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 2月号  2024年


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銀漢季語別俳句集


伊藤伊那男作品


主宰の8句













       
             

                        

    

今月の目次











銀漢俳句会/2024/2月号

























   

 

銀漢の俳句 

伊藤伊那男 

◎入院の顚末③

 11月22日に退院して、家での静養に入った。相変わらず集中力を保てず、机に向かっても気力が続かないのである。まあ、あれだけの手術の後だけにやむを得ぬところである。5年ほど前に盲腸が破裂して開腹手術をする折、医師から手術についての説明があり、何か質問があるかと問われた。「江戸時代だったらどうなっていたでしょうかね?」と問い、娘から「お父さん、つまらない質問をしないでよ」とたしなめられた。医者は「多分助からないでしょうね」と答えた。
今回はそんな冗談は通用しない。待った無しであった。実に有難いことに、いろいろな良き縁に恵まれてすみやかに入院でき、加えて僥倖に恵まれたのは、執刀医の齋浦明夫先生は肝胆膵部門では神の手と呼ばれる名医であったことだ。
 手術後2日目位であったか、家族から作家の伊集院静さんが同じ胆管癌になったようだという知らせが入った。氏は私の娘婿と親しく、その縁から銀漢亭に来てくれたこともあった。カウンター越しに「お父さん(私のこと)、60歳になったが、これからは今までの倍の仕事をしますよ。書きますよ」と言っていたことが印象深い。事実その通りであった。私の句集や『漂泊の俳人 井上井月』にも目を通していて、私についてのエッセイを書いてくれたこともある。亡妻や娘とゴルフに興じたこともあり、妻の忌日には10数年にわたって線香が届いた。家で食べる米も手配してくれており「子供達(孫たちのこと)が大きくなったら、君達は誰のお陰で育ったのか、と言ってみたいんだよ」と笑っていたという。だがその頃の我が家では家族はあまり米を食さず、もっぱら私が一番食べていたようだ。娘は「結局お父さんが一番育ったのよね」と呟いていた。
 伊集院さんは数年前にくも膜下出血で倒れたが奇跡的に一命を取り留めていた。ただし不自由なことが多かったらしく、才能のある方だけに自分に対して歯痒い思いでいたようだ。この夏、食欲が無く、気力の衰えもあったというが、診察を受けるのを拒んでいて、結局転倒したことを切っ掛けに入院し、病気が発覚したという。だが転移が進んでいてもはや手術が不可能な状態であったようだ。私が退院した数日後訃報が入った。私の勝手な想像だが、もうこの辺でいいよ、と思っていたのかもしれない。私と同学年であった。
 手術から1月ほど経った11月28日から予防のための抗癌剤の服用が始まった。2週間服用して1週間休む。半年はそのような生活が続くことになる。ともかく手術については一件落着である。
















 



  

盤水俳句・今月の一句

伊藤伊那男 

立春と黒板に書く老教師         皆川 盤水
 私が入会した頃の「春耕」はまだ隔月発行の薄い俳誌であった。新宿厚生年金会館での教室が始まってから急激に会員が増え、月刊誌となった。この句はその席題を自ら黒板に書いたという自画像である。私が入門した時の先生は六十四歳。父と同世代で随分老人に見えたものだ。この句は七十六歳の作。同年俳人協会賞を受賞して脂の乗り切った時期である。思えば私は今年七十五歳になるのであるから、何とも往時茫々である。
(平成六年作『曉紅』所収)


 






 




