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 4月号  2022年


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伊藤伊那男作品


主宰の8句



 






        
             

                        

    

今月の目次








銀漢俳句会/2022/4月号




            





 









銀漢の俳句 

伊藤伊那男 


◎大津京と額田王

 かれこれ五十年ほど前のこととなるが、京都国立博物館で近江大津京の崇福寺の塔礎から出土した国宝の仏舎利容器を見て、その見事さに引かれて崇福寺跡を訪ねたことがある。比叡山の山襞深くにその寺跡はあったが鬱蒼とした樹木の中で霊気に満ちていて、怖気付いて退散した思い出がある。
 昨年末京都に遊んだ折、ふと思い立って大津京跡を訪ねてみた。最初に訪ねた半世紀前には少しずつ発掘していたと聞くが概要はまだ確定していなかったように記憶している。天智天皇が白村江の敗戦のあと、慌ただしく奈良から都を移し、五年後に逝去。すぐ壬申の乱が勃発して廃都になってしまったこと、住宅密集地であったことから発掘が進まなかったようである。今、大津市錦織地区では空き地が出ると発掘し、まるでジグソーパズルの欠けたピースのように、所々に宮址の跡が小公園として保存されている。『万葉集』でいうと額田王が活躍した時代である。

  熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな 額田王

は朝鮮半島の新羅討伐に向かう兵を鼓舞した歌として有名である。

  三輪山をしかも隠すか雲だにも情あらなも隠さうべしや  額田王

は奈良の都を離れて大津京へ向かう時の愛惜の歌である。そして大津京で天智天皇の同母弟である大海人皇子(後の天武天皇)との間の相聞歌も有名である。

  あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る   額田王
  紫草のにほへる妹を憎くあらば人妻ゆゑにわれ恋ひめやも 大海人皇子

額田王は当初大海人皇子と結ばれて一女(十市皇女)を設けている。ところがその後、兄の天智天皇(中王兄皇子)の寵妃となったのであるから話は厄介である。右の歌は別れた夫との間の相聞歌であるから、狩のあとの酒宴での余興であったとしても少々不穏である。天智天皇は死の間際に実子大友皇子(弘文天皇)の将来にとって大海人皇子は危険な存在と映り、それを察知した大海人皇子は吉野へ去って戦が始まる。天武天皇の妃は天智天皇の娘鸕野讚良(うののさらら)(持統天皇)であり、天武と額田王の娘が弘文天皇の妃であるから複雑である。壬申の乱以後、額田王の名は出ない。後に大津廃都を訪ねた柿本人麿の歌がある。

  
さざ波の志賀の大わだ淀むとも昔の人にまた逢はめやも













 



  

盤水俳句・今月の一句

伊藤伊那男 

母の忌はまた利休の忌花菜の黄        皆川 盤水
    
句集『曉紅」平成五年作に「母五十年忌にてふるさとへ」の前書付きで〈母の忌の磐城は春の時雨空〉がある。その句から逆算すると母上が亡くなったのは昭和十八年前後、先生は二十五歳位で、当時船舶関係の軍属としてサイゴンに駐在していた頃と推定される。とすれば死に目には会っていないこととなる。利休忌であるから命日は旧暦二月二十八日。句は上五・中七・下五の終りを「き」の音で納めたのが特徴。特に最後の「花菜の黄(●黄に「・」つける)が秀逸である。
                           (平成二十一年作『凌雲』所収)


 



 





彗星集作品抄
  伊藤伊那男・選

屋根に雪家ごとにある物語            深津  博
晩学のおのれ励ます春立つ日           笠原 祐子
好日と大きく記す初日記             中込 精二
貼り薬跡のかゆくて冬終る            小野寺清人
楪や終の住処となりし町             山元 正規
恵方ならん一帆のめざす沖晴れて         伊藤 庄平
日向ぼこ顔の大きくなつてゐし          清水 史恵
寒卵区間記録にあと一個             久保園和美
次の間も餅の間となる昔かな           長井  哲
気流得し鳶のつがひや初御空           笠原 祐子
武甲嶺に一揆ありけり空つ風           夲庄 康代
針山へ寒の入り日の回りくる           三溝 恵子
ストーブの烏賊踊りだす五能線          橋野 幸彦
祠一つ灯る山路を恵方とす            伊藤 庄平
鎌倉の谷戸抜けてくる虎落笛           唐沢 静男
鞠始雅ことばの空高く              清水佳壽美
寒卵どんぶり飯を覆ひけり            宮本起代子
どか雪も災禍を埋むには足らず          宮内 孝子
雪搔きの自づと決まる境界線           渡辺 志水
社より看的の声弓始               朽木  直

 
























    
     

彗星集 選評 伊藤伊那男

伊藤伊那男・選

屋根に雪家ごとにある物語          深津  博
三好達治の短詩〈太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ〉を思い出す。また与謝蕪村の絵画「夜色楼台図」――すっぽりと雪に覆われた京の町の家々に点る灯火――を思い出す。雪籠りの生活、雪による静寂の中で、それぞれの家庭の様々な出来事、物語が際立つ。幸せな家庭が急変することもある。不幸な家庭が好運に恵まれることもある。そうした、悲喜こもごもの人間世界の営みを伝えた、ふくらみのある句となった。 

晩学のおのれ励ます春立つ日         笠原 祐子
人は死ぬまで熱中できる仕事や趣味を持つのがいいように思う。私の父は八十二歳で倒れるまで開業医を勤めていたし、英会話の勉強をしていた。新しい知識を得ることは生きる力となる。仕事をするのは生きる証である。この句は立春に自分を励ます、志のある句だ。高浜虚子の〈春風や闘志いだきて丘に立つ〉の老人版ということになろうか。 

好日と大きく記す初日記           中込 精二
私の師の皆川盤水は「俳句は人を明るくさせるように詠め、美しく詠め、前向きに詠め」と言っていた。「特に正月の句は尚更だ」と言っていた。そうした意味で、この句は満点である。一月一日の新しい日記に大きく今日は好い一日だった、と結ぶ。明るい出発だ。

