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 6月号  2020年

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伊藤伊那男作品

主宰の8句















        
             

 
          
    

今月の目次






銀漢俳句会/2020/6月号







    



  




   



銀漢の俳句 

伊藤伊那男 

◎一期一会ということ

「一期一会」という言葉を知ったのは、慶応茶道会に入会して、茶道史を齧ってからである。千利休の弟子の山上(やまのうえ)宗二の『山上宗二記』に「一期に一度の会」の言葉がある。山上宗二は堺の商人の出で、豊臣秀吉の茶頭として出仕していたが、剛直な言動が度々秀吉の不興を買い、追放された。秀吉の小田原征伐の折、敵方後北条家に仕えていて、利休の取りなしで秀吉と再会した。その折の発言も秀吉の逆鱗に触れ、ついには耳と鼻を削がれた上で斬首という悲惨な最期を遂げた。脇道に逸れたが、「一期一会」は利休の追求した茶道の究極の覚悟である。一つの茶会は生涯に只一度限りの茶会と思い、主客共に互いに誠意を尽くして臨め、ということである。
 私には年と共に此の言葉が重みを増してきている。茶道は学生時代だけでやめてしまったが、人生のあらゆる場面において共通する人生訓だと思っている。俳句を始めてからは尚更である。或る日に集まった連中が、一年後の同じ季節に句座を囲み、果たして相見(あいまみ)ことができるかどうか。たとえ全員が揃ったとしても各々の置かれた立場や体調は前回と同じではない。同じ季節でも天候も違うし、社会情勢も変化している筈だ。それは一月後だったとしても同様である。
 この句座は生涯に一度しか無いという意識をもって句会に臨みたい。そのように考えると、虚飾を排して正直な自分を詠むことになるだろうし、選句にも懸命な姿勢になる筈である。一回一回の句会を大事にして全力を傾注する筈である。松尾芭蕉の『おくのほそ道』を見ると、交通不便な時代のこと、旅の途中のたった一夜の句座を囲んだだけで、芭蕉に共鳴した者は、生涯芭蕉の弟子であることを自認したのである。生涯一度の機会に、全身全霊を傾けて芭蕉の話を聞き句と選を噛みしめたのである。
 平和な時代の続いた現今では「今月は力を抜いても来月頑張ればいいや」とついつい思ってしまうものである。そのような時代が続いていたことは確かである。だが、今回のような事態に遭遇すると「一期一会」の言葉が大きな意味を持ってくるのである。ほとんどネット句会となった銀漢五月号の句会報を見ると「顔を合わせない句会は力が入らない」との幹事のコメントが多かった。この騒動が収束したら是非、顔を合わせ句座を囲む「一期一会」の句会の緊張感と楽しさ、幸せを改めて噛みしめていただきたいと思う。 













 



  

盤水俳句・今月の一句

伊藤伊那男

(すず)の子飯山寺の瀬が奔騰す     皆川 盤水


「篠の子」は篠竹(しのだけ)の筍の総称で、地方によって姫筍(姫竹)とも月山筍(月山竹)とも呼ばれる。孟宗竹や真竹の少ない東北地方では食用として珍重する。先生は此の年何度も東北を訪ねている。「春耕」を結成して三年目、活力が漲っておられたのだと思う。山寺の門前の店で篠の子の炊込みご飯を食べられたのであろう。折しも眼前の立谷川は雪解け水を集めて激流となっている。深読みかもしれないが「奔騰」の措辞にその頃の先生の活力の発露があるように思う。(昭和四十四年作『銀山』所収) 











  

彗星集作品抄
  伊藤伊那男・選


涅槃絵図泣き声もるるほど近し       大溝 妙子
還暦の若手を迎へ春祭           保田 貴子
雪形をはるかに一の鳥居かな        杉阪 大和
段畑を一つ登りて麦を踏む         三代川次郎
子の丈を刻みし柱あたたかし        半田けい子
何れが何れ指さす記紀の山笑ふ       多田 美記
農協の利息代りの花の種          渡辺 志水
懐郷は翼へ力鳥雲に            久坂衣里子
修二会竹講の差配の脈脈と         中野 堯司
あたたかや人に合はせて窪む椅子      唐沢 静男
ものの芽の万の声ごゑ出郷す        坂口 晴子
ガリバーの夢へと続く朝寝かな       有賀  理
絶壁の巣鳥飛びたつ怒涛かな        山元 正規
立春のふくらみてくるエンタシス      三代川次郎
雁風呂や今日は本家へ貰ひ湯に       中村  弘
菅公の呻き洩れくる春の雷         小野 岩雄
安曇野と聞けば馨し蕗味噌も        長井  哲
野火守に熊襲の裔も居るかとも       杉阪 大和
卒業す机の隅の傷跡と           森濱 直之
民宿の先代は漁夫若布干す         久坂衣里子
















    
     

彗星集 選評 伊藤伊那男

伊藤伊那男・選

涅槃絵図泣き声もるるほど近し       大溝 妙子
 涅槃図を詠んだ句は山ほどある。私も好きな季語で、毎年のように詠む。それではもう詠み尽くされたか、というと、このような句に出合えて、まだまだ詠めるのだと、力強い思いである。掲げられた涅槃図の間近に坐ると、図の中の鳥獣虫魚の泣き声が聞こえてくるようだ、という。図の中の生態を詠んだ句は多いが、声を詠んだ句は少ないように思う。恐らく迫力のある名画だったのであろう。

  
還暦の若手を迎へ春祭           保田 貴子
今の世相を詠んだ面白い句だ。身近な俳句の世界でも六十歳というと若い方だというのが現実である。今、地方の祭などでは人材確保が切実だと聞く。神輿の担ぎ手がいない、いやいや祭の見物人さえ減っているのだ。「還暦の若手」が現代社会を象徴している。 

  
雪形をはるかに一の鳥居かな        杉阪 大和
駒ケ岳という名の山が全国各地にあるが、たいがいは雪解時の岩肌に農耕馬の形が現われ、春耕の開始を知らせるのである。名山は神が住むと信仰されたので懐に神社を持つ。その一の鳥居の先に雪形が見えたというのがいい。 

