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 12月号  2019年


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伊藤伊那男作品

主宰の8句









        
             

 
          

今月の目次






銀漢俳句会/2019/12











  




   



銀漢の俳句 

伊藤伊那男 


◎遷宮の思い出

◎芭蕉の謎と曾良の謎
 諏訪市の信州風樹文庫から講演会の依頼を受けた。10数年前の60周年記念事業の講師にもお呼び戴いたので2回目である。信州風樹文庫は当地出身の岩波書店の創業者岩波茂雄氏が地元の要請に応えて岩波書店の刊行物を送り続け、それが図書館になったもので、小さいながら諏訪の文化を象徴するものである。
 今回は「河合曾良の謎、井上井月の謎」の題で語ろうと思っている。井上井月は諏訪に隣接する私の郷里伊那谷を幕末から明治中期にかけて漂泊していた俳人で、既にこの欄でも語っている。河合曾良は諏訪の生まれである。壱岐島で客死したとされるが、諏訪の正願寺にも──供養墓ということになろうが──墓がある。『おくのほそ道』では、芭蕉の脇役なので当然のことながら存在感は薄いが、昭和18年に曾良の日記が発見されたことにより、人物像が浮かび上がってきたのである。『おくのほそ道』と『曾良日記』を照合すると、不思議なことが幾つも浮かび上がってくる。ありきたりの旅人では有り得ない行動や待遇があるのだが、芭蕉研究者や俳人はそのことにあまり踏み込んでいない。芭蕉と曾良が然るべき身分の者であったと考えると理解できるのだが、そのことを言うのは在野の研究者ばかりである。私は今その考えに傾き始めているのだが、確証は無いので荒唐無稽と言われればそれまでである。
 だが状況証拠という点では幾つも挙げることができる。私は俳人という自由な立場であり、曾良の出身地の諏訪での講演なので、無責任と言われることを覚悟の上で、問題提起をしようと思っている。謎の幾つかに触れておくと、
ごく普通に考えてみて一介の旅人が家康の墓所である日光東照宮に参拝することが
できるのかどうか? 『おくのほそ道』には〈あらたふと青葉若葉の日の光〉を残し「(はばかり)多くて筆をさし(おき)ぬ」とある。『曾良日記』には明確に「御宮拝見」とある。何故この2人が参拝できたのか?
『おくの細道』では越後は素通りしたかのように記載が少なく、新潟県人を失望させ
ているが、『曾良日記』を見ると様子が違う。「廿八日申ノ上刻に村上ニ着、宿借テ城中ヘ案内」とある。村上城に入っているのだ。曾良は青年期伊勢長島藩主松平良尚に仕え、江戸屋敷に転勤して三男良兼にも仕えた。良兼は後、村上藩筆頭家老榊原家に養子に入ったが、33歳で逝去。その三回忌の前日に曾良は村上城に入っているのだ。偶然ではなく計算された旅と言わざるを得ない。この部分だけみたら曾良が主役である。但し曾良の名は長島藩家臣名簿には入っていない。これらの謎について語ってみたいと思っている。














 



  

盤水俳句・今月の一句

伊藤伊那男

大蘇鉄ゆさぶる三崎ならひかな       皆川 盤水
 
年末が近付くと、盤水先生を囲んで、三浦三崎を吟行するのが恒例行事であった。松本たかしの墓のある本端寺や海南神社、漁港周辺という狭い港町をぶらぶらして鮪料理店で納めの句会をするというものであった。何回も訪れたがおおむね冬晴の一日で、たぶんこの日も快晴ながら風だけは強かったのであろう。「ならひ」は強い北風を指す太平洋岸の漁師言葉である。「大蘇鉄」が揺れると詠んで、三崎特有の風景を描写した。
                    (平成四年作『随所』所収)













  

彗星集作品抄
  伊藤伊那男・選

出羽人の褻にも晴にも菊膾         多田 美記
生姜市露店地割りの神の庭         小山 蓮子
さまざまな靴の脱ぎ方秋暑し        森 羽久衣
身に入むやいつもと同じ道にゐて      北原美枝子
幻影のお化け煙突秋夕焼          塚本 一夫
反骨をかたちにすれば唐辛子        坂口 晴子
畳み込む藍の山河や秋扇          松代 展枝
秋簾ひと巻ごとに日の匂ひ         夲庄 康代
写真撮るまででくたびれ七五三       折原あきの
賢治居る下の畑や昼の虫          坂下  昭
折り鶴の飛び立つ構へ天高し        渡辺 志水
学生の駅に戻る日涼新た          森 羽久衣
谺無く海渡り来る秋の雷          伊東  岬
天の川形見の手帖三方金          神村むつ代
鵙の贄枝の一つのやうにかな        杉阪 大和
くねりては光集むる穴惑          市川 半裂















彗星集 選評 伊藤伊那男

伊藤伊那男・選

出羽人の褻にも晴にも菊膾         多田 美記
食用菊にはおおまかには、山形県が主産地の阿房宮と呼ばれる黄色い菊、新潟県が主産地の紫がかったピンクのもってのほかの二種類がある。この句の菊膾は出羽の国なので黄菊ということになる。季節が外れても板海苔状に乾燥させた「菊のり」もある。さっと茹でて酢の物にする。見た目も美しく、身体中の毒が抜けるかと思うほど、健康的な食物である。この時期の出羽は祝いの席も不祝儀の席も菊膾だらけ。刺身にも、つまどころか刺身が隠れるほどに振りかけるという。「褻にも晴にも」の措辞が実に効いていて出羽人の食卓の風景を一言で表現したうまさ。 

  
生姜市露店地割りの神の庭         小山 蓮子
生姜市は「芝神明祭」「だらだら祭」「目くされ市」「千木箱売る」などの季語がある。港区の芝大神宮で行われ、9月11日から21日まで続く長い祭であったが、近時は五日間に短縮されたようだ。昔近在の農家が特産品の生姜を売ったことからその名が残ったという。その露天の地割りをする場面を詠んだ句であるが、目の付け所がユニークである。芝明神と言わないで神の庭と表現したところもうまく、あの高い階段を上った狭い境内の様子が如実である。 