貼り薬跡のかゆくて冬終る          小野寺清人
つい笑ってしまう句だ。こういう情け無さを詠むのも俳句であり、私は隠しだてのない、この正直さが好きである。年を取ればあちこち痛む。貼り薬が襟から覗くこともある。ようやく暖かくなって膏薬と別れられることになったが、貼り跡が赤く残り、そこが痒い。愉快な句であった。 
 
楪や終の住処となりし町           山元 正規
 私もそうだが、東京という街に半世紀以上住み、故郷の家はもはや無く、多分東京が終の住処になりそうだ。この句の町は何処であるかは解らぬが、同じような境遇の方であろう。句のいい所は「楪」の取合せである。新しい葉が生長してから古い葉が譲って落ちる。世代を譲るお目出度い樹木である。新しい世代はこの町で後を継いで生きていくのであろう。

恵方ならん一帆のめざす沖晴れて       伊藤 庄平
一読、正月らしい、気持の良い句である。順風に帆を膨らませた舟が晴れた沖へ進んでいく。そこが恵方であるに違いないと思う。濁りのない佳句。

日向ぼこ顔の大きくなつてゐし        清水 史恵
 こんな感じになるのが日向ぼこ。実感である。

寒卵区間記録にあと一個           久保園和美
 寒卵一つでそうなるわけではあるまいが、面白い。

次の間も餅の間となる昔かな         長井  哲
正月行事を大事にした頃が彷彿する。 

気流得し鳶のつがひや初御空         笠原 祐子
 鳶の笛が聞こえてきそうである。番であるのもいい。

武甲嶺に一揆ありけり空つ風         夲庄 康代
発想はいい。〈武甲嶺を一揆さながら空つ風〉位か。

針山へ寒の入り日の回りくる         三溝 恵子
 硬質で鋭い針、寒の入り日の硬さという冷たい取合せ。

ストーブの烏賊踊りだす五能線        橋野 幸彦
津軽半島を走るストーブ列車。「踊りだす」がいい。 

祠一つ灯る山路を恵方とす          伊藤 庄平
小さな山村の景。安らぎのある句となった。

鎌倉の谷戸抜けてくる虎落笛         唐沢 静男
 鎌倉ならあちこちに虎落笛がありそうだ。谷戸毎に。

鞠始雅ことばの空高く            清水佳壽美
蹴った鞠を見上げながらの掛声が「空高く」に繫がる。 

寒卵どんぶり飯を覆ひけり          宮本起代子
活力が湧きそうな句。丼飯も平らげられそうだ。 

どか雪も災禍を埋むには足らず        宮内 孝子
 大震災の痕跡、殊に原発の災禍は消えるものではない。

雪搔きの自づと決まる境界線         渡辺 志水
 打水にも同様の事があるが、雪搔となると大変だ。

社より看的の声弓始             朽木  直
 弓始の淑気が伝わってくる句だ。「当り」の声が。









 






銀河集作品抄

伊藤伊那男・選

霊験のことに信貴山一の寅       東京  飯田眞理子
年用意仕上げに直す絵の傾ぎ      静岡  唐沢 静男
ほのぼのと線香けぶる五日かな     群馬  柴山つぐ子
綿虫を追へば傾く深大寺        東京  杉坂 大和
近松忌
黒豆の一粒づつの淑気かな       東京  武田 花果
黄泉返るとふ湯の里の冬灯       東京  武田 禪次
猟人の指笛山を貫けり         埼玉  多田 美記
五歳児の上手に老けて聖夜劇      東京  谷岡 健彦
冬霧のエルミタージュに千の部屋    神奈川 谷口いづみ
浮寝鳥居れば始まる数へ癖       長野  萩原 空木
福引の玉落ちてから止まるまで     パリ  堀切 克洋
鎌鼬出さうな笹の揺れ具合       東京  松川 洋酔
妻留守の二日おでんを煮返して     東京  三代川次郎



















         





綺羅星集作品抄

伊藤伊那男・選


湯垢離から雪垢離となる熊野道      東京  伊藤 政三
数へ日を神幸はへる熊野路に       東京  柊原 洋征
三十三間堂をつらぬく咳ひとつ      東京  渡辺 花穂
鶏は祖母と仲良し寒卵          神奈川 有賀  理
神のもの包む風呂敷里神楽        東京  小山 蓮子
友垣のこゑを薬に春を待つ        東京  半田けい子
寒鰤の出世の果ての糶舞台        東京  橋野 幸彦
和を以てふうふうとする大根焚      大阪  中島 凌雲
重心の馴染んできたる鏡餅        埼玉  森濱 直之
歌骨牌(うたかるた)取つて小町の歳知れず       東京  飛鳥  蘭
凍滝の怺へきれざる声絞る        東京  大住 光汪
月代の青きが浅野菊人形         埼玉  小野寺清人
舌切りの噂頻りや寒雀          長野  坂下  昭
ずわい蟹肘を大きく糶られたる      東京  中村 藍人

