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 7月号  2022年



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銀漢季語別俳句集


伊藤伊那男作品


主宰の8句




 





        
             

                        

    

今月の目次








銀漢俳句会/2022/7月号





            





 









銀漢の俳句 

伊藤伊那男 


◎「井月忌」が歳時記に立項
『角川俳句大歳時記』改訂版に「井月忌」が立項された。
  井月忌 せいげつき
(●以降、各行2字下げで)
  三月一〇日。俳人井上井月の忌日。文政五年頃越後長岡藩の下級武士の家に生まれたと伝わる。青年期に出奔し、江戸他諸国を行脚。四〇歳の頃信州伊那谷に現れ、家を持たないまま俳友や弟子の家を泊まり歩き、二〇年ほど過ごしたあと、この地の路傍で行き倒れとなった。俳句は端正な蕉風。死後三四年を経た大正一〇年、下島空谷が芥川龍之介の助力を得て『井月の句集』を刊行し、世に知られるようになった。明治二〇年(一八八七)、六十六歳で没した。(伊藤伊那男)
(●以降、字詰め戻す)
 東京で井月忌俳句大会を開催して九回目を終えた。井月忌と銘打っているが、どの歳時記にも井月忌は掲載されておらず、井月忌だけで季語として成立するのであろうか、と疑問を呈する選者もいて、これが実は私も苦しいところであった。勿論忌日に間違いないのだが、一般俳人が歳時記を開いても忌日や人物像の手掛りが摑めないのである。そんな折、現在一番権威のある前述の歳時記に立項されたのは関係者にとっては快挙、大事件なのである。
 井月が死んだあと、大正十年に下島空谷(勲)が『井月の句集』を出版した。その跋文は芥川龍之介が書き、賛句として当代一流の高浜虚子・内藤鳴雪・小澤碧童などが句を寄せている。その後、竄入句の整理を行い、高津才次郎が『漂泊俳人井上井月全集』を出版、華々しく井月が世に出たのであった。だがその後も忘れられたり、思い出されたりを繰り返し、なかなか全国区の俳人には到らずにいた。その間も伊那谷の人々は、俳句を嗜まない方も井月の顕彰に努めていた。地元の「信州伊那井月俳句大会」は今年三十一回を迎える。平成二十二年、北村皆雄監督映画『ほかいびと──伊那の井月』(田中泯主演)が上映された。二十四年、復本一郎編『井月句集』が岩波文庫に収録された。また島下空谷に始まった『井月の句集』は改編されながら実に第六版として平成三十年に井上井月顕彰会発行『新編 漂泊俳人 井月全集』が出版されている。そうした地元の懸命の努力の成果として歳時記への立項が成ったのである。信濃毎日新聞が大きな記事を載せ、解説を書いた私が驚いたが、顕彰活動が報われたのである。なお例句として銀漢俳句会の二名の句が掲載されている。
   
どの嶺と酌みかはさうか井月忌   我部 敬子
来し方を霞がくれに井月忌     武田 禪次












 





  

盤水俳句・今月の一句

伊藤伊那男
 
手捕りたる梅雨の鯰をもて余す       皆川 盤水 
    
「春耕」栃木支部の誘いで那珂川佐久山の梁へ行った。私も参加していたが、観光梁ではなく、地元の人しか知らない所で、半分に割ったドラム缶で炉を囲ってその輻射熱で焼き上げる。鮎飯を希望する場合は米を持参するきまりであった。私は食べることと飲むことに夢中であったが、先生は渡し板を踏んで梁に出ると打ち上げられた鯰を摑んで、快心の笑みで高々と持ち上げたのであった。その時の写真は松川洋酔さんが撮ったのでは……。
                (平成十八年作『花遊集』所収)
 




 





彗星集作品抄
  伊藤伊那男・選

 神となる柱は過ぎて里若葉           こしだまほ
 鎌足で始まる系図桜餅             長井  哲
 波風の立つ世を遠く春炬燵           宮内 孝子
 曳船の引つ張つて来る蜃気楼          梶山かおり
 惜春を置いてきぼりに試着室          塚本 一夫
 水脈崩し合ふこともなき春の鴨         杉阪 大和
 場所取の転寝覚ます花の雨           久保園和美
 桃咲いて龍太の国は真昼なり          宇志やまと
 散らかしてこその安堵や春炬燵         大野 里詩
 心字池の撥ねのところに蝌蚪の国        深津  博
 灯の点る潮待ち港桜鯛             清水 史恵
 永劫の和顔施として寝釈迦かな         大溝 妙子
 勿忘草記憶のやうに萎れけり          白井 飛露
 ひとつふたつ声うらがへる卒業歌        橋野 幸彦
 馬跳ねて開田高原牧開             佐藤 栄子
 花と雲境目ほどが西行庵            川島  紬
 魔法瓶魔人出よると四月馬鹿          中山  中
 うたかたの世の束の間をしやぼん玉       戸矢 一斗
 初雷や押せば答ふる桐簞笥           有澤 志峯
 空海の国青麦の波のなか            塩田佐喜子

 








 







    
     

彗星集 選評 伊藤伊那男

伊藤伊那男・選

神となる柱は過ぎて里若葉         こしだまほ
六年に一度しか使えない季語が「御柱祭」。諏訪の神は今も謎が多い。御柱の意味についても、縄文時代の土俗信仰なのか、伊勢の遷宮のようなものなのか、その融合であるのか……。私は数回見学し、一度は原村の山出しの綱を曳かせて貰った。この句は御柱が里に下りたあと、すかさず若葉時となったというもの。映像的に見ると、柱が主役であったものが、通過と同時に若葉が主役になったという瞬く間に幕が替った仕掛けの面白さ。

鎌足で始まる系図桜餅           長井  哲
源平藤橘というのが日本の家系の根幹。中でも藤原が一番多く、伊藤、佐藤なども辿っていくと藤原氏、もっと辿ると鎌足に行き着くようである。鎌足の墓は大阪高槻市の阿武山古墳で、京大防災研究所の中。私は京都で仕事をしていた頃訪ね、研究員から聞いて知った。大織冠という冠があったのが決め手だったようだ。さてこの句「桜餅」で決まるのかどうか、最終形としてもっといい取合せがあるような気もするが、古来日本人が愛した花であることだし、今の所はこのままで良い、ということにしておこう。

