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 4月号  2020年

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 銀漢日録  今月の写真 俳人協会賞受賞  俳人協会四賞受賞式


伊藤伊那男作品

主宰の8句









        
             

 
          
    

今月の目次






銀漢俳句会/2020/4月号











    



  




   



銀漢の俳句 

伊藤伊那男 

◎八戸のえんぶり
 2月17日、青森県八戸市の「えんぶり」を見学した。地元の俳誌「たかんな」主宰 吉田千嘉子さんと編集部の方々が厳選したコースを案内して下さった。「えんぶり」の起源は定かではないが、平安末期から鎌倉時代にかけてこの地を統治した南部氏の家来が始めたという説が有力だという。最盛期には200組以上が存在したというが、昭和41年代には十分の一にまで減少し存続の危機もあったという。その後、復興に務め、昭和54年に重要無形文化財の指定を受け、現在は33組が参加している。八戸市もこの日を「えんぶりの日」に制定し、小中学校を一斉休校としている。
 祭は豊年の予祝行事である。「えんぶり・朳」の名は「いぶる・()」が語源で、農地を均したり、穀物を掻き寄せる棒状の農具からきたといわれる。田の神を揺り動かす役割もある。組は15人から30人位で構成され、馬の頭をかたどった大きな烏帽子を被った3人から5人の「太夫」を中心に、笛・太鼓・手平鉦・唄の囃方、また大漁や金運を呼ぶ「恵比寿」「大黒」「えんこえんこ」などの踊り手が従う。前夜から長寿山新羅神社の参道に結集して順番を争う。朝7時、神社に奉納舞を献じたあと行列を作り町へ繰り出す。町の辻々に各々陣取り朳舞で農作業の一部始終を演じる。これを一斉摺りという。その後それぞれ馴じみの商家などを訪ねる門付けや、城跡、市民ホール、商業施設などでの実演を行う。
 夜私達は更上閣(こうじょうかくという旧豪商邸でのお庭えんぶりを見学した。見物席は館の大広間で、緋毛氈の上に座り、甘酒と煎餅汁のもてなしを受けて待つ。定刻になると篝火を焚いた日本庭園に朳衆が入り開演となる。まさに一時豪商の気分を味わったのである。
 農業が変化した中で、このような祭が連綿と伝わっていることに愛惜ともいえる感慨を覚えた。東京にも板橋区に「田遊(たあそび)」の祭事を行う神社が二つあるが、大都会に残った奇跡的ともいえる貴重な行事である。「えんぶり」も「田遊」も先祖が五穀豊穣、子孫繁栄を祈った切実な祭であったことを記憶しておきたい。
 俳誌「たかんな」の故藤木倶子主宰は「えんぶり」の顕彰に努められ、毎年他結社に声を掛けて「えんぶり句会」を開いた。それらの句を纏めて後継の吉田千嘉子さん等が『えんぶり歳時記』を刊行した。俳人必携の労作である。

   
長老の(さい)のひと振り朳発つ    吉田千嘉子
えんぶりや雪の鍛冶町大工町   藤木 倶子















 



  

盤水俳句・今月の一句

伊藤伊那男

春の滝飛沫をかさねはじめけり     皆川盤水
以前〈春の滝力を出してきたりけり〉(平成十一年作)を紹介した。この句はその七年後の作品。前出句は写生句であり、主観句でもあるといえよう。春の滝から先生は力を貰っている句である。掲出句は写生だけに徹した句といってよかろう。徐々に雪解風を集めて滝が力を取り戻しつつある。「飛沫をかさねはじめけり」の描写は極めて微妙な変化を捉えて的確である。前作とは違い、枯淡な境地を深めた句といえよう。(平成十八年作『花遊集』所収)                 









  

彗星集作品抄
  伊藤伊那男・選

保証書も付くぼろ市の掛時計        小山 蓮子
かつてその一羽は皇子よ大白鳥       武田 花果
彼の世へと書きたき賀状増ゆるかな    池田 桐人
大根や本尊見えぬほどの数         白濱 武子
芋版に木曾の嘶き賀状来る         萩原 空木
日溜まりに編みかけのまま毛糸玉      清水佳壽美
総身の湯気をぶつけて寒稽古        上田  裕
一陽来復湯立ての滾り神々し        大野田井蛙
非常口緑の男冴え冴えと          中野 堯司
百幹の竹の騒めき鎌鼬           松川 洋酔
二回目も足して二で割る初御籤       柊原 洋征
去年今年筧の音の弛みなく         武田 花果
如何しても一人目を閉づ初写真       多田 悦子
書初や硯の海は凪多く           保田 貴子
絵屏風の江戸界隈に迷ひこむ        曽谷 晴子
鯛焼に鯛の鯛なし確かむる         山口 輝久












    
     

彗星集 選評 伊藤伊那男

伊藤伊那男・選

保証書も付くぼろ市の掛時計       小山 蓮子
俳句は本来、世俗の中の何げない「おかしさ」を詠むものである。そのようなことから見ると、実に楽しい句である。「ぼろ市」に出ているのであるから新品ではない。古物である。それなのにちゃんと保証書がついている、というのであるからおかしさ百倍である。
とっくに保証期間は過ぎているのだが「保証書付きだよ」と言って売っている風景を想像すると笑うしかない。芭蕉が俳句を文学に高めたが、庶民の喜怒哀楽をうたう文芸であることも忘れてはならない。 

かつてその一羽は皇子よ大白鳥      武田 花果
日本武尊命は伊吹山の神の化身に触れて病み、大和へ向かう途次の能褒(のぼ)野(の)で息を引き取った。そして白鳥に化して大和国を指して飛ぶ。その『日本書紀』の記述を回顧した作品である。俳句という短い詩形の中にこのような物語を折り込んだのは見事である。俳句はここまで広い世界を読むことができるのだ、という具体的な例を見せてくれた作品。

彼の世へと書きたき賀状増ゆるかな    池田 桐人
年賀状を省略する人の増えつつある昨今である。義理だけのやりとりであれば止めてもいいのかもしれないと思う。この句は反対に、受け取る術のない亡き人へ年賀状を出したい、その人達が増えつつある、という。確かに私の年位になると、会社で世話になった上司、俳句の師や先輩の中のかなりの方があの世に行ってしまわれている。聞き逃したことや言いたかったことがある。 