風見鶏いつも海向き冬館         埼玉  秋津  結
そぞろ行く試歩の小径を恵方とす     宮城  有賀 稲香
はつゆきや色無き街の靴の跡       東京  有澤 志峯
山の神へ一振り打つや鍬始        東京  飯田 子貢
銭湯の朝の煙も初景色          東京  生田  武
伸ばす手の今は二人の蜜柑籠       埼玉  池田 桐人
書初の老いの震へを味といふ       東京  市川 蘆舟
庄助の山の明けゆく初湯かな       埼玉  伊藤 庄平
鏡餅座敷童の分までも          神奈川 伊東  岬
初景色遠山の名は知らぬまま       東京  今井  麦
柳箸家族の干支の箸置と         埼玉  今村 昌史
地にともす光の一顆冬の蝶        東京  上田  裕
俎板の表も裏も年新た          東京  宇志やまと
切り貼りの障子明るき座禅堂       埼玉  大澤 静子
角餅の角が無くなる雑煮かな       神奈川 太田 勝行
濃き淡き思ひ交へて年賀状        東京  大沼まり子
歌留多会業平公を押さへ込む       神奈川 大野 里詩
まだ温き夢の続きや蒲団干す       埼玉  大野田井蛙
行きて見つ振りかへり見つ冬の滝     東京  大溝 妙子
枡酒の一口に酔ふ老の春         東京  大山かげもと
餅を切る役目ゆづらず家長たり      東京  岡城ひとみ
丈長の重き笹竹煤払           東京  小川 夏葉
凍鶴や会話ときをり超音波        宮城  小田島 渚
釣河豚の柔き腹撫づ鳴きにけり      宮城  小野寺一砂
鉄瓶の坐る五徳や去年今年        和歌山 笠原 祐子
寒紅をさす花びらを置くやうに      東京  梶山かおり
居たはずの女の匂ひして七日       愛媛  片山 一行
一笛の開く乾坤初神楽          東京  桂  信子
律儀にも鯛焼の餡尻尾まで        静岡  金井 硯児
着ぶくれて那智飴を売る媼かな      東京  我部 敬子
石庭にさざ波の立つ春初         東京  川島秋葉男
玉砂利を行く奉納の鏡餅         千葉  川島  紬
すが漏りのにほひの家に帰りけり     長野  北澤 一伯
顔見世に無沙汰を詫ぶる客同士      東京  絹田  綾
松過や馴染みの碗と箸並ぶ        神奈川 久坂衣里子
御簾上がるごと冬霧の竹生島       東京  朽木  直
省略のまたひとつ増え年用意       東京  畔柳 海村
いささかに痩せたる箒落葉掃く      東京  小泉 良子 
隅といふすみに寄りあふ落葉かな     神奈川 こしだまほ
ちちははの声の聞こゆる初景色      東京  小林 美樹
代々の世迷ひ言聞く瀬戸火鉢       宮城  齊藤 克之
焼芋のほくほく友は聞き上手       青森  榊 せい子
鳥食めくおせち料理のひとり分      長崎  坂口 晴子
人日の訪ふ人のなき一日かな       群馬  佐藤 栄子
羽ばたいてゐるかのやうな君子蘭     群馬  佐藤かずえ
水餅の真綿色めく白さかな        長野  三溝 恵子
差し引いて幸がやや勝つ年の暮      東京  島  織布
梅林の富士を見透かすほどの蕾      東京  島谷 高水
神宿る鞠をみ空に鞠始          兵庫  清水佳壽美
道場の神棚に座す鏡餅          埼玉  志村  昌
初明り老松もやや背を正し        千葉  白井 飛露
寒月や影折れ渡る太鼓橋         神奈川 白井八十八
法然の入寂の地や敷松葉         東京  白濱 武子
年用意鱠の鰤に塩を着せ         東京  新谷 房子
裸木の光背となる朝日かな        大阪  末永理恵子
鮟鱇吊るあくびの様な口開けて      東京  鈴木 淳子
雪雲や今朝は妙義に逆巻ける       群馬  鈴木踏青子
けふの紅濃さも一日の初鏡        東京  角 佐穂子
オリオンを仰ぐ足元まで宇宙       東京  瀬戸 紀恵
そのかたち和菓子となりて寒牡丹     神奈川 曽谷 晴子
炬燵にて弾む雨夜の品定め        長野  髙橋 初風
撫牛の角磨きたる空つ風         東京  高橋 透水
飛ぶ雪の熊野詣となりにけり       東京  武井まゆみ
柏手のひとつ大きく初明り        東京  竹内 洋平
顔見世に母の形見の帯締めて       神奈川 田嶋 壺中
吾が胸へ落つるがごとく冬の滝      東京  多田 悦子
七草打つ母に教はるお(まなじ)ひ        東京  立崎ひかり
初句会夢の中での名のりかな       東京  田中 敬子
御供餅小さき祠の摂末社         東京  田中  道
日を恋ひて日に崩るるや寒牡丹      東京  田家 正好
腹蔵の腹を搔きをり懐手         東京  塚本 一夫
手袋の指で数へる日数かな        東京  辻  隆夫
年忘れ既に忘れしこと数多        東京  辻本 芙紗
菰巻の蘇鉄のいよよ天を衝く       東京  辻本 理恵
数へ日や余白の目立つ年となり      愛知  津田  卓
涸池の入り日啄むかいつぶり       東京  坪井 研治
古道なほ暮しの小径冬日向        埼玉  戸矢 一斗
鯛焼のここら辺りに鯛の鯛        千葉  長井  哲
短日や一畝残す畑仕事          神奈川 中野 堯司
寄鍋や夫婦それぞれ故郷持ち       東京  中野 智子
男らはやがて翁に水洟かむ        東京  中村 孝哲
ためらはず妻買ふ十年日記かな      茨城  中村 湖童
父帰る取り置きゐたる鰤のかま      埼玉  中村 宗男
書かぬ日のありてまたよし古日記     千葉  中山 桐里
本尊の指紋も拭ひ年用意         大阪  西田 鏡子
越中の荒磯あらは鰤おこし        東京  西原  舞
西行の話に戻る花筵           東京  沼田 有希
枯菊を焚く香ほのかに仏の間       広島  長谷川明子
このあたり小江戸と呼ばれ切山椒     東京  長谷川千何子
悼・梅沢フミ様
寒梅や投句済ませて逝かれしと      神奈川 原田さがみ
東雲の空に群れ鳴く初鴉         兵庫  播广 義春
カトレアの青春讃歌歌ふかに       東京  福永 新祇
年忘れ我が幸せは忘れ癖         東京  福原  紅
赤き目を残し脱兎の雪兎         東京  星野 淑子
父母の齢を越えし温め酒         東京  保谷 政孝
冬霧や家の明かりを熾火とす       岐阜  堀江 美州
枕辺に座礁しかけて宝船         埼玉  夲庄 康代
藤薫る御息所の想ひふと         東京  松浦 宗克
帯締をくはへ振り向く初鏡        東京  松代 展枝
御手付きに天仰ぎけり歌がるた      京都  三井 康有
枯れきつてさだかになりぬ獣道      東京  宮内 孝子
義士の日のならひ白餅購へり       神奈川 宮本起代子
梅沢フミさん追悼
寒梅を愛でんと旅に立たれしか      東京  村田 郁子
ぬかづけば父母見ゆる初山河       東京  村田 重子
人の日の犬の言葉がわからない      東京  森 羽久衣
初明り闇を濃くして浮御堂        千葉  森崎 森平
福笑わらひ上戸の母の顔         長野  守屋  明
鰤網を放つ立山捉ふるかに        東京  保田 貴子
餅好きの母と餅搗好きの父        愛知  山口 輝久
錆色の宿木高く寒四郎          群馬  山﨑ちづ子
牡蠣鍋や縁に府中の合せ味噌       東京  山下 美佐
走り出す勢ひ増して狩の犬        東京  山田  茜
炉ゆ和讃うたひ継がるる観音堂      群馬  山田  礁
年ごとに縮む身の丈着膨れて       東京  山元 正規
冬うらら九十五歳の天寿かな       愛媛  脇  行雲
龍馬像思案投げ首懐手          埼玉  渡辺 志水


















