬の「雪蛍、雪婆、綿虫」と混同されるが、違う。さてこの句は残雪の上をよく見ると土や砂礫ではなく「雪虫」であることを知る。もともと雪虫がいるのだが、作者が気づかなかっただけ。それを焦点が合ったことにより「現るる」と認識したという自分勝手な表現なのだが、そこが面白いのである。 


閻魔堂出でうつし世の日向ぼこ       中島 凌雲
京都千本ゑんま堂(引接寺)の嘱目のようである。この奥が昔の蓮台野と呼ばれた葬送の地で、この寺が入口に位置した。閻魔堂だけの小さな寺だが、その地の歴史に思いを馳せるとなかなかの凄みがある。堂を出て日差しの眩しさに「うつし世」の措辞が出たのであろう。実にいい感性!


霾ぐもり玉のうちなる于闐国        桂  信子
「于闐」(うてん・ホータン)はタリム盆地南縁にあったオアシス都市。井上靖の西域小説などで目にした記憶があるが久し振りにこの字に接してしばらく読めなかった。東西貿易の中継点で玉(ぎょく)の産地である。その栄華を偲び、今や玉の中に閉じこめられた于闐国として表現したのは高度な技である。「霾ぐもり」の季語の斡旋がいかにも用意周到であり、舌を巻くしかない。 


花菜漬開きてゐしが二つ三つ        畔柳 海村
花菜漬というと私は京都を思い出す。残念ながら今は調味液で漬けたものしかないので買わないけれど、一昔前は糠漬であった。ガーゼに包んで糠で漬ける。その味わいは何とも!蕾の頃の菜の花が柔らかくて旨いのだが、二つ三つは咲いている。その色合いが何とも!相当な喰いしん坊でなければ作れない句であろう。


賽子の孫の健脚絵双六           川島秋葉男
 東海道五十三次の双六に興じているのであろう。どうやら孫の調子がいい。双六の目が順調で年寄りの作者は出遅れている。その孫を「健脚」と喩えたのが手柄である。足など全く使っていないのに「健脚」、これが俳句の技である。この言葉があるからこそ、道中双六であることも解るのであるから見事!としか言いようがない。


探梅行瓦一枚寄進して           半田けい子
梅を訪ねて散策をしていて行き当りばったりで行き着いた寺に一枚の瓦代を寄進する。この当ての無さに「探梅」の本意がある。目的地があって歩くわけでもなく、寄進をするつもりで寺に寄ったわけでもない。そうした雰囲気をよく伝えている句である。「寄進して」の下五の止め方が上手で、このあとも探梅が続くことを暗示しているのだ。 


 

鬼やらひ名古屋の鬼は名古屋弁       山口 輝久
 楽しい句である。「名古屋」だからいいのだ。「京都の鬼は」「信濃の鬼は」「博多の鬼は」「出雲の鬼は」……と日本の地名を全部入れ替えることができる句なのだが、「名古屋」以外では笑えない!全国一の地名を当てた句なのである。地名俳句歳時記に収録したい句だ。


                   










             


 

星雲集作品抄
伊藤伊那男・選
秀逸

春の色織り混ぜロールケーキ巻く    神奈川 星野かづよ
陽だまりに発火しさうな達磨市     埼玉  萩原 陽里
三世代ときに窮屈福寿草        長野  坂下  昭
大鮪瞳静かに糶られたり        大阪  辻本 理恵
手に残るバレンタインの日の火傷    東京  辻本 芙紗
姿見に伸ばす背筋や寒の入り      群馬  佐藤 栄子
鈴成りの絵馬のいななく空つ風     神奈川 白井八十八
小雀のとんと飛び乗る力石       東京  立崎ひかり
故郷はいよよ遠くに初御空       東京  福原 紀子
撫牛のどこもつるりと初天神      東京  山田  茜
鎌倉の賀客となりて一万歩       東京  八木 八龍
声吞みて一息に置く茎の石       東京  桜井美津江
圧し返す力芯より鏡餅         東京  市川 半裂
ちはやぶる神に委ねし合格表      東京  尼崎 沙羅
刹那こそ記憶は永し冬の虹       東京  朝戸 る津


           