波風の立つ世を遠く春炬燵         宮内 孝子
昨今のきな臭い世界状勢を見ると、のんびり俳句を作っていてよいのか?と思う人もいるかと思う。敗戦直後、記者達に問われた虚子は「何も変らない」と答え、期待外れに憐れむべき目をして虚子を見る記者もいた、という。俳句も世相に敏感なのである。この句なども人によってはそんな傍観者でいいのか、と思う人がいるかもしれない。私はいいのだ、と言いたい。花鳥諷詠でいい。惑わされなくていいと言いたい。〈去年今年貫く棒の如きもの〉は虚子の強い意志、一貫性のある意志に貫かれているのだ。

曳船の引つ張つて来る蜃気楼        梶山かおり
蜃気楼という気象現象は舟が引っぱってくる、という発想が面白い。たまたま漂っていた漁船が、そのように見えたのであろうか。今では気象学上その根拠が解っているようだが、俳人達には不思議な現象のままがいいようだ。

惜春を置いてきぼりに試着室        塚本 一夫
春が過ぎるのを惜しむ、といいながら洋服店の試着室で夏物の服を着てみたら、春愁も惜春の心も全部吹き飛んで、心は夏に向ってしまう。そんな女性心理が面白可笑しく描かれているようだ。

水脈崩し合ふこともなき春の鴨       杉阪 大和
何らかの事情で帰りそびれた鴨は、数も少なく淋しげに見えるものだ。相寄ることもなく、水脈の重なることもない。具体的に生態を写生したところがいい。

場所取の転寝覚ます花の雨        久保園和美
昔は新入社員の初仕事だったりした。生憎の雨……。

桃咲いて龍太の国は真昼なり       宇志やまと
甲斐の駘蕩たる春。〈―の真昼ど(・)き(・)〉位の方がいいか。


散らかしてこその安堵や春炬燵      大野 里詩
暖かくなって気の緩む時期。その雰囲気が出ている。

心字池の撥ねのところに蝌蚪の国     深津  博
そんなところもあったか。いかにもありそうな…。

灯の点る潮待ち港桜鯛          清水 史恵
きれいな作りの句。桜鯛! ずっと潮待ちをしたくなりそう。

永劫の和顔施として寝釈迦かな      大溝 妙子
金の無い衆生は笑顔だけでよい。釈迦の教えは深い。

勿忘草記憶のやうに萎れけり       白井 飛露
忘れるな、と言われても、記憶も花もそのままではない。

ひとつふたつ声うらがへる卒業歌     橋野 幸彦
 声変りか、感涙のためか、悲喜こもごもの卒業歌。

馬跳ねて開田高原牧開          佐藤 栄子
日本古来の足の短い木曾馬であろう。喜びが伝わる。

花と雲境目ほどが西行庵         川島  紬
奥千本の西行庵の様子が如実。「ほどに(・)」の方がいいか。

魔法瓶魔人出よると四月馬鹿       中山  中
アラジンの物語の連想。魔法瓶という言葉を久々耳に。

うたかたの世の束の間をしやぼん玉    戸矢 一斗
うたかたの漢字は「泡沫」。意味を違えた言葉の斡旋。

初雷や押せば答ふる桐簞笥        有澤 志峯
雷・秋雷・寒雷……やはり初雷が一番合う取合せか。

空海の国青麦の波のなか         塩田佐喜子
空海の出自は讃岐。麦の国、うどんの国。











 






銀河集作品抄

伊藤伊那男・選

まなざしに才気のきざし知恵詣     東京  飯田眞理子
長靴の漁師も来たり御開帳       静岡  唐沢 静男
たおやかな虚子の筆跡風光る      群馬  柴山つぐ子
濡れ筵日向に覆ふ苗木売        東京  杉阪 大和
一島は鳥籠の中百千鳥         東京  武田 花果
雨音のしらべ誦経へ涅槃寺       東京  武田 禪次
歌垣の山の浮雲目借時         埼玉  多田 美記
修二会果て奈良が都の頃の闇      東京  谷岡 健彦
雲雀落つ朱雀大路のありし辺に     神奈川 谷口いづみ
発掘の影は動かずつくしんぼ      長野  萩原 空木
万年の果てに亀鳴くかもしれず     パリ  堀切 克洋
大寺の横道長く苗木市         東京  松川 洋酔
茎立の高きや渦を巻きしまま      東京  三代川次郎












         





