HOME 句会案内 バックナンバー  

2017年 1月号  2月号   3月号 4月号   5月号  6月号
   7月号  8月号  9月号  10月号  11月号  12月号
 2018年  1月号  2月号  3月号  4月号  5月号  6月号
   7 月号  8月号  9月号  10月号  11月号  12月号
 2019年  1月号  2月号  3月号  4月号 5月号   6 月号
   7月号  8月号  9月号  10月号  11月号  12月号
 2020年  1月号  2月号  3月号  4月号  5月号  6月号
   7月号  8月号  9月号      

 9月号  2020年

伊藤伊那男作品    銀漢今月の目次  銀漢の俳句 盤水俳句・今月の一句  
  彗星集作品抄    彗星集選評  
銀漢賞銀河集・作品抄  綺羅星集・作品抄  銀河集・綺羅星今月の秀句 
星雲集・作品抄  星雲集・今月の秀句    伊那男俳句  銀漢の絵はがき 掲示板  
 銀漢日録  今月の写真 俳人協会賞受賞  俳人協会四賞受賞式


3

伊藤伊那男作品

主宰の8句









        
             

 
          
    

今月の目次





銀漢俳句会/2020/9月号


        







    



  





   



銀漢の俳句 

伊藤伊那男 

◎散歩で思うこと

 3月末から銀漢亭は休業に入りそのまま閉店になった。それまでの生活は午前中の数時間、選句や執筆をして、昼過ぎから家を出て、仕入れをして神保町の店に入り、仕込みをして四時半に店を開く。11時過ぎまで店にいて、日付の変わる頃帰宅する。会計や翌日の酒の注文やメニューの構成などを決めて二時くらいに就寝という日課であった。現在の住居は小田急線の成城学園前である。五年程前、杉並の家を次女に譲り、長女の家に同居している。成城は東京でも有数の住宅地だが、ほとんど観察する間もないまま家と駅の往復をしていた。このたび自由の身となり、初めて散歩という時間を持つようになった。雨が降らない限り午前中の1時間から2時間、買い物や雑用も兼ねて散歩する。成城地区から周辺の土地まで範囲を広げてずいぶん歩き回った。成城は多摩川に削られた国分寺崖線(はけ)の延長線上にあり、田園調布などとも似かよった高台に位置する。歩いてみて解るのは崖線の下の喜多見、狛江、野川などには古墳なども多く、昔から治水を繰り返し、開墾された豊かな農村地帯であったことだ。逆に成城は昭和の初めまでは不毛の地であったことが解る。
 私見だが「水道」という文明の利器が出現してからようやく成城の価値が出てきたのである。昭和11年(1936、成城学園が開校した。同時に学園都市の構想が出て、それまで住宅地にも耕作地にもならなかった雑木林の丘陵に使い道が出てきたのである。不毛の地であったので、白紙に定規で線を引くように計画的な街を作ることができたといえよう。砂漠が街に転じたラスベガスに似ていなくもない。これは田園調布や多摩ニュータウンの成り立ちとも同類である。
 それ故に成城には昔を偲ぶ痕跡が何一つ無い。道祖神も神社も寺も無い。隣接する調布市入間町に入ると様相は一変する。私が野菜を買いに寄る農家は現当主で24代目になるという。徳川幕府成立以前からこの土地を耕しているのである。敷地の中には笠間から勧請してきたという稲荷社もある。近隣に幾つかのアパートを経営している節もあり、資産背景は厚い。
 一方成城の住人は遡っても3代である。もちろん才智と努力で功成り名を遂げ蓄財できたエリート達である。但し一旦金回りでも悪くなったら退場しなくてはならない人達である。住むのに金がかかるのである。私などはバブル劇場の端役にいて倒産した身でもあり、居候でもあり、何とも場違いな異邦人ということになる。砂上の楼閣で暮らしているんだな……と思う。
 そんなことを思いながら散歩を続けている。










 



  

盤水俳句・今月の一句

伊藤伊那男

雨の夜の梨剥く音のさびしけれ        皆川 盤水

先生には「梨」の季語の句が十数句ある。何故か父上の思い出と絡む。〈梨剥きてはらから父の忌に籠る〉〈父の忌や大き地梨の法事膳〉〈父の忌の梨畑に聴く寺の鐘〉など。梨といえば父という直通回路があるようだ。また〈梨齧る常磐線の鈍行に〉〈ふるさとの地梨がどかと雨の朝〉などを見ると郷里いわきとも直結するようだ。掲出句は晩年の句だが、以上の句の総括のようにも思えてくる。結局「淋しさ」に帰着するようだ。(平成十七年作『花遊集』所収)










  