星雲集作品抄

            伊藤伊那男・選

からからとミシン踏む母春近し     東京  秋田 正美
朱の失せて暮るる水面や猫柳      埼玉  秋津  結
名も知らぬバス停に出て春景色     東京  浅見 雅江
蕗の薹探す鷹の目鵜の目もて      愛媛  安藤 向山
風花や(うみ)へ比叡の使者として      東京  井川  敏
雪解川信玄堤洗ひをり         東京  生田  武
冬茜果つ眼裏に色残し         長野  池内とほる
下り貨車上りは客車冬の月       東京  石倉 俊紀
早梅や湯までは遠き長廊下       東京  伊藤 真紀
若布刈る朝靄けぶる烏帽子岩      神奈川 伊藤やすを
今一度小窓すかして待つ初音      高知  市原 黄梅
妻に似る孫の寝顔や春炬燵       広島  井上 幸三
麦踏や三往復で済む畑         埼玉  今村 昌史
星々の雫集めて水仙花         高知  岩原 里秋
峠道カーブのたびに山笑ふ       愛媛  岩本 青山
蕗味噌や雨となりたる峡の宿      東京  上村健太郎
夫の名を呼ぶそれだけで冬ぬくし    愛媛  内田 釣月
下萌や夢に見ゆるは幼き日       長野  浦野 洋一
吾と来て語れや豆を浴びし鬼      埼玉  大木 邦絵
立春の鉢植の位置少し替へ       神奈川 大田 勝行
春寒や寺の座布団数余し        東京  岡城ひとみ
盆梅の樹形に父の思ひかな       東京  岡田 久男
夫共々杖は四本薄氷          群馬  岡村妃呂子
曾我兄弟眠れる上の梅白し       神奈川 小坂 誠子
祇園より一気に登る春の山       京都  小沢 銈三
有難く燻され待つや追儺式       埼玉  小野 岩雄
海苔焙る手の甲に知る火の加減     静岡  小野 無道
鶯や海鳴りの島航路閉づ        宮城  小野寺一砂
洗濯物よく乾く日の雪解富士      東京  折原あきの
探梅や馬手にひろごる伊豆の海     静岡  金井 硯児
鯱の春を喰はむと天守閣        東京  釜萢 達夫
忘れゐし肩叩き券こどもの日      福井  加茂 和己
橋上の風に気合ひの寒稽古       長野  唐沢 冬朱
のど飴の酸味沁みゐる余寒かな     神奈川 河村  啓
啓蟄や星椋鳥の嘴の土         愛知  北浦 正弘
化粧坂一気に上る春隣         神奈川 北爪 鳥閑
ランチタイム隣なじみの雀の子     東京  北原美枝子
教会のペンキ塗立て春近し       東京  絹田  稜
石段を花留として落椿         東京  久保園和美
立春や風呂の帰りの夕浅間       群馬  黒岩伊知朗
鳴き声の消ゆる豚舎や涅槃西風     愛知  黒岩 宏行
文机に重なる本や春近し        東京  黒田イツ子
雪解風浜に斑の絵を残す        神奈川 小池 天牛
郷里の小樽の街や雪明り        群馬  小林 尊子
靴紐の解けて結びて春隣        東京  小林 美樹
牡蠣小屋は軍手のままに深黙禱     宮城  齊藤 克之
囲碁勝てず小雪静かに積るのみ     神奈川 阪井 忠太
春隣手に触れさうな近さまで      東京  佐々木終吉
立春の風の鳴る日の耳飾り       群馬  佐藤かずえ
なはとびを飛んで体の重きこと     東京  島谷  操
香煙を被りて待てる追儺式       東京  清水美保子
春霞丹沢嶺の襞隠す          東京  須﨑 武雄
初風呂へ命丸ごと預けをり       岐阜  鈴木 春水
従妹逝く
冬蝶の如く果てたり清き貌       群馬  鈴木踏青子
踏み込みの床の硬さや寒稽古      愛知  住山 春人
手のひらのたんぽぽの絮落ちつかず   千葉  園部あづき
源氏山棟梁の向く春の海        埼玉  園部 恵夏
貝寄風と知らで吹かれし御堂筋     東京  田岡美也子
川風に春のにほひを嗅いでみる     東京  髙城 愉楽
独り居の呟くやうに鬼は外       福島  髙橋 双葉
銀色の風を捉へて猫柳         埼玉  武井 康弘
さまざまな浅蜊の模様波かへす     東京  竹花美代惠
日脚伸ぶ爪切る母の丸き背ナ      三重  竹本 吉弘
茅葺の垂氷太らす奥信濃        東京  田中  道
土筆伸ぶ丘の上なる礼拝堂       神奈川 多丸 朝子
光織る二月の雑木林かな        東京  田家 正好
帰る子を待ちつつ飾る内裏雛      愛知  塚田 寛子
寒の入り世を去るに順なかりけり    東京  手嶋 惠子
白梅や掃く塵もなき門の前       東京  豊田 知子
ハワイにて
大南風崩してゆけり砂の城       神奈川 長濱 泰子
制服は兄のお譲り春隣         千葉  中山 桐里
食卓の沈黙解く春の来て        東京  永山 憂仔
雪晴に長靴の丈確むる         東京  橋本  泰
寒明や富士ゆるやかに裾をひく     東京  長谷川千何子
泣きべその願ひを託す吉書揚      長野  蜂谷  敦
言訳を独り言ちたる日向ぼこ      神奈川 花上 佐都
臥す祖母の窓に至福の今朝の雪     長野  馬場みち子
待春のたなごころかくやはらかし    千葉  平山 凛語
旅の宿氷柱入れ飲むウイスキー     千葉  深澤 淡悠
島影に四手網引く東風の朝       神奈川 堀  英一
古書街に足踏み入るるインバネス    東京  牧野 睦子
悲喜交ざる合格掲示東風も避け     神奈川 松尾 守人
今年また読初のみの源氏かな      京都  三井 康有
八十路にも書かむと五年日記買ふ    奈良  三村  一
袋角古都に雨降り雨上がる       東京  家治 祥夫
梅ふふむ写真の母と同じ歳       東京  保田 貴子
独り居の一人うなづく初鏡       東京  矢野 安美
横丁の更地の跡の冬霞         東京  山口 一滴
漬物の酸味出てきて寒の明       群馬  山﨑ちづ子
気の満つる人を吐き出す初電車     神奈川 山田 丹晴
顔覆ふ手拭二本野を焼きぬ       静岡  山室 樹一
早春やまどろむ鳥の影絵めく      高知  山本 吉兆
浅間嶺は墨絵のごとし春遅々と     群馬  横沢 宇内
歯応へに哀感少し海鼠食む       神奈川 横地 三旦
都鳥浚渫船は向き変へて        神奈川 横山 渓泉
鶯に急かされ開くる雨戸かな      千葉  吉田 正克
大寒や聖のごとき蔵王山        山形  我妻 一男
老犬の足取りに似て余寒なほ      神奈川 渡邊 憲二
気がかりは胸の深くに毛糸編む     東京  渡辺 誠子
春立つや角の取れたる話振り      東京  渡辺 文子