大根や本尊見えぬほどの数        白濱 武子
「大根焚」の直前の様子なのであろう。本堂前に山と積まれて、御本尊が隠れるほどだという。親鸞上人の故事にちなみ鳴滝の了徳寺で行われる。句はやや解り難いところがあるので、字余りだが、〈大根焚きに本尊見えぬほどを積む〉というような作り方もある。ともかく景が見える句だ。 

芋版に木曾の嘶き賀状来る        萩原 空木
小学校の頃、さつま芋を持って登校し、授業で芋版を彫った記憶がある。この句は長野県の方の句であろうか。木曾馬を彫ったのであろう。その嘶く様子が年賀状で届けられたのである。面白い年賀状の句である。 

日溜まりに編みかけのまま毛糸玉     清水佳壽美
一昔前の風景。どの家も女性が毛糸を縁側で編んでいた。縁側が母や姉の仕事場で、編みかけたものが置いてあった。手が空くと戻って編み継ぐ。「日溜まりに」がいい。 

総身の湯気をぶつけて寒稽古       上田  裕
「湯気をぶつけて」が一歩飛躍した表現。臨場感が出た。 

一陽来復湯立ての滾り神々し       大野田井蛙
 霜月祭か三河の花祭か……豊作予祝行事の熱気。

非常口緑の男冴え冴えと         中野 堯司
 〈非常口に緑の男いつも逃げ 田川飛旅子〉。これもいい。

百幹の竹の騒めき鎌鼬          松川 洋酔
 いかにも鎌鼬が発生しそうな場面設定。

二回目も足して二で割る初御籤      柊原 洋征
 私は凶が続いて以来籖は引かない。この気持ちよく解る。

去年今年筧の音の弛みなく        武田 花果
 年を繋ぐ不変の水音がいい。「弛みなく」に希望がある。

如何しても一人目を閉づ初写真      多田 悦子
必ずそういう間の悪い人がいるものだ。 

書初や硯の海は凪多く          保田 貴子
 大海への連想がいい。「凪のまま」位がよさそうだ。

絵屏風の江戸界隈に迷ひこむ       曽谷 晴子
 私も迷い込んでみたい。歴史を楽しむ姿勢が嬉しい。

鯛焼に鯛の鯛なし確かむる        山口 輝久
 本物の鯛は鰓に鯛形の骨がある。鯛焼きに確める滑稽。

今回の投句に〈名の木枯る八百年の乳を垂れ〉という句があった。歳時記を見ると「名の木枯る」という季語の立項がある。だがそれは「名の知られる木々の枯れることの総称」であり、「名の木枯る」では詠まない。例えば「蔦枯る」「銀杏枯る」「葡萄枯る」「欅枯る」などと具体的な木の名前を入れて詠む。「名の草枯る」も同様である。逆に春の季語である「名草の芽」は何の芽か解らないのでそのまま使う。前出句は〈銀杏枯る八百年の乳を垂れ〉と詠むべきものである。

















銀河集作品抄


伊藤伊那男・選

大神の雨意も神意と納め札       東京  飯田眞理子
鬼おこぜ捌かれし貌まだ怒る      静岡  唐沢 静男
手袋を外して熱き握手かな       群馬  柴山つぐ子
裸木に裸のこころもて接す       東京  杉阪 大和
一陽の虚空を駆くる文殊さま      東京  武田 花果
羽黒はも芭蕉像への雪囲        東京  武田 禪次
里神楽をさな馴染の神と鬼       埼玉  多田 美記
もう一度実家に泊り七日粥       東京  谷岡 健彦
数へ日を数へ直してみて詮なし     神奈川 谷口いづみ
紙垂を切る音の浄きも年用意      愛知  萩原 空木
道祖神の道行めくや寒夕焼       東京  久重 凜子
吹き冷ますために湯気吸ひ薺粥     パリ  堀切 克洋
電車見て飽きぬ小春の跨線橋      東京  松川 洋酔
人混みの中の安堵や年詰まる      東京  三代川次郎














         





綺羅星集作品抄

伊藤藤伊那男・選

花と句を心の杖に百三歳        埼玉  梅沢 フミ
歌にあるやうな小川も涸れにけり    東京  小泉 良子
心あてに花の名残を京に訪ふ      東京  松浦 宗克
大仏の螺髪の隙間煤払ふ        埼玉  渡辺 志水
咳止みぬ薬師如来の壺見れば      東京  福永 新祇
虎落笛風樹の嘆をことさらに      東京  橋野 幸彦
冬の蠅己の影を貼り付けて       埼玉  森濱 直之
忘年会街に百羽の千鳥足        東京  豊田 知子
名古屋城
天守より降りし鱗か散紅葉       大阪  中島 凌雲
寒鯉のはねて天秤定まらず       埼玉  大野田井蛙
沈むほどには積荷せず宝船       長野  高橋 初風
擂鉢の底ひの城下冬至の灯       長野  三溝 恵子
この先は女人高野よ凍豆腐       東京  森 羽久衣
てのひらは紙のやうなり悴めり     東京  梶山かおり
成木責訛に訛もて応ふ         東京  川島秋葉男
故郷の淑気を胸に帰京する       東京  小林 美樹