綺羅星集作品抄

伊藤伊那男・選

涅槃会に天井の龍加はれり        東京  山下 美佐
文机を荒野と思ふ三鬼の忌        東京  中村 孝哲
縮みても尾鰭の確と白子干        和歌山 笠原 祐子
白子干どれもまなこは失はず       宮城  小田島 渚
一噛みに十の命を白子干         兵庫  清水壽住美
吾が家郷春は海から幸もまた       宮城  齊藤 克之
一張羅纏ひて伊勢に参らばや       東京  島  織布
開戦の知らせに目刺焦がしけり      埼玉  渡辺 志水
海市立つ北前船も軍艦も         東京  市川 蘆舟
友のなき子は尋ね来よ蝌蚪の国      千葉  中山 桐里
ふらここの互ひ違ひの男女かな      埼玉  萩原 陽里
白酒な召せそ宿直の大臣どち       大阪  中島 凌雲
自転車は玩具のつづき豆の花       東京  上田  裕
竹秋や晩学といふ遊びせむ        東京  飛鳥  蘭
耶蘇ならん雀隠れの小さき墓       埼玉  伊藤 庄平
屋上に神祀る国鳥の恋          東京  宇志やまと
なみだ吸ふ砂の深さよ啄木忌       神奈川 大野 里詩
棒鱈は噛みつきさうな口をせり      東京  岡城ひとみ
人悼むことにも疲れ桜餅         東京  竹内 洋平
啓蟄や塞ぎの虫のもぞもぞと       東京  朽木  直
記念樹の四方へ囀こぼしをり       埼玉  秋津  結
ポン菓子の音に春来る峡の里       宮城  有賀 稲香
春塵や貨物列車の軋み音         東京  有澤 志峯
開帳の秘仏に風のもてなしを       神奈川 有賀  理
花茣蓙を払ひ花びら山とする       東京  飯田 子貢
転勤の辞令は軽し花吹雪         東京  生田  武
滝なして尾根を越えゆく花吹雪      埼玉  池田 桐人
春の虹門出の門とも関所とも       東京  伊藤 政三
垣繕ふ塩の沁みたる舫綱         神奈川 伊東  岬
春愉し旅の列車を迷ひつつ        東京  今井  麦
粗壁に田舟干しあり桃の花        埼玉  今村 昌史
さへづりに千の耳貸す羅漢かな      埼玉  大澤 静子
両手上げ腰の採寸春兆す         東京  大住 光汪
大仏の螺髪華やぐ春の雪         神奈川 太田 勝行
人の死ぬ夜を皎々と咲く桜        東京  大沼まり子
息止めて覗く木彫の御開帳        埼玉  大野田井蛙
金箔を張りし寝釈迦の土不踏       東京  大溝 妙子
伸び盛り二指にて折れる茶の新芽     東京  大山かげもと
崖下へ赤き線引く落椿          東京  小川 夏葉
なゐからの十年短し桜餅         宮城  小野寺一砂
海風に変はる大川桜餅          埼玉  小野寺清人
息吸つて吐いて手放す春うれひ      東京  梶山かおり
つちふるや幻の人ゆれてをり       愛媛  片山 一行
青葉木菟五箇山の夜を定めけり      東京  桂  信子
縁側の骨董談義春遅遅と         静岡  金井 硯児
墓碑銘は甘藷先生春の雲         東京  我部 敬子
霧吹で葉を輝かす植木市         東京  川島秋葉男
千本を一目に入れて花見酒        千葉  川島  紬
母の日の鏡台いまだ匂ひあり       長野  北澤 一伯
桜餅買うて降られし午後の雨       東京  絹田  稜
等々力渓 
せせらぎはかつて轟き春の川       東京  柊原 洋征
三椏の花や余生になほも岐路       神奈川 久坂衣里子
有難き偏平足や涅槃像          東京  畔柳 海村
畑毎に肥料の袋雲雀東風         東京  小泉 良子
茶柱の立ちて迎へる大試験        神奈川 こしだまほ
王冠は未完のままに苜蓿         東京  小林 美樹
弁当に仕切りの多し花の宴        東京  小山 蓮子
叶ふ夢叶はざる夢しやぼん玉       青森  榊 せい子
海坂の高さの垣を繕へり         長崎  坂口 晴子
まだ動くブリキロボット昭和の日     長野  坂下  昭
遠くより牛の啼き声春田打        群馬  佐藤 栄子
もう父に恩は返せず草笛吹く       群馬  佐藤かずえ
ふらここやいつしか消えし蒙古斑     長野  三溝 恵子
国見らし大和のつばめ高みへと      東京  島谷 高水
花冷や甲斐の盆地の底に居り       埼玉  志村  昌
ねねの寺ひとめぐりして桜もち      千葉  白井 飛露
夏近し夜の会所の笛太鼓         神奈川 白井八十八
霊峰のよく見ゆる日や白子干す      東京  白濱 武子
啓蟄や手をすべらせて玉子割れ      東京  新谷 房子
亀鳴くやここに太子の教へあり      大阪  末永理恵子
余生とはいつからのこと日の永し     静岡  杉本アツ子
囀の中で組まるる座禅かな        東京  鈴木 淳子
遠蛙父母の遺影の下に寝ぬ        東京  鈴木てる緒
雛仕舞ふナフタリンの香の新しく     群馬  鈴木踏青子
春夕焼こまごま坂の店構         東京  角 佐穂子
卒業や文集にある夢の数         東京  瀬戸 紀恵
はくれんや地上の汚れ嫌ふかに      神奈川 曽谷 晴子
未だ来ず巣箱に家相あるらしく      長野  髙橋 初風
東軍に多き土筆や関ヶ原         東京  高橋 透水
うららかや下品の弥陀は出張中      東京  武井まゆみ
垣繕ふ最後に余る紐を断ち        神奈川 田嶋 壺中
裾野はや微笑みほどに山笑ふ       東京  多田 悦子
蕗味噌を練る度想ふ母のこと       東京  立崎ひかり
利休忌や利休鼠の袱紗染め        東京  田中 敬子
蛇穴を出て依代の深き杜         東京  田中  道
名所図会のままの堂塔松の芯       東京  田家 正好
雲形定規引く曲線の春めきぬ       東京  塚本 一夫
節電と言はれて春の灯もひとつ      東京  辻  隆夫
皮一枚脱ぎたる心地春コート       東京  辻本 芙紗
横浜の喇叭水仙ジャズ祭         東京  辻本 理恵
踏青の一歩詩魂の一歩かな        愛知  津田  卓
結界の蛙合戦憚らず           東京  坪井 研治
しわくちやな音の膨らむ紙風船      埼玉  戸矢 一斗
蝌蚪生まる戦争の地の深轍        千葉  長井  哲
慈照寺の砂盛ただす遅日かな       神奈川 中野 堯司
桜蘂ふる平飼ひの鶏に          東京  中野 智子
羅漢寺に並ぶ福耳百千鳥         茨城  中村 湖童
野遊や草の匂ひの裾の濡れ        埼玉  中村 宗男
貝塚に貝の地層や草萌ゆる        東京  中村 藍人
一日中甘茶浴ぶるも修行かな       大阪  西田 鏡子
春大根葉の波打つて運ばれる       東京  西原  舞
子を叱ることにはじまる夏休み      東京  沼田 有希
城址の空の高さや啄木忌         東京  橋野 幸彦
あたたかと誰に聞かせるともなしに    広島  長谷川明子
畳まで大涅槃図の巻き余す        東京  長谷川千何子
望郷の絵島の桜ふぶきかな        神奈川 原田さがみ
結願し町石辿る遍路かな         兵庫  播广 義春
亡き夫に花の一房盗みきし        東京  半田けい子
永き日や珍紛漢紛無門関         東京  福永 新祇
願はくは歌の如くに西行忌        東京  福原  紅
風のたび身を削ぐやうに桜散る      東京  星野 淑子
はらからの息災の文百千鳥        神奈川 堀  備中
凍滝は観音のごと陽が昇り        岐阜  堀江 美州
片仮名の駅名長し義士祭         埼玉  本庄 康代
一日旅御室さくらに酔ひ暮るる      東京  松浦 宗克
夕長し戸袋にある陽の温み        東京  松代 展枝
引越しの手を止めてゐる初音かな     神奈川 三井 康有
霾や満州生れのことをまた        東京  宮内 孝子
かの地まで平和を運べつばくらめ     神奈川 宮本起代子
鳥曇逢ふも別れもさまざまに       東京  村田 郁子
行く春や利根の渡しはもう絶えて     東京  村田 重子
食パンの耳は四方に百千鳥        東京  森 羽久衣
蝌蚪うごく動けば底の影うごく      千葉  森崎 森平
野遊の声は小川を跳び越して       埼玉  森濱 直之
開帳の撓み豊かに善の綱         長野  守屋  明
梅東風や太宰府へ香を渡すかに      東京  保田 貴子
ささめきはやがて雄たけび雪解川     愛知  山口 輝久
どの子にも光の届き入学す        群馬  山﨑ちづ子
かくれんぼ見つからなくて春夕焼     東京  山田  茜
春泥の村そのものが泥んこに       群馬  山田  礁
人混みを離れてよりの花疲れ       東京  山元 正規
糺の森は大きな籠よ百千鳥        東京  渡辺 花穂


















