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1月号  2024年


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銀漢季語別俳句集


伊藤伊那男作品


主宰の8句





















令和5年優秀作品集


   
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第13回「銀漢賞」作品



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今月の目次











銀漢俳句会/2024/1月号


















   

 

銀漢の俳句 

伊藤伊那男 

◎入院の顛末②

 9月27日 、消化器内科の検査結果を娘2人と共に聞いた。「遠位胆管癌」で、どうやら肝臓、膵臓は健全なようだという。この医院での外科手術を望むか、との問いに、もちろんお願いしたい、と答え、肝胆膵外科の齋浦明夫先生を訪ね、執刀を依頼した。内科での検査の中で、先生から、齋浦先生が築地のがん研(築地国立がん研究センター 中央病院)から移籍して以来、順天堂医院(順天堂大学医学部附属順天堂医院)の肝胆膵外科の評判は飛躍的に向上し、誇りに思っていると聞いていた。数人の医師団でチームが組まれており、検査結果から見て手術ができる状態にある。もちろんいざ開いてみたら駄目ということもある。内臓を切り取る作業で四時間、あと管を繋ぐ作業が最も難易度が高く3時間、合わせて七時間ほどを予定している、とのことであった。このあと外科としての検査で2度ほど通院し、24日入院、26日の朝8時半手術開始という段取りとなった。当日は手術室に入ったあと、背中から麻酔薬が注入されて意識が途絶えた。翌日集中治療室で目が覚めた。
 さて私の病歴だが、45才の時、築地のがん研で大腸S字結腸部の癌の摘出手術を受けた。臍を迂回して腹を切り開き、大腸をごっそり出して患部を中心に30㎝ほど切除し縫合するという、言ってみれば土管の罅の入った部分を取り除く土木作業のようなものであった。この時はリンパ説への転移もなく二週間ほどの入院で終了した。次は六年ほど前であったか、盲腸が破裂して、家から近い関東中央病院で開腹手術を受けた。ということで腹には2つの手術痕が残っている。今回の手術は大腸癌の手術痕を辿るように開腹している。手術後しばらくして、一体臓器の何を取ったのか、と担当医に問うと、胆嚢・胆管・十二指腸は全摘。膵臓は半分、胃腸は四分の一切除と、内臓の地図が一変する大手術であった、という。この手術につきものの感染症(手術痕の化膿)が発症し苦しんだ。身体全体に鈍痛があり、頭の中は朦朧、混沌として、集中力が持てない日が続いた。胃を切ったため食欲も全く無い。文字を読んだり書くことが苦しく、メールを打つのがやっとであった。元来、次から次に何かしていないと気が済まない私が、何をする意欲も持てずぼんやりと街の風景を鳥瞰したり、テレビに気を紛らわせる日々であった。
   
芭蕉忌の曾良とも頼む点滴棒   伊那男

 11月22日退院した。しかしこれで終わったわけでは無い。1週間に1度位の通院をし、様子を見ながら追加の化学療法などが提案されることになるようだ。一先ず手術は終了した。


















 



  

盤水俳句・今月の一句

伊藤伊那男 

冬桜風出て影を大きくす         皆川 盤水

 冬桜は帰り花とは違い、れっきとした冬に咲く桜である。一般の桜より樹形が小型で、花も小さく数も少ない。群馬県の鬼石町(おにしまち)(二00六年の町村合併で藤岡市に編入されたため消滅)が有名である。淡い日差しの中で薄々と咲くその花は誠に果無(はかな)く、満開といっても隙間から空が透けて見えるほどである。この句は風に揺れることによって、それまで気付かなかった影があることを知ったというのであり、その実態を摑んでいる。他に〈風吹けば流るるごとし冬桜〉があり、これも佳品。(平成二十年作『凌雲』所収)

 



 




 