  
段畑を一つ登りて麦を踏む         三代川次郎
「一つ登りて」の措辞で地形がよく解る。山国の景である。私の育った信州では麓の村落は水田が無く、麦や根菜類の畑であった。段畑を登っては麦を踏む。そのような風景が伝わってくる句である。 

  
子の丈を刻みし柱あたたかし        半田けい子
「柱の傷はおととしの五月五日の背くらべ……」の歌を思い出す。私は三人兄弟で、台所の柱に印を付けたことを思い出す。この句の「刻みし」は過去形なので、その昔刻んだ柱を懐しく見ているのだ。子供達はとっくに育ってこの家にはいない。「あたたかし」には季感だけでなく、思い出というもののあたたかさも重なっているのだ。

  
何れが何れ指さす記紀の山笑ふ       多田 美記
記紀の山であるから、葛城、二上山、畝傍、耳成、天香具山、三輪山などであろう。奈良盆地の眺望のよいところから、あの山の名は?この山は?と指さしながら問う。あるいは地図などと見比べる。それら全ての山は春の芽吹きの山である。 

  
農協の利息代りの花の種          渡辺 志水
農協だからこその肌理の細かなサービス。機知が効く。

  
懐郷は翼へ力鳥雲に            久坂衣里子
北国へ帰る鳥は恐らく望郷の念で翼に力が入る……と。 

  
修二会竹講の差配の脈脈と         中野 堯司
 松明の竹は代々近在からの寄進。縁の下の力持ち。

  
あたたかや人に合はせて窪む椅子      唐沢 静男
体重に合わせて窪み方が違うという滑稽感。 

  
ものの芽の万の声ごゑ出郷す        坂口 晴子
「出郷す」に現実感がある。そのように私も東京に来た。

  
ガリバーの夢へと続く朝寝かな       有賀  理
海辺の風景を的確に摑んだ。「怒濤かな」に臨場感。 

  
絶壁の巣鳥飛びたつ怒濤かな        山元 正規
海辺の風景を的確に摑んだ。「怒濤かな」に臨場感。 

  
立春のふくらみてくるエンタシス      三代川次郎
エンタシスの柱が更に膨らむ。「立春」だからこそ。 

  
雁風呂や今日は本家へ貰ひ湯に       中村  弘
一昔前は普通であった貰い湯。雁風呂の斡旋が面白い。 

  
菅公の呻き洩れくる春の雷         小野 岩雄
怨霊の菅公も春雷ならまだ呻き。夏はもっと恐ろしい。 

  
安曇野と聞けば馨し蕗味噌も        長井  哲
安曇野であればそうだろうと納得。地名の効果。 

  
野火守に熊襲の裔も居るかとも       杉阪 大和
阿蘇山の山焼きを連想する。古代への思いも……。 

  
卒業す机の隅の傷跡と           森濱 直之
馴染んだ机に残した傷跡には思い出が詰っている。 

  
民宿の先代は漁夫若布干す         久坂衣里子
「若布干す」の季語が的確。民宿の歴史がよく解る。 













銀河集作品抄


伊藤伊那男・選


双塔の見ゆる畦道草青む        東京  飯田眞理子
たまさかの日差を得たる梅見かな    静岡  唐沢 静男
野火埃麓の蕎麦屋まで届く       群馬  柴山つぐ子
辛夷咲く山のふもとに生家あり     東京  杉阪 大和
紫木蓮父母の仏間へこの世の香     東京  武田 花果
常ならぬことは常なり彼岸凪      東京  武田 禪次
耕の音をも加へ記紀の道        埼玉  多田 美記
絵踏する足裏を突く主の肋       東京  谷岡 健彦
梅東風や絵馬の願ひは叶ひしか     神奈川 谷口いづみ
石乗せて干しある樽や春一番      愛知  萩原 空木
修二会の夜眼裏あつく眠りけり     東京  久重 凜子
バッティングセンター春の月狙ふ    パリ  堀切 克洋
残る鴨やがて人にも慣れもして     東京  松川 洋酔
初午の町の底ひに川の音        東京  三代川次郎













         





綺羅星集作品抄

伊藤藤伊那男・選

野の色の天地返しに土筆飯       東京  上田  裕
休みなく「考える人」去年今年     東京  小田島 渚
学食の評価が高く入学す        神奈川 秋元 孝之
目借時電車あくびに似た開扉      東京  桂  信子
影法師大きく立てる紙雛        神奈川 小林 好子
春愁を諾ふ笑まひ伎芸天        東京  大溝 妙子
一両で列車と呼べり山笑ふ       埼玉  志村  昌
百度石雪の踏みあと重ね合ひ      東京  多田 悦子
母校の名消ゆる話も出て弥生      埼玉  大野田井蛙
霞立つ谷戸から谷戸へ郵便夫      神奈川 中野 堯司
白煙を見たり深夜の遠雪崩       茨城  中村 湖童
鳥の巣の全てを丸く納めたる      神奈川 有賀  理
ぼろ市や青空映し姫鏡台        東京  堀内 清瀬
ときどきは翼のかはり春ショール    東京  森 羽久衣
引鴨や残る仲間に風残し        千葉  森崎 森平
咲き初めは泡立つやうに雪柳      東京  梶山かおり
卒寿には卒寿の歩幅青き踏む      宮城  有賀 稲香
潮騒の届く高さに巣箱据う       神奈川 伊東  岬
亡き姉が亡き母とゐて雛納め      東京  辻  隆夫