降るやうな星空あすは寒の入り     東京  相田 惠子
初空に一点光る尾翼かな        神奈川 秋元 孝之
元号の三つ越え来し雑煮箸       宮城  有賀 稲香
寒の鯉影を重ねて並びをり       神奈川 有賀  理
釣人の焚火を囲む薄明り        東京  有澤 志峯
着膨れて座敷童子を背負ふごと     東京  飯田 子貢
歩む足こそが福なれ福詣        埼玉  池田 桐人
寝息ほどの風を裾野に山眠る      埼玉  伊藤 庄平
もう出して良き頃合や晦日蕎麦     東京  伊藤 政三
ふくらみで占ふ今年寒の餅       神奈川 伊東  岬
裸木の城跡守るかに尖る        東京  今井  麦
冬の日は古き鏡を見るごとし      東京  上田  裕
天龍の瀬音起こしてざざ虫よ      東京  宇志やまと
初旅といふも任地へ夫もどる      埼玉  大澤 静子
竹林を捩ぢ伏せてゐる深雪かな     東京  大住 光汪
遅れ来し一羽を迎へ木守柿       東京  大沼まり子
竹馬の高き空からおめでたう      神奈川 大野 里詩
大神をまなかひに見て年惜しむ     東京  大溝 妙子
年の瀬や買物客の風孕み        東京  大山かげもと
春光を浴ぶる机上の眼鏡かな      東京  小川 夏葉
言葉となる前のことばや紙を漉く    東京  小田島 渚
いささかも富士は見飽きず古暦     埼玉  小野寺清人
同じ場所後継ぎらしき飾売       神奈川 鏡山智恵子
弾かれて恋はいづくへ歌歌留多     和歌山 笠原 裕子
笹鳴やしづかに老ゆる文庫本      愛媛  片山 一行
本家より分家隆盛戎笹         東京  桂  信子
水音は胸の奥処に滝涸るる       東京  我部 敬子
市にもらふ紙門松に小雨かな      高知  神村むつ代
この先の坂道緩く冬終る        長野  北澤 一伯
室生はもひと舐めほどに冬日過ぐ    東京  柊原 洋征
干支の鈴飾りおくのみ喪正月      神奈川 久坂衣里子
年惜しむ記紀の奇譚を河内まで     東京  朽木  直
丘あらば古墳ならむと冬田道      東京  畔柳 海村
年惜しむ天平仏の指先に        神奈川 こしだまほ
賀状文字しつかと友も恙なく      東京  小林 雅子
岩走る水の躍動春兆す         神奈川 小林 好子
撫牛のどこも艶やか初詣        東京  小山 蓮子
縄とびの縄の見えざる迅さかな     長崎  坂口 晴子
富士隠す名も無き山の初景色      長野  坂下  昭
庭隅の一葉ゆるがぬ寒の入       千葉  佐々木節子
賑やかに箸の出合ひて鮟鱇鍋      群馬  佐藤 栄子
春着の子回りて父に見てもらふ     東京  島  織布
卓球の家族大会四方の春        東京  島谷 高水
鮟鱇の無一物なる口の中        兵庫  清水佳壽美
書初の夢は半紙をはみ出せり      埼玉  志村  昌
街行けば効果音つく寒さかな      千葉  白井 飛露
鮟鱇鍋たひらげ間延びせし顔に     東京  白濱 武子
上木の句集も積みて年酒酌む      東京  新谷 房子
六地蔵半分までの冬日向        大阪  末永理恵子
眴せの先に札あるかるたかな      東京  鈴木 淳子
今宵また指揮者不在のもがり笛     東京  鈴木てる緒
金目鯛目の奥底の秘密めく       東京  角 佐穂子
思ひ出の温み手編みのマフラーに    東京  瀬戸 紀恵
寒餅を焼きつふくらむ話かな      神奈川 曽谷 晴子
格子より冬日差しこむ谷中かな     東京  高橋 透水
たかやかに門松立てり三輪明神     東京  武井まゆみ
天地のあはひ凍らせ諏訪の湖      東京  竹内 洋平
底冷をほどく菩薩の薬指        東京  多田 悦子
初電話やつぱり母でありにけり     東京  立崎ひかり
だうだうと食後の昼寝女正月      東京  田中 敬子
母逝きて後の余白や初暦        東京  田家 正好
川涸れて心許なき沈下橋        東京  塚本 一夫
冬薔薇王妃の罪を背負ふかに      東京  辻  隆夫
みはるかす三輪まほろばの冬霞     東京  坪井 研治
人里のあればそこから虎落笛      埼玉  戸矢 一斗
別れ住む子にかばかりの寒の餅     神奈川 中野 堯司
竹馬や浅草に富士見ゆる日の      東京  中野 智子
猫の目に時間は流れ年つまる      東京  中村 孝哲
朝靄の生みしごとくに白鳥は      茨城  中村 湖童
着ぶくれて二階住ひの階狭む      埼玉  中村 宗男
根深汁ひと椀に浮く輪の幾重      東京  西原  舞
子規も父も兄も母校の初桜       東京  沼田 有希
年の瀬や使ひ過ぎたる骨軋む      埼玉  萩原 陽里
寒菊の日かず重ねし花の数       広島  長谷川明子
冬座敷笑はぬ夫の遺影笑む       神奈川 原田さがみ
フェノロサの解きし秘仏を仰ぐ暮    兵庫  播广 義春
丈六の螺髪にはづむ初雀        東京  半田けい子
負独楽の最後一回逆廻り        東京  福原 紅
其と無く八十路の覚悟日記買ふ     東京  星野 淑子
柚子湯沁む二人の暮し貧ならず     東京  保谷 政孝
大江戸を膝下に納め梯子乗       東京  堀内 清瀬
湯冷めせぬ間にけふの灯を閉ぢにけり  岐阜  堀江 美州
まんまるは嬉しいかたち初笑      埼玉  夲庄 康代
握手して力をもらふ悴む手       東京  松代 展枝
寒夕焼海を微熱の色に染め       東京  宮内 孝子
ことのはは指先に秘め毛糸編む     神奈川 宮本起代子
喧嘩独楽多勢無勢の声張りて      東京  村上 文惠
笹鳴や吉野の里にありてこそ      東京  村田 郁子
冬薔薇の決意のごとき赤さかな     東京  村田 重子
足裏で板を沈めて冬至風呂       千葉  森崎 森平
姿なき四方の敵なり隙間風       長野  守屋  明
寒餅を搗くかけ声を練り込みて     東京  保田 貴子
古暦叶はぬ夢は夢のまま        愛知  山口 輝久
悴む手ほどく諏訪社の湯の手水     東京  山下 美佐
風花の来し方見つめゐたりけり     東京  山田 茜
独楽の序の頼もしきとも危ふしとも   群馬  山田 礁
焼芋の売り声夜を拾ひゆく       東京  山元 正規
繭玉のごとく小枝に初雀        愛媛  脇 行雲
上げてより雪見障子となりにけり    東京  渡辺 花穂

















     







銀河集・綺羅星今月の秀句

伊藤伊那男

花と句を心の杖に百三歳         梅沢 フミ
銀漢俳句会の最高齢のフミさんの作品である。「花」は桜のことであるが、句意からすれば「雪月花」と読み取るべきであろう。いやいや季語全部と読み取るべきであろう。この天然自然が与えてくれるもので俳句を詠む。それを杖として百三歳を詠む、という。ご高齢であるから実際に杖を使っておられるかもしれないが、心の支えとしての杖である。このフミさんの生き方が我々の支えでもある。