銀河集・綺羅星今月の秀句


伊藤伊那男・選

涅槃会に天井の龍加はれり         山下 美佐
鳴き竜と涅槃会の取合せは卓見であった。手を打てば竜が鳴く。涅槃図に泣く衆生に竜の鳴き声が加わるのである。句柄から読み手の心に、大きな空間の伽藍が浮かぶ仕組みである。余談だが「龍」は旧字、「竜」は正字。


文机を荒野と思ふ三鬼の忌         中村 孝哲
詩情、というより詩魂のある句だな、と思う。芸術は孤高である。戦後、桑原武夫の『第二芸術論』が論議を巻き起こしたとき、高浜虚子は「俳句もようやく芸術になりましたか」と皮肉ったが、俳句を文学と呼ぶときに、やや躊躇いがあるのは、俳句が「座」という集団の行為であるせいかもしれないと思う。「文机は荒野」の措辞は見事な詩精神の表出である。背水の陣である。三鬼という異色の俳人を配したのも諾える取合せであった。


縮みても尾鰭の確と白子干         笠原 祐子
白子干どれもまなこは失はず        小田島 渚
一嚙みに十の命を白子干          清水佳壽美
「白子干」の句に収穫があった。各々に写生の基礎が培われていることが、句の骨組みを強靭にしているようだ。祐子句、渚句は白子干をよくよく観察している。観察を深めると自然に一物仕立ての句になっていくものだ。こういう写生力を持った人は強い。佳壽美句は主観を交えて食物連鎖の節理を淡々と詠む。


吾が家郷春は海から幸もまた        齊藤 克之
信州に育った私は山から季節の変化を知ったが、この作者は三陸海岸の人。春の到来は海の変化で知るというのだ。海の匂、色、潮風、そして春の魚介や海藻。「幸もまた」に海の人々の生活感が溢れている。


一張羅纏ひて伊勢へ参らばや        島  織布
お伊勢様にはいつでも行けるのだが、行楽の季節の春が最も人出が多かったことから春の季語となった。「伊勢参」「お蔭参」「抜参」「坂迎へ」「太々講」など、一度は詠んでみたい季語である。この句は伊勢の神を訪ねるならば一張羅で、身なりを整えて、心を清めて、という。この志、大いに良し。気持の良い句となった。


開戦の知らせに目刺焦がしけり       渡辺 志水
海市立つ北前船も軍艦も          市川 蘆舟
両句共、現在のウクライナ戦争などの世相を背景にしているのであろう。俳句は夏炉冬扇の文芸と思われがちであるが、実は世相に素早く反応する文芸でもあるのだ。ただ直截詠むとその場限りに終わることが多い。右の句は何年後に見ても色が褪せない普遍性を持つ句である。それは志水句では淡々と目刺焼くと、身辺の些事に合わせたこと。また目刺がおかずだけの暗い時代に入るかもしれないという予感。蘆舟句では下五に「軍艦も」と付け加えた怖さ。世相はあくまでも冷静に、客観的に詠むことが勘所ということであろう。蘆舟句の〈青き踏む地雷踏まぬと言ひ切れず〉〈陽炎やダンプの列を戦車とも〉も秀逸であった。


友のなき子は尋ね来よ蝌蚪の国       中山 桐里
小林一茶の〈我と来て遊べや親のない雀〉などと同じ範疇の宜しさを覚えた。友達のいない子はお玉杓子の国へ来い――何とも優しい心である。蝌蚪の国の「国」が効いているのだ。一句を以て読者を童話の世界に導く秀逸句。


ふらここの互ひ違ひの男女かな       萩原 陽里
黒澤明の映画「生きる」の死期の近づいた主人公は一人公園のブランコに揺れる。私は幼児の頃、ブランコの交差する合間を潜り抜ける危険な遊びをしてブランコに打たれて失禁した。それはさておき、野坂昭如は〈男と女のあいだには深くて暗い河がある〉と歌った。そう、この句は野坂の歌の本歌取りのような俳句。互い違いのブランコ。