郵便箱と揃ひの巣箱父の作       東京  相田 惠子
逆立てて声発したる恋の猫       東京  有澤 志峯
錫杖を鳴らし田遊始まれり       東京  飯田 子貢
啓蟄や洋書のgが蠢めきて       埼玉  池田 桐人
田の神の幣うち揺らす木の芽雨     埼玉  伊藤 庄平
卒業子永遠の別れとなることも     東京  伊藤 政三
架橋せし島より届く新若布       東京  今井  麦
瓦斯の火は海の色して干鰈       東京  宇志やまと
しなやかに気楽に生きたし老の春    埼玉  梅沢 フミ
土筆生ふ野に道草のランドセル     東京  大住 光汪
日にまみえんとものの芽の傾ぎ出づ   東京  大沼まり子
鷹鳩と化して何処へも行けぬ空     神奈川 大野 里詩
麦踏の武甲山を背に折り返す       埼玉  大澤 静子
妻選りし入院靴で青き踏まむ      東京  大山かげもと
違ひ棚の子規の横顔春愁        東京  小川 夏葉
公魚の餌より小さき口を釣る      埼玉  小野寺清人
琅玕の青を深めて鳥の恋        神奈川 鏡山智恵子
ドロップの缶をまた振り春の風邪    和歌山 笠原 裕子
うす紙の花のかたちになり余寒     愛媛  片山 一行
剪定の枝のはづみを束ねをり      東京  我部 敬子
淡雪や平坦なるを明らかに       高知  神村むつ代
鴨帰る湖面に鏡敷き終へて       東京  川島秋葉男
芽柳のゆらぎをくぐりゆく思郷     長野  北澤 一伯
創造神の描ける前の焼野かな      東京  柊原 洋征
春の鳶特攻訓練ありし湾        神奈川 久坂衣里子
春ショール風を手玉に取るごとく    東京  朽木  直
朝東風や迂回大きく渡し舟       東京  畔柳 海村
春愁やぴたり閉ざせる三面鏡      東京  小泉 良子
雀きて途切れとぎれの朝寝かな     神奈川 こしだまほ
軒借るるほどもなく過ぎ春の雨     東京  小林 雅子
ため息の出でて春愁とは知らず     東京  小林 美樹
春耕や地球は四角とも思ふ       東京  小山 蓮子
雛段の跡のへこみに日の射せり     長崎  坂口 晴子
遠辛夷信玄公の狼煙とも        長野  坂下  昭
一様に波まかせなり残る鴨       千葉  佐々木節子
山笑ふ山彦呼べどそれつきり      群馬  佐藤 栄子
牡丹雪捻子巻き直すオルゴール     長野  三溝 恵子
春愉し助手席に地図拡げゐて      東京  島  織布
春障子明恵の声のしたやうな      東京  島谷 高水
陽炎や見取図のみの赤穂城       兵庫  清水佳壽美
さよならと振るハンカチに似て辛夷   千葉  白井 飛露
茎立や一遍聖像臑細し         東京  白濱 武子
蕗の薹千葉の切手を貼り届く      東京  新谷 房子
おひさまを包む一瞬石鹸玉       大阪  末永理恵子
蕗味噌やせめて超えたき母の歳     静岡  杉本アツ子
春空へ天気予報の下駄飛ばす      東京  鈴木 淳子
春雨の池に水輪を置かぬほど      東京  鈴木てる緒
沈丁や裏道にある古本屋        東京  角 佐穂子
青き踏む五百羅漢の寺出でて      東京  瀬戸 紀恵
紋白蝶ふれ合ひさうでふれ合はず    東京  曽谷 晴子
春風やフランスパンは縦に持ち     長野  高橋 初風
雲州やうららうららと鉄の川      東京  高橋 透水
蚰蜒の親子も並び涅槃絵図       東京  武井まゆみ
窓際の席はジョバンニ卒業歌      東京  竹内 洋平
飛石や落款のごと落椿         東京  立崎ひかり
春愁の旅は予定を立てぬまま      東京  田中 敬子
ものの芽のほぐれんとしてよぢれをり  東京  田家 正好
自販機が余寒の音を響かしぬ      東京  塚本 一夫
花冷や一日部屋に一人居て       東京  辻本 芙紗
馬場駆くるひづめの音や草萌ゆる    愛知  津田  卓
満開の肉を咲かせて牡丹鍋       東京  坪井 研治
脱ぎぎはに光の透けて春セーター    埼玉  戸矢 一斗
鷹鳩と化しサブレーになりしとか    大阪  中島 凌雲
源平の戦ひの海若布干す        東京  中野 智子
チェーホフの戯曲また読むさくらの夜  東京  中村 孝哲
半眼のままの頰杖春の風邪       埼玉  中村 宗男
さざ波の白薄かりし桜貝        東京  西原  舞
野馬追に雨沛然と到りけり       東京  沼田 有希
仏の座集まり野辺の浄土かな      埼玉  萩原 陽里
屈葬の地をつくづくし萌え出づる    東京  橋野 幸彦
冴返る砂落ちきりし砂時計       広島  長谷川明子
笹鳴きの鳴き止むときもひそやかに   神奈川 原田さがみ
二上のたをに日の入る遅日かな     兵庫  播广 義春
紅ひかれし雛手鏡欲しからむ      東京  半田けい子
まだ木々に焼野の匂ひ雨の朝      東京  福永 新祇
編み止しのセーターにある遠き日々   東京  福原  紅
対岸の風の色濃き糸柳         東京  星野 淑子
能楽は余白の美なり冴返る       東京  保谷 政孝
観音の千手のごとし大枯木       岐阜  堀江 美州
西行忌吉野に向きし膝頭        埼玉  夲庄 康代
六月一日
戦前の家族正装写真の日        東京  松浦 宗克
逃水や近くて遠き我が生家       東京  松代 展枝
北窓の開けばなだれ込む未来      東京  宮内 孝子
朧夜や不義の芝居の果て太鼓      神奈川 宮本起代子
瀬戸内のはるかな便り島遍路      東京  村上 文惠
解き放つ花片幾重幣辛夷        東京  村田 郁子
戦争と父と垣根の沈丁花        東京  村田 重子
水戸学の生まれし地へと梅見かな    埼玉  森濱 直之
花辛夷雲の流れに紛れをり       長野  守屋  明
春愁を解く知恵の輪を解くごとく    東京  保田 貴子
十七音の玩具悲しも啄木忌       愛知  山口 輝久
焚香に響く半鐘涅槃寺         東京  山下 美佐
女坂ばかり賑はふ針供養        東京  山田  茜
山笑ふ金の卵に無精卵         群馬  山田  礁
潮満ち来岩海苔搔きし辺りまで     東京  山元 正規
耕人となりて青空独り占め       愛媛  脇  行雲
明日咲くよと剪定の枝くれにけり    東京  渡辺 花穂
村長の太鼓合図に野焼かな       埼玉  渡辺 志水










     







銀河集・綺羅星今月の秀句

伊藤伊那男


野の色の天地返しに土筆飯        上田  裕
 炊き上がった混ぜ御飯を杓文字で均す。土筆は多分上に全部上っているのだが、これを均等に混ぜることを「天地返し」と、耕作の表現を使った。それは土筆飯だからこそ生きた言葉である。蓋を開けた表面は土筆なので茶色、まさに春の土の色である。釜の中の春耕という見立ては鮮やか。