歌にあるやうな小川も涸れにけり     小泉 良子
小川の歌といえば「春の小川はさらさらゆくよ」であり「小鮒釣りし彼の川」である。各人の胸の中に各々の小川がある。その小川も今涸川の季節という。ただそれだけなのだが「歌にあるやうな」の措辞により百通りにも二百通りにも様々な川が出現するところがいい。そしてもうしばらくすれば春の小川になるのである。


心あてに花の名残を京に訪ふ       松浦 宗克
京都は花の名所。寺社仏閣という舞台装置がいいし、桜も歴史に磨かれた名木が多い。作者には好きな花見の場所があるのであろう。それが「心あてに」の措辞。続く「花の名残」がいい。花の終りの頃。その風情がよく、句全体に品位のよさが滲む。 


大仏の螺髪の隙間煤払ふ         渡辺 志水
奈良東大寺の大仏の煤払いは風物詩の一つにもなっている。映像で見たことがあるが、人間はまるでお釈迦様の掌に乗る孫悟空のような感じである。多分煤払いで一番やっかいなのは螺髪の部分であろう。それに目を付けたのが手柄の句だ。「煤払ふ」とだけしか言わず、以心伝心で通じるところが俳句である。 


咳止みぬ薬師如来の壺見れば       福永 新祇
作者がはっきりと存在する句である。その昔は病気に対する科学的療法は無く、只々祈禱をしたり、薬師像に祈りを捧げるしか無かった。奈良薬師寺は天武天皇の発願だが、一口に言えば古代の病院ということにもなろう。ただし病は気からという言葉もある。薬師の力を借りて、気が勝るということもあったことであろう。この句は薬壺を見たら咳が止んだという滑稽感を交えているのだが、一片の真実がありそうなところが面白い。 


虎落笛風樹の嘆をことさらに       橋野 幸彦
 「風樹の嘆」という言葉をこの句で初めて知った。「孝養をしようと思い立った時には、すでに親が死んでいて孝養をつくすことができない嘆き」だという。その思いが虎落笛により一層募るのだという。季語の配合がうまく、知的興味を誘う句である。


冬の蠅己の影を貼り付けて        森濱 直之
 冬の蠅の生態をよく捉えている句である。もう動けなくなった蠅に冬日が当たっているが、その影ももはや動くことが無い。「貼り付けて」はうまい措辞である。


忘年会街に百羽の千鳥足         豊田 知子
 見立ての斬新な句だ。「百の千鳥足」なら普通の句である。ところが「百羽の千鳥足」と言ったことで俄に句の動きが違ってくるのである。本物の千鳥と重なって、より臨場感を増すようである。俳句ではこの一音の違いが大きい。

  

天守より降りし鱗か散紅葉        中島 凌雲
 「名古屋城」の前書きがある。尾張名古屋は城でもつ――の天守閣である。その鯱の鱗が紅葉と化して散ってきたという華麗な句。同時出句の〈鯱に負けじとふくら雀かな〉は鯱と雀を並列にした面白さだ。精一杯膨らむ雀が健気である。


寒鯉のはねて天秤定まらず        大野田井蛙
 鯉は私の育った信州では最高の馳走で、それも寒中の鯉が一番脂が乗って旨いといわれている。冬場は池の底に動かずにいるが、一旦網で揚げると渾身の力で抗うのである。その様子を捉えて臨場感が溢れている。


沈むほどには積荷せず宝船        高橋 初風
 元日の夜、良い初夢を見る為に宝船の絵を敷いて寝る。宝船には七福神が乗り、金銀財宝を山と積んで順風の中を漕ぎ出す。この句は宝物を満載しているがその重みで沈没してしまうほどには積んでいない、という。そうなれば元も子も無いのであるから……。そうした俗な心配を正月の句の中に持ち込んだのがこの句の面白さ。 


 その他印象深かった句を次に

擂鉢の底ひの城下冬至の灯        三溝 恵子
この先は女人高野よ凍豆腐        森 羽久衣
てのひらは紙のやうなり悴めり      梶山かおり
成木責訛に訛もて応ふ          川島秋葉男
故郷の淑気を胸に帰京する        小林 美樹











                






 

星雲集作品抄
伊藤伊那男・選
秀逸
母さんと鳴いた気のする寒鴉     青森  榊 せい子
虎落笛吹く夜の遠野物語       千葉  長井  哲
重箱にちよろぎの紅の道化かな    東京  絹田  稜
読み聞かす千夜一夜に虎落笛     神奈川 田嶋 壺中
冬雲雀信濃の国のそこの底      東京  田中  道
この年の母に代はりて針供養     大阪  辻本 理恵
竹箒大小揃へ落葉掃く        京都  三井 康有
しづかさを積みゆくやうに雪の降る  千葉  中山 桐里
とり立てて用なき母へ初電話     大阪  西田 鏡子
読初や大全集の嵩を割り       東京  長谷川千何子
童話めく空をうづむる冬銀河     群馬  山﨑ちづ子
傘寿てふ山真うしろに雑煮かな    宮城  齊藤 克之
とにかくも富士を真中に初写真    埼玉  秋津  結
片時雨墓誌のはじめに知らぬ兄    東京  市川 半裂
侘助や神田に今も炭問屋       埼玉  今村 昌史
三食は刻を違へず寝正月       静岡  小野 無道
裏山の巌に日のあり松迎       長野  宝 絵馬定