銀河集・綺羅星今月の秀句


伊藤伊那男・選

黄泉返るとふ湯の里の冬灯          武田 禪次
湯垢離から雪垢離となる熊野道        伊藤 政三
数へ日を神幸はへる熊野路に         柊原 洋征
 私も参加した年末の煤逃吟行会の佳什である。禪次句は説教節の小栗判官再生の秘湯、熊野の湯の峰温泉の嘱目である。普通は「蘇る・甦る」と表記するのだが、この句は故事を踏まえて「黄泉返る」としたのが眼目で、この言葉遣いであの長い物語が全て語り尽くされる。まさに言霊の籠った一句である。政三句は具体的に参宮前の湯垢離を詠み、そのあと雪に遭遇したことを「雪垢離」と捉えたところが巧み。洋征句は「神幸(さき)はへる」が眼目。神々の存在がひしひしと感じられる熊野路の数え日の旅への感謝が籠ったいい挨拶句である。吟行は大事だなと思う。それも一人の旅であったらこれらの句は生まれてこなかったのではないかと思う。緊張感を持った座があってこそ、である。

子規思ふ雪見障子を開けてより        杉阪 大和
 正岡子規の〈いくたびも雪の深さを尋ねけり〉を踏まえた句である。病臥の子規には庭に降る雪は見えても、どれ位積もったのかは解らない。母八重や妹律が来るたびに尋ねるのである。その悲しさを作者は思うのである。同時出句の〈綿虫を追へば傾く深大寺〉もいい。深大寺には石田波郷の墓がある。波郷には〈綿虫やそこは屍の出てゆく門〉〈いつも来る綿虫のころ深大寺〉があった。これを踏まえて「傾く深大寺」と独自の視点を加えた妙味である。以上の二句、俳句は年季が大事、年季が磨いた句だな、と思う。

三十三間堂をつらぬく咳ひとつ        渡辺 花穂
三十三間堂という固有名詞を最大限に使い切った句である。平清盛が後白河法皇に献上した法堂で運慶指揮の千体仏が並ぶ。その長い堂を咳一つが貫く。冬の静寂さが具体的である。千(・)体仏と咳一(・)つの対比がいい。加えてここは江戸時代に通し矢で有名であった。「つらぬく」にはその故事も含まれている筈であり、地名歳時記の第一等の例句として載せていい名作である。 

鶏は祖母と仲良し寒卵            有賀  理
 「祖母と仲良し」が何ともいい。こういう捉え方を見ると、俳句という短い文芸にも人柄や個性が滲み出るものだな、と思う。三歩歩いたら全部忘れるという鶏だが、餌をくれたり、優しいお婆ちゃんのことはちゃんと覚えているのである。温かな句だと思う。類句も無い。

神のもの包む風呂敷里神楽          小山 蓮子
「神のもの」の打出しがいい。普段は農業を営んでいる村人が年に一度の神楽を演じる。その神になるための衣装や面を包んだ風呂敷である。控室で開き、いよいよ身に纏う場面であろう。的確で簡潔な把握のできた句だ。

友垣のこゑを薬に春を待つ          半田けい子
 昔、高齢の句友が「遠くの親戚より近くの句友」と言った。俳句仲間は句会の出欠や俳句の内容から相手の事が解り合っているので体調を崩した時など、逸早く声を掛けてくれて頼りになる関係だという。本当に俳句からその人の来歴や暮しぶり、思想までが解ってくるものである。句を発表し合うことが励み。そんなことを感じた句だ。

寒鰤の出世の果ての糶舞台          橋野 幸彦
 鰤は関東では、わかし・いなだ・わらさ・ぶり、関西では、つばす・はまち・めじろ・ぶり、と成長につれて名前が変わる「出世魚」である。六㎏位からが鰤である。冬が旬の魚だが、寒中の鰤が最も珍重される。その最後に水揚げされて糶られる。その過程を「出世の果ての糶舞台」と持ってきたのが洒落た発想、巧みな構成である。

和を以てふうふうとする大根焚        中島 凌雲
「大根焚」は京都鳴滝の了徳寺の冬の行事。村人が親鸞上人に差し上げた故事に発するという。親鸞を慕って当日は老若男女が集い、煮大根を頂く。熱い椀を抱えている善男善女の様子を「和を以て」と打出し、「ふうふう」と諧謔を入れる。この運びは自由闊達、融通無碍。

重心の馴染んできたる鏡餅          森濱 直之
搗きたての柔らかな餅がだんだん固まって座りがよくなっていく。その経過を重心が馴染んできた、と独自の表現で捉えたのは手柄であった。時と共に威厳が出てきている様子の描写が上手い。