  
さまざまな靴の脱ぎ方秋暑し        森 羽久衣
 こういう句の場合には、様々な季語が想定される。私はこの「秋暑し」の斡旋は実にうまいと思っている。「炎暑」ではあまりに付き過ぎて暑さが増すばかりである。立秋を過ぎてもぶり返す暑さによる倦怠感や疲労感が滲み出ているようである。

  
身に入むやいつもと同じ道にゐて      北原美枝子
「身に入む」「冷まじ」という秋の季語は、一般的に使う「身に沁みる」「凄まじい」という言葉と混同して詠まれることが多い。もちろん共通している感覚はあるのだが、最近は後者に片寄った句が目立つように思う。そうした中で、この句は良いバランスを持った句だと思う。常と同じ道を歩いているのだが、今は秋冷を身に沁み通るようにまで感じたのである。読後に「もののあわれ」が滲み出すようにも感じられるのである。季語の本意に叶ったお手本にしたい句である。 

  
幻影のお化け煙突秋夕焼          塚本 一夫
うる覚えの話だが、高度成長期の下町の工場地帯にお化け煙突と呼ばれる巨大な煙突があったという。お化けの理由は煙突が三本直接に並んでいて、見る方向によって一本にも二本にも三本にも見えるのだという。秋夕焼の季語を配したことで、一昔前の東京、『三丁目の夕日』のような郷愁が湧き上がってくるのである。その煙突は今は無く、全てが幻影……。 

  
反骨をかたちにすれば唐辛子        坂口 晴子
 なるほど、良く言ったものだと思う。あの全身を持って辛さで勝負する唐辛子の一途の赤を反骨――権力に抵抗する気骨――と見た目の付けどころがいい。 

  
畳み込む藍の山河や秋扇          松代 展枝
やや類想感はあるが美しい仕立て。「藍の山河」がいい。 

  
秋簾ひと巻ごとに日の匂ひ         夲庄 康代
炎暑、残暑の月日を経た秋簾のありさまが如実である。 

  
写真撮るまででくたびれ七五三       折原あきの
日頃と違う着物姿に緊張も……可愛い一景。 

 
 賢治居る下の畑や昼の虫         坂下  昭
 花巻の賢治記念館。「下ノ畑に居マス」の告知板が。

  
折り鶴の飛び立つ構へ天高し        渡辺 志水
折り鶴まで飛び立ちそうな秋の好天。「天高し」がいい。

  
学生の駅に戻る日涼新た          森 羽久衣
夏休み明け、学生達が戻ってきた。一頑張りの秋到来。 

  
谺無く海渡り来る秋の雷          伊東  岬
 夏ほどの迫力は無い秋の雷の感じがよく出ている。

  
天の川形見の手帖三方金          神村むつ代
本の切断面が全て金色。天の川と響き合うようだ。 

  
鵙の贄枝の一つのやうにかな        杉阪 大和
 よく実態を見ている句だ。激しい生存競争である。

  
くねりては光集むる穴惑          市川 半裂
冬眠の場所を捜す蛇。最後の秋の日を一身に纏う。












銀河集作品抄


伊藤伊那男・選

中国湖南省
南にも長城のあり秋の声        東京  飯田眞理子
鳩吹くやかそけき音を渾身で      静岡  唐沢 静男
母の忌のひと日色無き風の中      群馬  柴山つぐ子
なかんづく大笑面の秋思かな      東京  杉阪 大和
案山子立つ棚田奥より飛鳥川      東京  武田 花果
秋思ふと一所不住の祖父のこと     東京  武田 禪次
義仲寺の暮れは芭蕉の葉裏より     埼玉  多田 美記
月光を枕頭に置く旅寝かな       東京  谷岡 健彦
夏果てや湖国にあまた破損仏      神奈川 谷口いづみ
みすずかる水の信濃の新豆腐      愛知  萩原 空木
鰯雲橋わたらねば逢へぬ母       東京  久重 凜子
花びらの中に尻まで秋の蜂       パリ  堀切 克洋
ふるさとといふ胎内にかなかなかな   東京  松川 洋酔
踊の輪一人が抜けてゆがみをり     東京  三代川次郎














         





綺羅星集作品抄

       

伊藤伊那男・選

秋暑し三面鏡の奥の顔         神奈川 鏡山千恵子
秋高し三面鏡を磨く朝         東京  相田 惠子
土くれの静脈のごと蚯蚓かな      宮城  小田島 渚
トランクをひと足先に帰省さす     東京  鈴木てる緒
寒蟬の声の限りや木歩の忌       東京  中野 智子
正風を説く人を待つ秋扇        東京  中村 孝哲
本能寺跡討ち漏らしたる蚊の猛る    東京  今井  麦
ビル一棟灯をつみ上げて夜業かな    東京  大住 光汪
夭折の魂や流燈さかのぼる       岐阜  堀江 美州
労ひの声掛けられて捨案山子      埼玉  大野田井蛙
僅かなる家庭菜園にも冷夏       茨城  中村 湖童
採石場石工に別れ秋燕         神奈川 秋元 孝之
喧噪の中にこそ聞く秋の声       東京  伊藤 政三
さはやかや発つ人もまた来る人も    東京  大沼まり子
八月のいちばん長き日の夕餉      神奈川 大野 里詩
獲物くるまで蟷螂の祈りかな      神奈川 こしだまほ
爆ぜて彼の世消えてこの世や遠花火   広島  長谷川明子