彗星集作品抄
  伊藤伊那男・選

 古酒酌んで互ひに丸くなりしかな       中村 湖童
 秋扇話し足りなきまま逝けり         竹内 洋平
 鳥威し名を挙げるまで帰るなと        森濱 直之
 カンバスに色なき風の色を差す        たなかまさこ
 無花果食む皆百までの面構へ         中野 堯司
 腕組んで秋思の形整へり           小山 蓮子
 蠟石で描かれし線路賢治の忌         絹田  稜
 ひと駅を乗り越し鰯雲の下          辻  隆夫
 潮騒に尾を振り肥ゆる岬馬          守屋  明
 どの魚籠も空つぽ二百十日かな        笠原 祐子
 釈迦の手のごとき葉のうへ芋の露       戸矢 一斗
 居酒屋に祭を終へし神楽衆          大山かげもと
 朝日より夕日に赫し曼珠沙華         長谷川明子
 伊予石に一茶の遺墨稲雀           有賀  理
 山風の夜半のざわめき栗をむく        佐藤 栄子
 吉良邸の小さき中庭すがれ虫         高橋 透水
 秋刀魚焼く街は昭和の夕日色         大田 勝行
 金龍の鱗も舞うて菊日和           武井まゆみ
 己が影と盃を重ねて月祀る          武田 禪次
 あばれたる葉を手繰り寄せ大根抜く      松代 展枝




 
 










    









    
     

彗星集 選評 伊藤伊那男

伊藤伊那男・選

今月号の選評はお休みです。













 









銀河集作品抄

伊藤伊那男・選

  
上州路
天高し毛野に古代の牧の跡       東京  飯田眞理子
出がてらの行きに帰りに鳴子引く    静岡  唐沢 静男
土地人の祈りの華や彼岸花       群馬  柴山つぐ子
蚯蚓鳴くを聞くまで余生伸ばさねば   東京  杉阪 大和
胡弓弾く腰もて進む風の盆       東京  武田 花果
秋炉焚く平家の裔に燻さるる      東京  武田 禪次
こをとろことろ釣瓶落としに唄なかば  埼玉  多田 美記
死体まで笑ひ出したり村芝居      東京  谷岡 健彦
蚯蚓鳴く閉ぢて久しき登り窯      神奈川 谷口いづみ
茸狩呼びあふ声のふつと消え      長野  萩原 空木
わが顔よ夜寒の鏡拭ふとき       東京  堀切 克洋 
母子ともつけて健やか赤い羽根     東京  松川 洋酔
飼葉切る音軽やかや秋高し       東京  三代川次郎




















         