星雲集 今月の秀句

伊藤伊那男

春の色織り混ぜロールケーキ巻く      星野かづよ
素直な心がなくてはできない句だなと思う。こういう瑞々しさは若い時期の特権である。芽吹きの色、桃色などが春の色ということになろうか。ロールケーキであるだけに巻き目から覗く色は鮮やかである。中七の「織り混ぜ」の措辞が決め手で、ロールケーキの句またがりも滑らかである。同時出句の〈バレンタインデー「私とママとどつち好き」〉なども、子育てのこの時期にしかできない句で、家族の歴史の一齣として残しておいていい。 


陽だまりに発火しさうな達磨市       萩原 陽里
私の見た達磨市は信州高遠鉾持神社、武蔵野の深大寺などであるが、まさにあの赤い集団を的確に表現した句である。冬とはいえ神社や寺の境内の日溜りは暖かい。人出を加えればなおさらのことである。あの達磨市の様子を「発火しさうな」とは見事な把握である。同時出句の〈福達磨上州訛と風連れて〉も「訛」と「風」を並列にしたところがいかにも上州!私の見た達磨市は信州高遠鉾持神社、武蔵野の深大寺などであるが、まさにあの赤い集団を的確に表現した句である。冬とはいえ神社や寺の境内の日溜りは暖かい。人出を加えればなおさらのことである。あの達磨市の様子を「発火しさうな」とは見事な把握である。同時出句の〈福達磨上州訛と風連れて〉も「訛」と「風」を並列にしたところがいかにも上州!