彗星集作品抄
  伊藤伊那男・選

 茶碗酒に火の粉飛び込む里神楽        大野田井蛙
 神鶏の蹴爪鋭し神の留守           塚本 一夫
 秋刀魚苦し廃炉の海の鈍色に         川島秋葉男
 森の香を書店に聞いて秋深し         橋野 幸彦
 鶏のとさか赤赤冬に入る           山室 樹一
 西郷さんの着たきり浴衣冬に入る       中村 孝哲
 角伐の幕に大きな藤の紋           西田 鏡子
 風呂敷を解きて納めの熊手出す        三代川次郎
 七色のランドセル待つ年の市         武田 花果
 先輩も後輩もなく木の葉髪          多田 悦子
 火恋し背より老いたること知りて       片山 一行
 かるたともいろはもみぢの散らばるは     中島 凌雲
 刻きざむごとくに氷柱溶くる音        武田 花果
 柊の花の隠れて門を守る           畔柳 海村
 鳳凰を日に立たしめて秋祭          荻野ゆ佑子
 神池の亀の日干しや神の留守         今村 昌史
 切れ長のまぶたの翳り後の雛         今井  麦
 旧軍都にんじん供へ馬の神          島谷 高水
 墨を磨る香り立つまで文化の日        守屋  明
 煮凝の不安定なる立方体           北川 京子










 
 






    









    
     

彗星集 選評 伊藤伊那男

伊藤伊那男・選

今月号の選評はお休みです。






 









銀河集作品抄

伊藤伊那男・選

切干をひろぐ赤城をまなかひに     東京  飯田眞理子
一夜城色無き風の筒抜けに       静岡  唐沢 静男
神留守の恵比寿神あり頼もしき     群馬  柴山つぐ子
習合の仏が留守居神の旅        東京  杉阪 大和
白風へ開く蕪村の十哲図        東京  武田 花果
隠し湯の隠しきれぬ香冬隣       東京  武田 禪次
柿照るや馬神祀る奥会津        埼玉  多田 美記
借景にさらに添水の音も借る      東京  谷岡 健彦
白粥を炊く時雨忌もほど近し      神奈川 谷口いづみ
海照りを伴のみ熊野青みかん      長野  萩原 空木
葉から葉へ辷り落ちたる芋の露     東京  堀切 克洋
黒玉子けふは寒とて箱根まで      東京  松川 洋酔
赤べこの首つつきゐる秋思かな     東京  三代川次郎













         