星雲集作品抄

            伊藤伊那男・選

うち揃ひ朱の盃に屠蘇祝ふ       東京  秋田 正美
越前の水仙咲くや若狭男忌       京都  秋保 櫻子
このからだまた年ひとつ初湯浴ぶ    東京  朝戸 る津
日短し一日真白き日記帳        東京  尼崎 沙羅
年明けの薬師の鐘に聞き惚れる     愛媛  安藤 向山
大北風に動かざるかな風見鶏      東京  井川  敏
腕振りて鈴の緒撓む初詣        東京  生田  武
柏手に身動ぎもせず寒の鯉       長野  池内とほる
古都にして都ではなし初霰       東京  石倉 俊紀
お神酒かけ喝采浴びせ初荷発つ     高知  市原 黄梅
牛蒡注連少しひねたる尾の方位     東京  伊藤 真紀
独り居や炬燵の上の常備薬       広島  井上 幸三
山又山折りなす山や初霞        愛媛  岩本 青山
大島へ海のまばゆし初景色       東京  上村健太郎
大師窟いだかれ大悲初霞        愛媛  内田 釣月
左義長や穂高の空に火の粉舞ふ     長野  浦野 洋一
松とれて露地に何時もの話し声     埼玉  大木 邦絵
迷宮の如き境内初詣          神奈川 大田 勝行
頤の母に似てくる悴めば        東京  岡城ひとみ
初漁の船の入り来て鷗沸く       東京  岡田 久男
寒寒と換気扇鳴く虎落笛        群馬  岡村妃呂子
田の神は無事帰りしか十日夜      神奈川 小坂  誠子
冬の夜のしづかに起きてゐる時間    京都  小沢 銈三
己が場所動かぬ寒鯉結願寺       埼玉  小野 岩雄
橋上にひとを置きゆく寒の川      宮城  小野寺一砂
悴みて日毎朝夕厨ごと         東京  桂  説子
左義長の漁火めける焰かな       静岡  金井 硯児
血圧を記して始まる初日記       東京  釜萢 達夫
畳なはる山群青の淑気かな       長野  唐沢 冬朱
枕より七福神の這ひ出しぬ       神奈川 河村  啓
春の海みさごの爪のつかみどこ     愛知  北浦 正弘
水涸るや太宰巡りの終の場所      神奈川 北爪 鳥閑
炒りたての熱さを摑み鬼は外      東京  久保園和美
仕込み桶醪ざわめく寒造        東京  倉橋  茂
茜雲女性浅間に初日の出        群馬  黒岩伊知朗
にぎやかに神の火囲む去年今年     群馬  黒岩 清子
前任の景色そのまま古暦        三重  黒岩 宏行
指先の笑ひを紡ぐ福笑         東京  黒田イツ子
出世には未だ届かぬ鰤揚がる      神奈川 小池 天牛  
なまはげが泣ぐ子ゐねえと泣ぐ夜かな  東京  髙坂小太郎
年用意ひとつひとつに指図付く     東京  小寺 一凡
虎落笛家を剝ぐかに囲み込む      群馬  小林 尊子
悲しみを紛らし切れず毛糸編む     千葉  小森みゆき
初鶏の長き尾先の威厳かな       神奈川 阪井 忠太
外孫の重み残る手四日かな       長野  桜井美津江
すれ違ふ破魔矢の鈴が音こぼす     東京  佐々木終吉
病室の父の向かうの初茜        群馬  佐藤かずえ
新年の布袋をさすり御利益を      群馬  佐藤さゆり
風強し牡蠣打ち小屋の外階段      広島  塩田佐喜子
親指を入れひろごりぬ蜜柑の香     東京  島谷 操
前掛けの紐引き締むる冬の朝      東京  清水美保子
風に乗り遠く近くに除夜の鐘      東京  上巳  浩
寒稽古重ね二の太刀三の太刀      神奈川 白井八十八
むささびの貌出す洞や星点る      東京  須﨑 武雄
着ぶくれてポストの如く直立す     岐阜  鈴木 春水
中村哲医師アフガニスタンに命を捧ぐ
凶弾に倒れ師走の祖国(ふるさと)へ        群馬  鈴木踏青子
寒雀子らも膨らむ傍らに        愛知  住山 春人
写経帳なぞりはみ出す筆始       千葉  園部あづき
エリスのやう鷗外墓地に冬桜      埼玉  園部 恵夏
賀状来る変らぬ癖字見つけたり     東京  田岡美也子
冬山のトンネル汽車を吐き出せり    東京  髙城 愉楽
坂多き町に半生実千両         福島  髙橋 双葉
職退けば年々減りし賀状かな      埼玉  武井 康弘
掛軸の風鎮さだか淑気満つ       東京  竹花美代惠
寒卵六人家族でありし頃        神奈川 多丸 朝子
故里の慣や土間に鰤一本        愛知  塚田 寛子
冬麗らテニスコートの音つづく     東京  手嶋 惠子 
木菟近し湯殿の灯消えさうに      岩手  永井 むつ
初旅はかもめ飛び舞ふ遊覧船      神奈川 長濱 泰子
独楽を手にのせて生命線這はす     東京  中村  弘
初夢の仕事だいたい失敗す       東京  永山 憂仔
牡丹咲く父の遺しし植木鉢       京都  仁井田麻利子
石蕗や裏の出口も華やかに       宮城  西岡 博子
神仏に齢預けて年迎ふ         静岡  橋本 光子
改札を出でててんでに師走の夜     東京  橋本  泰
ストーブの暖気階段を這ひ昇る     長野  蜂谷  敦
一竿に団子十挿しどんと焼       神奈川 花上 佐都
白寿翁としるす賀状のめでたさよ    長野  馬場みち子
永遠の不肖の娘煤払ふ         神奈川 日山 典子
海女小屋の裸電球隙間風        千葉  深澤 淡悠
残り糸遣り繰りしつゝ毛糸編む     長野  藤井 法子
初詣暮れて灯の入る段葛        神奈川 堀  備中
鰭酒にマッチ一ト擦り渡さるる     東京  牧野 睦子
豆腐屋に暁闇冴えて今点く灯      神奈川 松尾 守人
ひと撞きで闇にひび入る除夜の鐘    愛知  松下美代子
飛行機雲見上げ成田へ初詣       東京  三好 恵子
虎落笛半鐘響く闇夜かな        東京  棟田 和博
松井珈琲店にて
小春日や太宰の異聞溢れをり      東京  八木 八龍
シクラメン炎の如く溢れをり      東京  家治 祥夫
黒土の縫ひ目のごとく麦芽ぐむ     東京  矢野 安美
百八の鐘聞き一つ減る煩悩       神奈川 山田 丹晴
逆しまに鳥突つきをり実万両      静岡  山室 樹一
紙漉きの簀桁に透ける薄明り      高知  山本 吉兆
裏窓に氷柱伸びるや日毎夜毎      群馬  横沢 宇内
淑気満つ薬師三尊鉈の跡        神奈川 横地 三旦
一つ終へ十思ひつく年用意       神奈川 横山 渓泉
節分の豆の残りし窓の桟        千葉  吉田 正克
空欄のつづく日記や懐手        山形  我妻 一男
逝く友へ無言の弔辞寒昴        神奈川 渡邊 憲二
稜線を離るる速さ初日の出       東京  渡辺 誠子
(三月号紛失分)           
鯛焼を食べ夜祭の端にゐる       静岡  小野 岩雄






















