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2月号 2024年
伊藤伊那男作品 銀漢今月の目次 銀漢の俳句 盤水俳句・今月の一句 彗星集作品抄 彗星集選評 銀漢賞銀河集・作品抄 綺羅星集・作品抄 銀河集・綺羅星今月の秀句 星雲集・作品抄 星雲集・今月の秀句 伊那男俳句 銀漢の絵はがき 掲示板 主宰日録 今月の写真 俳人協会四賞受賞式 銀漢季語別俳句集 |
伊藤伊那男作品主宰の8句 今月の目次銀漢俳句会/2024/2月号
盤水俳句・今月の一句伊藤伊那男立春と黒板に書く老教師 皆川 盤水
彗星集作品抄伊藤伊那男・選 茶碗酒に火の粉飛び込む里神楽 大野田井蛙
神鶏の蹴爪鋭し神の留守 塚本 一夫 秋刀魚苦し廃炉の海の鈍色に 川島秋葉男 森の香を書店に聞いて秋深し 橋野 幸彦 鶏のとさか赤赤冬に入る 山室 樹一 西郷さんの着たきり浴衣冬に入る 中村 孝哲 角伐の幕に大きな藤の紋 西田 鏡子 風呂敷を解きて納めの熊手出す 三代川次郎 七色のランドセル待つ年の市 武田 花果 先輩も後輩もなく木の葉髪 多田 悦子 火恋し背より老いたること知りて 片山 一行 かるたともいろはもみぢの散らばるは 中島 凌雲 刻きざむごとくに氷柱溶くる音 武田 花果 柊の花の隠れて門を守る 畔柳 海村 鳳凰を日に立たしめて秋祭 荻野ゆ佑子 神池の亀の日干しや神の留守 今村 昌史 切れ長のまぶたの翳り後の雛 今井 麦 旧軍都にんじん供へ馬の神 島谷 高水 墨を磨る香り立つまで文化の日 守屋 明 煮凝の不安定なる立方体 北川 京子
銀河集作品抄伊藤伊那男・選切干をひろぐ赤城をまなかひに 東京 飯田眞理子
一夜城色無き風の筒抜けに 静岡 唐沢 静男 神留守の恵比寿神あり頼もしき 群馬 柴山つぐ子 習合の仏が留守居神の旅 東京 杉阪 大和 白風へ開く蕪村の十哲図 東京 武田 花果 隠し湯の隠しきれぬ香冬隣 東京 武田 禪次 柿照るや馬神祀る奥会津 埼玉 多田 美記 借景にさらに添水の音も借る 東京 谷岡 健彦 白粥を炊く時雨忌もほど近し 神奈川 谷口いづみ 海照りを伴のみ熊野青みかん 長野 萩原 空木 葉から葉へ辷り落ちたる芋の露 東京 堀切 克洋 黒玉子けふは寒とて箱根まで 東京 松川 洋酔 赤べこの首つつきゐる秋思かな 東京 三代川次郎 綺羅星集作品抄伊藤伊那男・選 秋霞遠見にさねさし相模灘 東京 飛鳥 蘭
焼いも屋訛も包む新聞紙 宮城 有賀 稲香 差し替への首を選びぬ菊人形 東京 有澤 志峯 菅公の牛立たぬまま神の留守 神奈川 有賀 理 親不知子不知叩く鰤起し 東京 飯田 子貢 日は西に 芭蕉忌や涙声なる鳰の笛 埼玉 池田 桐人 軒下に梯子寝かすも冬構 東京 市川 蘆舟 もうこれは木の葉髪とは言へぬほど 東京 伊藤 政 秋簾落暉もろとも巻きにけり 神奈川 伊東 岬 どこまでも削る秋思の色鉛筆 東京 今井 麦 重たげに終りの色の葉鶏頭 埼玉 今村 昌史 古利根や堰無き空の渡り鳥 東京 上田 裕 縄飛の暮れゆく地べた叩きけり 東京 宇志やまと 烏瓜熟れたる重さなかりけり 埼玉 大澤 静子 どぶろくや重心臍を外れだし 東京 大住 光汪 綿虫の渦巻守る義士の墓 神奈川 大田 勝行 栗虫やきれいな屑を残したる 東京 大沼まり子 路地裏の奥知り尽くし焼芋屋 神奈川 大野 里詩 漬樽の水あがりよき神無月 埼玉 大野田井蛙 神の留守神馬の小屋も空つぽに 東京 大溝 妙子 思ひきり剪り詰む庭木冬仕度 東京 大山かげもと 天守閣登り来てなほ天高し 東京 岡城ひとみ 秋風は淋しきものよ波止場猫 愛知 荻野ゆ佑子 颱風圏鳴ると思へば鳴る電話 宮城 小田島 渚 甲板に林檎箱積む帰郷船 宮城 小野寺一砂 銃眼の三角四角色鳥来 埼玉 小野寺清人 夫恋ひの歌や平城山秋しぐれ 和歌山 笠原 祐子 太陽は緑と思ふ酢橘かな 東京 梶山かおり 床板の鳴きをり通夜の寒昴 愛媛 片山 一行 日をねだる峡の冬田の雀かな 