三世代ときに窮屈福寿草          坂下  昭
私の今回の句集に〈或るときの家族の数の福寿草〉があるが、この句はその続きのような雰囲気を持つ。同じ屋根の下に暮らせば窮屈なこともある。だが「ときに」とあるところが味わいで、おおむね幸せなのである。そうそう私も今三世代七人家族で暮らしている。同時出句の〈牡蠣焼くや蓋開く度のひと騒ぎ〉〈立春大吉抛り置かれし鬼の面〉なども秀逸であった。 


鈴成りの絵馬のいななく空つ風       白井八十八
絵馬はもともと馬または木馬を奉納する代りに馬の絵を描いた額を用いて、現在に到るという。その絵馬の「馬」から「いななく」を導き出したのが手柄である。空っ風にカラカラと音を立てている様子にうまい比喩を用いたのである。同時出句の〈武士の古都を鎮める寒牡丹〉も鎌倉と言わずして鎌倉以外には考えられない措辞で固めたのが出色であった。 


小雀のとんと飛び乗る力石         立崎ひかり
調べのいい句だ。「とんと飛び乗る」の中七に「と」の音を三つ使っている為であろう。句そのものも持ち上げるべき力石に乗る小雀という軽重の極端な取合せが面白いところである。同時出句の〈初飛行母に待たるるふる里へ〉は「母に待たるる」に泣かされた。また〈神鈴を振つてよろめく初笑ひ〉も楽しい句であった。


故郷はいよよ遠くに初御空         福原 紀子
 私もそうだが故郷を離れて久しい都会生活者の感慨がよく出ている句である。新年を迎えてまた一年故郷から遠ざかったのであるが、もはや悔いということではなく、今の境遇を諾う静かな気持が籠められているようである。同時出句の〈おでん酒間延びして鳴る掛時計〉ものんびりとした掛時計の音がおでんと合う絶妙の取合せであった。


撫牛のどこもつるりと初天神        山田  茜
一見安直そうに見える中七の「どこもつるりと」が言い得て妙である。あちこちの天神さんで撫牛を見るし、実際触りもするが、この句の通り隅から隅までつるつるである。俳句はこのように素直な目があることが一番大事。 


鎌倉の賀客となりて一万歩         八木 八龍
 「一万歩」などと万歩計を持ち出したところが異色である。確かに鎌倉という土地は車で回るのは不向き。切通しや谷戸の道など、歩くに限る。「賀客となりて」も恐らく正月に勝手に歩いただけだろう――と推察するが、そこが俳諧味。


声吞みて一息に置く茎の石         桜井美津江
私の育った頃の伊那谷はとにかく漬物だらけで、たとえば五人家族の私の家にも漬物小屋があり、記憶を辿ると沢庵三百本、野沢菜大樽二つを漬けた。他にも酒粕漬、味噌漬などもあった。漬物石はごろごろ転がっていて大樽だけに石も大きい。まさにこの句の感じであった。真冬に白い息を吐きながら毎日茎の石を動かす母は大変だったな、と思う。 


圧し返す力芯より鏡餅           市川 半裂
 「力芯より」が実感である。一物仕立てで鏡餅という神聖な供物の本意をよく摑み取った秀逸である。同時出句の〈探梅や歩み止めずに脱ぐ上衣〉〈初午や太鼓の革を火であぶり〉など観察眼も効き、情緒も効いた句であった。


刹那こそ記憶は永し冬の虹         朝戸 る津
まさにそうだ!と手を打った。冬虹の短かさと印象も的確に捉えた。措辞に全く無駄が無い。同時出句の〈目力の哀願も煮て金目鯛〉〈溜息の溶けて漂ふ冬霞〉も各々印象深かった。まさにそうだ!と手を打った。冬虹の短かさと印象も的確に捉えた。措辞に全く無駄が無い。同時出句の〈目力の哀願も煮て金目鯛〉〈溜息の溶けて漂ふ冬霞〉も各々印象深かった。





















伊那男俳句



伊那男俳句 自句自解(40)
          