縄文の神の寝息の花野かな       神奈川 有賀  理
丹沢の水に浄むる新豆腐        東京  有澤 志峯
鉦叩記憶の底の壺を打つ        東京  飯田 子貢
新涼や湯上りに抱く赤ん坊       埼玉  池田 桐人
庄助の山に朝湯の盆休み        埼玉  伊藤 庄平
棒のごと畑を貫く大夕立        神奈川 伊東  岬
法輪寺より法起寺へ稲雀        東京  上田  裕
新涼や筆を離るる墨の色        東京  宇志やまと
父祖の地の棚田のなごり秋蛍      埼玉  大澤 静子
諏訪いまや木落し坂も草の花      東京  大溝 妙子
洗面鏡に返す笑顔や今朝の秋      東京  大山かげもと
新涼や堰音ひびく雨後の山       東京  小川 夏葉
蟷螂に大儀な腹のありにけり      埼玉  小野寺清人
いまさらに空の広さを捨案山子     和歌山 笠原 祐子
鉦叩一打一打に力こめ         東京  梶山かおり
夜長し生者は死者に生かされて     愛媛  片山 一行
強面に百万石を守る案山子       東京  桂  信子
色街を抜くれば子規の秋の庭      東京  我部 敬子
墓参り息子の傘の陰もらふ       高知  神村むつ代
ビル街の窓に次々鷹渡る        東京  川島秋葉男
隠れ里てふ山里の蕎麦の花       長野  北澤 一伯
諏訪
みしやくじの祠へ栗のいが踏んで    東京  柊原 洋征
己が脈とるもつれづれ鉦叩       神奈川 久坂依里子
おほかたは下品に親し秋の蟬      東京  朽木  直
掬ひたる水ごと提げて新豆腐      東京  畔柳 海村
家々の灯しの遠き案山子かな      東京  小泉 良子
小夜更けて雲の囲離る今日の月     東京  小林 雅子
影が来てとんぼうが来て水飲場     東京  小山 蓮子
流れ藻のごとし夜濯ひとり分      長崎  坂口 晴子
妙に目の大きさばかり案山子かな    千葉  佐々木節子
今日の月待つしつらひの山廬かな    長野  三溝 恵子
太極拳色なき風を搔き回す       東京  島  織布
夜の秋ちよつと寄つたと姉来たり    東京  島谷 高水
不協和の音の協和や鉾囃子       兵庫  清水佳壽美
土佐に来て龍馬話の良夜かな      埼玉  志村  昌
落鮎の便りにすぐの旅支度       千葉  白井 飛露
六義園
吹あげの松の齢や雁渡し        東京  白濱 武子
半島に椰子の実寄する雁渡し      東京  新谷 房子
不知火の消えてこの世に戻りけり    大阪  末永理恵子
碑に一揆の由来稲の花         静岡  杉本アツ子
太き爪大地蹴り上げ鷹柱        東京  鈴木 淳子
また角度変へて寄せくる稲雀      東京  角 佐穂子
風鈴やふるさとの音に風頻り      東京  瀬戸 紀恵
残り日も押し込まれたる落葉籠     神奈川 曽谷 晴子
伊那谷の日々を土産の帰燕かな     長野  高橋 初風
月山で落とす厄あり芒原        東京  高橋 透水
きちかうの開きかけたる尖りかな    東京  武井まゆみ
縹渺とチロルに遊び天高し       東京  竹内 洋平
御来光受くる足元定めけり       東京  多田 悦子
はたおりやわが機織をせかしをり    東京  田中 敬子
蟬声や一途といふも疎ましき      東京  塚本 一夫
提灯に通り名記して地蔵盆       東京  辻  隆夫
遺影まだ二十歳なりけり盆の月     愛知  津田  卓
忍耐は生きる証や秋暑し        東京  坪井 研治
海上に道あるごとき良夜かな      埼玉  戸矢 一斗
浪花はも打ちに打つたる夏祭      大阪  中島 凌雲
馬面に蝗とびつく飼葉桶        神奈川 中野 堯司
手びさしの血は逆光に大花野      埼玉  中村 宗男
焼色の皮の輝き初秋刀魚        東京  西原  舞
兵たりし兄の跫音草の花        東京  沼田 有希
大文字消えまなうらの火のほてり    東京  橋野 幸彦
夜の秋の夫の気配や三回忌       神奈川 原田さがみ
田の色の田ごとに違ふ宇陀郡      兵庫  播广 義春
聴きとむる音なき音を秋の寺      東京  半田けい子
水分石より武蔵野の秋の水       東京  福永 新祇
秋風の和歌の浦訪ふ旅心地       東京  星野 淑子
それぞれに傷を秘めたる夏帽子     東京  保谷 政孝
大南瓜尾骶骨をもて座りたる      東京  堀内 清瀬
残心の日差し巻き取る秋簾       埼玉  夲庄 康代
しはぶきを押しころしゐる茶席かな   東京  松浦 宗克
今朝秋の改札を出てちらと富士     東京  松代 展枝
これはもう秋風といふ肌触り      東京  宮内 孝子
組立の図の素朴なり盆燈籠       神奈川 宮本起代子
秋暑しペンより強きペンネ食べ     千葉  無聞  齋
昼花火揚げて今宵の先ぶれに      東京  村上 文惠
多摩の風吹きわたる中墓洗ふ      東京  村田 郁子
雁渡し父の蔵書に日本書紀       東京  村田 重子
不知火や日本武尊は女装して      東京  森 羽久衣
良夜かな明日は北岳山頂へ       千葉  森崎 森平
故郷の旅人となる端居かな       埼玉  森濱 直之
恐山入ればこの世の露の人       長野  守屋  明
生身魂ばかりの里となりにけり     愛知  山口 輝久
野分あと草葉の蔭もあらはにす     東京  山下 美佐
御無沙汰を訪へば遺影や風は秋     群馬  山田  礁
錆鮎の水に研がるる流れやう      東京  山元 正規
姥捨の風ささやける稲田かな      神奈川 𠮷田千絵子
秋思ふと新世界てふ路地裏に      愛媛  脇  行雲
木の実落つ宮の四隅に御柱       東京  渡辺 花穂
大の字から小の字に寝る涼新た     埼玉  渡辺 志水



















     







銀河集・綺羅星今月の秀句

伊藤伊那男

秋高し三面鏡を磨く朝          相田 惠子
秋暑し三面鏡の奥の顔          鏡山千恵子
「三面鏡」の句が二つあった。相田句は鏡を磨いていると澄み渡った秋の空が映っている。ひろびろとした高さを鏡の中から見るという視点が面白い。気持良い仕上がりである。鏡山句は鏡に映る自分の顔を見詰めて心象を具体的に表出したところがうまい。秋暑の顔が鏡の奥にあるのだ。自分の顔にありありと秋暑が纏わり付いているのである。 


土くれの静脈のごと蚯蚓かな       小田島 渚
蚯蚓が這っている様子を、大地の静脈のようだという比喩が見事である。比喩俳句は、新鮮な発想が肝要である。意外性を持っていて、しかも「あっそういう見方があったのか!」と読み手が納得するものでなくてはならない。そういう点で唸らされた比喩の句である。 