綺羅星集作品抄

伊藤伊那男・選

再会はいつも浅草とろろ飯       東京   飛鳥  蘭
稲雀海へ傾く千枚田          宮城   有賀 稲香
夜食粥潮風ほどの塩加減        東京   有澤 志峯
栗好きへ栗好きからの渋皮煮      神奈川  有賀  理
往生のさはりなる善秋思かな      東京   飯田 子貢
育毛剤使ひ切りたる夜寒かな      山形   生田  武
一竿の国旗の路地や敬老日       埼玉   池田 桐人
本流に溶けあふ支流水澄めり      東京   市川 蘆舟
敬老日なんぞとけふも一万歩      埼玉   伊藤 庄平
両の手を祈るかたちに葡萄剪る     東京   伊藤  政
半島の大根畑に聞く有線        神奈川  伊東  岬
目に沁むる煙芋煮の煮えはじめ     東京   今井  麦
還暦がまはし締めたり秋祭       埼玉   今村 昌史
空に穴明けて栃の実降り来る      東京   上田  裕
雑踏の満ち干しづかに黄落期      東京   宇志やまと
上流に厄日の雨の降つてをり      埼玉   大澤 静子
秋蝶の日を包むかに羽を閉づ      東京   大住 光汪
朝寒し心許無き力瘤          神奈川  大田 勝行
新涼や太字で記す予定表        東京   大沼まり子
芒原手をつながねば溺れさう      神奈川  大野 里詩
秋思とも隣の墓の墓仕舞        埼玉   大野田井蛙
糸瓜みな外へと曲がる子規の部屋    東京   大溝 妙子
朝刊を開きて生る秋の風        東京   大山かげもと
しがみつく木瓜の実ふたつ三つほど   東京   岡城ひとみ       
鰯嚙むときの痛みのやうなもの     愛知   荻野ゆ佑子
腕時計労るやうに置く秋夜       宮城   小田島 渚
ひとすぢの航跡沖へ草の花       宮城   小野寺一砂
雄鶏は日影選ばず秋旱         埼玉   小野寺清人
天平の甍を濡らすけふの月       和歌山  笠原 祐子
一歩づつ暗くなりゆく秋の暮      東京   梶山かおり
にはとりの歩幅の狭く火の恋し     愛媛   片山 一行
山粧ふ湖東に仏多きこと        静岡   金井 硯児
秋思ふと夫亡き書架の抜きあとに    東京   我部 敬子
神木に供物の如く鵙の贄        東京   川島秋葉男
罔象女采配抜かり秋出水        千葉   川島  紬
読経の高らかに柿色づきし       神奈川  河村  啓
落鮎のひかる背腹の浅瀬川       愛知   北浦 正弘
這ひ上がる執念の蔦もみぢかな     長野   北澤 一伯
打出しは日の入りどきに九月場所    東京   絹田  稜
   松山
秋風と子規にあふるる街にゐる     東京   柊原 洋征
恙なき日にも火種のこの秋思      神奈川  久坂衣里子
露けしや齢より読む訃報欄       東京   朽木  直
木洩れ日を鷲摑むかに曼珠沙華     東京   畔柳 海村
折紙の鶴に影添ふ夜長かな       東京   小泉 良子
蚯蚓鳴く冥土通ひの井戸の先      神奈川  こしだまほ
火恋し今は動かぬ蓄音機        東京   小林 美樹
獺祭忌昼なほ暗き律の部屋       千葉   小森みゆき
綾取りの返し返され夜長し       東京   小山 蓮子
通り過ぐ佞武多の背ナに寂の風     宮城   齊藤 克之
負けん気を色に描けば鶏頭花      青森   榊 せい子
菱取りの空のぐらぐら盥舟       長崎   坂口 晴子
骨拾ふ如く片付け捨案山子       長野   坂下  昭
心なき事も時にはとろろ汁       群馬   佐藤 栄子
夕暮を灯す一位の実の数多       群馬   佐藤かずえ
鳳仙花爆ぜたる音を聞きたくて     長野   三溝 恵子
皮剝くに力尽きたり栗御飯       広島   塩田佐喜子
新米にしやもじ入れたる至福かな    東京   島  織布
丸ごとの栗掘り出して栗羊羹      東京   島谷 高水
禅寺の隙見せぬ様冬近し        兵庫   清水佳壽美
父の忌に続く母の忌紫蘇は実に     東京   清水 史恵
とどまりて蜻蛉の眼のよく動く     東京   清水美保子
直角に曲がりしやうに秋が来し     埼玉   志村  昌
切り分けて二倍二倍に林檎の香     千葉   白井 飛露
歳により違ふ寂しさ秋の暮       神奈川  白井八十八
六道の辻よりとみに蚯蚓鳴く      東京   白濱 武子
乗換への下北沢の秋夕焼        東京   新谷 房子
噴煙の雲となりゆく天高し       大阪   末永理恵子