 
苗木市売れ残るもの芽吹きけり

 日本橋東急百貨店前の露天に毎年苗木市が出ていた。私は証券会社時代の二年半ほど、そのあと十年ほど置いて金融会社時代に二年ほど日本橋に勤めていた。昼休みなどに百貨店前を通り、苗木市を見ては、ああ今年もその季節になったか……と眺めたものである。庭付きの家に移ったあとなど何を植えたらいいかと真剣に見たものである。並べられた苗木は陽気の良さに、期間中にも芽や葉が伸びていく。花も咲かせる。次第に苗木の数はまばらになっていくが、売れないものはいつまで経っても売れないものである。だがそれでも健気に芽吹いていく。そんな様子を日々目にすると涙ぐましいものがある。人は取り残されたら悄気てしまうものだが、植物の世界にはそのようなことはない。私など証券会社や金融会社の競争社会の中で、勝ったり負けたりして、いつも何かに追いかけられ、急かされていたのだが、樹木にはその尺度はない。少し力を貰ったのである。
    
安曇野に雲雀落ちたる日暮かな

 平成九年五月であったか「俳句研究」誌が、男性の若手俳人の吟行会を企画した。「塔の会」には入っていたが、私はまだ句集も出していなかったし、世に知られることもなかったので緊張して出掛けた。メンバーの鈴木太郎、遠藤若狭男さんとは旧知であったが、筑紫磐井、鳥居三太(後三郎に改名)、橋本榮治、小島健さんとはほぼ初めてお目に懸かったのだと思う。当時の私は四十八歳、皆五十歳前後であったが、振り返ってみれば二十年経った今、鳥居三郎、遠藤若狭男さんたちが鬼籍に入られた。安曇野の宿に荷を解いたあと何人かで近郊を散策した。まだ田植前の田畑や雑木林の上には雲雀が揚がっていた。しばらく見ていると、屛風のように屹立していた常念岳や燕岳は夕闇の中に溶け込んでいった。超結社句会は所属結社の理念をしっかりと身に付けたもの同士が集まって、ほかの結社の考え方や句風を学び、自分の立ち位置を確認する場であると思っている。初学の頃は結社の中だけで学ぶ方がいい。        








      


 

俳人協会四賞・受賞式










 去る3月5日、平成30年度の俳人協会四賞の授与式が京王プラザホテルで行われました。
ご存じの通り、伊藤伊那男主宰が句集『然々と』で第58回俳人協会賞を、同人の堀切克洋さんが『尺蠖の道』で第42回俳人協会新人賞を受賞四、銀漢俳句会から4賞の内二賞を頂くという快挙となりました。2019/4/30/更新










伊藤伊那男  俳人協会賞受賞・祝賀会









更新で5秒後、再度スライドします。全14枚。


 二次会・店内に入りきれない人数でしたが,日曜日とあって店の前の通りも通行が少なく,穏やかな天候の下、外に溢れる受賞者の二人や他結社の方々と交流するなど、思い思いにお酒を楽しみながr懇談を深め,何時までも祝賀会の熱気は冷めることがありませんでした。









 受賞 祝賀会

 伊藤伊那男 俳人協会賞
堀切 克洋  俳人協会新人賞
2019/3/17 学士会館
銀漢亭(二次会)


 月刊「俳句四季」に受賞の記事が掲載されました。
月刊「俳句四季」に受賞の記事掲載は5月号(4/20発売)か6月号(5/20発売)のどちらかを予定しています。


リンクします。

句集 「然々と」 伊藤伊那男

 
句集「尺蠖の道」
拡大します。




linkします。



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拡大します。


受賞祝賀会 3月17日 日時 12時 
会場 学士会館 東京神田 


haishi etc
↑link
















銀漢の絵はがき


挿絵が絵葉書になりました。
Aシリーズ 8枚組・Bシリーズ8枚組
8枚一組 1,000円

ごあいさつにご利用下さい。



    





      









掲示板























               

銀漢亭日録

伊藤伊那男

2月

2月7日(木)
発行所、島谷高水さんの「はちどり句会」あと8人店へ。入れ替わりに「十六夜句会」11人。発行所、受賞祝賀会の打ち合わせ。有難い事。

2月8日(金)
3月号校正。発行所、行方克巳先生の慶大OB会の句会。あと12人店。皆さん受賞を祝って下さる。「週刊金曜日」の伊達さん他。「雛句会」の山本先生。

2月9日(土)
10時、高幡不動尊。風花の中。盤水先生の墓参り。五重塔下の講堂にて「春耕新年俳句大会」。協会賞受賞の祝福を受ける。午後から親睦会。あと「増田屋」二階で二次会。家族は日光。帰途、仙川駅前で少酌。「一平」という店。なかなか魚がいい。