トランクをひと足先に帰省さす      鈴木てる緒 
「帰省」の句では類型の無い句であるように思う。宅配便などが発達したからこその句とも言えよう。ただ、そういうことだけではなく、トランクを擬人化して、先に「帰省さす」とした表現が見事なのである。もちろん自分も帰省するのだが、トランクの帰省が大手柄である。 


寒蟬の声の限りや木歩の忌        中野 智子
富田木歩は関東大震災に遭い、隅田川のほとりで業火の中で行方不明となった。生れながらの足弱で、義足を着けていたので「木歩」の俳号がある。貧困も加わって悲しい人生であった。句は「寒蟬」の季語がいい。つくつく法師の別称だが、「寒」の字があることによって陰翳のある木歩の人生を暗示しているように思われる。同時出句に〈早稲の香の中に学校綾子の忌〉があった。これも忌日俳句で細見綾子である。丹波青垣町の風景を彷彿させる見事な構成であった。師系だからこその実感のある句となった。


正風を説く人を待つ秋扇         中村 孝哲
「正風」とは俳諧で正統の流れを汲む流派の意で用いられた。即ち松尾芭蕉を祖とする「蕉風」のことである。「秋扇」に若干の皮肉が籠められているようにも感じられるが、文人俳句の趣を持つ風格がある。同時出句の〈芭蕉より一茶に饗すとろろ汁〉も面白い。確か芭蕉はとろろ汁を好んだと思うが、作者は一茶にこそ饗したいと言う。また〈三日天下存分に咲き桔梗散る〉は明智光秀を詠んだもので、そのことを読者は十分に知っているのだが、「存分に咲き」が決め手。三日間を存分、と詠んだのがユニークである。


本能寺跡討ち洩らしたる蚊の猛る     今井  麦
歴史を題材に取ってうまく纏めた句である。織田信長が急襲を受けた本能寺跡は今、本能寺小学校を中心とした住宅街の中にあり、記念碑のみが残る。そこからの連想で時空を越えて古今を混沌と詠み込んだのが句の特徴で、成功を納めた。 


ビル一棟灯をつみ上げて夜業かな     大住 光汪
今まで見てきた夜業の句は、農家や町工場などが舞台であった。高層ビルの夜業の掲出句は新鮮である。季感の薄れた古めかしい季語となっていたが、このような詠み方が出てきたことは嬉しい。「灯をつみ上げて」の表現で現代を描写した。 


夭折の魂や流燈さかのぼる        堀江 美州
 夭折は悲しいものだ。死に切れない思い、死なせた悔いが、このような句に導くのである。流燈の一つが俄かに遡ったという。それだけなのだが、この世に残した思いを感じさせる構成である。同時出句の〈両裾へ払ひ大きく大文字〉も東山の山腹を料紙とした壮大な一句である。


労ひの声掛けられて捨案山子       大野田井蛙
 捨案山子の哀れさをうまく詠み取っている。労われても結局は捨てられてしまうという非情さ。読後、これは人間の世界にもあることだな……と思えてくるのである。

 

僅かなる家庭菜園にも冷夏        中村 湖童
 都会で生活していると、農作物を生産していないので「冷夏」と言われても実感が薄い。以前三陸地方に遊んだ折、心地良い風を褒めたところ、「これが山背ですよ」と言われ愕然としたことがある。この句は都市生活者の実感。家庭菜園で冷夏を知ったのである。


 その他印象深かった句を次に

採石場石工に別れ秋燕          秋元 孝之
喧噪の中にこそ聞く秋の声        伊藤 政三
さはやかや発つ人もまた来る人も     大沼まり子
八月の一番長き日の夕餉         大野 里詩
獲物くるまで蟷螂の祈りかな       こしだまほ
爆ぜて彼の世消えてこの世や遠花火    長谷川明子
聴きとむる音なき音を秋の寺       半田けい子
秋暑しペンより強きペンネ食べ      無聞  齋
御無沙汰を訪へば遺影や風は秋      山田  礁
大の字から小の字に寝る涼新た      渡辺 志水























                




 

星雲集作品抄
伊藤伊那男・選
秀逸

跡継ぎは東京に居て稲の花      千葉  長井  哲
折り山に傷みのしるき秋扇      東京  辻本 芙紗
籠の虫虫時雨へと放ちけり      長野  坂下  昭
棚経や座蒲団折りて長丁場      東京  小寺 一凡
鶏の羽ととのはぬ残暑かな      東京  市川 半裂
木登りが好きで秋天なほ高し     東京  折原あきの
島影を殊に濃くする秋夕焼      静岡  金井 硯児
木の実独楽転げてただの木の実なり  東京  北原美枝子
鷗鳴く秋刀魚不漁に黙す浜      宮城  齊藤 克之
ひさぎ物風に吊るせり秋祭      青森  榊 せい子
さざ波の綺羅に生まれし秋あかね   東京  立崎ひかり
二度三度四度目に高きひよんの笛   東京  田家 正好
説法に親が頷き地蔵盆        京都  三井 康有
渾身の種吐く力鳳仙花        東京  矢野 安美
爆音に消されし名護の貝風鈴     東京  山口 一滴

御神酒のみ常温その他冷し酒     東京  石倉 俊紀
富士と付く山それぞれに天高し    東京  保田 貴子
鳳仙花夕べの風に種こぼす      群馬  山﨑ちづ子
秋晴の背丈短きうらみかな      京都  小沢 銈三
踵より砂の溶けたる秋の海      東京  豊田 知子
肩書の前から元へ秋の蟬       東京  絹田  稜
血脈といふ身の証曼珠沙華      静岡  橋本 光子
かざす手が虚空を絡め風の盆     長野  蜂谷  敦
合歓の花より溢れゐる夕景色     山形  我妻 一男
生と死の橋渡しとも菊の花      東京  島谷  操