歌骨牌取つて小町の歳知れず         飛鳥  蘭
小野小町が深草少将ほか男達を惑わせたのは何歳位の頃のことか……。そんな発想が面白い。では卒塔婆小町になったのは何歳位からなのか?そんなことを思っていると次の札を取られてしまいそうだ。 

 その他印象深かった句を次に

凍滝の怺へきれざる声絞る          大住 光汪
月代の青きが浅野菊人形           小野寺清人
舌切りの噂頻りや寒雀            坂下  昭
ずわい蟹肘を大きく糶られたる        中村 藍人

















                






 

星雲集作品抄
伊藤伊那男・選
秀逸

寒雀剝がれるやうに去りにけり     長野  中山  中
銭湯の籐籠に艶日脚伸ぶ        長野  池内とほる
我は五年妻十年の日記買ふ       東京  中込 精二
置炬燵罠のごとくに置かれけり     埼玉  深津  博
賀状での無事の確認五十年       福岡  藤田 雅規
放哉と同じ心情夜の咳         東京  西  照雄
雲の間に青空のぞく鏡割        広島  塩田佐喜子
金太郎の飴の切り口初笑        東京  尼崎 沙羅
初凪へ鷗を起こす船出かな       神奈川 河村  啓
地吹雪の故里遠し旅鞄         福島  髙橋 双葉
行く年や残る思ひも鐘の中       広島  藤堂 暢子
東京の単線駅の山葵売り        埼玉  加藤 且之
独り居の落とすに惜しき柚子湯かな   静岡  山室 樹一
もう一人ねぢ込んでみる炬燵かな    東京  荻野ゆ佑子
着ぶくれて耳学問を憚らず       栃木  たなかまさこ

相席も鰥夫の匂冬の雨         広島  井上 幸三
白山の雪より白きかぶら寿司      愛知  河畑 達雄
晦日蕎麦あと七度で妣の歳       東京  井川  敏
玄関のサンタピザ屋を名乗りけり    長野  樋本 霧帆







星雲集作品抄

            伊藤伊那男・選

雪踏めば雪のあをさをみつけたり    京都  秋保 櫻子
読初は南無阿弥陀仏かぞへ唄      愛媛  安藤 向山
花曇死語の予感を吊り下げて      東京  石倉 俊紀
花奪ひや背伸びの先の神ごころ     東京  伊藤 真紀
青空にすがし確かむ桜の芽       愛媛  岩本 青山
速足の妻にはぐれし年の市       長野  上野 三歩
風音の高くなりたる初比叡       東京  上村健太郎
路地裏にカレーの匂ふ寒四郎      長野  浦野 洋一
枯菊を吾が身のごとく括りけり     埼玉  大木 邦絵
十二人家族の頃の小正月        東京  岡田 久男
ベランダの鉢に餌おく初雀       長野  岡村妃呂子
遠景の山は逆光寒茜          神奈川 小坂 誠子
面一本期して床拭く寒稽古       埼玉  小野 岩雄
目で比べ重さで選りし福袋       静岡  小野 無道
歌留多読む声の減り張り母譲り     東京  桂  説子
廃校の尊徳像や冬ざるる        東京  釜萢 達夫
埋火を起こし一日の一歩とす      長野  唐沢 冬朱
青鷺の冬の池底見逃さず        愛知  北浦 正弘
初鏡口紅の封ほどきけり        東京  北川 京子
凍鶴の時の等しく流れけり       神奈川 北爪 鳥閑
早速に怠け心の三日かな        東京  北原美枝子
早梅や薄日を受くる力石        東京  久保園和美
鉄籠に矩形の焰飾焚く         東京  熊木 光代
早梅に絵馬の重たき湯島かな      東京  倉橋  茂
藪入や野麦峠の語り草         群馬  黒岩伊知朗
天辺のだるま火を待つどんど焼     群馬  黒岩 清子
大の字になりて初湯の波高し      三重  黒岩 宏行
雪搔きの手の止まりたる雪景色     東京  黒田イツ子
紙の虎に鋏で目鼻年始         神奈川 小池 天牛  
温もりも夢もたたみし蒲団かな     東京  髙坂小太郎
白菜を男料理と手で千切る       東京  小寺 一凡
初明り糊の利きたる割烹着       千葉  小森みゆき
果て迄も良き声届け寒鴉        神奈川 阪井 忠太
巻き戻すごと枝に跳ぶ寒雀       長野  桜井美津江
おみくじの納め処や雪深々       東京  佐々木終吉
鐘撞きて心落ち着く年新た       群馬  佐藤さゆり
数へ日やなにとはなしに指折りぬ    東京  島谷  操
浪江町汚染にめげず咲く椿       東京  清水 旭峰
人日や疼き始めし糸切歯        東京  清水 史恵
総身を声の限りに寒鴉         東京  清水美保子
一陽来復庭木をわたる番鳥       千葉  清水 礼子
火を灯し新年を待つ氏子達       群馬  白石 欽二
ゴーギャンの一枚にある春思かな    大阪  杉島 久江
むささびの洞は名の木や屋敷神     東京  須﨑 武雄
蔦枯れてなほ木の幹を縛りをり     岐阜  鈴木 春水
小さき手も皺の手も借る年の餅     愛知  住山 春人
風つかむまでのだだつ子奴凧      千葉  園部あづき
八十島の影神々し初霞         埼玉  園部 恵夏
片づけのまたも果たせず年の夜     東京  田岡美也子
水涸るる水面に鳥のただ一羽      東京  髙城 愉楽
神棚に運を預けて鏡餅         埼玉  武井 康弘
山麓の凩夜の阿修羅かな        東京  竹花美代惠
賑はひのあとの静けさ鏡餅       東京  田中 真美
友よりの電話嬉しき冬ごもり      神奈川 多丸 朝子
初詣ふるまひ酒にあたたまる      愛知  塚田 寛子
風上に身を預けつつ雪吊す       埼玉  内藤  明
富士望む相模二の宮初詣        神奈川 長濱 泰子
たぐり寄せたぐり寄せては毛糸編む   京都  仁井田麻利子
虎の眼に引き込まれつつ年新た     宮城  西岡 博子
薄日射し寒中の寒和らぎぬ       静岡  橋本 光子
下足札忘れぬやうに年忘        東京  橋本  泰
喪中はがき冬至南瓜は煮崩れて     神奈川 花上 佐都
年女八回りめと賀状かな        長野  馬場みち子
蠟梅の香の先の遠筑波         千葉  針田 達行
雪しまき遥けく灯油売りの唄      神奈川 日山 典子
立てかけたままのスコップ雪催     千葉  深澤 淡悠
霜柱つぶやくやうに崩れゆく      長野  藤井 法子
雪吊の揺らぎに松の泰然と       東京  牧野 睦子
早梅の知らせに友と旅程組む      東京  幕内美智子
安寧を富士に頼まん初詣        神奈川 松尾 守人
喜寿なれど矍鑠として餅を搗く     愛知  松下美代子
靴底で深さ探りて雪の道        東京  丸山真理子
福寿草咲いて伸びたる寿命かな     東京  水野 正章
平積みの表紙煌めく日記買ふ      東京  棟田 楽人
のら猫が寅に化けたり年新た      東京  家治 祥夫
羽子の音の数へておぼろ真青空     東京  矢野 安美
初明り角の取れたる海の石       東京  山口 一滴
新聞のしつぽが切れし奴凧       群馬  山﨑 伸次
枯れてより輝きを増す薄かな      神奈川 山田 丹晴
福寿草日差しを受ける出窓かな     群馬  横沢 宇内
寝る時は断然寝ると寝正月       神奈川 横地 三旦
初雪と言うてゐる間に上がりけり    神奈川 横山 渓泉
柏手を打てばざわつく初鴉       千葉  吉田 正克
芹の水北国の空澄みにけり       山形  我妻 一男
富山湾ビルは微かに蜃気楼       東京  若林 泰吉
手を合はせ母の日めくり年始      神奈川 渡邊 憲二
小康をまづは佳しとし柚湯かな     東京  渡辺 誠子
立山は雲の中なり鰤起し        埼玉  渡辺 番茶




