彗星集作品抄
  伊藤伊那男・選

箱眼鏡負けん気の日々噛み跡に       多田 美記
地の凹むがに向日葵の影重し        杉阪 大和
かつと目を見開いてゐる蝮酒        堀切 克洋
マネキンの片腕はづし更衣         小山 蓮子
夏祓走り根からむ夫婦杉          中村 湖童
蠅叩兄弟けんくわ引き分くる        坂口 晴子
父の日やちちの蹠を踏みしこと       久坂衣里子
戒壇を出てなほ梅雨の暗さかな       杉阪 大和
サイダーの泡にかすかな風湧けり      福原  紅
簾吊る一番風呂の刻太鼓          多田 悦子
やはらかに日を差し入れて袋掛       堀江 美州
沖膾富士は大盃伏せしごと         中村 湖童
父の日や放任といふひと時を        唐沢 静男
二階から京ことば聞く昼寝かな       こしだまほ
馬鈴薯の花咲く村や開墾碑         池田 桐人
海隠すほどに番屋の夏蓬          小野寺清人
朝焼けの関八州を鞣しゆく         谷口いづみ
巡礼の道半ばなる夏炉かな         こしだまほ
嫌はれて一言居士の夕端居         桂  信子
来るぞくるぞ千貫御輿地を揺すり      半田けい子



















    
     

彗星集 選評 伊藤伊那男

伊藤伊那男・選

箱眼鏡負けん気の日々噛み跡に       多田 美記
 私も子供の頃、天竜川に注ぎ込む支流で箱眼鏡を使った。といっても鰍程度が獲物であった。この句はもっと大きな海の魚などを取った人達の雰囲気だ。そこそこ小遣いになる収穫物を競い合ったのであろう。片手は簎に取られるので、箱眼鏡は歯で噛んで安定させる。木枠に残るその痕跡が競い合った歴史である。「負けん気の日々」がうまいところだ。q

  
地の凹むがに向日葵の影重し        杉阪 大和
 向日葵だからこそ「地の凹むがに」が大袈裟ではなく、むしろ実感を持って胸に入るのである。向日葵の大きさ、圧倒的な重量感を見事に掴んでいる。欲を言うとこの措辞があるので下五の「影重し」の「重し」が言い過ぎとなる嫌いがある。「影なりき」位でよいだろう。

  
かつと目を見開いてゐる蝮酒        堀切 克洋
私は蛇嫌いなので、蝮酒などがあっても、できるだけ見ないことにしている。きっととぐろを巻いて、その上に顔を据えて目を見開いているのであろう。常套的表現ではあるが「かっと」が効いているようだ。 

 
 マネキンの片腕はづし更衣        小山 蓮子
 「更衣」の季語をマネキンに使っているが、ショーウィンドーの展示であり、季感は十分にある。面白いところに目を付けたものである。マネキンのことであるから、人間のように自在に腕を廻すことができず、片腕を外して着せ替えたという。誰もが目にしている光景だが、句にはできなかった場面である。「片腕はづし」――臨場感が出たのはここ、ここが句の勘所である。

  
夏祓走り根からむ夫婦杉          中村 湖童
 走り根というと京都鞍馬寺の奥、牛若丸が天狗から剣術を習ったという、僧上ヶ谷不動堂辺りの風景を思い出す。もちろんこの句は、鞍馬でなくていい。夫婦にたとえられた大杉のある神社で夏祓の祭事が行われていたのである。夏祓は疫病の多くなる盛夏にさきがけて、罪、穢を祓い去るためのもの。がっちりと詠み止めた写生句の良さである。

  
蠅叩兄弟けんくわ引き分くる        坂口 晴子
今の東京の生活では一匹の蝿がいても気になったりするのだが、私の育った頃は到る処に蝿がいたものだ。食卓の天井にも蝿取紙を垂らしていたし、それこそ各部屋に蝿叩きがあった。兄弟も多かったので喧嘩も絶えない。長兄や父などが蝿叩を持って仲裁に入ったのである。「五月蝿い」と書いて「うるさい」と読むことなどを思い出した。 