星雲集作品抄

            伊藤伊那男・選


梨狩の手秤で選る甘さかな      東京  秋田 正美
障子貼る手順あれこれ後ろより    埼玉  秋津  結
やさしさに毒を隠して鳥かぶと    京都  秋保 櫻子
蚯蚓鳴く故郷の灯はまた減りて    東京  朝戸 る津
サングラス喜怒哀楽の無き世界    東京  浅見 雅江
朝顔のあゐを増やして空広ぐ     東京  尼崎 沙羅
浅漬の秋の茄子を愛でる朝      愛媛  安藤 向山
秋風に池のおりなす水輪かな     東京  井川  敏
嘶きの消え海風の花野かな      東京  生田  武
渓谷に鉄路の跡や水澄めり      長野  池内とほる
赤い羽根一期一会の縁ありき     高知  市原 黄梅
高みへと添はずに昇る鷹柱      東京  伊藤 真紀
甘すぎぬ夫婦善哉秋めきて      神奈川 伊藤やすを
もう幾度組み立てたるや盆提灯    広島  井上 幸三
邑中の庭唐黍の色燃ゆる       埼玉  今村 昌史
夕日背に蜩の声遠く聞く       高知  岩原 里秋
富士ヶ嶺の雲の白さや大花野     東京  上村健太郎
秋刀魚焼く記憶は母に始まれり    愛媛  内田 釣月
早稲の香に駅より一里歩きけり    長野  浦野 洋一
牛帰る宵待草のひらく頃       埼玉  大木 邦絵
物忘れしあふ夫婦に蚯蚓鳴く     神奈川 大田 勝行
鉦叩飽かず打つなり其を飽かず    東京  岡城ひとみ
かねたたき今夜はたれに経あぐる   東京  岡田 久男
コスモスや庭一面の風に揺れ     群馬  岡村妃呂子
戦知る夫を迎へて苧殻焚く      神奈川 小坂 誠子
独り身の灯の遅しちちろ鳴く     埼玉  小野 岩雄
大潮に引ける汀や涼新た       静岡  小野 無道
青りんご木箱の唄もはるかなり    宮城  小野寺一砂
踏み漬けの大根とぐろ永平寺     福井  加茂 和己
隠沼の湧いてくるやに赤蜻蛉     長野  唐沢 冬朱
残暑ごと洗濯物を畳みけり      神奈川 河村  啓
町あげて山車曳きまはす秋日和    愛知  北浦 正弘
松手入れ蓬萊島を表とし       神奈川 北爪 鳥閑
収穫に芋虫出でて声あがる      長野  北出 靖彦
切花となつて渋谷の吾亦紅      東京  久保園和美
てつぺんのさらに抜けたる秋の空   東京  倉橋  茂
秋耕の農婦仰ぐや大浅間       群馬  黒岩伊知朗
リード引く太郎駆けよと夕立来る   群馬  黒岩 清子
朝顔の蔓先が雨晴らすかに      愛知  黒岩 宏行
手のひらの別れの合図風の盆     東京  黒田イツ子
補陀落の瑞雲かくやに秋夕焼     神奈川 小池 天牛
木の香り散華となりぬ野分あと    東京  高坂小太郎
敬老の日茶杓の銘は不老門      東京  小林 美樹
竹伐るや七賢談義いつ果てる     神奈川 阪井 忠太
花びらに軽き折皺牽牛花       長野  桜井美津江
曼珠沙華落暉の如く開きをり     東京  佐々木終吉
夫留守の枕攲だつ虫時雨       群馬  佐藤 栄子
秋の蚊を打ちそこねたる齢かな    群馬  佐藤かずえ
獅子舞の動きに合はせ逃げるかな   群馬  佐藤さゆり
画用紙の半分は青秋の空       東京  清水美保子
大の字に寝転び探す天の川      東京  上巳  浩
朝顔の青より青し今朝の空      神奈川 白井八十八
なぞへ畑落暉に染むる蕎麦の花    東京  須﨑 武雄
かつて村ありさわさわと芒かな    岐阜  鈴木 春水
野分過ぎ犬の墓標の傾けり      群馬  鈴木踏青子
赤梨の不細工といふ甘さかな     愛知  住山 春人
刺子針一目一目の秋思かな      千葉  園部あづき
鎌倉九品寺
吾が往生おほかた下品酔芙蓉     埼玉  園部 恵夏
秒針のごと啄木鳥や木を刻む     東京  髙城 愉楽
裏磐梯の裾野ひろびろ蕎麦の花    福島  髙橋 双葉
支流より本流へ跳ね下り鮎      長野  宝 絵馬定
ふと目覚めいつかまた寝て夜長かな  埼玉  武井 康弘
六道の杜へ露の世続きけり      東京  田中  道
一日を大きく咲きし紅蜀葵      神奈川 多丸 朝子
完熟の白桃に刃を入れ惑ふ      愛知  塚田 寛子
踊の輪見てゐる指の動きをり     大阪  辻本 理恵
迎火のつもり窓辺に灯をともし    東京  手嶋 惠子
田の中の鎮守の森の秋祭       神奈川 長濱 泰子
誰彼の名を思ひつつ草の市      東京  中村  弘
夏逝くや沙翁生家の玻璃の窓     千葉  中山 桐里 
雨の盆亡きをとうとは晴れ男     東京  永山 憂仔
母の忌や稲妻走り遠ざかり      宮城  西岡 博子
墓石にも燃え移りさう曼珠沙華    大阪  西田 鏡子
十六夜や裏木戸開けて風通す     埼玉  萩原 陽里
つり革の軋む車両になほ残暑     東京  橋本  泰
西鶴忌人の模様の万華鏡       東京  長谷川千何子
コスモスの一方向に倒れ伏す     神奈川 花上 佐都
朝顔のつぼみは女神たたみしか    長野  馬場みち子
稲掛の縄新しく幾重にも       千葉  深澤 淡悠
立秋のいつか変りし風の向き     東京  福原 紀子
芋虫の時緩やかに流れをり      神奈川 星野かづよ
一人来て海見る習ひ秋意かな     神奈川 堀 備中
霧晴れて全容出でし榛名山      東京  牧野 睦子
我が山にヒマラヤ越えの秋晴が    神奈川 松尾 守人
吊革の絡み付きたる残暑かな     愛知  松下美代子
縄張りに威る牡鹿の泥まみれ     奈良  三村  一
秋晴に六腑晒さん深呼吸       東京  三好 恵子
三尊の座す石庭に萩の声       東京  八木 八龍
セーターの毛玉を取りて日が暮るる  東京  家治 祥夫
慣れぬことひとつ一つの盆支度    東京  山田  茜
夭逝の兄の位牌も盂蘭盆会      神奈川 山田 丹晴
蟷螂の鎌に似合はぬ小さき顔     静岡  山室 樹一
寂しさや仏相手の温め酒       高知  山本 吉兆
山小屋の軒を叩くやけらつつき    群馬  横沢 宇内
更くる夜の明日は栗飯栗を剝く    神奈川 横地 三旦
星生まれ星の死もあり夜の秋     神奈川 横山 渓泉
擦り傷に祖母の手当てや吾亦紅    千葉  吉田 正克
ふる里を出でしあの日の吾亦紅    神奈川 渡邊 憲二
書をひろげ半ば寝てゐる秋灯下    東京  渡辺 誠子




