綺羅星集作品抄

伊藤伊那男・選

秋霞遠見にさねさし相模灘       東京   飛鳥  蘭
焼いも屋訛も包む新聞紙        宮城   有賀 稲香
差し替への首を選びぬ菊人形      東京   有澤 志峯
菅公の牛立たぬまま神の留守      神奈川  有賀  理
親不知子不知叩く鰤起し        東京   飯田 子貢
日は西に(ぼっ)()の影は不揃ひに      山形   生田  武
芭蕉忌や涙声なる鳰の笛        埼玉   池田 桐人
軒下に梯子寝かすも冬構        東京   市川 蘆舟
もうこれは木の葉髪とは言へぬほど   東京   伊藤  政
秋簾落暉もろとも巻きにけり      神奈川  伊東  岬
どこまでも削る秋思の色鉛筆      東京   今井  麦
重たげに終りの色の葉鶏頭       埼玉   今村 昌史
古利根や堰無き空の渡り鳥       東京   上田  裕
縄飛の暮れゆく地べた叩きけり     東京   宇志やまと
烏瓜熟れたる重さなかりけり      埼玉   大澤 静子
どぶろくや重心臍を外れだし      東京   大住 光汪
綿虫の渦巻守る義士の墓        神奈川  大田 勝行
栗虫やきれいな屑を残したる      東京   大沼まり子
路地裏の奥知り尽くし焼芋屋      神奈川  大野 里詩
漬樽の水あがりよき神無月       埼玉   大野田井蛙
神の留守神馬の小屋も空つぽに     東京   大溝 妙子
思ひきり剪り詰む庭木冬仕度      東京   大山かげもと
天守閣登り来てなほ天高し       東京   岡城ひとみ
秋風は淋しきものよ波止場猫      愛知   荻野ゆ佑子
颱風圏鳴ると思へば鳴る電話      宮城   小田島 渚
甲板に林檎箱積む帰郷船        宮城   小野寺一砂 
銃眼の三角四角色鳥来         埼玉   小野寺清人
夫恋ひの歌や平城山秋しぐれ      和歌山  笠原 祐子
太陽は緑と思ふ酢橘かな        東京   梶山かおり
床板の鳴きをり通夜の寒昴       愛媛   片山 一行
日をねだる峡の冬田の雀かな      静岡   金井 硯児
永平寺
薬石の塗り椀で受くきのこ飯      東京   我部 敬子
白菜を洗ふ掘割跨ぎつつ        東京   川島秋葉男
比翼とや揺れの揃ひし浮寝鳥      千葉   川島  紬
水仙の香の追うてくる岬かな      神奈川  河村  啓
名月や女系図のにぎやかさ       愛知   北浦 正弘
北颪いくさあるぞと云ひやめず     長野   北澤 一伯
熱燗に蕎麦屋の厚き玉子焼       東京   絹田  稜
山辺の道に時雨の途切れなき      東京   柊原 洋征
いつの世も祠に草鞋芭蕉の忌      神奈川  久坂衣里子
足裏の秋思のつぼを押してみる     東京   朽木  直
慣るるまで心許なき羽根蒲団      東京   畔柳 海村
鯊の潮勝鬨橋はもう開かず       東京   小泉 良子
ばつさりと秋思切らるる美容院     神奈川  こしだまほ
銀杏散るこの世の未練振り落とし    東京   小林 美樹
風除けの隙間に詰める新聞紙      千葉   小森みゆき
一駅は川の幅なり十三夜        東京   小山 蓮子
祈る手の小指に秋思観世音       宮城   齊藤 克之
返り花追伸長き文のやう        青森   榊せい子
括らむと萩の乱れを羽交ひじめ     長崎   坂口 晴子
信濃路に峠はいくつ寒鰤来       長野   坂下  昭
追伸に愚痴のひとこと秋の宵      群馬   佐藤 栄子
音楽と給食が好き冬ぬくし       群馬   佐藤かずえ
文化の日菓子に付きたる由緒書     広島   塩田佐喜子
押し合うて溢るるばかりおでん鍋    東京   島  織布
跳び箱に尻をかすめて冬はじめ     東京   島谷 高水
鹿垣を幾重にもして寂光院       兵庫   清水佳壽美
貼り替へし障子一日閉ざしをく     東京   清水 史恵
竹箒掃く音さやか冬に入る       東京   清水美保子
ふるさとに自慢の一つ百匁柿      埼玉   志村  昌
山びこは少年の声櫟の実        千葉   白井 飛露
身に入むや旅のみそらの没後弟子    神奈川  白井八十八
袴着を見せたき人のおくつきへ     東京   白濱 武子
潮入りに鯊の入り来る浜離宮      東京   新谷 房子
双眼鏡も追へぬ高さへ鷹柱       大阪   末永理恵子