  
父の日やちちの蹠を踏みしこと       久坂衣里子
「蹠」はあしうらと読む。「父の蹠踏みしこと」とする。 

  
戒壇を出てなほ梅雨の暗さかな       杉阪 大和
戒壇は暗いものだ。出た外も暗いと梅雨をうまく捉えた。

  
サイダーの泡にかすかな風湧けり      福原  紅
やや大袈裟であるが、泡が弾けるときの空気の震動か。 

  
簾吊る一番風呂の刻太鼓          多田 悦子
四国松山道後温泉の一景か。確か早朝五時か六時か……。 

  
やはらかに日を差し入れて袋掛       堀江 美州
 好天の日の袋掛け、豊穣の約束があるような。

  
沖膾富士は大盃伏せしごと         中村 湖童
 「大盃伏せしごと」の単純な構成がいい。一幅の絵。

  
父の日や放任といふひと時を        唐沢 静男
やや言葉足らずだが、放っておかれる方が安らぐことも。 

  
二階から京ことば聞く昼寝かな       こしだまほ
京の路地の庶民生活の一景か。気安さがいい。

  
馬鈴薯の花咲く村や開墾碑         池田 桐人
 満蒙帰りの開拓地が信州には多かった。馬鈴薯は象徴的。

  
海隠すほどに番屋の夏蓬          小野寺清人
 冬が漁の中心の番屋であろう。北辺の海が浮かぶ。

  
朝焼けの関八州を鞣しゆく         谷口いづみ
「鞣しゆく」が珍しい表現。関八州の大景も面白い。 

  
巡礼の道半ばなる夏炉かな         こしだまほ
 巡礼者への幾つかのもてなしの一つの「夏炉」。

 
 嫌はれて一言居士の夕端居        桂  信子
昔はこんな年寄りが確かに居た。信念もあった。 

  
来るぞくるぞ千貫御輿地を揺すり      半田けい子
「ワッソワッソ」は古代朝鮮語の「来る」だとか。 














銀河集作品抄


伊藤伊那男・選

捨てきれぬ辞令の束の黴払ふ      東京  飯田眞理子
日差より剥がるるやうに竹落葉     静岡  唐沢 静男
青とかげ枯山水に踊り出づ       群馬  柴山つぐ子
梔子の花や明日までもたぬ白      東京  杉阪 大和
父の日や書架にあまたの白樺派     東京  武田 花果
正一位夏至を燻せる大蝋燭       東京  武田 禪次
蚊を打つて鳴き竜もまた鳴かせけり   埼玉  多田 美記
傘雨忌の錠の下りたる芝居小屋     東京  谷岡 健彦
粉がちの終ひの古茶をしみじみと    神奈川 谷口いづみ
草笛の風に「初恋」馬籠宿       愛知  萩原 空木
蔵覗きしてやられたり蜘蛛の糸     東京  久重 凜子
足とられながら見にゆく恋蛍      パリ  堀切 克洋
気に入りの巫女に蹤きゆく羽抜鶏    東京  松川 洋酔
藩校に素読の声や楷若葉        東京  三代川次郎















         





綺羅星集作品抄

伊藤藤伊那男・選

草笛や貧しき頃の唄ばかり        神奈川 大野 里詩
着ぐるみの中身が麦茶ぐつと飲む     宮城  小田島 渚
穴よりも大きく蟹の鋏出づ        東京  小山 蓮子
梅雨晴間大口開ける洗濯機        東京  鈴木 淳子
母見舞ふ新茶の香り届けたく       愛知  津田  卓
ちやぶ台にかみなりおこし昭和の日    東京  中野 智子
箱庭にうちでは飼へぬ犬のをり      神奈川 宮本起代子
黴臭き三本立ての映画館         神奈川 中野 堯司
亀の子の万年後の一歩かな        東京  高橋 透水
オムレツの半月溢れ出す薄暑       愛知  山口 輝久
西鶴忌浪花に残る橋いくつ        東京  松浦 宗克
耳愉し鶯張りも囀も           大阪  中島 凌雲
一尺も五尺と見ゆる蛇嫌ひ        長野  坂下  昭
流木にまだある湿り夏炉かな       埼玉  大野田井蛙