星雲集 今月の秀句

伊藤伊那男

跡継ぎは東京に居て稲の花        長井  哲
 今日の日本列島のあちこちで起きている社会現象の一つである。都市への一極集中、少子高齢化‥‥。この句では父親は田畑を守っていて「子供達は東京へ行ったままだ」と呟く。稲の花は今年も咲いたけれど、いつまで咲かすことができることか。同時出句の〈稲架ける島の高きに父祖の墓〉がある。これも前句の続きであろうが、先祖代々の墓もいつまで守ることができるのか‥‥。


鷗鳴く秋刀魚不漁に黙す浜        齊藤 克之
気仙沼在住の作者の嘆きである。近海には魚影は無く、時間と燃料を使って遠洋で操業するが、獲れても魚体は小振りだという。船はエンジン音を立てることも無く、船溜に舫うばかり。鷗の声が響くばかりである。原句は「泣く」とあったが、それだと感情が入り過ぎるようだ。同時出句の〈鳴砂や熱砂歩けど鳴らぬ浜〉は猛暑の一景が如実、〈錆ぬれど身の香放さぬ百合の花〉は対象へ一歩踏み込んで観察眼の利いた句であった。 


御神酒のみ常温その他冷し酒       石倉 俊紀
 そもそも昔は酒と言えば、熱燗、ぬる燗などの温度差はあるが一年を通じて温めて飲むものであった。常温のままで飲むことを「冷酒(ひやざけ)」といい、「冷のままで!」などと注文した。冷蔵庫で冷すようになったのは最近のことで、これを「冷し酒」と呼ぶのが、今の共通認識である。御神酒は常温(冷酒)、祭衆の打ち上げは冷し酒、ということであろう。これも今日的な祭の有様を捉えていて面白い。


鶏の羽ととのはぬ残暑かな        市川 半裂
いかにも酷烈な残暑を描いて出色である。夏には羽抜鶏となり少しみすぼらしくなるが、その羽も整わないというのであるから哀れを極めている。同時出句の〈群雲に堰止めらるる天の川〉は、天の川を普通の川のように見立てて、雲に「堰止めらるる」とした表現は卓抜である。壮大な風景を卑近な例に持ち込んだのが俳諧的手柄である。 


説法に親が頷き地蔵盆          三井 康有
 京都では大文字の送火の一週間後位、地蔵菩薩の縁日に行われる。町内会が地蔵さんの前に会場を設けて子供達を遊ばせる。子供の死亡率の高かった時代、地蔵にその庇護を願ったのである。近隣の僧が説法をするが、子供にはあまり理解ができない。親が大きく頷くのである。同時出句の〈西陣の残暑織り込む機の音〉は、残暑を織り込む、と現実には無いことを詩的に昇華させた技のある表現。


鳳仙花夕べの風に種こぼす        山﨑ちづ子
季語の本意を生かした句である。「ツマベニ」などの名もあり、女児の遊びでも親しまれた花だ。熟すると五片に裂けて種子を飛散させる。句は子供が帰ったあとの夕べの風に種を零した、という抒情の心地良さ。調べもいい。同時出句の〈幼らの絵本の続き夜長かな〉も温もりのある句。〈峠路を越えて信濃の野分かな〉は壮大な一景。 


踵より砂の溶けたる秋の海        豊田 知子
 秋の海の一抹の淋しさの出ている句だ。踵(かかと、くびす)の下の砂が寄せた波に攫われて溶けていく。写生句の作りであるが、読後、夏の思い出も一緒に溶け出していくような寓意性を残すところが味わいである。


二度三度四度目に高きひよんの笛     田家 正好
イスノキの葉に棲みついた虫が出たあとの空洞に口を当てて吹くと「ひょう、ひょう」と鳴る。これをひょんの実、ひょんの笛と言う。俳人好みの季語である。四度目にやっと高い音を出した、という粘り抜いた表現がうまい。 


肩書の前から元へ秋の蟬         絹田  稜
選挙速報などで「前」「元」などで出る。社会の組織でも社長、会長、名誉会長、顧問、最高顧問‥‥などと続く。こんな人間社会の仕組みに、もうすぐ鳴き止む秋蟬を配したところが手柄である。 


富士と付く山それぞれに天高し      保田 貴子
「山それぞれ」がうまい。富士と付く山は全国至る所にある。当然、高い山もあれば低い山もある。「それぞれに」の「に」が決め手で、高い山には高い山なりに、低い山には低い山なりに天の高さがある、と天の高さにも高低があるような錯覚を持たせるところが句の眼目である。 
その他印象深かった句を次に
秋晴の背丈短きうらみかな        小沢 銈三
木登りが好きで秋天なほ高し       折原あきの
棚経や座蒲団折りて長丁場        小寺 一凡
血脈といふ身の証曼珠沙華        橋本 光子
かざす手が虚空を絡め風の盆       蜂谷  敦
合歓の花より溢れゐる夕景色       我妻 一男
生と死の橋渡しとも菊の花        島谷  操






















伊那男俳句  


伊那男俳句 自句自解(47)

  
妻癒えよ魚氷に上るきのふけふ

 私が大腸癌の手術を受けた二年後、今度は妻の乳癌が発覚した。治療法については悩んだ末、当時まだそれほど普及していなかった温存療法を選んだ。手術は実に簡単なもので患部を刳り貫いてテープを貼って終りというものであった。ただし五年以内に二十五%が再発するグループで、抗癌剤を使うことで十八%に抑えられるという所見であった。退院後の生活は以前と特に変ることは無かったが、私に続いて四十代で夫婦で癌患者になったというのは辛いものであった。乳癌は厄介なもので、普通の癌は五年経過をもって完治の判断をするが、乳癌は十年の経過観察が必要とされていた。手術を受けたのは四十五歳、その後はずっと怯えながら暮らしていたのだと思う。その頃は私の経営参加していた金融会社は壊滅状態にあり、いつ無職になっても不思議ではない状態であった。そうした生活基盤の不安感も妻に影響したかもしれない。手術の無事に祈りを籠めた句であった。
  