舞ひ上がる肥料袋に芋嵐        東京   鈴木 淳子
武蔵野のふたつの塔を月渡る      東京   鈴木てる緒
横丁に雑貨屋などありおでん食ふ    群馬   鈴木踏青子
ひと口の新酒ふくめば父の事      東京   角 佐穂子
シナモンの魔法ひと振り林檎煮る    千葉   園部あづき
てのひらで灯り捌きて盆踊       神奈川  曽谷 晴子
信州の風を捻りて林檎捥ぐ       東京   高橋 透水
息継ぎを幽かに蚯蚓鳴きにけり     東京   武井まゆみ
残年や秋の風鈴鳴るままに       東京   竹内 洋平
豊年や氏子総出の宮掃除        神奈川  田嶋 壺中
積む薪に緩びの見ゆる野分後      東京   多田 悦子
南瓜みがく北海道の人として      東京   立崎ひかり
いがの中真中の栗の瘦せ我慢      東京   田中 敬子
海の無き国に生まれて秋刀魚焼く    東京   田中  道
若き日の後悔今に蚯蚓鳴く       東京   田家 正好
北斎の藍摺の富士秋澄めり       東京   塚本 一夫
鉛筆で書き消しゴムで消す秋思     東京   辻  隆夫
秒針の進む音聞く夜業かな       ムンバイ 辻本 芙紗
積むほどに月見団子の形なす      東京   辻本 理恵
果報にも夕餉は芋の煮つころがし    愛知   津田  卓
信玄の棒道駆くる野分かな       東京   坪井 研治
川越ゆる電車一輌芋煮会        埼玉   戸矢 一斗
鯉捌く祖父も襷の秋祭         千葉   長井  哲
お台場の砲台跡や鯊日和        東京   中込 精二
一口で喰へぬ海苔巻き村芝居      大阪   中島 凌雲
無花果を割れば火を噴く山のあり    神奈川  中野 堯司
号泣は人間ばかり冷まじき       東京   中村 孝哲
爽やかや無職と記す職業欄       茨城   中村 湖童
そのかみは江戸も荒れ野や草の花    埼玉   中村 宗男
榠樝の実歪なほどに愛ほしく      東京   中村 藍人
木曾馬の短足のまま肥えにけり     長野   中山  中
子規の忌やのびて三日の無精髭     千葉   中山 桐里
のぼさんに律ついてゐる律の風     大阪   西田 鏡子
福笹の福の重みを持ち帰る       東京   沼田 有希
蓮の実の飛んで浄土の礫かな      埼玉   萩原 陽里
桐一葉風をたつぷり使ひけり      東京   橋野幸彦
ひろしまや白さるすべり白むくげ    広島   長谷川明子
野分過ぎ一つ用事を思ひ出す      東京   長谷川千何子
山麓に社家並びをり秋麗        兵庫   播广 義春
蚯蚓鳴く声なき夫のこゑかとも     埼玉   半田けい子
稲雀大きく爆ぜて縺れなし       埼玉   深津  博
泣くやうな胡弓の混じる風の盆     東京   福永 新祇
温泉の火照りは冷めず青蜜柑      東京   福原  紅
朝夕の風に聡しや酔芙蓉        東京   星野 淑子
菊の香や古都奈良ではの仏達      東京   保谷 政孝
つちのこを見たといふ村蚯蚓鳴く    岐阜   堀江 美州
午後からの洗濯二回菊日和       埼玉   本庄 康代
夕焼ははや鈍色に秋暮るる       東京   松浦 宗克
神に穂を仏に飯を今年米        東京   松代 展枝
簾外し浮世の風に吹かれをり      神奈川  三井 康有
てのひらに乗る海のいろ青蜜柑     神奈川  宮本起代子
月の夜を共に過ごせし日を惜しむ    東京   村田 郁子
鎌倉の谷戸にむかごの落つる音     東京   村田 重子
カステラはのの字に巻かれ獺祭忌    東京   森 羽久衣
「語るな」と秋澄む峪へ湯殿山     千葉   森崎 森平
読みかけの本に閉ぢたる秋思かな    埼玉   森濱 直之
一鍬で落とす田水の棚田かな      長野   守屋  明
筑波嶺の少し寄り添ふ夜寒かな     東京   保田 貴子
蚯蚓鳴く埴輪は永久に口を開け     東京   矢野 安美
芯に蜜宿し林檎の寂びにけり      愛知   山口 輝久
透明といふも色なり秋の水       群馬   山﨑ちづ子
奈良なれば此処も古墳か竹の春     東京   山下 美佐
お捻りに飴もいくつか村芝居      東京   山田  茜
錆鮎の仄かに色を暮れ残す       東京   山元 正規
御大師に別れ告げんと穴惑ひ      愛媛   脇  行雲
藁塚のにほひに重さありにけり     東京   渡辺 花穂
この秋思啄木の詩を読む夜は      埼玉   渡辺 志水