星雲集 今月の秀句

伊藤伊那男

母さんと鳴いた気のする寒鴉       榊 せい子
 一読頰を緩めざるを得ない作品である。孤高の代表のような寒鴉の声を「母さん」と聞いたという。「カア」という鳴き声と「母」は連想としては独創的とはいえないが、逆に安心感はある。断定せず「気のする」としたところに慎みがある。上五が「か」で始まり、下五も「か」で始まる「か」音の効果もいい。同時出句の〈冬銀河みんな詩人になる刹那〉〈獅子舞に海馬を嚙まれ古稀となる〉〈鎮座せる道場に師と鏡餅〉も各々、季語の斡旋が良く、独自の詩精神を感じさせる。


虎落笛吹く夜の遠野物語         長井  哲
先行句があるのではないか、と心配になるほど綺麗にできた句である。この虎落笛なら聞いてみたいし、あたかも遠野物語の話の一部であるかのようにも思われてくる。同時出句の〈丸餅に埋まる生家でありしかな〉の方が独自性のある作品である。丸餅とあれば関西であろう。沢山作った餅で家のあちこちが埋まってしまったというやや大袈裟な表現で、正月直前の家の様子が如実である。 


重箱にちよろぎの紅の道化かな      絹田  稜
 ちょろぎは「草石蚕」と書く。音も字も変っている。地下に巻貝のような球根を持つ。梅酢に漬けて赤く染め、正月の黒豆の中に散らすのだが、その正月料理の一品の中でしか見掛けないという奇妙な存在。その奇妙さを全部ひっくるめて「道化」としたところが卓見である。


読み聞かす千夜一夜に虎落笛       田嶋 壺中
『千夜一夜物語』は『アラビアンナイト』とも言うが、八世紀後半が発祥という説話集。先述の長井作品の『遠野物語』とも説話集という意味では似た存在である。こちらは子に「読み聞かす」の打出しがうまいところだ。同時出句の〈子を叱り眠れぬ夜の虎落笛〉もいい情感を保っている。 


冬雲雀信濃の国のそこの底        田中  道
 信州全体でいえば平地でも標高が高いけれど、山は更に高いので「そこの底」が生きるのである。私の育った伊那谷は標高五百米位あったが、三千米級の山に囲まれているので「底」に居る気がしたものである。春の気配の信濃をうまく捉えている。同時出句の〈獅子舞の嚙み合はせよき歯の並び〉〈街道の湯気漏るる窓寒仕込〉も各々充実していた。


この年の母に代はりて針供養       辻本 理恵
年老いた母の代りに針供養に行ったという。これも一つの世代交代。ただ機械化の進展で針仕事は減少しており、淋しいことだ。「この年の」に物語性がある。自分の代になれば行かないということになる。同時出句の〈着ぶくれの子の合掌の合はされず〉も楽しい句だ。 


竹箒大小揃へ落葉掃く          三井 康有
「大小揃へ」が面白いところで、大きな寺院の庭園などが想像される。俳句はこういうところが大事で、鍵となる言葉を生かして明確な景色を読み手に提示することである。


しづかさを積みゆくやうに雪の降る    中山 桐里
風のない日の雪はこのような感じである。積みゆくものが「しづかさ」であることがこの句の眼目。同時出句の〈越後訛蔵に響かせ寒造〉は越後訛の斡旋が決め手で、これによって現実感が伝わるのである。 


とり立てて用なき母へ初電話       西田 鏡子
親子の会話とはこのようなもので、声を伝え合うだけで充分なのである。上五の「とり立てて」の打出しがうまい。同時出句の〈使はねば眠る筋肉冬ごもり〉〈声出せば罅入りさうな寒の星〉――と各々読み応えのある句群。 


裏山の巌に日のあり松迎         宝 絵馬定
松迎は正月前に門松用の松を切り出すこと。巌の所だけに日が当たっていたというところに季節感がある。地味な詠みぶりだが、この肌理の細かい写生が大切だと思っている。 


三食は刻を違へず寝正月         小野 無道
古来正月の行事は多いが、何もしないで過すのが寝正月。ただし三食はきちんと食べるし、しかも時間も定刻通りという。「刻を違へず」の俳諧味が何とも味わいだ。 

  

その他印象深かった句を次に

 

読初や大全集の嵩を割り         長谷川千何子
 童話めく空をうづむる冬銀河      山﨑ちづ子
 傘寿てふ山真うしろに雑煮かな     齊藤 克之
 とにかくも富士を真中に初写真     秋津  結
 片時雨墓誌のはじめに知らぬ兄     市川 半裂
 侘助や神田に今も炭問屋        今村 昌史
 虎落笛家を剝ぐかに囲み込む      小林 尊子
 枕より七福神の這ひ出しぬ       河村  啓



















伊那男俳句  


伊那男俳句 自句自解(51)
            
地蜂捕り地蔵の辻に集まれり

 伊那谷は昆虫食が盛んである。ざざ虫・蚕のさなぎ・そして蜂の子。この句の地蜂捕りは伊那谷の秋の風物詩である。蜂の種類は地面の下に巣を作る黒雀蜂で、我々は「すがれ」と呼んだ。1,5センチメートルくらいの蜜蜂よりも小さな黒味がかった蜂。捕獲方法は蜂の通り道に皮を剝いだ魚肉などを吊るし、近付いたら目印となる綿を付けた餌を持たせる。男たちは連繋を取って蜂を追うのだが、地の起伏や疎林などに阻まれ、何度も失敗しながら巣に近付くのである。その穴に発煙筒を差し込んで親蜂を眠らせて、十段ほどの層を持つ楕円形の巣を掘り出す。この幼虫を取り出して醤油と砂糖で煮る。近時は小さな巣を庭に移して魚肉や砂糖水を与えて育て、品評会で大きさを競うという。さて、貧しいから昆虫を食べたという説があるが、いやいや私は伊那人は昆虫が好きだったのだと思う。
  
熟るるとは枯れたるごとし棗の実

 日露戦争の二〇三高地の戦で勝利した乃木大将とステッセル将軍との水師営の会見を詠った歌の二番目に「庭に一本棗の木 弾丸跡も著るく 崩れ残れる民屋に 今ぞ相見る二将軍」とある。その棗の木の子木が京都伏見桃山の明治天皇陵の下、乃木神社の拝殿手前と記念会前に移植されている。ちなみに水師営の会見は一月であったので棗の実は生っていない。それはさておき秋も深まる頃、信州の食卓には瓶に入った棗の実が置いてあり、時々父が食べていた。暗紅色の実はあまり綺麗ではなく、皮が固そうであり、実も凹んでいたりして、私達子供は手を出すことはなかった。後年食べてみると、ほの甘さはあるものの旨いものではない。父もそこにあるから食べていた、という位ではないのかな……と思う。棗の実を見るといつもそんなことを思い出す。そんなことが仄かに纏わる写生句という事になる。