  
護符添へて月山筍の届きけり

 盤水先生は福島県いわき市の出身ということもあり、総じて北方志向の俳人であった。四十代で行き着いたのが出羽三山で、月山に何度も登頂されている。出羽三山神社の手向集落の講宿三光院を常宿として、我々「春耕」連中も度々訪ねることとなった。句碑は三光院の前庭、羽黒山南谷の参道、湯殿山奥の院参道と三基を建立した。その句碑開き、周年祭、林間学校と、私も十回位は訪れている。初夏に行くと三光院の食前には月山筍が供された。朱塗の汁椀に厚揚げと月山筍を味噌煮にしたもので、二本の月山筍が椀の縁からはみ出していた。月山筍は当地固有の名称で、姫筍、根曲筍と同種である。独特の香気と甘味と食感がある。句は庄内の句友から送られてきた時の嘱目。三山神社のお守りが荷に添えてあるのが嬉しかった。私は皮ごと直火焼きにして、熱いうちにマヨネーズ味噌で食べるのが好きである。その度に庄内の風景と盤水先生の笑顔が浮かび上がるのである
 











      


 

伊藤伊那男  俳人協会賞受賞










 去る3月5日、平成30年度の俳人協会四賞の授与式が京王プラザホテルで行われました。
ご存じの通り、伊藤伊那男主宰が句集『然々と』で第58回俳人協会賞を、同人の堀切克洋さんが『尺蠖の道』で第42回俳人協会新人賞を受賞四、銀漢俳句会から4賞の内二賞を頂くという快挙となりました。2019/4/30/更新













俳人協会四賞・受賞式









更新で5秒後、再度スライドします。全14枚。


 二次会・店内に入りきれない人数でしたが,日曜日とあって店の前の通りも通行が少なく,穏やかな天候の下、外に溢れる受賞者の二人や他結社の方々と交流するなど、思い思いにお酒を楽しみながr懇談を深め,何時までも祝賀会の熱気は冷めることがありませんでした。









 受賞 祝賀会

 伊藤伊那男 俳人協会賞
堀切 克洋  俳人協会新人賞
2019/3/17 学士会館
銀漢亭(二次会)


 月刊「俳句四季」に受賞の記事が掲載されました。
月刊「俳句四季」に受賞の記事掲載は
5月号(4/20発売)か6月号(5/20発売)のどちらかを予定しています。


リンクします。

句集 「然々と」 伊藤伊那男

 
句集「尺蠖の道」
拡大します。




linkします。



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拡大します。


受賞祝賀会 3月17日 日時 12時 
会場 学士会館 東京神田 


haishi etc
↑link














銀漢の絵はがき


挿絵が絵葉書になりました。
Aシリーズ 8枚組・Bシリーズ8枚組
8枚一組 1,000円

ごあいさつにご利用下さい。






    




   








掲示板





























               

銀漢亭日録

伊藤伊那男

9月

9月22日(日)
選句。17時、中川家訪問。水産業で成功し、先日、成城に家を建てた。孫達の成城仲間。毛蟹大が5杯あり、私が解体役。ヘアメイクの中川さんに来て貰い、替わり番こに3家族の8人が整髪して貰う。一週間前に、京都で散髪したが、やはり中川さんにもう一度。結局、夜中の2時近くまで宴会。

9月23日(月)
選句。さすがに夏の疲れあり、仕事進まず。つい、うとうと。酒抜く。早々に寝る。

9月24日(火)
ひまわり館「萩句会」の選句。あとずっと仕込み。「ひまわり句会」あと9人。西村麒麟君他。麒麟、「角川俳句賞」受賞! 快挙! 肖子さん他。

9月25日(水)
店、辻村麻乃、歌代美遥、佐怒賀正美、仙田洋子さん。仙田さんの句集出版祝いと。佐藤宏之助さん、遅ればせながらと、私の俳人協会賞受賞祝いに花束を届けて下さる。伊藤庄平さん。「雛句会」14人と盛況。「童夢句会」あと4人。などなど。

9月26日(木)
店、福永新祇さんの会(句会あと食事)四人。藤森荘吉さんの「閏句会」8人。22時に終わり、小太郎、井蛙、小石さんと「手打ちそば わたる」久々。

9月27日(金)
「金星句会」あと7人。

9月28日(土)
3時、洗足駅。「纏句会」の面々13人。まだ日本橋の「鮨の与志喜」が改修中にて、谷岡健彦氏のお世話で東工大教室を借りる吟行会。日蓮袈裟掛の松や、今月オープンした「大田区立勝海舟記念館」へ。映像も駆使した素晴らしい記念館。ゆっくり再訪したい。海舟の墓参。東工大教室にて句会・17時過ぎ、大学前の中華料理店。谷岡夫人も参加。

9月29日(日)
終日家。11月号の同人評、会員評仕上げる。「第26回 俳人協会俳句大賞」の選考。予選後の600余句から30句ほどを選考して協会へ送付。

   9月30日(月)
伊那の坂下昭さん上京と寄って下さる。「未来図」の守屋明俊さん久々。「一八句会」あと五人。「演劇人句会」5人。今日、店担当の天野小石さん誕生日とて、洋さん、清人さん、ヴーヴクリコで乾杯。

10月

10月1日(火)
客1人。超々閑散。仕込みに徹す。19時半、見切りを付けて閉める。帰宅して家族と食事。こういう時間もまあ……いい。

10月2日(水)
彗星集の秀句書いて11月号の原稿終了。店、「きさらぎ句会」あと7人。「宙句会」あと八人。郷里の先輩、今井康之さんと岩波書店の方々。

10月3日(木)
 「十六夜句会」あと9人。武田編集長がゲスト。山田真砂年、寺澤一雄、菊田一平さん。北大路翼さん。外国人4人など。毎日新聞社今井竜さん、滋賀県の観光プロジェクトで俳句絡みでの応援につき、相談あり。近江好きの私、出来る事はやりたいと答える。