休みなく「考える人」去年今年      小田島 渚
機知のある句だ。ロダンの「考える人」は当然だが一年中考えている。違う姿勢をとることはない。だが一年の大きな節目の「去年今年」を季語にすると、味わいが違ってくるようだ。「休みなく」が生きるのである。高浜虚子の〈去年今年貫く棒の如きもの〉の延長線上にあり、しかも独自性を保っている。 


学食の評価が高く入学す         秋元 孝之
あっと驚くおかしさである。本当にこんな学生がいるのだろうか。いやいるかもしれない、とも思う。こういう学生が成功するかどうかは不明だが、一服の清涼剤だ。この作者の自画像であるとしたら尚更面白い 


目借時電車あくびに似た開扉       桂  信子
目借時には電車も眠たげだという。うつらうつらと目を開けると電車の扉も気怠く、まるで欠伸の続きのように開く。もちろん作者の主観なのだが、電車まで擬人化してしまうのは技倆。 


影法師大きく立てる紙雛         小林 好子
雛よりもその影に焦点を当てた独自性を褒めたい。句からは影法師の方が本体より大きく立体感も持っているように感じられてくる。目の付けどころの良さ。 


春愁を諾ふ笑まひ伎芸天         大溝 妙子
 細見綾子の〈女身仏に春剝落のつづきをり〉を下敷きに置いた句であろう。綾子句はまさに「春愁」を具現化した句だといえよう。時を経て秋篠寺を訪ねた作者に、伎芸天は変わらぬ微笑を返す。綾子を癒したその微笑は作者の春愁も何もかも全てを諾うのである。


一両で列車と呼べり山笑ふ        志村  昌
たとえば踏切で「列車が通過します」などと注意が放送される。通ったのを見ると、只の一両。なんだ一両編成でも「列車」と呼ぶんだ……と作者は苦笑する。その向こうはまさに「山笑ふ」時節。作者の気持を山も代弁している。


百度石雪の踏みあと重ね合ひ       多田 悦子
社寺の境内に百度参りの場所がある。願いを叶えてもらうため祈りながら百回往復する。雨の日も雪の日も。この句はその嘱目だが、「重ね合ひ」がいい。何人かが雪の上に足跡を重ね合っていく。少しの間に模様が変わる。 

 

母校の名消ゆる話も出て弥生       大野田井蛙
少子化時代なので各地でこのようなことが起こっているのであろう、と他人事のように見ていたら、我が母校伊那北高校もその対象になっているようだ、という。同じ町の元女子高と合併し、しかも敷地はそちらに移るというのだ。その女子高は「弥生ヶ丘高校」というが、季語に「弥生」が入っているので悲しくも笑ってしまう。作者は同級生。 


霞立つ谷戸から谷戸へ郵便夫       中野 堯司
鎌倉の地形をよく摑んだ句だと思う。谷戸は「やと」とも「やち」とも「やつ」とも言い、正確には「谷」の一文字で用いる。扇ヶ谷、比企ヶ谷など。各々が霞の中にあり、郵便配達の車かバイクが動き廻っている。小さく静かな谷戸の霞を搔き廻すような描写がいい。 


白煙を見たり深夜の遠雪崩        中村 湖童
凄絶な風景である。深夜ではあるが、月に照らされているのであろう。白煙を上げている。遠雪崩なので無音の世界である。「見たり」に自然界の躍動、崇高な美に触れた作者の感動が伝わる。


鳥の巣の全てを丸く納めたる       有賀  理
確かに四角や三角の鳥の巣は無い。それならこの句のどこがいいか、というと「丸く納める」という慣用語である。鳥達も夫婦円満に巣作りをして子育てに励む。巣の形状からそのような事にも無言で言及するところが面白いのだ。 


 その他印象深かった句を次に

ぼろ市や青空映し姫鏡台         堀内 清瀬
ときどきは翼のかはり春ショール     森 羽久衣
引鴨や残る仲間に風残し         森崎 森平
咲き初めは泡立つやうに雪柳       梶山かおり
卒寿には卒寿の歩幅青き踏む       有賀 稲香
潮騒の届く高さに巣箱据う        伊東  岬
亡き姉が亡き母とゐて雛納め       辻  隆夫










                






 

星雲集作品抄
伊藤伊那男・選
秀逸

椿餅食めば残りし葉の二枚       大阪  西田 鏡子
耕すや八ヶ岳(やつ)ふところ少し借り     千葉  長井  哲
繫がるる山羊の円周牧うらら      青森  榊 せい子
水分の神奉り田水引く         長野  池内とほる
朝刊を開けば余寒こぼれ落つ      埼玉  秋津  結
父の名の残る算盤納税期        埼玉  今村 昌史
赤すぎて二三歩退る木瓜の花      東京  岡城ひとみ
甲骨で卜ふ神意龍天に         静岡  金井 硯児
上野発寒夕焼を追ひゆける       長野  宝 絵馬定
文鳥を埋めし庭隅下萌ゆる       千葉  中山 桐里 
青き踏む父の一歩は子の三歩      神奈川 堀  備中
霾や日輪を牽く馬の影         神奈川 水木 浩生
初花も爺も飛び出す絵本かな      神奈川 日山 典子
春愁や鏡の中の冷たき目        愛知  松下美代子
瞽女唄のときに艶もの雁供養      岩手  永井 むつ

ふる里や春蚕の紡ぐ夕まぐれ      東京  西  照雄
青き踏む父の一歩は子の三歩      神奈川 堀  備中
 赤すぎて二三歩退る木瓜の花     東京  岡城ひとみ