     


 

伊藤伊那男  俳人協会賞受賞










 去る3月5日、平成30年度の俳人協会四賞の授与式が京王プラザホテルで行われました。
ご存じの通り、伊藤伊那男主宰が句集『然々と』で第58回俳人協会賞を、同人の堀切克洋さんが『尺蠖の道』で第42回俳人協会新人賞を受賞四、銀漢俳句会から4賞の内二賞を頂くという快挙となりました。2019/4/30/更新

















俳人協会四賞・受賞式









更新で5秒後、再度スライドします。全14枚。


 二次会・店内に入りきれない人数でしたが,日曜日とあって店の前の通りも通行が少なく,穏やかな天候の下、外に溢れる受賞者の二人や他結社の方々と交流するなど、思い思いにお酒を楽しみながr懇談を深め,何時までも祝賀会の熱気は冷めることがありませんでした。









 受賞 祝賀会

 伊藤伊那男 俳人協会賞
堀切 克洋  俳人協会新人賞
2019/3/17 学士会館
銀漢亭(二次会)


 月刊「俳句四季」に受賞の記事が掲載されました。
月刊「俳句四季」に受賞の記事掲載は
5月号(4/20発売)か6月号(5/20発売)のどちらかを予定しています。


然々と   伊藤伊那男

リンクします。

句集 「然々と」 伊藤伊那男

 
句集「尺蠖の道」
拡大します。

尺蠖の道  堀切克洋




linkします。



拡大します。



拡大します。


受賞祝賀会 3月17日 日時 12時 
会場 学士会館 東京神田 





haishi etc
↑link










銀漢の絵はがき


挿絵が絵葉書になりました。
Aシリーズ 8枚組・Bシリーズ8枚組
8枚一組 1,000円

ごあいさつにご利用下さい。









 









掲示板

























               
 
     

銀漢亭日録

 
1月

 1月9日(木)
エッセイなど。店、十六夜・極合同句会。17名ほど。

1月10日(金)
「大倉句会」あと23人。活気あり。

1月11日(土)
10時、運営委員会。13時、「文京シビックホール」にて「銀漢本部句会」。折原あきのさんに黙祷。句会あと、「こんにゃく閻魔 源覚寺」横の中華料理店にて親睦会。

1月12日(日)
通信、礼状など7、8枚。エッセイ1本。夜、近所の友人親子来るというので料理引き受けて買い物。莉子はスキー合宿。宮澤と龍正もスキーで不在。18時半より、食事。舞茸の柚子風味みぞれ和え。からすみ。チーズ、生ハム……。ステーキ、ガーリックライスなど。

1月13日(月)
休日。14時、浅草「三浦屋」に盤水先生のご長男丈人氏、甥の文弘氏、当方、禪次、井蛙さん集合。恒例の新年会。河豚。あと「水口食堂」、「神谷バー」と歩く。帰宅すると喉変調。薬飲んで早々に就寝。

1月14日(火)
不調。店、「火の会」12人。湯豆腐など。吉田千嘉子さん(八戸「たかんな」主宰)ゲスト。檜山哲彦さん(「りいの」主宰)入会。「伊吹嶺」の方々来店などなど。

1月15日(水)
「三水会」8人。忠さん、種谷さん。「宙句会」あと10人。風邪まだまだ。

1月16日(木)
「角川俳句大歳時記」の改訂版、執筆部分の確認。直し返送。「春耕新年俳句大会」の選句。応募六百超あり。選評付けて送る。店「銀漢句会」あと17人。風邪まだ駄目。

1月17日(金)
店、19時半で閉め、近所で小酌。

1月18日(土)
14時、日本橋「鮨の与志喜」にて「纏句会」。大将、年末で引退、若手と変わる。雲子の味噌蒸、鰆の蕪蒸、公魚のフライ。酒は「日高見」。握り。あと、三鷹からバスに乗り、太田うさぎさん宅で恒例の新年会。昼過ぎから集まっており、10数名。持参したうどん鍋セットを煮て出す。22時前、辞去。風邪まだまだ。

1月19日(日)
終日家。風邪で集中力無く、寝たり、テレビを見たり、とりとめもなく……酒抜く。

1月20日(月)
事業部、新年俳句大会の打ち合わせなど。

1月21日(火)
妻の命日。伊集院静先生よりお線香届く。「閏句会」8人。

1月22日(水)
閑散。事業部、新年会の準備。洋酔、宇志さん、ギター持参。曲の練習など。

1月23日(木)
伊集院静先生、くも膜下出血で入院と! 超閑散。20時半閉める。

1月24日(金)
「金星句会」あと6人。堀切克洋くん、明日パリに帰ると。


1月25日(土)
13時より、四ツ谷駅近くの「スクワール麹町」三階「錦華」にて「銀漢俳句会年次総会・新年俳句大会」。14時半まで式典。あと、新年会。皆川丈人氏、文弘氏を迎える。105人。恒例の寸劇で私はルパン三世の役。実は見たことも無く、訳もわからないのだが、ともかく、化粧をしてもらい登場。何だか盛り上がる。他にも様々な余興があり、楽しいひととき。あと「銀漢亭」を開放。40人ほどが集まり20時半まで大騒ぎ。

1月26日(日)
「俳壇」4月号の巻頭エッセイ「春の味覚」について書く。4.800字はなかなかの量。午後、兄、義妹を招いて妻を偲ぶ会。かれこれ15年。河豚鍋、河豚刺を取り寄せ。からすみ供す。そのあと近所の中川さん一家来て歓談。中川さんは奈良出身。今、生駒にゲストハウス建設中と。

1月27日(月)
角川新年会のあと、角川賞受賞の西村麒麟君の受賞祝賀会。西村夫妻を囲み50人超が集まる。岸本尚毅、四ツ谷龍、高橋睦郎、小島健、屋内修一、鴇田智哉、角川の立木編集長、武藤紀子、今井肖子、鳥居真里子さん……。