教会に群るる十薬地の星に        東 京 相田 惠子
神鏡に映る参拝夏帽子          神奈川 秋元 孝之
来し方の思ひ出たたむ更衣        宮城  有賀 稲香
父と子と目高と同じ目の高さ       神奈川 有賀  理
行雲を背負ふ歩荷や水芭蕉        東京  有澤 志峯
妹山のこだま背山の不如帰        東京  飯田 子貢
川岸の風を呼びこむ更衣         埼玉  池田 桐人
釣堀に世過ぎ済みたる身をしばし     埼玉  伊藤 庄平
これくらいなら食べられる黴ならむ    東京  伊藤 政三
卯波ごと引き摺り上ぐる地引網      神奈川 伊東  岬
上州に三山のあり麦熟るる        東京  今井  麦
踏みしめてあめんぼ向きを変へにけり   東京  上田  裕
山国に紙の花咲く袋掛          東京  宇志やまと
大雑把に植ゑ秋七草の乱れ咲く      埼玉  梅沢 フミ
柿の花子牛のまなこ濡れてをり      埼玉  大澤 静子
封を切る手紙にこもる薄暑かな      東京  大住 光汪
皿小鉢露店にえらぶ薄暑光        東京  大沼まり子
再読をはばみし黴の文庫本        東京  大溝 妙子
父の日や父のバリカン恐ろしき      東京  大山かげもと
降りさうで降らぬ空なり七変化      東京  小川 夏葉
葭簀茶屋もはや泳がぬ父残し       埼玉  小野寺清人
空一枚青田百里や津軽平野        神奈川 鏡山千恵子
雨粒の輪に輪を重ね水すまし       和歌山 笠原 祐子
夕風を厨に通し胡瓜揉む         東京  梶山かおり
鉄棒の端錆びてをり太宰の忌       愛媛  片山 一行
ラムネ分けビー玉の泡ほどの縁      東京  桂  信子
河鹿笛谷の隅までふるはせる       東京  我部 敬子
金糸梅けふの光はけふ尽くす       高知  神村むつ代
七変化雨に打たれてまた変化       東京  川島秋葉男
つばめ雛孵る仏壇だけの家        長野  北澤 一伯
胡坐かく間にも畳の黴臭し        東京  柊原 洋征
日月と黴もろともに家解かる       神奈川 久坂衣里子
ひとところ風の詰まりぬ古簾       東京  朽木  直
五箇山の天井高き夏炉かな        東京  畔柳 海村
子雀の泣き声やがて鳴き声に       東京  小泉 良子
太陽の季節はじめるサングラス      神奈川 こしだまほ
頼もしや手足はみ出す更衣        東京  小林 雅子
青山椒とんがつてくる舌の上       東京  小林 美樹
蛍追ふ蛍と息を同じうし         神奈川 小林 好子
洗ひたる桃の実どこも濡れてゐず     長崎  坂口 晴子
曇り日の白菖蒲こそひかりもつ      千葉  佐々木節子
早苗饗や田の神様も千鳥足        群馬  佐藤 栄子
絵島墓へ秘めし伝言落し文        長野  三溝 恵子
網戸越しの細かき風に当たりけり     東京  島  織布
忍城の堀を抜け出し梅雨鯰        東京  島谷 高水
麻暖簾の軽きて重き老舗かな       兵庫  清水佳壽美
紫陽花は散らずしづかに萎れゆく     埼玉  志村  昌
入梅や天井の龍低く鳴く         千葉  白井 飛露
鬱の字を覚え吐息や梅雨曇        東京  白濱 武子
薔薇香るただそれだけでしあはせに    東京  新谷 房子
亡き人の匂かすかに黴の本        大阪  末永理恵子
木道の暮れ暮れかぬる水芭蕉       東京  鈴木てる緒
夕影の鳩降りきては聖五月        東京  角 佐穂子
客船の灯を遠くして夜釣舟        東京  瀬戸 紀恵
雑然と置かれし湯吞み海の家       東京  曽谷 晴子
植ゑ終る棚田に千の水笑窪        長野  高橋 初風
下の葉に上の葉の影柿若葉        東京  武井まゆみ
炎天へ頤高く踏み出せり         東京  竹内 洋平
譲りたきものを分けつつ更衣       東京  多田 悦子
整ひし畦を掠めて夏つばめ        東京  立崎ひかり
夏の夜や人工衛星星となり        東京  田中 敬子
雉鳩の声のくぐもり梅雨に入る      東京  田家 正好
新緑を映す金管楽器かな         東京  塚本 一夫
薪の香の記憶夏炉にくべし夜       東京  辻  隆夫
鏡中のうしろすがたや更衣        東京  坪井 研治
どんと来る波も去なして沖膾       埼玉  戸矢 一斗
いかにして詩囊の黴を拭はばや      東京  中村 孝哲
加速する水切り石や夏初め        茨城  中村 湖童
雹の玉神の癇癪地に砕け         埼玉  中村 宗男
影の縞日にくつきりと青簾        東京  西原  舞
摂待の媼やさしき伊予訛         東京  沼田 有希
白日傘海に傾げて海に寄る        埼玉  萩原 陽里
新茶汲む山河の色を惜しみつつ      東京  橋野 幸彦
防人の墓パラソルの影に入れ       広島  長谷川明子
桐の花いまだ同志や夫の靴        神奈川 原田さがみ
蟻の道つづく座敷の畳縁         兵庫  播广 義春
聖鐘の空に反転夏つばめ         東京  半田けい子
割箸の足を頼りの茄子の馬        東京  福永 新祇
苺ミルクとろりと昭和なつかしき     東京  福原  紅
軽鳧の子の渾身の水尾笑窪ほど      東京  星野 淑子
透析を終へし疲れや羽抜鶏        東京  保谷 政孝
玉盃を高く泰山木の花          東京  堀内 清瀬
柿若葉日照雨に透ける美濃の国      岐阜  堀江 美州
麦秋や富士と名の付く低き山       東京  松代 展枝
蛸買うてモーリタニアを地球儀で     東京  宮内 孝子
盆提灯に山を埋みて長崎忌        東京  村上 文惠
無観客レース
ダービーや風を切り裂く鞭の音      東京  村田 郁子
木も草も静かに梅雨に入りにけり     東京  村田 重子
土曜日の家族のかたち豆ごはん      東京  森 羽久衣
足裏に沢音宿の葭簀張り         千葉  森崎 森平
観音の裏町通り夏暖簾          埼玉  森濱 直之
いろいろと飼ひて目高にたどり着く    長野  守屋  明
水番を終へ田周りをひとまはり      東京  保田 貴子
植田はや甍の波を映しをり        東京  山下 美佐
風筋の路地裏に聞く祭笛         東京  山田  茜
つらつらに見つつ浮巣のつつがなし    群馬  山田  礁
子のまとふ妻のおもかげ更衣       東京  山元 正規
別子鉱山跡 
六月の青嶺の空を送電線         愛媛  脇  行雲
柿若葉赤子の握る生命線         東京  渡辺 花穂
夏来る妻のバリカン出番待ち       埼玉  渡辺 志水
