10月4日(金)
会員の石倉さん。皆川文弘さん、富山のチューリップの球根持って来て下さる。「大倉句会」あと24人。

10月5日(土)
終日家。「春耕賞」、57編の応募あり。予選10編送る。渡辺花穂さんの句集稿選句など。夕食、ステーキとワイン。

10月6日(日)
「俳壇」アンケート「私の好きな女性俳人ベスト3」に応える。16時、「京王プラザホテル」エミネンスホール。「未来図35周年記念祝賀会」へ招待客で。控え室で宮坂静生、矢島渚男先生と信州人3人並ぶ。鍵和田先生は体調不良でお休みと、残念。

10月7日(月)
親戚の五日市征和さん久々。花穂さん、選句稿渡す。木暮陶句郎、杉山香織さん来店。陶句郎さん、私の協会賞受賞祝いにと、陶器三枚を焼いてきて下さる。各々、釉薬が違う。有難く。「かさゝぎ俳句勉強会」あと10人。

10月8日(火)
パリの伊藤恵子さん(会員)、お嬢さんと。「火の会」私を入れて9人。税理士さんグループ(大原簿記へ通っていた頃から来て下さっていた)。

10月9日(水)
佐怒賀正美・直美ご兄弟。19時より恒例の「Oh! 月見句会」朽木直さん幹事で32名の超結社の方参加。「月」の題で3句持ち寄り。

10月10日(木)
「足立俳句連盟」の小谷武生会長、矢作十志夫事務局長来店。来年5月5日の「足立区俳句大会」の特別選者の依頼受ける。昭和25年から70年続く大会。「極句会」あと10人。

10月11日(金)
台風襲来につき店は休みとする。第26回俳人協会俳句大賞の選評。「銀漢賞」の選考に入る。今年も昨年と同じ79篇の応募あり。台風に備えて家族、硝子窓にテープを張ったり、レトルト食品などを手に入れたりと慌ただしい。夕食は私が準備。

10月12日(土)
「銀漢本部句会」の日ながら休止。台風襲来。終日家。読書、テレビ、昼寝など。家族で夕食。リビングルームも窓にプチプチシートを張り詰めたのでいつもより静か。

10月13日(日)
高校の友人、北原泰明君と伊那谷、旧長谷村(現伊那市)の彼の生家を訪ねる約束あり。彼は既に実家入り。中央線切断にて高速バス予約すると取れたので新宿へ向かう。小田急線は不通にて京王線仙川駅へ出て。バスタ新宿に行くと中央高速道復旧ならず運休と。伊那行き断念。泰明君、松茸のすき焼など用意して戴いた様子。加藤惠介、三溝恵子さんも待っていて下さった様子で残念。高遠の酒蔵「仙醸」の黒河内靖先輩もお訪ねする予定だった……。台風一過の嘘のような好天。帰宅してエッセイや講演の用意。夕食、白菜鍋、寿司取り寄せ。千曲川決壊など台風の爪痕ひどし。ラグビーのスコットランド戦に家族熱狂。

10月14日(月)
休日。午後から買い物。店にて仕込み。19時まで。戻って家族と夕食。

10月15日(火)
14時から16時まで俳人協会4階で「第26回 俳人協会俳句大賞」選考会。大会賞、準賞を決定。委員8人。店はまあ、閑散。

10月16日(水)
午前中、銀漢誌の原稿。店、高校同期の「三水会」9人集まる。大野田さん持参の蝗、酒粕漬の瓜、塩イカなど郷土料理を楽しむ。久々、北原泰明君(先週、彼の生家に行く予定であった)。ともかくまだ信州との間は交通不通。

10月17日(木)
台風19号のあと、急に冷え込む。町中に金木犀の香り。店、「銀漢句会」あと12人。山田真砂年さん。

10月18日(金)
 発行所「蔦句会」あと10人店へ。片山一行さん愛媛より。宇和島のジャコ天ほか、練物の土産。21時頃、片山さんの歓迎会の2次会で10人程来店。片山さん主導の通信句会「松前句会」の超結社の方々。

10月19日(土)
11時半、松屋銀座「大人の流儀 伊集院静展」を見る。日本橋に出て、喫茶店で作句。14時、「鮨の与志喜」にて「纏句会」。選句までで退出。新幹線こだまにて、熱海経由で18時、伊東駅。金井硯児、唐沢静男さんの迎えを受け、「お風呂ずきの宿 大東館」に荷を置き、「創菜 なんや」にて食事会。金井夫人、午前中から来ていた小石、うさぎさん、地元の会員山室樹一さんと乾杯。2次会はカラオケラウンジ。久々、4曲ほど歌う。旅館に戻ってまた……。

10月20日(日)
2日酔。温泉良し。10時、金井夫妻迎えに来てくれて、池の里という集落。山に囲まれた美しい田園ながら、9月の台風で稲は壊滅状態。集落の鎮守、山神社で槙の実を拾う。大室山の冬桜を見る。昼食あと南伊東駅から多賀。熱海公民館にて「天城句会」へ。六句出し句会。あと熱海駅前すし処「和楽」にて親睦会。19時半、お開き。皆さんのお世話になり楽しい旅。22時頃帰宅。

10月21日(月)
昨日、帰宅後、夜中2時くらいまで諏訪の講演会の構想を練る。午前中、続けて曽良についてだいたい纏める。「青垣」大阪の千坂希妙さん。「演劇人句会」5人。











         
    






今月の季節の写真/花の歳時記



2019年12月25日撮影  クロガネモチ from HACHIOJI



花言葉 魅力・寛容・執着・仕掛け



△クロガネモチ
クロガネモチの語呂合わせから“金持ちの木”と言われています。なんだかとても縁起が良い木です。この木は雌雄異株で、雌株には秋になると真っ赤な果実がなる。それが美しい・・。

八つ手 冬紅葉 クリスマスホーリー マユミ 蔓梅擬
イチゴノキ 枇杷の花 ネリネ 秋明菊 冬薊
姫蔓蕎麦 雪化粧 クリスマスリース クロガネモチ

写真は4~5日間隔で掲載しています。 
2019/12/22 更新





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