爪立てし皮の厚さや青みかん      東京   鈴木 淳子
時として警策のごと木の実落つ     東京   鈴木てる緒
持ち帰るタオルに秋の湯の香り     群馬   鈴木踏青子
町筋のやや曲がる影秋うらら      東京   角 佐穂子
湯豆腐や熱さの一つ手前食ふ      千葉   園部あづき
母からの電話鳴りさう秋の夜は     神奈川  曽谷 晴子
捻子一つ残る修理やそぞろ寒      長野   髙橋 初風
鰤起し高ぶつてゐる女たち       東京   高橋 透水
つくよみのまします山の紅葉かな    東京   武井まゆみ
しぐるるや虚子の空ある矢倉墓     東京   竹内 洋平
採りたての露に塗れし茸かな      神奈川  田嶋 壺中
新米の二度目に判る水加減       東京   多田 悦子
柏手にひとつの間合木の実降る     東京   立崎ひかり
老ゆる日々秋思もすぐに忘らるる    東京   田中 敬子
撓むほど山柿実る信濃かな       東京   田中  道
菊日和一重瞼の京人形         東京   塚本 一夫
もう五時の時報と思ふ冬はじめ     東京   辻 隆夫
紅葉且散る襖絵の中のやう       ムンバイ 辻本 芙紗
林檎の香高山陣屋前の市        東京   辻本 理恵
秋思なほ未完の自伝そのままに     愛知   津田  卓
寝ねかての色なき風や吉野建      東京   坪井 研治
匕首に目のあるやうな秋刀魚かな    埼玉   戸矢 一斗
旅鞄故郷に柿の実るころ        千葉   長井 哲
煙ほど焼けてはをらぬ秋刀魚かな    東京   中込 精二
荒走りとも大神の秋時雨        大阪   中島 凌雲
芭蕉忌や木石のこゑたふとみぬ     神奈川  中野 堯司
軸の無の一字に所思や達磨の忌     東京   中村 孝哲
籾殻焼く筑波嶺はなほ暮れ残り     茨城   中村 湖童
峡の田の歪のなりを晩稲刈       埼玉   中村 宗男
釣られても恍け貌なり魚籃の鯊     東京   中村 藍人
木曾の空なほ狭くして神の旅      長野   中山  中
蘆担ぐ垂れし穂先を地に曳きて     千葉   中山 桐里
漱石の猫と語らふ夜長かな       大阪   西田 鏡子
啄木忌閉づることなしこけしの目    東京   沼田 有希
柏手の天に吸はれて神の旅       埼玉   萩原 陽里
鶏の一羽失せたる野分あと       東京   橋野 幸彦
穴に入る蛇をうながす竹箒       広島   長谷川明子
蘆刈のただ黙々と日もすがら      東京   長谷川千何子
竜淵に潜む唐橋渡りけり        兵庫   播广 義春
隣り合ふ一寺一社や帰り花       埼玉   半田けい子
瘦せぎすの箒励まし落葉掃く      埼玉   深津  博
大山の水の色なす新豆腐        東京   福永 新祇
遠足の車座にある卵焼き        東京   福原  紅
干柿揉む老の力の程よきに       東京   星野 淑子
龍の玉背後に夕日はずませて      東京   保谷 政孝
空刻む音始まるや松手入        岐阜   堀江 美州
螺子ひとつ締めて整ふ十一月      埼玉   本庄 康代
読み解きつ秘蔵の軸や炉を開く     東京   松浦 宗克
切手貼りこの冬空を送りたし      東京   松代 展枝
饒舌な男だまらす鵙高音        神奈川  三井 康有
相槌に少しずれたる僧都かな      神奈川  宮本起代子
金木犀夕日撥ねつつ花こぼす      東京   村田 郁子
秋惜しむ米原駅を通過して       東京   森 羽久衣
樹液噴く薪の太さや霜夜更く      千葉   森崎 森平
赤とんぼ夕餉を告ぐる声遠く      埼玉   森濱 直之
目移りをして見失ふ茸かな       長野   守屋  明
それぞれにそれぞれの道翁の忌     東京   保田 貴子
ぬた場跡まだ見ぬ猪の勢なほ      東京   矢野 安美
湖(うみ)風に鳰の笛聞く翁の日     愛知   山口 輝久
干し物を膝でたたみて暮早し      群馬   山﨑ちづ子
帰りたき山は三輪らし案山子翁     東京   山下 美佐
祝詞の間手にしつかりと千歳飴     東京   山田  茜
獣めく酒の息吐く牡丹鍋        東京   山元 正規
シーソーに秋思の重さありぬべし    東京   渡辺 花穂
生前に戒名もらひ秋思かな       埼玉   渡辺 志水