白酒な召せそ宿直の大臣どち        中島 凌雲
「な」「そ」の禁止の係り結びを使った句だが、雛祭という古来の行事に合わせたのは実に気の利いた斡旋である。また、宿直(とのい)、大臣(おとど)の古語の配置も巧みである。雛段の宿直の貴人達よ、白酒を盗み飲みして酔っぱらってはいけないよ!何とも楽しい句である。


自転車は玩具のつづき豆の花        上田  裕
「玩具のつづき」の発想には目を洗われた。大人になれば荷物を運ぶ仕事道具になるのだが、習いたての子供の頃はもっぱら遊び道具。初心に戻って「物」を見ると、このような発見と柔軟な発想がある、ということだ。


 その他印象深かった句を次に

竹秋や晩学といふ遊びせむ         飛鳥  蘭
耶蘇ならん雀隠れの小さき墓        伊藤 庄平
屋上に神祀る国鳥の恋           宇志やまと
なみだ吸ふ砂の深さよ啄木忌        大野 里詩
棒鱈は嚙みつきさうな口をせり       岡城ひとみ
人悼むことにも疲れ桜餅          竹内 洋平
啓蟄や塞ぎの虫のもぞもぞと        朽木  直














                






 

星雲集作品抄
伊藤伊那男・選
秀逸

初蝶を見しつぎの日の雨と風       広島  塩田佐喜子
明日ある人だけが買ふ植木市       埼玉  深津  博
春障子ないしよ話は筒抜けに       東京  中込 精二
切れるまで聞きしテープや昭和の日    広島  藤堂 暢子
生涯のもがきを歌に啄木忌        東京  髙城 愉楽
籾浸す命の歯車回りそむ         愛知  住山 春人
雪解川熟睡(うまい)のできぬ飛驒の宿        岐阜  鈴木 春水
いま少し雀隠れに足りぬ丈        東京  島谷  操
散るも佳し雪無き里の雪柳        神奈川 小池 天牛  
扁額の敬天愛人囀れり          東京  黒田イツ子
見た目よりやや塩辛し桜漬        長野  上野 三歩
整列の苦手な子ども葱坊主        東京  伊藤 真紀
新社員給湯室の掟から          千葉  園部あづき
内腿に馬の体温牧開き          千葉  小森みゆき
常ならぬ浮世憂き世と亀鳴けり      埼玉  園部 恵夏
友あれば恙とあれば花便り        東京  渡辺 誠子

           

星雲集作品抄

            伊藤伊那男・選

背をもたれ妣のことなど目借時      京都  秋保 櫻子
綾取りの箒目ほどき春の川        東京  尼崎 沙羅
山鳩の巣は大椿鳴き交はす        愛媛  安藤 向山
亡き母の面影のやう貝母咲く       東京  井川  敏
御開帳厨子の扉の厚きこと        長野  池内とほる
論談はさて置き今朝は流氷来       東京  石倉 俊紀
陽炎や崖に張り付く漁師村        広島  井上 幸三
すももにはすももの花の良さのあり    愛媛  岩本 青山
昼過ぎて馬の雪形動きけり        東京  上村健太郎
桃の花眠気を誘ふ車窓かな        長野  浦野 洋一
遠蛙ふるさと語りつつ寝入る       東京  岡田 久男
苗代のそろそろ苗を仕立てる田      長野  岡村妃呂子
卒園の子が木の椅子を立ち上がる     愛知  荻野ゆ佑子
忙中にひと日の閑や菜種梅雨       神奈川 小坂 誠子
鉄瓶の湯気に勢ひ竹の秋         静岡  小野 無道
花曇強目にあてるパーマかな       東京  桂  説子
塩味のあとに甘味や桜餅         埼玉  加藤 且之
春光や青深くなる江戸切子        東京  釜萢 達夫
菠薐草とり立てなほも空に向く      長野  唐沢 冬朱
つかのまの白木蓮の無垢な色       愛知  河畑 達雄
四辻は供花(くうげ)の絶えぬ花御堂        神奈川 河村  啓
鷭の子の田への渡りは走るやう      愛知  北浦 正弘
壺焼の身を取り出さむと首回し      群馬  北川 京子
萬年の命の何時か亀鳴くらむ       神奈川 北爪 鳥閑
手の記憶たどり白詰草を輪に       東京  北原美枝子
麦青む畑の起伏をなぞりつつ       東京  久保園和美
足早の花に悩みの暇なし         東京  熊木 光代
遠足日移動の度に点呼あり        東京  倉橋  茂
入学を今か今かとランドセル       群馬  黒岩伊知朗
虚子一家桜の下に憩ひしと        群馬  黒岩 清子
権兵衛の里の種蒔鳥群るる        愛知  黒岩 宏行
階段のきしみのどけしトキワ荘      東京  髙坂小太郎
雛納五人囃子は音立てず         東京  小寺 一凡
田楽や昔のままの奥座敷         神奈川 阪井 忠太
遅れ来し信濃の春を早や惜しむ      長野  桜井美津江
狛犬の合はぬ阿吽や風光る        東京  佐々木終吉
永き日の飛行機雲を目で追へり      群馬  佐藤さゆり
曳く網に冷たき光蛍烏賊         東京  清水 旭峰
どこからも登れる古墳百千鳥       東京  清水 史恵
レタス嚙み体の芯の目覚めをり      東京  清水美保子
われ傘寿来し方を知る古雛        千葉  清水 礼子
岩櫃や切り立つ岩に山桜         群馬  白石 欽二
到来の新じやが弾け茹で上がる      大阪  杉島 久江
控へ目と派手さを見せて山笑ふ      東京  須﨑 武雄
亀鳴くや手から離れしあれやこれ     東京  田岡美也子
校名の消ゆる学舎卒業す         福島  髙橋 双葉
雪残る二の丸跡の野面積み        埼玉  武井 康弘
釣堀の客の賑はひ春暑し         東京  竹花美代惠
各々に光輪まとふ猫柳          東京  田中 空雅
副園長兼ねる梵妻甘茶寺         栃木  たなかまさこ
ありふれた午後の大空桜餅        東京  田中 真美
交番に迷子が一人花曇          神奈川 多丸 朝子
囀や波のごとくに寄せて消ゆ       愛知  塚田 寛子
学舎と共に老いたる桜かな        埼玉  内藤  明
切通し彼方に霞む由比ヶ浜        神奈川 長濱 泰子
あらたふと山の光に御開帳        長野  中山  中
ふたりにも花冷えといふ間の在りし    東京  永山 憂仔
卒園の子の涙目に涙して         京都  仁井田麻利子
人生に迷子の頃や朧月          東京  西  照雄
ふらここや時には世界とび出すか     宮城  西岡 博子
本堂を満たす声明鬼やらひ        東京  西田有布子
春愁を突きてゆきたる汽笛かな      静岡  橋本 光子
指先に魂込めて種を蒔く         東京  橋本  泰
老いの足一幅毎にじやがいも植う     神奈川 花上 佐都
山藤のおろちの如く蔓絡む        千葉  針田 達行
ふるさとの少し膨るる春の山       長野  樋本 霧帆
画用紙に水のふくらみ春の虹       神奈川 日山 典子
万愚節フランスパンの噛みごたへ     千葉  平野 梗華
陽炎の中へ押し行く電車かな       千葉  深澤 淡悠
天上の星と交代犬ふぐり         長野  藤井 法子
残花にはとどめとならむ小糠雨      福岡  藤田 雅規
乳母車の双子にこにこ桃の花       東京  牧野 睦子
今は昔問はず語りの春の宵        東京  幕内美智子
一年の七日を誉むる桜かな        神奈川 松尾 守人
逆立ちの子ら受け止むる苜蓿       東京  丸山真理子
あと一輪標本木の花を待つ        東京  水野 正章
引き潮の度寄居虫の転びをり       東京  棟田 楽人
投網する男の肩に風光る         東京  家治 祥夫
制服の紺に溺るる入学児         東京  矢野 安美
揺れる葉の上で動けぬ昼蛙        東京  山口 一滴
春祭還暦てふもまだ若衆         群馬  山﨑 伸次
水温み近しくなりし人と鳥        神奈川 山田 丹晴
南京の丘に父をり昭和の日        静岡  山室 樹一
鉄瓶の湯気吹き上ぐる春火鉢       群馬  横沢 宇内
俳句こそ我が玩具なり啄木忌       神奈川 横地 三旦
山吹や所縁の和歌を口づさみ       神奈川 横山 渓泉
朝日差す厩舎湯気立ち仔馬立つ      千葉  吉田 正克
只管打坐無無無無無無無牡丹雪      山形  我妻 一男
シクラメン蝶の形で咲きにけり      東京  若林 泰吉
           