星雲集作品抄

            伊藤伊那男・選


つとのなか牡丹の放つ息遣ひ      東京  秋田 正美
夢の中母にあひたし朝寝して      京都  秋保 櫻子
春愁や野に来て山に来て一人      東京  尼崎 沙羅
芹の句を掛けて偲びし龍之介      愛媛  安藤 向山
羽ばたきて引鶴ひかり撒き散らす    東京  井川  敏
足の先まで無重力てふ朝寝       東京  生田  武
エクレアを斜めに食へば春が立つ    東京  石倉 俊紀
雛の灯に昭和の色のよみがへる     東京  市川 半裂
記念樹の蕾のままで卒業す       高知  市原 黄梅
特急に手を振りてまた土筆摘む     東京  伊藤 真紀
火も雪も闇夜に舞ひて修二会果つ    神奈川 伊藤やすを
春眠や今まなうらの草千里       広島  井上 幸三
この田をば守りぬかんや田を起す    愛媛  岩本 青山
春泥を跳ねて木曾路の新馬かな     東京  上村健太郎
海風を追風として遍路道        愛媛  内田 釣月
雪解を告ぐる小川の音高し       長野  浦野 洋一
残る鴨家鴨と並び水尾をひく      埼玉  大木 邦絵
菜の花や火山灰に烟れる薩摩富士    東京  大島雪花菜  
山廬行連山聳え桃の花         神奈川 大田 勝行
神宿る筑波が決めし種蒔く日      東京  岡田 久男
車窓より白さちらほら白蓮か      群馬  岡村妃呂子
ものの芽や遊びにゆけぬ膝小僧     東京  荻野友佑子
桜餅隅田の流れゆつたりと       神奈川 小坂 誠子
桜咲く前の尊き日数かな        京都  小沢 銈三
雉子一声社に神の遣ひめく       埼玉  小野 岩雄
永き日や竜頭の巻けぬ腕時計      静岡  小野 無道
霾や唐土の鳥のまたの名を       宮城  小野寺一砂
春疾風すずめそろつて南向き      長野  唐沢 冬朱
寄せて引く石蓴の重き波頭       神奈川 河村  啓
目出度きや氏子三代春の山車      愛知  北浦 正弘
水温む水切り石を投げ比べ       神奈川 北爪 鳥閑
まだ夢を追ひかけてゐる朝寝かな    東京  北原美枝子
涅槃西風寺に並びしまねき猫      東京  絹田  稜
玉椿ここらあたりが大奥と       東京  久保園和美
今はもう足尾の山も笑ひけり      東京  倉橋  茂
子は幾つ雛も一緒に年重ぬ       群馬  黒岩伊知朗
子らの声こだまと遊び山笑ふ      群馬  黒岩 清子
吾は長湯魚は氷に上りけり       三重  黒岩 宏行
春愁ひ猫の尾知らず踏みしより     東京  黒田イツ子
荒行を遂げし歓喜や修二会僧      神奈川 小池 天牛
壺焼の何度ものぞく焼け加減      東京  髙坂小太郎
白子干あるかなきかの骨を嚙む     東京  小寺 一凡
白梅の蕾ほどけぬ雨となり       群馬  小林 尊子
高さ変へ向き変へてみる巣箱かな    千葉  小森みゆき
越中の薬と訛春連れて         宮城  齊藤 克之
辛き世に春の足音一歩づつ       神奈川 阪井 忠太
年々に一手間加はへ古巣かな      長野  桜井美津江
お点前の所作緩やかに花の昼      東京  佐々木終吉
涅槃西風ぬかるみへ日の煌めけり    群馬  佐藤かずえ
息の合ふラジオ体操春の風       群馬  佐藤さゆり
菊菜摘む雨はしだいに音となり     広島  塩田佐喜子
セルロイド廻す昭和や風車       東京  島谷  操
紅梅の声を発してゐるやうな      東京  清水美保子
吾子と見る上巳節句の写真集      東京  上巳  浩
春燈や伏見稲荷の濃き狐影       神奈川 白井八十八
旅立ちや赴任の町の風光る       東京  須﨑 武雄
順礼の先達となる初音かな       岐阜  鈴木 春水
雨ありて涌くやうに出づ春椎茸     群馬  鈴木踏青子
暗闇に赤き糸ひき椿落つ        愛知  住山 春人
ふらここの真下の水の空青し      千葉  園部あづき
火の禊済みて清しき焼野かな      埼玉  園部 恵夏
春疾風見果てぬ夢もさらひしか     東京  田岡美也子
旅人の賑はふ港多喜二の忌       東京  髙城 愉楽
あの地震の映像を見る余寒かな     福島  髙橋 双葉
冴返る風に笹の葉踊りをり       埼玉  武井 康弘
春雷や角成りて王驚かす        東京  竹花美代惠
下萌や資材置場の重機にも       神奈川 田嶋 壺中
証書受く白墨の手を卒業す       東京  田中  道
老いの手にたやすく落ちし春蚊かな   神奈川 多丸 朝子
触れる手に柔毛の如き猫柳       愛知  塚田 寛子
苗札の仕舞の土を拭ひけり       大阪  辻本 理恵
毛をたてて駐輪場へ恋の猫       東京  手嶋 惠子
夜来の雨木々の芽天にまた近く     神奈川 長濱 泰子
湖の水面明るく蜆汁          東京  中村  弘
蓬餅ふるさと便で届く朝        京都  仁井田麻利子
校門の木もふつくらと百千鳥      宮城  西岡 博子
青空へ喇叭吹くごと黄水仙       静岡  橋本 光子
下萌に首の座りし吾子想ふ       東京  橋本  泰
午後に倦む紅梅の花散りそびれ     東京  長谷川千何子
啓蟄や目光る夜半の白鼻心       神奈川 花上 佐都
はこべらの三日見ぬまに丈揃ふ     長野  馬場みち子
佳き名前幾十かぞへ梅の園       千葉  針田 達行
錆つきし螺旋階段春の空        長野  樋本 霧帆
光とも水ともなりて雪解かな      千葉  平山 凛語
卒業歌止みて校舎の空広し       千葉  深澤 淡悠
目の合ひて子猫すぐにも逃げ仕度    長野  藤井 法子
三峰口の駅に一叢節分草        東京  牧野 睦子
犬吠埼(いぬぼう)は地球の形春霞    神奈川 松尾 守人
若布干す隙より見ゆる戻り舟      京都  三井 康有
父は子を目配りしつつ凧        東京  三好 恵子
夢うつつ鳥の声入る春障子       東京  棟田 楽人
払暁に小雨が癒す焼野かな       東京  八木 八龍
薬降る竹の節には神宿る        東京  家治 祥夫
大地より大合唱やつくづくし      東京  矢野 安美
天空の風と繫がる凧の糸        東京  山口 一滴
空耳やふと見上ぐれば鳥雲に      群馬  山﨑ちづ子
鴨帰り勢力代はる源平池        神奈川 山田 丹晴
山国の子らの声乗せ雪解風       静岡  山室 樹一
行き違ふ遍路は母に少し似て      高知  山本 吉兆
陽炎や道は山並突き刺して       群馬  横沢 宇内
佐保姫の機嫌蕾も計りかね       神奈川 横地 三旦
春障子引手の温み指先に        神奈川 横山 渓泉
卒業や手の皮剝けし逆上がり      千葉  吉田 正克
故郷の父の声する松の花        山形  我妻 一男
いごつその義父七回忌目刺焼く     神奈川 渡邊 憲二


