静岡 金井 硯児 永平寺 薬石の塗り椀で受くきのこ飯 東京 我部 敬子 白菜を洗ふ掘割跨ぎつつ 東京 川島秋葉男 比翼とや揺れの揃ひし浮寝鳥 千葉 川島 紬 水仙の香の追うてくる岬かな 神奈川 河村 啓 名月や女系図のにぎやかさ 愛知 北浦 正弘 北颪いくさあるぞと云ひやめず 長野 北澤 一伯 熱燗に蕎麦屋の厚き玉子焼 東京 絹田 稜 山辺の道に時雨の途切れなき 東京 柊原 洋征 いつの世も祠に草鞋芭蕉の忌 神奈川 久坂衣里子 足裏の秋思のつぼを押してみる 東京 朽木 直 慣るるまで心許なき羽根蒲団 東京 畔柳 海村 鯊の潮勝鬨橋はもう開かず 東京 小泉 良子 ばつさりと秋思切らるる美容院 神奈川 こしだまほ 銀杏散るこの世の未練振り落とし 東京 小林 美樹 風除けの隙間に詰める新聞紙 千葉 小森みゆき 一駅は川の幅なり十三夜 東京 小山 蓮子 祈る手の小指に秋思観世音 宮城 齊藤 克之 返り花追伸長き文のやう 青森 榊せい子 括らむと萩の乱れを羽交ひじめ 長崎 坂口 晴子 信濃路に峠はいくつ寒鰤来 長野 坂下 昭 追伸に愚痴のひとこと秋の宵 群馬 佐藤 栄子 音楽と給食が好き冬ぬくし 群馬 佐藤かずえ 文化の日菓子に付きたる由緒書 広島 塩田佐喜子 押し合うて溢るるばかりおでん鍋 東京 島 織布 跳び箱に尻をかすめて冬はじめ 東京 島谷 高水 鹿垣を幾重にもして寂光院 兵庫 清水佳壽美 貼り替へし障子一日閉ざしをく 東京 清水 史恵 竹箒掃く音さやか冬に入る 東京 清水美保子 ふるさとに自慢の一つ百匁柿 埼玉 志村 昌 山びこは少年の声櫟の実 千葉 白井 飛露 身に入むや旅のみそらの没後弟子 神奈川 白井八十八 袴着を見せたき人のおくつきへ 東京 白濱 武子 潮入りに鯊の入り来る浜離宮 東京 新谷 房子 双眼鏡も追へぬ高さへ鷹柱 大阪 末永理恵子 爪立てし皮の厚さや青みかん 東京 鈴木 淳子 時として警策のごと木の実落つ 東京 鈴木てる緒 持ち帰るタオルに秋の湯の香り 群馬 鈴木踏青子 町筋のやや曲がる影秋うらら 東京 角 佐穂子 湯豆腐や熱さの一つ手前食ふ 千葉 園部あづき 母からの電話鳴りさう秋の夜は 神奈川 曽谷 晴子 捻子一つ残る修理やそぞろ寒 長野 髙橋 初風 鰤起し高ぶつてゐる女たち 東京 高橋 透水 つくよみのまします山の紅葉かな 東京 武井まゆみ しぐるるや虚子の空ある矢倉墓 東京 竹内 洋平 採りたての露に塗れし茸かな 神奈川 田嶋 壺中 新米の二度目に判る水加減 東京 多田 悦子 柏手にひとつの間合木の実降る 東京 立崎ひかり 老ゆる日々秋思もすぐに忘らるる 東京 田中 敬子 撓むほど山柿実る信濃かな 東京 田中 道 菊日和一重瞼の京人形 東京 塚本 一夫 もう五時の時報と思ふ冬はじめ 東京 辻 隆夫 紅葉且散る襖絵の中のやう ムンバイ 辻本 芙紗 林檎の香高山陣屋前の市 東京 辻本 理恵 秋思なほ未完の自伝そのままに 愛知 津田 卓 寝ねかての色なき風や吉野建 東京 坪井 研治 匕首に目のあるやうな秋刀魚かな 埼玉 戸矢 一斗 旅鞄故郷に柿の実るころ 千葉 長井 哲 煙ほど焼けてはをらぬ秋刀魚かな 東京 中込 精二 荒走りとも大神の秋時雨 大阪 中島 凌雲 芭蕉忌や木石のこゑたふとみぬ 神奈川 中野 堯司 軸の無の一字に所思や達磨の忌 東京 中村 孝哲 籾殻焼く筑波嶺はなほ暮れ残り 茨城 中村 湖童 峡の田の歪のなりを晩稲刈 埼玉 中村 宗男 釣られても恍け貌なり魚籃の鯊 東京 中村 藍人 木曾の空なほ狭くして神の旅 長野 中山 中 蘆担ぐ垂れし穂先を地に曳きて 千葉 中山 桐里 漱石の猫と語らふ夜長かな 大阪 西田 鏡子 啄木忌閉づることなしこけしの目 東京 沼田 有希 柏手の天に吸はれて神の旅 埼玉 萩原 陽里 鶏の一羽失せたる野分あと 東京 橋野 幸彦 穴に入る蛇をうながす竹箒 広島 長谷川明子 蘆刈のただ黙々と日もすがら 東京 長谷川千何子 竜淵に潜む唐橋渡りけり 