      






     





銀河集・綺羅星今月の秀句


伊藤伊那男・選

今月の選評はお休みです。










                






 

星雲集作品抄
伊藤伊那男・選

秀逸
撫牛の中は空つぽ神無月        東京  関根 正義
横須賀
冬凪や錆びたマストの旭日旗      埼玉  園部 恵夏
甘さ足す風の一刷毛吊し柿       栃木  たなかまさこ
匙ほどの小さき港や冬麗        東京  伊藤 真紀
切干や榛名おろしに秘伝あり      群馬  北川 京子
椋鳥の一樹貪る如くなり        東京  熊木 光代
やれ笑へやれ走るなと七五三      東京  渡辺 誠子
筑波嶺の透けて見えけり掛大根     千葉  針田 達行
ため息をつきたるときの朴落葉     広島  井上 幸三
行く秋や風が囁く港町         神奈川 山田 丹晴
白風の渡りに孕む帆引き船       東京  西  照雄
江ノ電の通る店先鰯干す        東京  桂 説子
蜜柑山裾に小さき魚市場        千葉  平山 凛語
立冬にピント合はせし眼鏡橋      東京  髙坂小太郎
提灯に子の名書き足す地蔵盆      京都  仁井田麻利子







星雲集作品抄

            伊藤伊那男・選

寒茜うしろ姿のまた明日        東京  尼崎 沙羅
山裾に家の灯ひとつ蕎麦の花      東京  井川  敏
峰越ゆる綿雲速し神の旅        長野  池内とほる
秩父路や花野の先の武甲山       東京  一政 輪太
天高し峡は瀬音の鳴るばかり      愛媛  岩本 青山
麗かや重機の腕も昼休み        長野  上野 三歩
鍬入れぬ谷戸の静寂や神の留守     東京  上村健太郎
熱燗や越後土産の魚得て        長野  浦野 洋一

息切らす釣瓶落しの坂の町       群馬  小野田静江
前掛けは父母の端物か一葉忌      静岡  小野 無道
花枇杷の枝先神楽鈴のごと       埼玉  加藤 且之
冬の蝶すこし舞ひてはすぐ休む     長野  唐沢 冬朱
鉢巻の色で団結運動会         愛知  河畑 達雄
故郷の野に寝転べば秋の声       神奈川 北爪 鳥閑
一汁のほかにはいらぬ栗ごはん     神奈川 北出 靖彦
静脈の青き手鵙の声仰ぐ        東京  北原美枝子
ここいらがテムズの河口牡蠣を食ふ   東京  久保園和美
待ち人やそろそろかとも神無月     東京  倉橋  茂
りんご狩り道に迷ひし城下町      群馬  黒岩伊知朗
榛名より湧く神水や帰り花       群馬  黒岩 清子
神水を汲みて祈りて秋の果       愛知  黒岩 宏行
種は泥に托して風の枯れ蓮       東京  黒田イツ子
年齢に釣瓶落しや喜寿迎ふ       東京  小寺 一凡
武士めく十国峠冬の風         神奈川 阪井 忠太
縁組の思案どころや神の旅       長野  桜井美津江
初霜や北の便りの友の声        東京  佐々木終吉
霜柱洗濯を干す足元に         群馬  佐藤さゆり
秋ともし一人一人に帰る場所      東京  島谷  操
境内にお化け屋敷が神の留守      東京  清水 旭峰
桔梗は母方の紋はは恋し        千葉  清水 礼子
精根の果ての絡みや枯はちす      東京  須﨑 武雄
読書の秋どんでん返しまだ起きぬ    岐阜  鈴木 春水
刈蘆や舟三艘に横たへる        愛知  住山 春人
縁側を切干占めて日を過ごす      埼玉  其田 鯉宏
菊人形云ひたきことのありさうな    東京  田岡美也子
裏山は早や陰に入り神無月       東京  髙城 愉楽
けたたまし阿武隈川の鴨の陣      福島  髙橋 双葉
冬に入る野仏の影長くなり       埼玉  武井 康弘
雑炊の湯気のぬくもり外は雨      東京  竹花美代惠
秋深し修行大師の寺の門        東京  田中 真美
またひとついくさ始まる柿の皮     長野  戸田 円三
三度目は聞こえた振りの小春かな    埼玉  内藤 明
待ちわびし今宵は雨の十三夜      群馬  中島みつる
青空に豊漁を見し鰯雲         神奈川 長濱 泰子
十二支の社ある地の帰り花       宮城  西岡 博子
神の旅金剛杖の鈴の音         東京  西田有希子
裏木戸の把手の湿り秋海棠       神奈川 西本  萌
抗はぬ風の芒を見つめ居り       静岡  橋本 光子
朝寒にチューブ飛び出る歯磨き粉    東京  橋本  泰
カツ丼を選ぶ親子や体育の日      神奈川 花上 佐都
麦の芽の畦にならひて曲りけり     長野  馬場みち子
手に包む林檎に浅き旅の傷       神奈川 日山 典子
切干や観音詣の日向みち        千葉  平野 梗華
山栗のをちこちに落ち気を散らす    長野  藤井 法子
湯煙の十一月の川の中         福岡  藤田 雅規
青空の柚子切る鋏音返す        東京  牧野 睦子
新蕎麦や鮫皮に立つ山葵の香      東京  松井はつ子
懸大根物干し竿の一本に        愛知  箕浦甫佐子
夜食とる元素記号の丸暗記       東京  棟田 楽人
震災のなぎさや海鞘のねむりをり    東京  無聞 益
ふるさとの風の呟き鮭よ来よ      宮城  村上セイ子
雪吊の風切る綱の強さかな       東京  家治 祥夫
切干や日差しと共に移りをり      群馬  山﨑 伸次
桜もみぢ買物籠に二葉ほど       静岡  山室 樹一
品書きに添へる一品菊膾        群馬  横沢 宇内
凶も神吉も神なり神無月        神奈川 横地 三旦
青空の高みゆ凩一号来         神奈川 横山 渓泉
納豆や糸引く額の高さまで       千葉  吉田 正克
曲り家の戸車きしむ秋時雨       山形  我妻 一男
三日月を湖面に合はせ鏡とも      東京  若林 若干

