星雲集 今月の秀句

伊藤伊那男

初蝶を見しつぎの日の雨と風        塩田佐喜子
まだ寒いかな、と思う頃初蝶と出合う。次の日は雨と風だったのである。生まれたてのいたいけない蝶に、もう手荒な自然が襲う。たまたま目にした小動物に対する思いやりの心が滲み出た句で、調べもよい。同時出句の〈粒ほどの詩魂育てむ鶏頭蒔く〉も鶏頭の成長に託した生きがい。自然と共生する心がいい。


明日ある人だけが買ふ植木市        深津  博
標語みたいな語り口の面白い句である。確かに苗木から育てるのはそれなりの年月が必要だ。桃栗三年柿八年などという。苗木を買うのは元気な証拠。「だけが買ふ」という断定の面白さである。


障子ないしよ話は筒抜けに         中込 精二
日本家屋は秘密保持には厄介なもので、時代劇などを見ても大事な話がだいたいは洩れてしまう。鴬張りなどという廊下の工夫も切実な防衛策だったのであろう。重要な話でなくても、日常生活のぼやきも洩れる。春障子だともっと洩れそうな感じが楽しいところだ。同時出句の〈兄弟の縁は薄らぎ鳥雲に〉も実感がある。戦後、家という観念が変化したことも大きな要因であろう。人口が大都市へ移動したことも‥‥。


切れるまで聞きしテープや昭和の日     藤堂 暢子
人類の歴史の中で直近の五十年の変化は驚天動地のことである。音楽の録音にしても、落としたら割れるレコード盤から始まって、テープ、CD、DVD‥‥今はスマートフォンからも流れてくる。子供たちは録音テープなど見たことも無いようだ。この句は青春時代の思い出の曲の入ったテープを今も持っているのであろう。昭和の日にふと、昔日の思い出に浸るのである。昭和が終って三十年‥‥。


生涯のもがきを歌に啄木忌         高城 愉楽
石川啄木は二十七歳の短い生涯であった。転地、転職を繰り返し、いつも金が無いことに苦しんだ人生であった。〈友がみなわれよりえらく見ゆる日よ花を買ひ来て妻としたしむ〉――という歌などには、私も不遇の時代に共感したものだ。短い人生を燃焼し尽した天才であった。


籾浸す命の歯車回りそむ          住山 春人
「命の歯車回りそむ」がいい。種浸しのその瞬間にそれが始まるのだ。自然の壮大な輪廻転生である。同時出句の〈軒先の鉄琴のごと雪解かな〉も明るい比喩がいい。


散るも佳し雪無き里の雪柳         小池 天牛
雪柳は散るからこその名称だが、「雪無き里」を取合せたのが味わいである。舞台では紙吹雪が雪の替りになるが、自然界の雪の降らない地方では雪柳が雪の替り。


扁額の敬天愛人囀れり           黒田イツ子
「敬天愛人」は天を敬い人を愛する、という意味で、西郷隆盛が好んで書にしている。山形県の酒田を通った時、西郷神社があり、立ち寄ったことがある。戊辰戦争で賊軍となった庄内藩が西郷に救われた恩に報いるために建てた社だ。そこにも「敬天愛人」の書があった、句の囀りは西郷に助けられた人々の感謝の声のようにも聞こえてくる。


見た目よりやや塩辛し桜漬         上野 三歩
桜漬は八重桜を用い、祝いの席で供する。淡紅色にも似合わず、作者には思わぬ塩気を感じたという。俳句はここが大事である。独自の目、独自の感覚が類想を免れる。