   



      






     





銀河集・綺羅星今月の秀句


伊藤伊那男・選

今月の選評はお休みです。














                






 

星雲集作品抄
伊藤伊那男・選

秀逸
鯊の秋橋の袂の定食屋         東京  関根 正義
教会の慈善バザール小鳥来る      埼玉  園部 恵夏
古絵図のすでになき橋鳥渡る      東京  竹花美代惠
蔵窓の観音開き小鳥来る        栃木  たなかまさこ
線香の火付きを貰ふ秋彼岸       東京  西 照雄
初孫も八歳となり柿実る        東京  倉橋 茂
一房の葡萄のきしむ音すなり      東京  渡辺 誠子
鬼の子の糸一本の風まかせ       東京  桂  説子
災厄は酔ひと散じて菊の酒       静岡  小野 無道
残照の三瓶の原のすすきかな      広島  井上 幸三
地平線弓なりにして馬肥ゆる      東京  西田有希子
九十の血とも知らずに蚊の名残     長野  戸田 円三

















星雲集作品抄

            伊藤伊那男・選


一番星明日は解かるる案山子翁     東京  尼崎 沙羅
明月や見え隠れする土讃線       東京  井川  敏
秋の燈や居酒屋に聞く国訛り      長野  池内とほる
羽村堰芥集めし秋出水         東京  一政 輪太
地芝居やいとこはとこの化粧顔     東京  伊藤 真紀
知らぬ間にすべて刈田となりにけり   愛媛  岩本 青山
稲架の間を瞽女さの唄の通りけり    長野  上野 三歩
一向に慣れぬ服薬そぞろ寒       東京  上村健太郎
新蕎麦をすすり終へたりにはか雨    長野  浦野 洋一
群れ離れ白曼珠沙華二本立つ      群馬  小野田静江

青北風や割り肌白き薪の束       埼玉  加藤 且之
影絵めく子沢山の家秋ともし      長野  唐沢 冬朱
御礼参りの東照宮は初紅葉       愛知  河畑 達雄
霧のむかう浅間は確とありぬべし    群馬  北川 京子
道標さへも郷土史花芒         神奈川 北爪 鳥閑
秋思振り払ふごとくに掃除する     東京  北原美枝子
秋簾拭へば少し戻る艶         東京  久保園和美
寺の鐘深く尾を引く秋の暮       東京  熊木 光代
姥捨の刈取りを待つ棚田かな      群馬  黒岩伊知朗
雲よ雲故郷は紅葉と伝へてよ      群馬  黒岩 清子
天高し皿の触れ合ふ陶器市       愛知  黒岩 宏行
遠き日の里の月なる今宵月       東京  黒田イツ子
雀らのすつかりなつく案山子かな    東京  髙坂小太郎
虚栗殻のなかより其角かな       東京  小寺 一凡
寒川をひとめぐりして秋思満つ     神奈川 阪井 忠太
秋の田の一株ごとにある重さ      長野  桜井美津江
ローカル線日溜りを乗せ秋日和     東京  佐々木終吉
早々と畑じまひや鱗雲         群馬  佐藤さゆり
二階家のきしむ階段蚯蚓鳴く      東京  島谷  操
文化の日解き明かしたし文化とは    東京  清水 旭峰
この花の咲けばもうすぐ秋となる    千葉  清水 礼子
常磐木の辺り静かに冬に入る      大阪  杉島 久江
入谷戸は風の入口蚯蚓鳴く       東京  須﨑 武雄
敬老の日の世話役の喜寿の人      岐阜  鈴木 春水
手開きの鰯の骨の柔らかさ       愛知  住山 春人
品書きの筆の勢ひ走り蕎麦       埼玉  其田 鯉宏
糸通し行方不明の夜寒かな       東京  田岡美也子
残されし者のなぐさめ温め酒      東京  髙城 愉楽
恙なく一日の終る鰯雲         福島  髙橋 双葉
湧水の水音騒ぐ零余子かな       埼玉  武井 康弘
ひびの入る皿一枚の秋思かな      東京  田中 真美
秋冷のひたひた寄する夕べかな     広島  藤堂 暢子
今まさに落ちむと栗の迫り出せり    埼玉  内藤 明
山鳩やここは避暑地の軽井沢      群馬  中島みつる
接待の茶で温まる秋遍路        神奈川 長濱 泰子
古釘に仕舞ひ忘れの秋風鈴       京都  仁井田麻利子
煤けたる大黒天や菊日和        宮城  西岡 博子
鰯雲自転車駆りて海の街        神奈川 西本  萌
露の世を生きて喜寿なり星月夜     静岡  橋本 光子
もうはまだまだまだ続く暑気払ひ    東京  橋本  泰
高原に元の静寂馬肥ゆる        長野  馬場みち子
転生を為しし妻かと色鳥来       千葉  針田 達行
潮風や駒一頭の秋の牧         神奈川 日山 典子
そぞろ寒薬袋の八つほど        千葉  平野 梗華
羽衣の帰天の舞や月出でぬ       千葉  平山 凛語
鬼灯や叱られて知る親心        長野  藤井 法子
谷底を覗く吊橋紅葉川         福岡  藤田 雅規
秋日和何買ふでなく街に出る      東京  牧野 睦子
島七つみな見ゆる日や登高す      東京  幕内美智子
銀波なか泳ぐ人影芒原         東京  松井はつ子
秋時雨降るたびごとに山煙る      神奈川 松尾 守人
秋澄めり旅終へるたび身の軽く     茨城  丸山真理子
駆け出せばバス待ちくるる秋の晴    愛知  箕浦甫佐子
抜け出でて地上は雨月四谷線      東京  棟田 楽人
冬霞山のいただき日のあたる      東京  無聞  益
漢一人釣瓶落しの夕餉かな       宮城  村上セイ子
一輪の寒菊を野に捧ぐべし       東京  家治 祥夫
額づきて感謝の心秋祭         群馬  山﨑 伸次
早稲の香やローカル線の窓過る     神奈川 山田 丹晴
はららごの駅弁二つ北の旅       静岡  山室 樹一
今まさに落ちんとするや露の玉     群馬  横沢 宇内
コスモスの混み合ふ風の通り道     神奈川 横地 三旦
龍笛の響く境内初紅葉         神奈川 横山 渓泉
日の暮れし谷戸田の闇に鹿の声     千葉  吉田 正克
世阿弥舞ふ最後の花や佐渡の月     山形  我妻 一男
玉音は遠き記憶よ敗戦忌        東京  若林 若干


