兵庫 播广 義春 隣り合ふ一寺一社や帰り花 埼玉 半田けい子 瘦せぎすの箒励まし落葉掃く 埼玉 深津 博 大山の水の色なす新豆腐 東京 福永 新祇 遠足の車座にある卵焼き 東京 福原 紅 干柿揉む老の力の程よきに 東京 星野 淑子 龍の玉背後に夕日はずませて 東京 保谷 政孝 空刻む音始まるや松手入 岐阜 堀江 美州 螺子ひとつ締めて整ふ十一月 埼玉 本庄 康代 読み解きつ秘蔵の軸や炉を開く 東京 松浦 宗克 切手貼りこの冬空を送りたし 東京 松代 展枝 饒舌な男だまらす鵙高音 神奈川 三井 康有 相槌に少しずれたる僧都かな 神奈川 宮本起代子 金木犀夕日撥ねつつ花こぼす 東京 村田 郁子 秋惜しむ米原駅を通過して 東京 森 羽久衣 樹液噴く薪の太さや霜夜更く 千葉 森崎 森平 赤とんぼ夕餉を告ぐる声遠く 埼玉 森濱 直之 目移りをして見失ふ茸かな 長野 守屋 明 それぞれにそれぞれの道翁の忌 東京 保田 貴子 ぬた場跡まだ見ぬ猪の勢なほ 東京 矢野 安美 湖(うみ)風に鳰の笛聞く翁の日 愛知 山口 輝久 干し物を膝でたたみて暮早し 群馬 山﨑ちづ子 帰りたき山は三輪らし案山子翁 東京 山下 美佐 祝詞の間手にしつかりと千歳飴 東京 山田 茜 獣めく酒の息吐く牡丹鍋 東京 山元 正規 シーソーに秋思の重さありぬべし 東京 渡辺 花穂 生前に戒名もらひ秋思かな 埼玉 渡辺 志水
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伊那男俳句 自句自解(97) 風船につかまりて世を渡らむか
浅草が好きで若い頃から時々散策している。浅草寺の入口の雷門の脇にときどき風船売りが出ている。ヘリウムガスのボンベを置いてゴム風船を膨らませている。色とりどりの数十の風船を束ねていて、客が来ると糸を手繰って渡す。あの風船が幾つあれば、人は空に浮かぶことができるのであろうか。物理的にはきっと計算ができるはずである。生きている限り誰でも辛いことに遭遇するものだ。誰もが現実逃避したくなることがある。病気、失業、別離、人間不信……。そんな時あの風船に掴まって世渡りができたら、どんなに楽しいことであろうか。風船売りを見ながらそんな想像をしてみた。他愛ない空想だけでも楽しいものだ。だが考えてみれば肝心の風船売りが空に浮くこともなく、地道に露店で商いを続けているのであるから、所詮無理なことなのである。 雷門でそんなひと時の夢に浸ったが、さて現実に戻って、神谷バーで電気ブランを呷って帰ろうか……。 魔法瓶あるだけ並べ甘茶寺
杉並区高井戸に住んでいた40歳代の頃、日曜日の朝、近所の天台宗の小さな寺の読経の会に通っていた。六、七人の顔馴染みが集まり、住職の先導で「不動経」「観音経」「般若心経」を誦経する。そのあと住職の短い講話があって三十分ほどでお開きとなる。布施を募るわけでもなく、仲間内で雑談をするわけでもなく、実に簡素で心地の良い時間で、用事の無い日曜日にかれこれ5五年位通った。釈迦の誕生日の4月8日、甘茶を供するとの貼紙を見て行ったことがあった。目立たない寺であるが入れ替り立ち替り、近所の家族などが来ていた。甘茶はアマチャという植物の葉を日干しして発酵させた生薬である。本堂には形の違う魔法瓶が4つほど並んでいた。きっと寺にあるものを全部動員したのであろう。その慎ましさが何とも好ましく記憶に残り、俳句になったものである。 かれこれ30年ほど前のことだが、俳句に残したことで今も鮮明に思い出す。あの甘茶をまた味わってみたいものだ。 |
△ヒメリュウキンカ 晩秋から冬にかけて芽を出して暗緑色のハート形の葉を開き、早春にロゼット状に広がった葉の中心につぼみを抱き、暖かい日に黄色い花が太陽にきらきら輝きながら次々と咲きます。花の名は、春から夏に湿原や湿地で群生して、立ち上がるように咲く金色の花につけられたリュウキンカ(立金花)に、花や葉が似て小型であることから名づけられました。 |