1月28日(火)
「萩句会」あと16時から店に17人。新谷房子さんの『信濃讃歌』出版を祝う会。武田花果さんの「銀漢賞」受賞、辻隆夫さんの佳作の祝い。オリックス時代の部下4人。「ひまわり句会」あと五人など。

1月29日(水)
「雛句会」15人。カウンターも盛況。

1月31日(金)
麦、羽久衣、近江文代さん上野で遊んできたと。気仙沼の小野寺一砂、清人さん兄弟来店。「ヴーヴクリコ」で乾杯。

2月

2月1日(土)
快晴。富士山美しい。10時、運営委員会。10周年記念事業のことなど。午後、「銀漢本部句会」59人。あと「上海庭」にて10人程、親睦会。

2月2日(日)
桃子と華子は韓国へ。莉子はスキー合宿。3月号の選句遅れており、終日家。

2月3日(月)
角川「俳句」立木編集長と高橋さん。「かさゝぎ俳句勉強会」あと9人。22時半に閉めて、帰宅。24時の時報と共に一陽来復のお札を恵方に貼る。宮澤に頼まれていたもの。

2月4日(火)
麻里伊、中村十郎、忠さん来店。客少なくいろいろと話。

2月5日(水)
15時半、井月顕彰会北村監督、井ノ口、平沢、井蛙さん集合。「井月忌俳句大会」の打ち合わせ。「きさらぎ句会」あと五人。「宙句会」あと9人。帰路、神保町駅で本阿弥書店の奥田洋子社長とばったり会い、少し話。

2月6日(木)
店、「十六夜句会」あと九人。山田真砂年、山崎祐子さん。中島凌雲君上京。

2月7日(金)
「大倉句会百回記念句会」を店で。30人程。清人さん、鮪、まんぼうの刺身など.皆さん酒沢山……持参。

2月8日(土)
「春耕新年俳句大会」高幡不動尊。盤水先生の墓参。2部、懇親会で乾杯の発声。終了後、「天狗」にて二次会。あと9人でカラオケ歌う。あと仙川駅で降りて昨年寄った居酒屋でまた……。

2月9日(日)
10時、青山の梅窓院。宮澤の父上三回忌法要。山梨の母堂お元気。日暮の富士山を成城駅から見る。荘厳。久々、家族揃っての夕食。鮟鱇、牡蠣、鱈、雲子の鍋。今日は2日酔いを引きずって禁酒デイ。

2月10日(月)
「火の」。上京中の「たかんな」主宰吉田千嘉子さん参加。八戸の干魚沢山送って下さる。14人の会となる。

2月11日(火)
建国記念日。5時起床。7時半の「レッドアロー号」で秩父。乗り継いで皆野町の金子医院(壷春堂)。兜太先生の子息眞土さん、甥の桃刀さんが待っていて下さり、兜太生家を見学する。鰻屋の「吉見屋」さんに上り、ご主人から兜太、秋桜子、伊昔紅他の逸話を聞く。椋神社、「秩父味噌ヤマブ」を廻る。秩父神社に戻り「桂」へ。ここで皆川丈人さんと合流して総勢30人。6句出し句会あと、猪鍋を楽しむ。芹と卵を沢山持参して最後おじや。終わって「高砂ホルモン」へ行くが満員にて、駅前の居酒屋へ。10人ほどか。途中、寝てしまう。「レッドアロー号」の中も熟睡。土産は杓子菜。豚の味噌漬。

2月12日(水)
昼、「梶の葉句会」花果さんの銀漢賞受賞、大溝妙子さんの佳作受賞の祝いの昼食会を、「アンゴロ」で。そのあとの句会は選評に。奈良の深川知子さんと弟の入沢さん他。矢野玲奈パパが故広瀬直人先生の子息広瀬悦哉さんと。直人先生とそっくり。(株)クイックの役員。高木、高坂他オリックス時代の仲間4人の会。あと今井肖子さん、鈴木忍さん他、句会あと8人。元NHKの水津さんなどなど。

2月13日(木)
「あ・ん・ど・うクリニック」血糖値は若干下がり、土俵際を死守。店、「炎環」の鯛夢さん。「極句会」16人。2階、編集会議にて店で句会と懇親会。初参加者3名。

2月14日(金)
村上礼奈さん、貴彦君一才を連れて顔を出してくれる。近々職場復帰と。追って鞆彦さんも来店。「俳壇」のパーティーのあと、水内慶太、木暮陶句郎、山田真砂年、佐怒賀直美さんなど。他に麻里伊、十朗、一平さんなど。あとから「俳壇賞」受賞者の石井清吾さんと「青垣」の仲間五人。

2月15日(土)
5時半、起床。8時20分発「はやぶさ」にて青森へ。同行は井蛙、展枝、小石さん。昨年八戸の「薫風」での講演に応援に来ていただいた仲間。その折、「たかんな」主宰吉田千嘉子さんに「えんぶり」に誘っていただいたもの。三内丸山遺跡を見る。雪少なし。町に入り、八甲田丸前の「津軽海峡冬景色」の歌詞碑の前で絶唱。青函連絡船の詳細を見る。駅前の「アウガ新鮮市場」の食堂に入り、「田酒」で乾杯。津軽漬、帆立焼、海胆、鮪の竜田揚など。丼で出た蜆汁がいい。青い森鉄道にて浅虫温泉へ。車窓から八甲田山の雪嶺を見る。宿は「浅虫さくら観光ホテル」。正面のむつ湾の向こうに岩木山が見える。目の前が湯ノ島。海を見ながら市場で買った海鞘の塩辛や飯寿司で小酌。19時、夕食。20時半から津軽三味線の中野みち子さんの演奏を聞く。











         
    






今月の季節の写真/花の歳時記



2020年4月20日撮影  郁子  from hachioji


 



花言葉      
 「愛嬌」
郁子
ムベは、アケビ科ムベ属の分類であり蔓性の植物です
この小さな葉が幼木の時には3枚、生育途中で5枚、果実が結実する頃には7枚となりますので、「七五三の縁起木」と云われ、「無病息災の木」と併せて尊ばれているのです。ムベの実を食べると長生きするという言い伝えから”不老長寿”の実として800年頃から栽培され宮中に献上されてきたという事です。
カイコバイモ 片栗の花 ジューンベリー リューカデンドロン 灯台躑躅
花水木 カロライナジャスミン 落椿 葱坊主 郁子

写真は4~5日間隔で掲載しています。 
2020/4/21  更新







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