星雲集 今月の秀句

伊藤伊那男

今月の選評はお休みです。























伊那男俳句


          
伊那男俳句 自句自解(96)          
  
分け合うて白朮火(おけら)の地を照らしけり
 大晦日の年の替り目の頃、京都祇園の八坂神社には除夜詣・初詣の人々が押し掛ける。四条大橋を渡った辺りから行列になっていた記憶がある。余談だが、四条通りの突き当り、東大路に面した西楼門を正面だと思っている人が多いが、実は正門は南楼門である。もう40年以上前のことになるが、混み合っていない正門から入り、白朮火を貰ったことがある。白朮を加えた大篝の火から吉兆縄に火を移し、火が消えないように軽く回しながら妻の実家に戻った。この白朮詣は新年の季語で、この火を神棚や仏壇の燈明、雑煮を炊く火種にしたのである。白朮はキク科の多年草で健胃薬。屠蘇散の材料の一つである。その白朮を加えた篝火を白朮火と呼ぶのである。さすがにこの混雑を極めた寒夜の行事には一度詣でただけで、年取りの酒に酔いつぶれてしまうのが恒例であった。なお「蒼朮(そうじゅ)を焚く」というのは夏の季語で、根を乾燥したものを梅雨どきに焚くと湿気や黴を防ぐという。

福寿草てふ睦まじき混み具合

 福寿草は江戸時代初期から正月の花として珍重されていたようだ。〈朝日さす弓師が店や福寿草 蕪村〉 〈ひともとはかたき莟やふく寿草 召波〉 〈帳箱の上に咲きけり福寿草 一茶〉などがある。黄金色に近い濃い黄色の花で、背が低く群れて咲くので、鉢に盛るのに都合がよく、正月の床飾りの花としてまことに好ましいのである。妻がこの花を好み、玄関に飾っていた記憶がある。寄せ植えにされた鉢は年の初めに相応しく、新鮮な光を放っていた。そんな往時を思い出して作った歌である。時を経て、その後次の句を作った。
 
或るときの家族の数の福寿草

前の句を発展させた句というか、いやその後の我が家の家族の歴史を辿った句ということになろうか。妻は55歳の誕生日の少し後に亡くなり、2人の娘は嫁いで家を去っていった。私は1人暮しになっていたのである。句の姿としても詩情としても後の句の方がよさそうだ。











   


 