星雲集 今月の秀句

伊藤伊那男

寒雀剝がれるやうに去りにけり     中山  中
 同時出句に〈母逝けど軒端に集ふ寒雀〉〈寒雀小枝の撓ふ重さかな〉〈群れなすもなさざるもゐて寒雀〉があった。寒中は食料が乏しいせいか雀は人家の近くに来るので目立つものである。寒さの為か瘦せて見えたりするし、防寒のため羽毛を膨らませて「ふくら雀」になったりする。冒頭の句を含めた連作はそうした雀の様子をよく捉えているようだ。中に母上が亡くなったことも織り交ぜて人生の一齣を詠み切っている。


銭湯の籐籠に艶日脚伸ぶ        池内とほる
私が東京に出てきた五十年前には一つの駅の周辺に二つ三つの銭湯があったものだが、今は捜すことが難しい。籐や竹で編んだ脱衣籠があったものだ。たまに早い時間に行くと、それまでは届かなかった日差しが脱衣籠にまで伸びている。そんなところに目が行ったところがいい。籐籠という「物」に焦点を絞り、「艶」を発見した丁寧な詠みぶりが成功の秘訣である。 


我は五年妻十年の日記買ふ       中込 精二
令和二年の「簡易生命表」によると日本人の男性の平均寿命は八一・六四歳、女性は八七・七四歳。女性の方が六歳ほど長寿という結果である。そうであれば、まさにこの句は理論的である。七十代も半ばの男は怯えながら暮しているのである。 


置炬燵罠のごとくに置かれけり     深津  博
人はどうしても易きに行ってしまうもので、炬燵があれば潜ってしまう。炬燵の上に蜜柑があれば食べる。そのような炬燵のことを「罠のごとく」と捉えたのは類例を知らない、独創的な発想であった。 


賀状での無事の確認五十年       藤田 雅規
私は年賀状を出すことを止めてしまったが、二十代の初め以来一度も会わなかった方々とも遣り取りがあった。まさに生存確認といったところだ。五十年間延々とそれが続いている、と淡々と詠んでいるのが面白い。
 


放哉と同じ心情夜の咳         西  照雄
〈咳をしても一人 尾崎放哉〉がある。印象に残る表現だが、私はこの形態を俳句と呼んで良いのかというと否定派である。短詩としての斬新さはあるが、これが俳句として通用するのは困る。俳句を破壊してしまう。それはさておき、掲句はいい。本歌取りのうまさである。 


地吹雪の故里遠し旅鞄          髙橋 双葉
昨今の気象の変動を見ると積雪、地吹雪は只ならぬ状況である。交通が遮断されることも度々だ。身内を訪ねようとしたのであろうか、旅の荷を用意したものの出掛けられずにいる雰囲気が「遠し」の表現から伝わってくる。 


行く年や残る思ひも鐘の中        藤堂 暢子

「鐘の中」は除夜の鐘が鳴っている間、ということであろう。この一年の間のさまざまの事が甦る。濃密な思いも「鐘の中」と大胆に省略したのが手柄である。 


東京の単線駅の山葵売          加藤 且之
JR青梅線であろう。御嶽駅、奥多摩駅辺りで、地元産の山葵を売っている。丸ごと葉が付いている。この葉が大事で浸し物にするといい。動詞を使わないで、東京という大きな街から奥多摩の山葵まで、思い切り焦点を絞り込んだ構図の面白さである。 


もう一人ねぢ込んでみる炬燵かな     荻野ゆ佑子
炬燵の句として珍しい詠み方の句だ。私などは家族の多かった子供時代を懐かしく思い出す。四人では収まらないので一辺に二人位が入る。友人などが交われば大変な混雑である。「ねぢ込んでみる」が楽しい表現であった。