星雲集 今月の秀句

伊藤伊那男

椿餅食めば残りし葉の二枚         西田 鏡子
「椿餅」の起源は桜餅などよりも遥かに古く、源氏物語に登場する。内容は餅粉を甘葛で捏ねたものであったようだ。今は小豆餡を道明寺糒で包む。椿は日本原産の植物であり、確かに古代から愛でられたので納得できる。桜餅の葉は私などは一緒に食べてしまうが、さすがに椿の葉は食べるわけにはいかない。句は皿の上に光沢のある二枚の葉が残っている、というところがいい。同時出句の〈雛流し加太の門波へ遠流めく〉はほど良い抒情。〈帰る鴨見てゐる我を鴨は見ず〉はほど良い滑稽感。


耕すや八ヶ岳(やつ)のふところ少し借り   長井  哲
八ヶ岳山麓の広大な高原野菜の耕地は先人の苦闘による開墾の成果である。この句の眼目は「少し借り」であろうか。この措辞により八ヶ岳山麓の広さが解るからである。確かこの山のもともとの山容は富士山に匹敵するほどであったという。同時出句の〈さざ波に光を置いて鳥帰る〉は「光を置いて」に鳥の帰ったあとの本格的な春の到来を予感させる。 


繫がるる山羊の円周牧うらら        榊 せい子
構図の面白い句だ。杭に繫がれた山羊が動き回るのだが、それは紐の長さを半径とした円の中。どんなに動いてもその範囲内というところに悲しさと可笑しさが混じる。「牧うらら」の季語の斡旋が豊かである。 


水分の神奉り田水引く           池内とほる
 農業の死活を制するものは水。その為山から流れ出る水の分岐点に神を祀った。水利技術の発展した現代は神に縋ることは少なくなった。だが、大事にしなければ、という気持は変らず、それがこの句の「奉り」になったのであろう。この句の「奉り」は形だけ高い地位に置いて、という感覚であろうか。信仰と科学のはざまを詠んだ句。


朝刊を開けば余寒こぼれ落つ        秋津  結
 新聞から余寒が零れ落ちるということは無いのだが、感覚としては実感がある。この時期の手に受けた新聞の冷たさを皆知っているからである。この感覚を十七音に纏めたのは手柄である。同時出句の〈紙飛行機春夕焼を曳きながら〉も郷愁を誘う作品だ。「曳きながら」がいい。


父の名の残る算盤納税期          今村 昌史
 パソコンに頼ると漢字が書けなくなり、電卓に頼ると暗算が出来なくなる‥‥そのような時代である。算盤も過去のものになりつつあるのが残念だ。納税期には何かと数字が絡む。そんな時父の残した算盤を思い出す。父は自分達を育てるために様々な苦労をしたのだろう‥‥という感慨。


上野発寒夕焼を追ひゆける         宝 絵馬定
信州育ちの私が新宿駅に愛着があるように、東北地方の方には上野駅は特別な存在であろう。古くは石川啄木の短歌を、我々の世代では井沢八郎の「ああ上野駅」などが思い出される。その意味でこの句の「上野駅」は刻印のように印象的である。寒夕焼が上野から始まった、という見立ても面白いところだ。ただし今東北新幹線の始発は東京駅となり上野は地下ホームに変り、往時茫々の思いである。同時出句の〈まだ売れぬ海鼠女に突かれる〉は朝市の一景であろうか、楽しい風景だ。 


霾や日輪を牽く馬の影           水木 浩生
 姿勢の良い句である。黄砂にぼんやりとした影を牽く馬の列。平山郁夫の絵に出てきそうな景色である。無駄な言葉が無い。同時出句の〈霾や旅に黄ばみし流亡記〉は更に抒情を深めた佳句。


初花も爺も飛び出す絵本かな        日山 典子
飛び出す絵本なのであろうか。桜の花が目に飛び込んでくるのだが、ついでに花咲爺も出てくるところがこの句の眼目。俳句の特徴である滑稽を混在させているのである。さて、絵本の中の桜は季語か? という指摘が出るかもしれないが、季感があるかどうかの判断でいいと私は思っている。同時出句の〈海苔を干す町に越し来て空広し〉もいい感覚である。 


瞽女唄のときに艶もの雁供養        永井 むつ
瞽女は三味線を弾き唄う盲目の旅芸人。その唄と雁供養を合わせたのだが、土俗的な風韻が濃く、空想句であるのに妙な実感を持つ不思議な句だ。


鴨帰り勢力代はる源平池          山田 丹晴
源平の戦いを元にこのような展開をした発想を称えたい。どっちの池に沢山の鴨がいたのか解らないが、「鴨帰る」で勢力図が変ったというのだ。知力を発揮した秀逸。 

  
その他印象深かった句を次に


ふる里や春蚕の紡ぐ夕まぐれ        西  照雄
青き踏む父の一歩は子の三歩        堀  備中
赤すぎて二三歩退る木瓜の花        岡城ひとみ
















伊那男俳句  


伊那男俳句 自句自解(53)
          
  
大仏の煤を掃かせて貰ひけり

 「貰ひけり」と詠んだけれど、実は私が体験したわけではない。「煤掃き」の大仏といえば何といっても奈良東大寺の廬舎那仏である。年末になると必ずと言っていいほどその煤掃きの様子がテレビのニュースで流れる。じつは「お身拭い」というのが正確なのだが……。僧侶百五十人ほどが参加して、ロープで吊り下げられたりする壮大な作業である。私が大仏殿を最初に見たのは中学校の修学旅行であった。その頃は大仏殿の柱の穴くぐりができる体形であった。その後も度々訪ねている。四十代の頃、金曜日の夜行バスに乗って何度も奈良へ吟行した。五時過ぎに奈良に着き、喫茶店で寛いだあと、どこに行ったらいいかというと、主要な寺社で最も早く扉が開くのは東大寺で、七時半からであったと思う。そのような愛着の深さから、揚句のように私自身が参加したような気持になり「掃かせて貰ひけり」とつい嘘を言ってしまったことも廬舎那仏には許して貰えるだろうと思っている。