     







銀河集・綺羅星今月の秀句

伊藤伊那男

日差より剝がるるやうに竹落葉      唐沢 静男
初夏、新しい葉と入れ替りに竹の古葉が散る。その散り方がどのようであるのか、それをどのように詠むか、という点で参考になる句である。ちらちらと光を反射しながら散る様子を「日差より剝がるる」と見たのは鋭い眼力と豊かな感性である。竹からではなく日差から剝がれる――とは写生だけでなく、写生を超えた作者の独創。写生の訓練があったからこその心眼。 


父の日や書架にあまたの白樺派      武田 花果
 大正時代初期、人道主義、理想主義を標榜した雑誌「白樺」は一世を風靡したという。私の育った長野県は「信濃教育」と高い評価を受けたが、白樺派の影響を多分に受けたのだと耳にしたことがある。掲出句の父上も多分に影響を受けたのであろう。今もその痕跡として書架に本が残っている。結局、教育とは、残すものとは、受けつぐものとは――このような家系の持つ雰囲気なのだと思う。


草笛や貧しき頃の唄ばかり        大野 里詩
 太平洋戦争と敗戦後の日本はすべての物資が不足して苦しい生活を強いられた。七十五年前である。私はそれより少し後の世代だが、貧乏生活の名残は沢山あった。遊びも缶蹴り、縄跳び、鬼ごっこ、チャンバラ……全く金のかからない遊びであった。紙芝居は小銭がいるので少し差別化される……そんな時代を思い出しながら草笛を吹くと、貧乏生活が蘇るような曲ばかり。そうそう草笛という遊びも全く金のかからない遊びであった。


着ぐるみの中身が麦茶ぐつと飲む     小田島 渚
 着ぐるみ、ぬいぐるみの中は熱が籠もって相当暑いという。夏場のアルバイト料は高いと聞いたことがある。休み時間に頭の被り物を外して麦茶を一気に飲む。この句の眼目は「中身が」の措辞である。頭の部分は人の姿で、胴体は着ぐるみのキャラクターというおかしさである。俳句はその一語が大事なのだ、という一句。


穴よりも大きく蟹の鋏出づ        小山 蓮子
海辺の砂地を住処とする、しおまねきのような鋏の異常に大きな蟹なのであろう。潮が引いた後に鋏を大きく振り回しているが、隣の穴を見ると、いかにも小さい。蟹の大きさと穴のギャップに作者は首を傾げるのである。俳句はこういう不思議さ、おかしさを詠むのが原点である。 


梅雨晴間大口開ける洗濯機        鈴木 淳子
 「大口開ける」がいい。機械のことであるから、洗濯機の口が時によって大きくなるわけではない。だが洗濯物が溜りに溜まった、たまさかの梅雨晴間だからこそ「大口」と捉えた作者の主観が効果を発揮しているのである。


母見舞ふ新茶の香り届けたく       津田  卓
「新茶」の季語が決まった句だと思う。他の飲物や食物を思い付く限り入れ替えてみてほしい。私には新茶に勝る季語は思い当たらない。母は滋養になるものも珍味も欲しくは無いのだ。ほのかな新茶の香りで満足するのである。おのずから以心伝心の親子の絆が浮かび上がる句である。 


ちやぶ台にかみなりおこし昭和の日    中野 智子
 いかにも下町資料館の昭和時代の居間を切り取ってきたような句である。普通は付き過ぎということになるのだが、ここまでくると逆に不思議な面白さが出てくるものである。特に「かみなりおこし」がいい。もちろんかみなりおこしは今もある。だが、昭和のあの時代は東京土産のシンボルのような菓子であった。信州の田舎にもその名は轟いていたのである。