俳人協会四賞・受賞式





更新で5秒後、再度スライドします。全14枚。







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aishi etc
        













銀漢の絵はがき


挿絵が絵葉書になりました。
Aシリーズ 8枚組・Bシリーズ8枚組
8枚一組 1,000円

ごあいさつにご利用下さい。
















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「銀漢」季語別俳句集




拡大します。
銀漢季語別俳句集
待望の『季語別俳句集』が3月に刊行されました。















主宰日録  

  


10月
 
10月22日(日)
数句会の選句。「銀漢」12月号の校正。鮪の残りをヅケにして軽く焼いた刺身など。

10月23日(月)
24日入院の案内を受ける。華子さん19歳の誕生日、併せて小生の入院壮行会とて、馬刺、ユッケ、馬肉鍋の夕食。シャインマスカットのチーズケーキ。

10月24日(火)
宮澤に送って貰い9時、順天堂大学医院に入院。16階の部屋。孫達の激励の色紙が荷の中にあり。血液検査、レントゲン。

10月25日(水)
9時間近くぐっすり眠る。今日は栄養剤を飲むだけと。臍のそうじ。夕方、手術についての説明を受ける。

10月26日(木)
7時半起床。体重65,1kg。下剤処理。8時半、手術室に入り、背中から麻酔を入れて意識を失う。

10月27日(金)
集中治療室で苦痛な、眠れない一夜を過ごし、部屋へ戻る。いきなり制御が効かず立ったまま下痢。

10月28日(土)
怒涛の2日間であった。談話室から御茶ノ水の堀を見下ろす。

10月29日(日)
今日から食事が出る。ほんの少し食す。シャワー実に気持ち良し。手術痕を見ると、何ともメッタ切り。

10月30日(月)
前2日間が嘘のように全く食欲なく、脱力感。メールも打てない。どうやら昨日までは麻酔が効いていたため、カラ元気であった。

10月31日(火)
苦しい1日。ほんの少しの咳でも傷口の痛さは只事ではない。恐怖。

11月


11月1日(水)
もうろうとした一日。ヨーグルトだけ少々口に入れる。

11月2日(木)
ヨーグルト少々。午後、「北軽井沢句会」の柴山つぐ子姉が見舞に来て下さる。入口の硝子扉越しなら面会可と。食事はまだ駄目。蜜柑、シャインマスカット少々。

11月3日(金)
「大山鍛練句会」に参加の皆様へ近況報告のメールを送る。やや長いメールを打てるようになった。ご飯少々。15分ほど病廊を歩く。

11月4日(土)
まだ日記など書くのが辛い。朝、納豆と、粒を数えられる位のご飯と味噌汁。担当医はまずは順調な回復基調というが、手術痕の化膿はひどい。毎日のシャワーで泡だてた石鹸で傷口を洗うのがなかなかの作業。15分ほど病廊を歩く。

11月5日(日)
ヨーグルトと葡萄少々。桃子と硝子越しに面会。溜まっていたお見舞のメールなどに返信。まだ脱力感あり。これが一仕事。日曜日で静かなのでついつい散歩をさぼる。

11月6日(月)
早く抜きすぎたと思われる脇腹のドレーンの跡から1日、7、800㏄の腹水が出ていたが、昨夜あたりからほぼ止まる。これは精神的にも随分違う。研修学生(島歺まされて病廊を30分散歩。午後も40分散歩。杏子来てくれる。今日は桃子の誕生日。

11月7日(火)
雨。朝食少々。相変わらず膿多し。但し、感染症の数値はかなり改善しているという。15分ほど散歩。午後、研修生の介添えで本館地下のコンビニで郵便物を投函。少し気力が戻りつつあり。夕方、大野田さんが大山阿夫利神社の祈祷札を届けて下さる。参加者一同からと。手術内容が未だに不確かにて担当医に聞く。胆のう、胆管、十二指腸は全摘。膵臓は半分。胃は4分の1切除と。なかなかである。

11月8日(水)
日下剤飲むが反応なし。今日、座薬にも反応なし。ついに浣腸にて実に12日振りの便通。安堵! 午後、研修生に励まされて八階の屋上庭園を30分ほど散策。快晴。秋の草花を見る。感染症は遅々として治らず。桃子来て硝子越しに面会。夜、冷奴、サラダ少々。