 
 雪祭神の降りくる荒筵

 同時に詠んだ句に〈榾はぜて湯立神事の神散らす〉〈雪祭神呼ぶ声の怒涛なす〉がある。信州伊那谷の私の出身地よりもさらに南の下伊那郡阿南町新野で一月十三日から十五日にかけて行われる祭である。発生は鎌倉期とも室町期とも言われるが詳細は不明である。昔は正月神事とか田楽祭と呼ばれたが、折口信夫により「雪祭」と呼ばれるようになった。神前に雪を捧げて五穀豊穣を祈願する予祝行事である。私の訪ねたのは四十九歳の時。最も寒い時期の夜中の祭であるから見学するには相当な体力と覚悟がいる。朦朧とした記憶だが吹き曝しの社殿の茣蓙の上で延々と緩慢な舞が続いており、休憩して戻ってもまだ続いている。変化があるのは神の控える庁屋(ちょうや)の板壁を叩く「ランジョウ」や作り物の馬に乗った騎手が矢を射る「競馬(きょうまん)」位が記憶に残っている程度である。国の重要無形文化財に登録されている貴重な行事だが、もう一度行くか、と問われたら……返事はできない。      










     


 

伊藤伊那男  俳人協会賞受賞










 去る3月5日、平成30年度の俳人協会四賞の授与式が京王プラザホテルで行われました。
ご存じの通り、伊藤伊那男主宰が句集『然々と』で第58回俳人協会賞を、同人の堀切克洋さんが『尺蠖の道』で第42回俳人協会新人賞を受賞四、銀漢俳句会から4賞の内二賞を頂くという快挙となりました。2019/4/30/更新



















俳人協会四賞・受賞式









更新で5秒後、再度スライドします。全14枚。


 二次会・店内に入りきれない人数でしたが,日曜日とあって店の前の通りも通行が少なく,穏やかな天候の下、外に溢れる受賞者の二人や他結社の方々と交流するなど、思い思いにお酒を楽しみながr懇談を深め,何時までも祝賀会の熱気は冷めることがありませんでした。









 受賞 祝賀会

 伊藤伊那男 俳人協会賞
堀切 克洋  俳人協会新人賞
2019/3/17 学士会館
銀漢亭(二次会)


 月刊「俳句四季」に受賞の記事が掲載されました。
月刊「俳句四季」に受賞の記事掲載は
5月号(4/20発売)か6月号(5/20発売)のどちらかを予定しています。


然々と   伊藤伊那男

リンクします。

句集 「然々と」 伊藤伊那男

 
句集「尺蠖の道」
拡大します。

尺蠖の道  堀切克洋




linkします。



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拡大します。


受賞祝賀会 3月17日 日時 12時 
会場 学士会館 東京神田 





haishi etc
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銀漢の絵はがき


挿絵が絵葉書になりました。
Aシリーズ 8枚組・Bシリーズ8枚組
8枚一組 1,000円

ごあいさつにご利用下さい。





















掲示板






















               
 
     

銀漢亭日録

 
3月

 3月月19日(木)
 閑散。北海道の廣田和久さん(「雪華」)訪ねて来て下さる。「俳句αあるふぁ」の中島三紀編集長他。

 3月20日(金)
 休日。エッセイ一本。昼、晴天にて散歩。「樫尾俊雄発明記念館」の庭園から「はけ」を下りる。住宅街を戻ると桜並木は二分咲。

3月21日(土)
 花見を兼ねて「さきたま古墳群」「忍城」を吟行。井蛙、展枝、小石、うさぎさん。吹上駅からバス。10時半、古墳。丸墓は石田三成の忍城攻めの本陣。高さ20メートルほどあり。「稲荷山古墳」は国宝の鉄剣出土。行田市役所前の「うどん大地」で昼食。少々のビールで眠気が出て忍城のベンチでうたた寝。「水城公園」でもうたた寝。桜は二、三分咲き。快晴。16時、足袋御殿の「和牛懐石 彩々亭」で5句出し句会あと刺身、ステーキなどで宴会。19時、大宮に出て駅前の「いづみや」で二次会。ねむい、ねむい。

 3月22日(日
 昼、「国立成育医療研究センター病院」に龍正君を見舞う。まずは元気。『鬼滅の刃』あり、二巻まで読んで疲れる。桜、一気に満開に。休養の1日。少しネジを巻かないと。夕食、新ジャガとベーコンの炒め煮好評。

3月23日(月)
 店、皆川文弘さん久々、福島の酒、菓子などの差入れ。陣中見舞のお気持か。清人、肇、寺沢さん。朝夜、成城の桜並木を通る。夜は桜の匂いが濃い。成城の駅の山桜がいい!

3月24日(火)
 店、客無し。19時閉める。

3月25日(水)
 店、てる緒、井蛙、いづみ、閑散。21時前閉める。久々、家で食事、小酌。

3月26日(木)
 桜を見つつ駅へ。店、清人、硯児、宗一郎、麦、羽久衣、道、幸彦さん。「俳句てふてふ」の今井竜氏にエッセイ渡す。毎月掲載の予定。

3月27日(金)
 店、大溝妙子、鈴木淳子、石倉さん……19時閉店。

3月28日(土)
 昼、天気の良い内にと成城を散策。桜満開。椿もいい。3丁目は国分寺から続くはけの道。「俳句てふてふ」のエッセイ2本書く。

3月29日(日)
 春の雪、積もり始める。

  3月30日(月)
 店、辻本芙紗さん、ミャンマーから帰国と挨拶に来店。羽久衣、宗一郎、毎日新聞の今井さん、はじめさん、小石さん、うさぎさん、シャンパンで芙紗さんの帰国を祝う。