星雲集 今月の秀句

伊藤伊那男

今月の選評はお休みです。














伊那男俳句


伊那男俳句 自句自解(97)
            
風船につかまりて世を渡らむか

 浅草が好きで若い頃から時々散策している。浅草寺の入口の雷門の脇にときどき風船売りが出ている。ヘリウムガスのボンベを置いてゴム風船を膨らませている。色とりどりの数十の風船を束ねていて、客が来ると糸を手繰って渡す。あの風船が幾つあれば、人は空に浮かぶことができるのであろうか。物理的にはきっと計算ができるはずである。生きている限り誰でも辛いことに遭遇するものだ。誰もが現実逃避したくなることがある。病気、失業、別離、人間不信……。そんな時あの風船に掴まって世渡りができたら、どんなに楽しいことであろうか。風船売りを見ながらそんな想像をしてみた。他愛ない空想だけでも楽しいものだ。だが考えてみれば肝心の風船売りが空に浮くこともなく、地道に露店で商いを続けているのであるから、所詮無理なことなのである。
雷門でそんなひと時の夢に浸ったが、さて現実に戻って、神谷バーで電気ブランを呷って帰ろうか……。

魔法瓶あるだけ並べ甘茶寺

杉並区高井戸に住んでいた40歳代の頃、日曜日の朝、近所の天台宗の小さな寺の読経の会に通っていた。六、七人の顔馴染みが集まり、住職の先導で「不動経」「観音経」「般若心経」を誦経する。そのあと住職の短い講話があって三十分ほどでお開きとなる。布施を募るわけでもなく、仲間内で雑談をするわけでもなく、実に簡素で心地の良い時間で、用事の無い日曜日にかれこれ5五年位通った。釈迦の誕生日の4月8日、甘茶を供するとの貼紙を見て行ったことがあった。目立たない寺であるが入れ替り立ち替り、近所の家族などが来ていた。甘茶はアマチャという植物の葉を日干しして発酵させた生薬である。本堂には形の違う魔法瓶が4つほど並んでいた。きっと寺にあるものを全部動員したのであろう。その慎ましさが何とも好ましく記憶に残り、俳句になったものである。
かれこれ30年ほど前のことだが、俳句に残したことで今も鮮明に思い出す。あの甘茶をまた味わってみたいものだ。













   


 



俳人協会四賞・受賞式





更新で5秒後、再度スライドします。全14枚。







リンクします。

aishi etc
        
















銀漢の絵はがき


挿絵が絵葉書になりました。
Aシリーズ 8枚組・Bシリーズ8枚組
8枚一組 1,000円

ごあいさつにご利用下さい。
















掲示板



















               
 