着ぶくれて耳学問を憚らず        たなかまさこ
実は私も耳学問である。知的欲求は強いけれど、世の学者のように積み上げていく学究生活ができたかと自分に問うと無理である。「憚らず」と言い切ったのがいい。 


相席も鰥夫の匂冬の雨          井上 幸三
 「鰥(やもめ)」は不思議な字で、私は語源をまだ知らない。ともかく「寡婦」のことを言う。妻に死なれた男は本来は「男鰥」である。ともかく妻に先立たれた男が居酒屋に来ていて、どうやらまだ話をしていないが、同じ鰥の雰囲気がある。「鰥夫の匂」が何とも悲しくていい。私も鰥。
その他印象深かった句を次に


白山の雪より白きかぶら寿司       河畑 達雄
金太郎の飴の切り口初笑         尼崎 沙羅
晦日蕎麦あと七度で妣の歳        井川  敏
玄関のサンタピザ屋を名乗りけり     樋本 霧帆 
独り居の落とすに惜しき柚子湯かな    山室 樹一

























伊那男俳句


伊那男俳句 自句自解(75)        
   
叡山の風呼び寄する白扇子
 若い頃過した京都の夏はつくづく暑かった。信州で育った私には学生時代の東京の夏も暑かったが、あたかも擂鉢の底のような地形の京都は更に身体に粘り付くような暑さであった。社会人として赴任して背広とネクタイで身を固めているのであるから尚更である。当時の独身寮には各部屋のクーラーは無かったし、会社の営業車のパブリカにもまだカークーラーは付いていなかった。たまに御池通りの並木の木陰に車を止めて転た寝をしたが、起きると背広ごと汗まみれになっていた。祇園祭に父母が遊びに来たことがあるが、宵宮の人混みと最高潮の暑さに心底驚いていたようで、ほうほうの態で帰っていった。京都は扇子の似合う町である。創業は江戸時代というような扇子の専門店が幾つもある。京の人が鴨川の川床で扇子を使っている姿などを垣間見ると、歴史が磨いた粋というものがあるな、と思う。京都の鬼門を守る比叡山の涼風を招き寄せているようにも見えた。

涅槃図に入りきれざる鳥のこゑ

 もう二十年ほど前の春耕の時代のこと、一泊二日の五十句鍛錬会を提案し、棚山波朗氏を頭に若手を集めて、武田禪次さんの世話であったと思うが、群馬県の三国峠の下の法師温泉の一軒宿「長寿館」に集合した。確か三月中旬位で宿は厚い雪の中にあり、完全な缶詰状態であった。席題を五つ出して一時間後に出句するなどということを夜中まで続けた。春耕では席題句会の習慣がほとんど無かったので皆呻吟した。私は題が出ると温泉に入り、句を思い付くとメモ用紙に書き付けた。そんなわけで七、八回入浴したのであった。杉阪大和さんは俳句を始めて日の浅いこともあって夜中に布団を被って懐中電灯を灯して作句したという。松川洋酔さんは翌日上野に戻ったとき「風呂に入りたい」と言った。作句に追われて一度も温泉に入らなかったようだ。上野の山の露店と居酒屋とで二回句会をして五十句に達した。掲出句はその五十句の中で私としては会心の作がこの句であった。






     


 



俳人協会四賞・受賞式





更新で5秒後、再度スライドします。全14枚。







リンクします。

aishi etc
        











銀漢の絵はがき


挿絵が絵葉書になりました。
Aシリーズ 8枚組・Bシリーズ8枚組
8枚一組 1,000円

ごあいさつにご利用下さい。






        


 

        








掲示板










               
 
     

「銀漢」季語別俳句集


26

拡大します。
銀漢季語別俳句集
待望の『季語別俳句集』が3月に刊行されました。



2021/3/25   更新










主宰日録  

  

12月

12月29日(水)
9時「高木珈琲」。京阪電鉄で浜大津。大津京跡を巡り近江神宮拝す。義仲寺久々の訪問。石山寺を訪ね、長浜へ。2日間の大雪のあと。5時「住茂登」(鴨料理)、鮒鮓、琵琶鱒、似鯉の刺身、鴨の抱身の照焼、鍋、おじや。酒は七本槍、松の司。ホテルイエス長濱泊。

12月30日(木)
10時半「翼果楼」にて鯖そうめん、小鮎煮で七本槍の朝食。さて竹生島を訪ねようと船着場に行くと一番船は出たが、風の為着岸できず戻り、本日欠航と。帰ることにする。ふと思い立って静岡に下車し、青葉横丁の静岡おでんの店に入る。10時過ぎ帰宅。

12月31日(金)
10時半、1週間の郵便の山! 数日前からスキーに行っていた家族戻り、近所のN家で四家族の忘年会。カラスミ、とろろ汁など持参。鮑用意してあり、刺身とバターソテーを担当。晦日蕎麦のあと年明けの挨拶をして一足先に帰宅。

令和4年

1月

1月1日(土)
快晴。白味噌雑煮用意。昼、揃ってお節で新年の祝。昼寝。夜、河豚鍋、おじや、ひれ酒。

1月2日(日)
伶君、ライオンキングの昼公演。澄まし汁の雑煮。銀漢新年俳句大会の選句。自句自解他エッセイ。山下美佐さんの姉上、田中敦子さんの『父のおじさん』を読初めとす。カラスミ干し上がる。夕食、タラバ蟹、鮪山かけ。

1月3日(月)
到来のズワイ蟹を処理。久々駅前に買物。叩きごぼうを作る。夕方杏一家来て新年会。カラスミ新物を披露。鮪。

1月4日(火)
諸用で発行所。馴染みの店2軒ほど小酌して挨拶。

1月5日(水)
ヘアメイクの中川さん来てくれて短髪に。俳人協会賞候補7句集を読み始める。蒟蒻の炒め煮。白菜と油揚げの焚合せ。鮪のヅケのステーキ。

1月6日(木)
同人最長老の梅沢フミ様逝去の報。大晦日、百五歳と。合掌。雪。十六夜句会に招かれていたが、雪で中止と。長芋、下仁田葱のバターソテーなどの夕食。

1月7日(金)
12時、浅草。伊那北会。浅草七福神詣(九ヶ所あり)。雲一つない雪晴れ。浅草寺大黒天、浅草神社恵比寿、待乳山聖天の毘沙門天、今戸神社福禄寿、橋場不動の布袋、石浜神社の寿老人までを廻り、ついつい立飲み店。吉原神社の弁財天までとする。矢先稲荷の福禄寿は省く。雷門横の「常盤食堂」で打上げ。鰺フライ、カラスミの西京漬など、旨い!