箱庭にうちでは飼へぬ犬のをり      宮本起代子
自在な発想を褒めたい。願望の代役としての箱庭の犬。感性の良さが出た独自性のある句。 


黴臭き三本立ての映画館         中野 堯司
今はもう見掛けなくなったが、昭和三十年代にはどこの町にもこんな映画館があった。仁俠物まぜこぜ三本、というようなもので観客は昼寝したり、冷房を求めたり……。一様に言えることはこれらの映画館が黴臭かったこと。 


亀の子の万年後の一歩かな        高橋 透水
 鶴は千年亀は万年生きるという。ということになると、この亀の子はまさに生を得た一歩を踏み出したということになる。母は一万年前に生まれて、その生を終えたのだ。

 その他印象深かった句を次に

オムレツの半月溢れ出す薄暑       山口 輝久
西鶴忌浪花に残る橋いくつ        松浦 宗克
耳愉し鶯張りも囀も           中島 凌雲
一尺も五尺と見ゆる蛇嫌ひ        坂下  昭
流木にまだある湿り夏炉かな       大野田井蛙






               






 

星雲集作品抄
伊藤伊那男・選
秀逸

綺羅の日を写ししレンズ黴びにけり    神奈川 大田 勝行
夏炉焚く山国なれば折々に        東京  岡城ひとみ
甲斐の山甲斐の雲入れ田水張る      千葉  長井  哲
梅雨深し言問橋の灯も昏く        千葉  中山 桐里 
子がはねて花茣蓙の花ふくらめり     群馬  山﨑ちづ子
三川で満たす輪中の田植かな       愛知  住山 春人
西陣の機場につづく夏座敷        京都  三井 康有
ほととぎす浴びるほど聞く山泊り     大阪  西田 鏡子
日盛りのをとこ盛りをんな盛り      東京  髙坂小太郎
早池峰の雲おしながしやませ吹く     東京  倉橋  茂
草の刃が折り返し点蟻の道        神奈川 河村  啓
夏蜜柑車窓に海の開けたり        千葉  川島  紬
いくさ神祀る社の楠若葉         東京  伊藤 真紀
好物をちびちび食ひて遂に黴       東京  生田  武
青嵐鳶吹き落とす岬かな         埼玉  秋津  結

麦秋や納屋の暗みに台秤         東京  市川 半裂
葭簀掛けまだ半巻は解かずに       神奈川 水木 浩生
田と話すやうに田植機前進す       長野  桜井美津江
けふ一日終へ残照にビール挙ぐ      東京  岡田 久男
父の日や仏壇の酒お相伴         群馬  黒岩 清子
陽性の陽の字暗し夏日影         東京  竹花美代惠
尺蠖や数字まばらな時刻表        東京  石倉 俊紀