11月9日(木)
朝食、パンだったせいか、八割食す。数句会の選句。胆汁のドレーンを抜く。あとは膵液のドレーン1本となる。便通あり。感染症はこの手術では起こり易く特に緊急入院時に胆汁を通すためのステントを入れたので雑菌が混入したのではと。午前中10分、夕方25分の散歩。

11月10日(金)
便近く熟睡できず。感染症も治まらず。7時半、便通少々あり。「銀漢賞」の件で秋葉男さんにメール。「本部句会」に出句。「大倉句会」の記念祝賀会に挨拶のメール。夕方、25五分散歩。

11月11日(土)
割合気分良し。3日振りの髭剃り。メール何人かに。朝食、パン一枚、ヨーグルト。あと20分散歩。昼、ホットドッグ、頬張って食べてみるが胃もたれしてヘタる。夕方、気を取り直して散歩20分。

11月12日(日)
苺ジャムでパン少々。便通2日無し。下剤を飲んだが駄目。座薬でようやく効果あり。晴れ晴れ。夕方30分散策。桃子来る。今度は下剤が効きすぎて難儀。

11月13日(月)
外はかなり寒くなった様子。朝食半分ほど。午前中気怠く過ごす。「NHK俳句」2月号の「一句旬菜」の校正。句会の選句など。担当医が、今週末位に退院できるかもと。え! まだ膿はずい分出ているし、食欲は無いし、便通は不確かだし……。夕方30分散歩。富士の夕景が美しい。夜、腕の点滴を外す

11月14日(火)
夜明けの富士を見る。朝食4分の3位食す。今日は朝シャワーを浴びてすぐ処置室で壊死した細胞などを鋏で除去。散歩は15分位しかできず。杏子来てくれる。昼食、夕食共ほとんど食べられず。「銀漢句会」に出句。

11月15日(水)

朝シャワーで手術痕を洗い治療。「本部句会」選句。食欲なし。シャワーのあと治療。だらだら過ごす。便通なし。夕方、30分散歩。膿は減ってきている。

11月17日(金)
割合元気。断片的な日記を纏める。手術についてのエッセイを粗書きしてみる。ようやく文字を書く気力が出始める。朝食半分以上食す。採血、レントゲン、シャワーのあと治療。これだけでぐったり。15時過ぎ、杏子来てくれる。昨夜から処方されたツムラの大建中湯の効果で便通あり。昼、夕食はほとんど
食べられず。

11月18日(土)
シャワーあとの治療で切傷の皮膚の下のストローを抜く。大分気分が違う。夕方30分散歩。1月号の選句を少し。

11月9日(日)
6時ごろから朝日に染まっていく富士山を30分程眺める。やや食欲が出てきたので栄養剤の小腸への注入は終了。昼過ぎ、30分散歩。「銀漢」1月号の選句。少し疲れて昼寝。

11月20日(月)
朝食後に便通あり。安堵。膵液のドレーンが抜けてついに点滴棒と別れる。市田先生より22日(水)退院はどうかと。そのあとは通院。桃子来てくれる。夕方、30分散歩。

11月21日(火)
便通あり。食事しっかり取る。当面の自宅用薬貰う。夕方散歩40分。スクワット少々。汗ばむ。

11月22日(水)
栄養剤の管を抜く。昼、杏子の迎えを受けて退院。先生、看護師さんの至れり尽くせりのお世話に只々感謝。天野屋に寄り、芝崎納豆とひね沢庵を買って帰宅。頼んでおいた卵を落とした八丁味噌汁、鯵の開きでお粥の昼食。部屋のソファーにゆったり寛ぐ。



















         
    






今月の季節の写真/花の歳時記



2024/1/18撮影    枇杷の花    HACHIOJI






花言葉    「密かな告白」


△ 枇杷の花
ビワは寒い時季に花を咲かせてくれる貴重な植物です。ビワの花は一見するとあまり目立たず寂しい印象ですが、暖かそうな綿毛に包まれた小さな花には風情があります.
12月頃から枝の先に白色五弁の小花をたくさん付け、花の色が白から黄みを帯びてくるにしたがって、香りが徐々に強くなってきます。


ツバキ 黄梅 ロウバイ 仏の座 枇杷の花










写真は4~5日間隔で掲載しています。 


20224/1/19








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