     

「銀漢」季語別俳句集




拡大します。
銀漢季語別俳句集
待望の『季語別俳句集』が3月に刊行されました。












主宰日録  

  


11月
 
11月23日(木)
留守中の雑用多く、昼過まで処理。1月号のエッセイ(入院の顛末2)を書く。午後、次女杏子来て談笑。元気になったら親子3人で京都に行く約束を。

11月24日(金)
孫の華子が授業で趣味を持っている人に対するインタビューをして纏める課題がありとて、私を取材したいと。1時間半ほど話。近隣を30分程散策。暖かな日。伊集院静氏、肝内胆管癌と聞いていたが、今朝逝去と。もはや手術ができない所まで転移が進んでいたと。私とは同学年。河豚鍋、火鍋の2種。

11月25日(土)
8時過、順天堂。血液採取。10時過、市田先生の診察。感染症の治癒はもう少しかかるが、血液検査の結果はばっちり!マイナスですと。新御茶ノ水駅のパスタ店にて朝昼兼用の食事。烏賊明太パスタ、コーヒーも久し振り。こういうものも食べられるようになった。

11月26日(日)
寒い1日。「銀漢」1月号の選句。なかなか集中力を保てず。

11月27日(月)
小春日和にて1時間ほど散歩と日向ぼこ。

11月28日(火)
順天堂へ桃子に送って貰う。9時半採血。11時、齋浦先生の面診にて杏子が来てくれる。しかしなかなか順番が来ないで結局14時半近くに杉谷先生の面診。病理の結果については検査時には発見できなかったが、膵臓とリンパ節に少し癌があり、ただし全部取り切ってある。その有無にかかわらず抗癌剤の服用をスタートする。今夜からTS1(ティーエスワン)を夕・朝食後服用。2週間で1週間休む。次回の齋浦先生との面診は12月19日。薬を貰って帰宅したのが17時過。家を出たのが8時過にてかれこれ9時間の長丁場。少々疲れる。

11月29日(水)
雑用をいくつか。まだまだ動作がのろのろ。

11月30日(木)
抗癌剤の副作用今のところ無し。星雲集1月号の選句稿を有賀さんに送る。夕方、ヘアメイクの中川さん来てくれて短く切って貰う。気分が違う。中川さんは伊集院静さんの髪を切っていた方にて、思い出話など。

12月

12月1日(金)
寒い日。「銀漢」1月号の同人集の選句。少しずつ。

12月2日(土)
1月号の選句稿を大溝、朽木さんへ投函。選評は無し。駅前に買物その他。銀杏並木が見事。しばしたたずむ。彗星集の選句を辻本理恵さんに送る。選評は無し。「銀漢賞」の評など。

12月3日(日)
松山の「子規顕彰全国俳句大会」の講演録のテープ起こしが到着。校正作業。80分の講演だったのでこれが大変、一仕事。

12月4日(月)
銀行、郵便局、買物など。まだ銀杏並木が美しく感嘆!

12月5日(火)
抗癌剤服用から丁度1週間。副作用と思われるものは今のところ無いが、やや気怠い1日。夜、気仙沼の牡蠣、いわきの鰈の煮付など美味しく戴く。

12月6日(水)
「銀漢」1月号のエッセイ1本。礼状その他。牡蠣、林檎、ル・レクチェ。手術痕の膿(感染症)ほぼ治る。

12月8日(金)
昨日は1日ぼうっと暮す。「三丁目の夕日」エッセイ一本。礼状その他。買物、銀行など。少しずつ歩かないと。駅ビルの書店にて来年のスケジュール手帳を買い、予定など記す。先の予定があると元気が出る。