星雲集作品抄

            伊藤伊那男・選

禅寺の瓢簞鯰梅雨に入る         東京  秋田 正美
山国のやまをしたがへ桐の花       京都  秋保 櫻子
マンホールの意匠とりどり迎へ梅雨    東京  浅見 雅江
煙突のいつしかに消え初燕        東京  尼崎 沙羅
薫り来る花橘の庭に佇つ         愛媛  安藤 向山
ひととせのいちどかぎりの豆ごはん    東京  井川  敏
苔石に咲く落椿熊野道          長野  池内とほる
潮鳴りの舟屋の宿や明易し        高知  市原 黄梅
代搔きを終へたる牛に水を遣る      広島  井上 幸三
梅雨寒や鳴子こけしの掠れ泣き      埼玉  今村 昌史
過疎の里昼餉を告げしほととぎす     愛媛  岩本 青山
丹沢の青嶺を一歩一歩かな        東京  上村健太郎
野いちごの水面に映る深き朱       愛媛  内田 釣月
杜若飯盒で炊く朝御飯          長野  浦野 洋一
供ふれば薔薇にも愁ひ生まれけり     埼玉  大木 邦絵
葛まんぢゆう冷やす頃あひ昼さがり    東京  大島雪花菜
沙羅の花落ちれば次の花も落つ      群馬  岡村妃呂子
時の日の靴まつすぐに揃へけり      東京  荻野友佑子
みすずかる信濃の湖も梅雨模様      神奈川 小坂 誠子
右の道左の道も今朝の秋         京都  小沢 銈三
古桑の仏さながら山の畑         埼玉  小野 岩雄
卯波立つ灯台守のゐた岬         宮城  小野寺一砂
白秋の郷に集ふや鰻めし         東京  桂  説子
虫干の手を止む父の青春記        静岡  金井 硯児
母の衣を解けば衣摺れ走り梅雨      長野  唐沢 冬朱
砂に浮き沈む日もある浜昼顔       愛知  北浦 正弘
風鈴の奏でる曲に楽譜なし        神奈川 北爪 鳥閑
こはごはと岩場を渡る夜釣の灯      長野  北出 靖彦
路地裏の二階になびく青簾        東京  北原美枝子
品書の貼りも影なす葭簀小屋       東京  絹田  稜
異次元へ入り込むやうに蚊帳に入る    東京  久保園和美
梅雨明や明日は湯殿の道開くる      群馬  黒岩伊知朗
初かつを藁火ににじむ海の青       三重  黒岩 宏行
お伽草紙の深淵あはれ桜桃忌       東京  黒田イツ子
もののふの魂を鎮める蛍かな       神奈川 小池 天牛
可惜夜に涙法師の虎が雨         東京  小寺 一凡
土筆摘み後は杉菜の畑となり       群馬  小林 尊子
麦藁帽大きく揺れる別れかな       千葉  小森みゆき
仰ぐより浴びるがよかれ花吹雪      宮城  齊藤 克之
籐椅子にもたれ浮き世の昼下り      神奈川 阪井 忠太
校庭に隣る植田にホームラン       青森  榊 せい子
飛石の辿りて先や紫陽花寺        東京  佐々木終吉
受話器から響く産声風薫る        群馬  佐藤かずえ
龍潜むてふ滝壺に手を触れる       群馬  佐藤さゆり
この家のをのこの歴史武者人形      東京  島谷  操
幾重にも影の濃淡白牡丹         東京  清水美保子
止り木に寛ぐ胡坐桜桃忌         神奈川 白井八十八
筑波嶺の雲の有様梅雨近し        東京  須﨑 武雄
草笛や緑の音符流れゆく         岐阜  鈴木 春水
機関銃一斉掃射てふ驟雨         群馬  鈴木踏青子
硝子器の下の藍染夏料理         千葉  園部あづき
斐伊川にをろちの神話青田風       埼玉  園部 恵夏
芍薬の静けさ纏ふ華やぎも        東京  田岡美也子
千枚の伊勢路の棚田田植歌        東京  髙城 愉楽
万緑や舟唄のゆく最上川         福島  髙橋 双葉
葉桜やいまも塩振る喪の戻り       長野  宝 絵馬定
短夜の夢のつづきをさがしけり      埼玉  武井 康弘
飯時を香りで知らす豆御飯        神奈川 田嶋 壺中
半裂やいつも笑顔の長寿村        東京  田中  道
走り根につまづく齢夏落葉        神奈川 多丸 朝子
懐かしき椿油や髪洗ふ          愛知  塚田 寛子
古時計時告ぐ店の新茶の香        東京  辻本 理恵
虹が来た明日は何とかなるやうな     東京  手嶋 惠子
そつぽ向く男滝女滝の放物線       埼玉  内藤  明
衣桁より垂るる夏帯風の道        岩手  永井 むつ
夏帽子踏切越しに海を描く        神奈川 長濱 泰子
籐椅子の海に真向かふ窓辺かな      東京  中村  弘
目高てふ生ける解体新書かな       長野  中山  中
閉店の貼り紙滲む驟雨かな        東京  永山 憂仔
新緑の中に堂々青龍殿          京都  仁井田麻利子
仏心の染まるあぢさゐ円覚寺       東京  西  照雄
細胞のすみずみまでの新茶かな      宮城  西岡 博子
夕焼の果ての浄土を信じ居り       静岡  橋本 光子
草笛を吹けば色付きさうな風       東京  橋本  泰
栗の花咲いて華やぐこともなし      東京  長谷川千何子
梔子の花の匂ひや雨けむる        神奈川 花上 佐都
天竜川にめだかの学校ありし頃      長野  馬場みち子
端居して濁世末世と距離を置く      千葉  針田 達行
少年の蹴上げる缶も夏めけり       長野  樋本 霧帆
牛の眼の青むが如き夏野かな       神奈川 日山 典子
どの服も似合はぬ鏡更衣         千葉  平山 凛語
真昼きて葭簀の暗き中に居る       千葉  深澤 淡悠
いく度も代田の水を飲む土鳩       長野  藤井 法子
沖に見る島の昏さも梅雨入かな      神奈川 堀  備中
旅の蚊帳母を真中に三姉妹        東京  牧野 睦子
短夜の深夜ラジオが朝を告ぐ       神奈川 松尾 守人
父の吹く草笛遠し生家絶え        愛知  松下美代子
硬骨の肺病む父の籐寝椅子        東京  三好 恵子
縁日の金魚が泳ぐ洗面器         東京  棟田 楽人
石楠花や女人高野に古仏あり       東京  八木 八龍
月夜茸切株青く燃やしをり        東京  家治 祥夫
一音は一息の丈草笛吹く         東京  矢野 安美
青芝に大の字に寝て草に浮く       東京  山口 一滴
高原の木漏れ日の路麦藁帽        群馬  山﨑 伸次
いい風が吹くを待ちたる鯉幟       神奈川 山田 丹晴
五月雨に島影けぶる五大堂        静岡  山室 樹一
短夜やまだ醒めやらぬ夢を追ひ      高知  山本 吉兆
万緑の空へ空へと漲れり         群馬  横沢 宇内
光らぬを朝に逃がす蛍籠         神奈川 横地 三旦
目高の子生れながらに群れてをり     神奈川 横山 渓泉
吾子の顔映る水面に目高かな       千葉  吉田 正克
顧みる人生の地図青嵐          山形  我妻 一男
そつと寄りさつと散るなり目高の眼    神奈川 渡邊 憲二
紫陽花に風の重さの見えてきし      東京  渡辺 誠子
紫陽花や出島に佳人通ふ路        埼玉  渡辺 番茶