新社員給湯室の掟から           園部あづき
今はこのようなことはほとんど無くなったと思う。私が仕事に入った頃は女性は全て事務職。その後十年程して、総合職が導入された記憶である。この作者の年齢は知らないが、その時代の経験が、新社員の題から浮上したか。


内腿に馬の体温牧開き           小森みゆき
「牧開き」の題で句を作ったことはあるし、数々の句を目にしてきたが、この句のように臨場感を持った句はなかなか無かったように思う。そもそも私は馬に乗ったことが無いから、こういう発想は思い付きようがないのだ。内腿に馬の体温を感じる、という実感に読み手は皆頷く筈である。まだ空気に棘が残る頃の高原の気分を捉えて出色。


常ならぬ浮世憂き世と亀鳴けり       園部 恵夏
恐らく、コロナ禍、ウクライナ戦争などの今の世相が背景にあるのだろう。直接その事を詠んだ句は沢山目にするが秀句は僅少である。詠む場合はこの句のように寓意、暗喩で触れる方が逆に心に残る句になるのだと思う。鳴かぬ亀を鳴かせるところに作者の思いが籠っているのであろう。


友あれば恙とあれば花便り         渡辺 誠子
「恙」は病気。「友あれば恙とあれば」――実に上手な表現で、取合せた「花便り」の季語が生きている。


 


















伊那男俳句


伊那男俳句 自句自解(78)
            
わが死後は銀漢に骨撒くとせむ
 早い時間に店に来る老人の客が、先立った夫人を海に散骨したと言った。漁業組合に幾許かの金を支払い、船を仕立てて貰い、沖で散骨をする。漁港からはその証として、散骨した地点に印を付けた海図が渡されるのだという。その老人も自分もそうして貰うのだと言っていた。しばらくして来なくなったのでおそらく夫人と同じ海に入ったのだろう。この句を作った頃の私は五十五歳位であったか。同世代で寿命を迎えた仲間も少しずつ出始めており、人生も終盤に入ったことを意識し始めた頃であったか。私は次男に生まれて故郷を出ているし、娘二人は別の苗字になるのであるから、墓を構える意味はあまり無いように思っていたのである。七月七日が誕生日で『銀漢』という句集を出し、銀漢亭という居酒屋を開いたのであるから、宇宙に散骨して貰うなどという時代も来るのかな、と思った。但し今思えば宇宙塵を作ることになるのであるから有ってはならないことである。

ある朝付け火のごとく曼珠沙華

 会社勤めをしていた頃、九州に出張し、福岡から熊本へ向かったことがある。熊本へ入ると田圃の畔が赤い。何だろうと目を凝らすと、曼珠沙華である。私の在所の信州ではあまり見ない花だが、この沿線は畔を縁取るほどであるから衝撃的な風景であった。それで思い出したのが〈曼珠沙華抱くほどとれど母恋し 中村汀女〉の句であった。初学の頃、好きな句を挙げろといわれたらこの句を答えたものである。そういえば汀女は熊本の出身であり、最も親しい花の一つだったのだな。と思い当たった。俳句を始めると、それまで花としか認識していなかった路傍の花にも目が行くものだ。曼珠沙華は葉をもたぬままいきなり咲く。朝の散歩で、昨日と違うそれを見て、なんだか放火に遇ったようだなと思った。八百屋お七の時代なら、「付け火」という言葉になろうか。俳句は日本の詩歌の末尾に位置するものであり、音読みの言葉よりも訓読みの言葉の方が合う文芸だと思っている。
















     


 



俳人協会四賞・受賞式





更新で5秒後、再度スライドします。全14枚。







リンクします。

haishi etc
        












銀漢の絵はがき


挿絵が絵葉書になりました。
Aシリーズ 8枚組・Bシリーズ8枚組
8枚一組 1,000円

ごあいさつにご利用下さい。






        

      








掲示板














               
 
     

「銀漢」季語別俳句集


26

拡大します。
銀漢季語別俳句集
待望の『季語別俳句集』が3月に刊行されました。


2021/3/25   更新













主宰日録  

  

4月

4月6日(水)
「伊那北会」で群馬県太田市の名城金山城へ。昨年も来たが、大雨で断念し再挑戦。晴れる。途中、大光院の桜、新田義貞供養塔のある金龍寺など見学。「万徳」の桜餅、草餅を買う。「金山城跡ガイダンス施設」で歴史を確認したあと、城跡へ。関東の戦国期の城で石垣を使った珍しい城。見事! 眺望もいい。あと関東最大級の前方後円墳、太田天神山古墳を歩き、17時。2軒ほど飲食し、0 時前帰宅。28,000歩。

4月7日(木)
「馬酔木」同人評、点検、加筆の上、徳田千鶴子主宰に送る。作句。18時、日暮里、伊藤政三さんの2号店、初音小路のスナック「雪月花」へ。堀切克洋君、パリから一時帰国で1日店長。小さな店に30人以上集まったか、あと近くにある一号店の「夕焼け酒場」。

4月8日(金)
快晴。仕事も一段落にて、自転車で祖師谷大蔵の「オオゼキ」、海苔屋など。昨日、夕焼けだんだんで買った筍と若竹の炊き合わせ。蕨と油揚げ炊き合わせ。島らっきょ、セロリの豆豉炒め。

4月9日(土)
作句。子規についての調べ。家族他家の夕食に行ったので、かじき鮪の酒粕漬、若竹煮、蕨と油揚煮などで酒少々。

4月10日(日)
久々、自転車で散策。Tシャツでも汗ばむような陽気。飛露さんより、自句自解、先月と同じ句を送ってきたが……と。言った事を忘れるのはまだしも、先月書いた事を忘れるとは! 我ながら情けない。書き直す。

4月11日(月)
京都、和田ちゃんより筍到来。刺身で食せと。「あ・ん・ど・うクリニック」前から指摘があるが、血糖値がじりじり上がってきており、対策考えるようにと。