2月11日(月)
建国記念日。何とか、俳句を作らなくてはならないので、9時発、鎌倉方面へ。藤沢から江ノ電で腰越、小動神社。極楽寺から銭洗弁天まで山側の道を歩く。寒い。ついつい茶店などで酒。16時過ぎ帰宅。もう一つ力入らず。

2月13日(水)
「梶の葉句会」の島織布さん、銀漢賞受賞を祝うランチ。「揚子江菜館」に招かれる。私の受賞も祝って下さる。あと発行所で選句選評。今井肖子、相沢文子さん、19時、「白熱句会」(水内慶太、佐怒賀正美、木暮陶句郎、小山徳夫、井上弘美さん)。

2月14日(木)
毛染シャンプー肌に合わず、皮膚科へ。あと初めてモスバーガー食す。入沢さんと深川知子さん。「極句会」9人。水内慶太、鈴木忍さんお祝いに来て下さる。清人、慶太、井蛙さんヴーヴクリコ次々に。

2月15日(金)
発行所「蔦句会」選句。あと9人店。会員の亀田正則さん逝去の報。杉阪さんと句集打ち合わせ。16時、「春耕」事務局長の柚口満さん、武田編集長来て、3月5日のパーティー打ち合わせ。皆さんを煩わせている。今日は「俳壇」誌のパーティーであと小島健さん来店し、協会賞の選考委員で終わるまで来られなかったと、祝って下さる。あと山田真砂年、菊田一平、佐怒賀直美、しなだしんさん。

2月16日(土)
10時、発行所にて運営委員会。二つの祝賀会、6月の鍛練会の件など。午後、「本部句会」は情報オアシス神田という貸し会議室。あと、テング酒場で親睦会。伊集院静先生から受賞祝いにスコッチのシングルモルトの逸品グレンフィディック21年届く。

2月17日(日)
終日家。東京新聞「詩歌への招待」へ7句と短文。4月号のエッセイ2本。角川「俳句」へ協会賞受賞絡みの文章、句集から自選20句。新作10句の用意。夜、家族にステーキ、焼飯など用意。

2月18日(月)
「あ・ん・ど・うクリニック」、郵便局など。店、「演劇人句会」。8人。信州上田から「海原」(海程)の河西志帆さん。三輪初子、阪西敦子、山崎祐子さん。

2月19日(火)
藤森壮吉さんの「閏句会」8人。「秋麗」の市川さん(伊那北先輩)受賞のお祝いに寄って下さる。

 2月20日(水)
店「雛句会」9人。津田卓さんは月末手術予定。「三水会」5人。井蛙さん17日の引き出物にサンプルの菓子、6、7種類持って来てくれて検討会。

 2月21日(木)
皆川文弘さん。「銀漢句会」あと麹町から12人。清人さんから届いた鮪の刺身、鮪のカマ焼など。

 2月22日(金)
ヘアメイクの中川さん来宅。整髪。発行所を使っている「門」同人会(鳥居真里子さん)より祝いの花束。店、伊那北同期で上田市在住の根橋寛さん来店、長野県空手道連盟理事長。水内慶太さん「すし屋の弥助」の鯖、穴子の棒寿司土産に。「金星句会」あと6人。

 2月23日(土)
日本橋のスタバにて作句。14時、「鮨の与志喜」にて「纏句会」14人。あと、楤の芽、蕗の薹、こごみ、太刀魚の天麩羅。題にちなんで鰈の煮付け。焼筍、握り。酒は酔鯨。17時半、「ビヤホールライオン銀座七丁目店」の五階にて「銀化」同人、「週刊金曜日」の伊達浩さんの結婚式二次会に顔を出す。帰宅して家族と小酌。

 2月24日(日)
10時半、池袋駅発、レッドアロー号にて西武秩父駅。猪鍋を食べる会。28人。常楽寺〜秩父神社を吟行し、割烹「桂」へ。外部から山崎祐子、太田うさぎさん。5句出し句会をしながら猪鍋。この会参加4回目か。うまい! 芹と卵を持ち込んでおじやとうどん。これで終わらず10人程で「高砂ホルモン」。煙に巻かれながら七輪で焼く。帰路も飲みながら……。