1月8日(土)
銀漢2月号の校正。片山一行氏句集序文の構想。少々2日酔い。湯豆腐の夕食。

1月10日(月)
終日、銀漢3月号の選句。夜、筍芋と高野豆腐の焚合せ。牛ステーキ久々焼く。ハムステーキも。

1月11日(火)
発行所にて火の会11人。

1月12日(水)
農家久々訪ね野菜買う。赤大根と塩昆布の浅漬け。ホーレン草、菜花など下処理。三浦大根の葉、炒める。あ・ん・ど・うクリニック。あと久々オオゼキで海鼠、鰯など。

1月15日(土)
有明の劇団四季劇場。ライオンキングの昼の部。伶君出演を久々観劇。亡妻の妹夫妻と。5回目の観劇か。夜、手巻き寿司、キャベツとベーコンのソテー。

1月17日(月)
俳人協会賞選考、2回目の読み込み。

1月19日(水)
5時、日暮里「夕焼け酒場」。高校同期「三水会」再開。6人集まる。ほとんどが銀漢亭閉店以来の顔合わせ。

1月20日(木)
俳人協会賞最終候補作品7編の読み込み、分析を進める。俳句人生が懸っている句集にて悩ましい。

1月21日(金)
亡妻光代さんの17回目の忌日。久女忌と同じ。快晴。亡くなったのは雪の日であった。

1月22日(土)

伊那谷の従兄より寒餅、野沢菜、沢庵、スルメと人参の糀漬けなど到来す。3時より俳句文学館にて俳人協会賞選考委員会。中原道夫、大石悦子、西村和子さん。委員長は今瀬剛一氏。夜、杏一家来て、光代さんを偲ぶ会。昔のアルバムを持ち出して話尽きず。気仙沼から取り寄せた牡蠣。鮪など。

1月23日(日)
忘れない内にと、俳人協会賞選考経過を書く。1日がかり。俳人協会へ送る。

 1月24日(月)
星雲集、同人集の選評。夜、鶏つくね鍋。

1月25日(火)
星雲集脱稿し、3月号の執筆終了。4句会ほどの選句。へとへと。夕食抜いて休む。

1月26日(水)
片山一行氏の句集序文書く。夜、蓮根の煮物、鶏鍋、生牡蠣など。

1月27日(木)
農家の野菜買いに。部屋の片付け、通信。銀漢俳句会総会用挨拶の文案。芽キャベツの卵とじなど。

1月28日(金)
銀漢賞、新年俳句大会受賞者への色紙、短冊、愛媛の「八木健のCATV俳句」へ色紙と句に纏わる話などを送る。計らずも書初めとなる。

1月29日(土)
書棚他、部屋の片付け。これでようやくロデオ(健康器具)に乗れそう。「俳句てふてふ」に連載エッセイ一本送る。

1月30日(日)
午前中に読書など。午後、発行所。新年の挨拶と俳句大会の選評などのビデオ撮り。森羽久衣、井蛙、一斗さん。終わって新世界飯店で小酌。

1月31日(月)
10時の新幹線にて浜松へ。快晴。富士山秀麗。昨夜、井蛙さんに話したら同行すると。駅ビルの石松餃子の昼食。浜松城址、引間城址(東照宮)、椿姫観音、秀忠公誕生の井戸他四時間ほど市中散策。田町の牡蠣店、駅ビルの立飲み店。同寿司店、ホテル前の居酒屋と飲み歩く。10時前就寝。

2月

2月1日(火)
9時半発、東海道線で掛川へ。丁度10時過ぎのバスがあり、戦国の要害、今川・武田・徳川が三つ巴で戦った高天神城跡を巡る。茶畑の中。もう梅が咲いている。昼過ぎ戻り、掛川城へ。市民の手で再建した木造。見事。富士山、南アルプスも見える。御殿、報徳社。今川時代の古城など巡る。開いている飲食店少なく、或る店では東京から来たと言うと入店を断られる。諦めて東京に戻り駅地下で小酌。

 2月2日(水)
銀漢3月号の校正作業。雑用多々。3日前のロデオのせいか、城歩きのせいか、左足の付け根が痛く足を引き摺る。

2月3日(木)
銀漢の文章類執筆。「NHK俳句」一句旬菜の原稿を書き始める。午後、マッサージの加々美さんを5年振りに訪ね、足を診てもらう。やはり1時間のロデオ、浜松の二万歩の散歩が重なったためか、と。夕食は孫のキンパ、ミートローフ。豆撒き。

 2月5日(土)
脚の筋肉かなり改善する。「NHK俳句」の原稿、魚六種についてのエッセイと料理、だいたい纏める。湯豆腐、海鞘、コノワタ(年末の旅で仕入れたもの)。












         
    






今月の季節の写真/花の歳時記



2022/4/29撮影  オルレア HACHIOJI 



花言葉      「可憐な心」、「静寂」、「細やかな愛情」 「愛嬌」


△オルレア
オルレアは清楚でナチュラルな雰囲気が魅力のセリ科の草花。白くレースで編んだような繊細な花は、同じセリ科のコリアンダーの花に似ています。


片栗の花 桃の花 ユキヤナギ 貝母
水芭蕉 ハナダイコン ミツバツツギ イカリソウ ジューンベリー
花蘇芳 御衣黄桜 木香薔薇 ムベ オルレア








写真は4~5日間隔で掲載しています。 
20222/4/30







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