4月12(火)
快晴続く。夜、発行所にて「火の会」11人。久々、佐怒賀直美さん。秋の伊那の講演用に小林一茶について調べ始める。

 4月14日(木)
「銀漢」6月号の選句など。浜松に行った時、買っておいた浜納豆を使ってセロリと豚肉の豆豉炒め。明日用にビーフシチューを大量に作っておく。

4月15日(金)
雨。14時から16時。調布市の公開講座で正岡子規についての話。武田花果、我部敬子、大野田井蛙さん来てくれる。20人くらいの教室。あとファミレスで竹内夫人、仲間と歓談。あと井蛙さんと調布の酒場2軒ほど。

4月16日(土)
Sさんの句集稿選句。鈴木貞雄氏の「若葉」が今年で終刊になると。夜、鰯の酢〆、キンピラごぼうなど。

4月19日(火)
18時半、神保町の「ダイニングカフェ エスペリア」。堀切克洋君と銀漢亭アルバイト女子(いづみ、展枝、小石、うさぎ)と会食。あと「魚勝」。

 4月20日(水)
「銀漢」6月号の選句続く。神保町の郵便局で「銀漢」の資金移動。駅構内の喫茶店で作句その他。17時、日暮里の「夕焼け酒場」にて高校同期の「三水会」8人。久々の顔合わせ。あと「雪月花」。清人さんとばったり。

4月22日(金)
農家の野菜買う。巨大な大根、ほうれん草、ラディッシュなど。鰤大根、大根葉と雑魚炒めなど作り置き。伶ちゃん今日が劇団四季ミュージカル「ライオンキング」出演50回目だったと。同人、会員集の選句、選評を終える。

4月23日(土)
14時、堀切克洋君と浅草に待ち合わせ。「駒形どぜう」へ。あと雷門の横「ときわ食堂」。あと「神谷バー」と歩く。「纏句会」出句を2回続けて失念。大慌てで作句。

 4月24日(日)
彗星集の選句選評を送り、6月号終了。豚肉生姜焼、筍と豚肉のオイスター炒め。

 4月26日(火)
大野田井蛙句集『思源』到着。いい仕上がりである。7月号のエッセイ書き始める。夜、自由が丘「UGO」哲君の店。グアムのアキコさんの子息シオン君20歳を祝う。

4月27日(水)
8時、幕張駅。北原泰明君の車で買い出しツアー。「那珂湊おさかな市場」。鮪丼の昼食。「発酵の里こうさぎ」にて漬物、野菜。「めんたいパーク」で「いわし明太」など。15時半、幕張駅で別れる。

 4月28日(木)
作句。「春耕」へ棚山波朗氏の思い出。「俳句てふてふ」句会のミニ講話の下調べ。またまた到来の筍と鶏肉、高野豆腐の馬に。蛍烏賊のさっと煮。

4月29日(金)
高浜虚子についての下調べ。夜、近所のくみちゃんが来るというので、キンピラごぼう。糸こんにゃくの鱈子まぶし、筍の浜納豆炒めなど用意。

 4月30日(土)
快晴。農家の野菜買い、大根と鶏の首肉と炊き合わせ。作句、「銀漢」のエッセイ、コンビニコミック「三丁目の夕日」の「昭和の歳時記」エッセイなど。

5月

5月1日(日)
次女一家来宅。冷凍保存しておいた鮑の酒蒸し、からすみなどを供す。牛ステーキ(塩少々と油で1、2日置くと安い肉がうまくなる)。明後日の足立区の俳句大会用の短冊染筆など。

 5月2日(月) 
「俳句てふてふ」の俳人エッセイなど2本書いておく。

5月3日(火)
「第145回 足立区俳句大会」に特別選者で。コロナで二年越し。青山丈さんと久々にお会いする。小谷武生会長、矢作十志夫氏も旧知。鈴木節子さん選者。いつもは百人程の会というが、70人程は見えたか。終わって16時、北千住。「大橋」は休みにて隣の焼鳥屋「おとんば」あと「千住の永見」。実は10日ほど前から減量を心懸けており、少食に。20時前には帰宅という綺麗な飲み方! 鈴木忍さんの栞ちゃんが「ライオンキング」の伶輔の舞台を見たい! とてチケットを何とか入手。

 4月4日(水)
快晴。10時、橋本駅待ち合わせ。「伊那北会」。バスで津久井湖。上が戦国の巨大な山城の津久井城。堅牢な造りであることが登るに従って解る。眺望よし。16時過、橋本に戻り居酒屋で打ち上げ。

 5月5日(木)
午後、子供達と仲間が来るというのでカレーを作っておく。「銀漢」6月号の校正。たっぷり半日かかる。18時半、発行所にて「十六夜句会」に招かれる。10人ほどと顔を合わせる。あと近くの居酒屋で歓談。あと神保町駅近くの天鴻に寄る。銀漢亭のころよく寄った餃子屋。

5月6日(金)
明日の夕焼け酒場の「銀漢亭の日」用にキンピラ、白滝と鱈子和え、砂肝・やげん・軟骨のニンニク炒めを仕込む。家用にほたて貝のうま煮、里芋煮なども










         
    






今月の季節の写真/花の歳時記



2022/7/28撮影  ストロベリーフィールド  HACHIOJI 






花言葉   「変わらぬ愛」「不朽」「変わらない愛情を永遠に」「永遠の恋」



△ストロベリーフィールド/赤花千日紅
水分含有量が少ないため花保ちがよく、「千日、色あせない(千日、紅が続く)」の意味。
ストロベリーフィールドの名前は、群生する様子がイチゴ畑のように見えることにちなんでいます。
ストロベリーフィールドはキバナセンニチコウ(黄花千日紅)の一品種です。


チガヤ 半夏生 スイートピー ヒメコウゾ 吾亦紅
シマトネリコ 女郎花 ブッドレア 百日紅 藪萱草
ヤナギハナガサ エンジュ 落し文 カサブランカ スイートピー
ヒオウギ 凌霄花 青田 千日紅










写真は4~5日間隔で掲載しています。 
20222/7/28 更新