2月26日(火)
「昼寝の会」の方々、7名句会。「ひまわり句会」あと6名。井蛙さん、環さん達、「井月忌俳句大会」事前投句のまとめ。

 2月27日(水)
閑散。今井肖子さんと朝日新聞社のサイト「好書好日」担当の加藤千絵さん、「火の会」の取材をしたいと(お笑いコンビ「フルーツポンチ」の村上健志さん)。倉田有希さんと鈴木忍さん打ち合わせ。

2月28日(木)
区の検診。バリウム飲み胃の検査。

3月


3月1日(金)
「大倉句会」あと23人。新入会員も。

3月2日(土)
10時、運営委員会。13時、麹町会館にて「銀漢本部句会」49人。あと近くの中華料理店にて親睦会10数名。

 3月3日(日)
同人評、会員評、彗星集評、角川「俳句」「俳句αあるふぁ」校正など終日家。夜、雛祭の夕食。

3月4日(月)
20日の検診のバリウムが残っていて排便できず。駅の「鳥居内科クリニック」に駆け込み処置して貰う。有難し。下手をすると入院手術の危険もあったと。ヘトヘト。

3月5日(火)
「京王プラザホテル」の宴会場「エミネンスホール」にて「俳人協会年次総会」あと16時から「俳人協会賞授与式」。桃子から花束贈呈してもらう。宮澤、杏子も出席。17時過ぎからパーティー。19時から47階「あけぼの」にて「春耕銀漢合同の祝賀会。あと新宿エルタワーの居酒屋にて名残の会。大勢の方々の祝福を受け嬉しい1日となる。

 3月6日(水)
「鳥居内科クリニック」。バリウム完全に除去できていると。店「きさらぎ句会」あと5人。「宙句会」あと何と19人! 林正明さんと女検事の冨士原志奈さん。志奈さん今年の「星野立子新人賞」受賞と。そこへ羽久衣、北出さん来て、林さんと合わせて羽咋高校3人揃う。愛媛松野町の川嶋健佑さん来店。

3月7日(木)
発行所「十六夜句会」あと13人。それまでの間、屋内松山さんと話。

3月8日(金)
本日、結婚記念日。桃子覚えていて仏壇に花。25歳の時であったから、43年前のこと。妻に感謝するばかりである。三代川次郎さん退院と。店、超閑散。伊達さん夫妻。発行所17日の祝賀会の打ち合わせに十数名集まってくれる。島谷操さんも多忙の中。

3月9日(土)
「主婦会館プラザエフ」にて「第六回井月忌の集い」。110数名参加。あと親睦会。あともう1軒。

3月10日(日)
終日家。我部敬子さんの『衣の歳時記』通読し栞八百字書く。夕食、ステーキなど。

 3月11日(月)
梅田津さんの「つの会」で今日は『然々と』の勉強会をして下さる。17日の祝賀会の打ち合わせ。店は閑散。

3月12日(火)
「火の会」、今日は朝日新聞の本サイト「好書好日」の取材。「フルーツポンチ」の村上健志さんが句会に参加。担当の加藤千絵さんも入り、16人の句会。群馬の窪田明さん受賞祝いに訪ねて下さる。

3月13日(水)
伊勢の河合真如先生、協会賞受賞の祝いに来て下さる。「銀漢」への基金も頂戴する。4月の伊勢の下見。秋の吟行会について相談。芭蕉についての考察など拝聴。客少なく20時閉める。














         
    






今月の季節の写真/花の歳時記


2019年5月20日撮影  コトネアスター  from  HACHIOJI




 
 花言葉   変わらぬ愛情・童心・安定
△コトネアスター
晩春から初夏に、這うように横に広がる枝の葉のわきに、白い5弁の小さな花がたくさん咲いて、枝に沿って鈴なりに球形の実がつき、秋になると濃い紅色に熟します。


御衣黄 ライラック 鯉のぼり 御衣黄 ナンジャモンジャ
朴の花 アグロステンマ コトネアスター

写真は4~5日間隔で掲載しています。 
2019/5/21  更新



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漢亭日録