  3月31日(火)
 今日から、今週は店休みとする。深刻な状況である。七月の「こもろ・日盛俳句祭」中止の知らせ。5月5日の「足立俳句連盟」の俳句大会中止の知らせ(選者予定であった)。1日だらだら過ごす。少し気が抜けてしまったか……。酒抜く。

4月

 4月1日(水)
 雨。『角川俳句大歳時記』新版用の季語解説の校正など。終日家。今後、莉子、華子(孫)が夕食一品ずつ料理作ることに。莉子がキンパと笹身の青しそ包み焼。華子がチヂミ。私が茄子とピーマンの回鍋肉。

4月2日(木)
 昼、成城散歩。1時間少々。

 4月3日(金)
 昼、成城散歩 2時間ほど。仙川沿いの桜、花筏、しみじみ。夕飯は私がジャガイモとベーコン蒸焼。孫達がマーボ豆腐など。「宙句会」「十六夜句会」「童夢句会」「鎌倉句会」のネット句会の講評。

 4月4日(土)
 10時半から散歩。桜を見ながら祖師谷公園方面。公園で木の芽を少々貰い、スーパーで筍他買う。今年はしみじみ桜を見ている。「大倉句会」の選句。夜、筍の木の芽まぶし、スペアリブなど。

 4月5日(日)
 昼、1時間ほど散歩。曇天。「銀漢」5月号の校正。夜、モツ鍋と砂肝炒め、三葉のおひたしなど。孫はきんぴらごぼう。

 4月6日(月)
 午後店。冷蔵庫の清掃。整頓など長期休業の準備。夕食は蛍烏賊のさっと煮、鶏唐揚など。孫は茸とブロッコリーの挽肉炒め。宮澤は撮影で日光。明日東京に緊急事態宣言出ると。

 4月7日(火)
 怜輔、先日からミュージカル「ライオンキング」の練習。多分今日までで、あとは宣言開けか。昼、1時間半ほど散歩。夕食。豚肉の味噌漬。蕪の蒸煮。新玉葱サラダ。若布とちりめんじゃこのポン酢サラダ。孫はビシソワーズ。

4月8日(水)
 晴天。昼、一時間ほど散歩。途中の農家でブロッコリーの芽や春菊を買う。「梶の葉句会」「春星句会」ネット句会の選句。午後、孫2人が料理を作り、庭で食事会。

 4月9日(木)
 午前中散歩。調布市との境の農家がいい野菜を売っているのに遭遇。葱、ホウレン草、パクチー計350円。6月号の原稿を飛露さん、政三さんに送る。夕食にマッシュポテトとトマトソースの重ね焼、からすみ大根。ブロッコリーの芽の蒸し煮用意。

4月10日(金)
 全国俳誌協会コンクール選句。約九100句応募あり。孫の怜輔と散歩・野菜買う。今日は鰯の生姜煮、あこう鯛の粕漬、ほっけ焼。ホウレン草とソーセージの蒸し煮など。

4月11日(土)
 10時から散歩。農家で野菜買う。夕食、鳥鍋、きぬさやの卵とじ。からすみ大根。サラダ菜とシーチキンのサラダなど。

4月12日(日)
 怜輔、Eテレ「おとうさんといっしょ」の最後の踊りと歌のコーナーに出演。怜輔と散歩。柴山つぐ子さんから、群馬の菓子や独活など。川島秋葉男夫人より電話あり、秋葉男さん、腸管穿孔で入院、手術を受けたと。4週間ほどの入院と。夕食、カレー、独活きんぴら、独活、椎茸、パクチーの天麩羅など。

4月13日(月)
 4時過起床。生活のリズムがまだ掴めず。雨。散歩あきらめて「カウボーイ」に乗る。夕食、蕗煮、焼そば、孫がジャガイ芋と鶏肉の中華炒めなど。

 4月14日(火)
 快晴。10時前から散歩。農家でパクチー、春菊、ブロッコリーの芽、葱、サラダ菜、きぬさやなどを買う。富士山が美しい。海棠、石楠花などがいい。葉桜も。龍正君退院。姉2人がチョコレートケーキを作っている。夕食、ビーフステーキ、焼き方三種類に変えて出す。サラダ菜とツナのサラダ。ウインナーソーセージとジャガ芋の蒸焼。

4月15日(水)
 龍正、怜輔と散歩。富士山を見る。野菜買う。手羽元の黒酢煮、摘菜と油揚のさっと煮、島らっきょう、鯖の塩干焼、鮪と若布。「高遠句会」「銀漢句会」「閏句会(他結社)」などの選句。

4月16日(木)
 龍正と散歩。午後、庭で食事をすることになり、牛舌、ミノ焼。ルッコラのサラダ、キャベツとウインナー、ベーコンのコンソメ煮、島らっきょう、ジャガ芋焼など。ヘアメイクの中川さんに来て貰い、散髪。思い切り短髪に。髭も20日ほど剃っていないので、我ながら風貌が変わった。

 4月17日(金)
 龍正、怜輔と散歩。農家で野菜買う。孫がパンを焼く。夕食、筍焼き木の芽添え、春菊のおひたし、茗荷の茎と鰹節。モツ鍋。ルッコラのサラダ。きぬさやの卵とじ。

4月18日(土)
 雨。選句。飯田眞理子句集の句稿点検と序文の構想を練る。夕食、豚の味噌漬のカツレツ、スナックサヤのマヨネーズ和、レタスとルッコラの胡麻ドレッシングサラダ。筍と若布の煮物、パクチーと納豆など。

 4月19日(日)
 10時、婿、孫と四人で散歩。備蓄食料も仕入れ。午後、庭で食事。ブロッコリーと鯖缶(孫)、若布とちりめんじゃこサラダ、苦瓜スライス、パン(孫)など。昼酒に酔い昼寝。飯田眞理子句集の序文、五千字弱、書き上げる。「十六夜句会」の選など。











         
    






今月の季節の写真/花の歳時記


2020年6月24日撮影  柳花笠      from hachioji





花言葉   「幸運に」「魅惑する」
△柳花笠    
柳花笠という名前は、ヤナギのように細長い葉と、花笠のような半球形に集まった花の姿に由来します。
カンパニュラ 麦秋 梅花空木 スパティフィラム  早苗
ウリノキ マタタビ テッセン 夏椿
凌霄花 柳花笠

写真は4~5日間隔で掲載しています。 
2020/6/25    更新







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