12月9日(土)
玄界灘の1本釣のひらまさ届く。病身にはややきつかったものの刺身用、塩焼用、アラは大根と煮る用などに捌く。

12月10日(日)
「銀漢」2月号の自句自解、同エッセイなどを担当者に投函。家族全員揃いひらまさ尽しの夕食。

12月11日(月)
岩田歯科にて定期検診。あと一駅先の祖師ヶ谷大蔵の馴染みの「高橋茶舗」。世話になった方へのお礼の品を送る手配など。膿も治ったので今日からパジャマの生活を切り上げて昼は普通の服装に。

12月12日(火)
今朝で抗癌剤(TS1)の2週間の服用が終了。実に幸運にも副作用が全く出ないで済む。夜、またまたひらまさ尽し。NHK -BSの小津映画「東京物語」を見る。

12月13日(水)
快晴にて散策。少しバスで遠出して、東京農大の「食と農」の博物館を見学。

12月14日(木)
微熱あり、午後ずっと寝る。夕食抜き解熱剤飲む。

12月15日(金)
平熱に戻る。14時から調布の俳句講話。9月休講の穴埋め。聴講の方々皆、心配していて下さる。帰路、仙川で塩鱈、豆腐、葱など買う。湯豆腐。今日、伶輔「ライオンキング」150回目の出演日ながら直前に腹痛を起こし出演ならずと。

12月16日(土)
通信、礼状など数々。夜、娘夫婦不在にて孫達と寿司を取り寄せる。城巡りのまとめの続きなど。「銀漢」1月号の校正、武田さんに送る。

12月17日(日)
「銀漢」2月号の選句に入る。作句。今夜も塩鱈を入れた湯豆腐。柚の貰い物豊富。

12月19日(火)
9時過、桃子に送って貰い順天堂。血液採取。11時過、齋浦先生の診察。手術あとの検査でリンパ節三つに癌があった。ステージⅡという位置付けと。薬を手提袋一杯貰う。新宿に出て久々「三国一」のしっぽくうどんの昼食。今日の夜から抗癌剤のTS1。1回目は2錠の慣らし運転だったものを3錠に。2週間服用して1一週間休み。これが半年ほど続くことに。夜、スキヤキ。

12月20日(水)
今日は「ライオンキング」開演25周年記念公演日。伶輔出演、また出演150回記念日でもあるとて家族は会場へ。私は犬と留守番。夜、豚しゃぶ。

12月21日(木)
2回目の抗癌剤服用3日目。やや気怠く集中力を欠くが、これが副作用と言うのかどうか? 気仙沼から到来の鮑(生、蒸)。

12月22日(金)
天気良し。体調も良いので鶴巻温泉へ行ってみる。丹沢に登山をしていた頃何回か寄っている。小田急線で1本。1時間位。とろろ蕎麦の昼食。

12月23日(土)
「銀漢」の選句。数句会の選句。胃を4分の1取っているせいか、食欲はもう一つ。今日は朝、味噌汁、かますの干物、柴漬、錦松梅、ごはん一碗。昼、林檎。夜、おろし納豆蕎麦、みかん。体重62kg(去年の今頃は76kgあった)。

12月24日(日)
2月号の選句稿、大溝、朽木、有賀、辻本さんに投函する。日録をまほさんに投函。これで2月号ほぼ終了。華子が鶏の丸焼き、サラダ、ケーキなど作る。




















         
    






今月の季節の写真/花の歳時記



2024/3/3  ヒメリュウキンカ  HACHIOIJI






花言葉    「あなたに会える幸せ」

△ヒメリュウキンカ
晩秋から冬にかけて芽を出して暗緑色のハート形の葉を開き、早春にロゼット状に広がった葉の中心につぼみを抱き、暖かい日に黄色い花が太陽にきらきら輝きながら次々と咲きます。花の名は、春から夏に湿原や湿地で群生して、立ち上がるように咲く金色の花につけられたリュウキンカ(立金花)に、花や葉が似て小型であることから名づけられました。


蠟梅 寒菊 仏の座 クレマチス・
アンスンエンシス
オタフクナンテン
シクラメン 福寿草 マンサク 雪割草
節分草 クロッカス ヒメリュウキンカ






写真は4~5日間隔で掲載しています。 


20224/3/4








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