     













星雲集 今月の秀句

伊藤伊那男

     
綺羅の日を写ししレンズ黴びにけり     大田 勝行
 「綺羅の日」とは作者の人生の中の華々しかった時期を指すのであろう。五音でそのことを明確にした表現力は出色である。その頃は頻繁に撮っていたカメラも段々使わなくなり、仕舞い込んだままになっていたのであろう。レンズの中にも黴が走るという。一つのカメラに焦点を当てて作者の人生が詠まれているのだ。同時出句の〈竜宮の姫を探して箱眼鏡〉〈あちこちの闇にぶつかりゆく蛍〉と、各々発想も表現力も豊かな作品であった。


夏炉焚く山国なれば折々に         岡城ひとみ
難しい言葉を一つも使わずに味わいのある情景を詠んでいる。単純で素直な表現で情緒を深めている。信州でいえば八ヶ岳山麓や木曾の開田高原などでこのような風景を目にしてきた。夏場も寒い日があり、また久々の客などがあればもてなしに焚く。そうした様子が「折々に」の措辞にさりげなく表出しているのである。 


子がはねて花茣蓙の花ふくらめり      山﨑ちづ子
 「花茣蓙」は夏の敷物で昼寝などの折に使う。板の間か縁側で涼んでいた子供が跳ねると、花茣蓙の花まで躍動して見えたというのがこの句の独自の発想である。


三川で満たす輪中の田植かな        住山 春人
木曾三川のことであろう。木曾川、長良川、揖斐川がぐるりと囲った伊勢長島は水害と戦ってきた歴史を持つ。今は水を宥めて穀倉地帯となった。「田植かな」にそんな歴史の偲ばれる句である。ここに伊勢長島松平家があり、河合曾良はこの家中に仕えていたのである。私は曾良の名前は木曾(●)川と長良(●)川から芭蕉が付けた名前だと思っている。


西陣の機場につづく夏座敷         三井 康有
西陣という住居表示は存在しない。応仁の乱で西軍の山名宗全が陣を張ったことから、この一帯を通称として西陣と呼ぶ。機屋で栄えた町だが、今は機音も少なくなった。だが豊かな町だっただけに仕事場の奥には見事な造作の旧家が残っている。「西陣の」→「機場に」→「夏座敷」と映像の焦点を絞り込んでいく手法がいい。 


日盛りのをとこ盛りをんな盛り       髙坂小太郎
何度か指を折って数えてみたが、十七音である。上が五音、中が六音、下が六音と実に不安定な構成。だが「日盛り」という強烈な季語であればこれもまた一興。「盛り」を三つ盛り込んで、油絵具で仕立てたような異色の句となった。 


早池峰の雲おしながしやませ吹く      倉橋  茂
 「やませ」が季語として一般に認識されたのは昭和三十年代の「風土俳句」時代、東北出身の俳人達の活躍によってである。私は佐藤鬼房の〈やませ来るいたちのやうにしなやかに〉で覚えた。東北地方を旅した折「心地よい風ですね」と言うと現地の人が「これがやませなのです」と暗い顔をした。「凶作風」とも言うのである。さて掲出句、早池峰を越えてくる冷害をもたらす風。「雲おしながし」に隠然たる自然の力が詠み取られているようだ。


草の刃が折り返し点蟻の道         河村  啓
鋭利な草の葉先に辿り着いた蟻が、裏側に廻ることができなくて、そこから折り返した、という。細かな観察に根ざした表現力のある句だ。このような自然観照が俳句力を高める。同時出句の〈陶枕の山水画より風清し〉も上出来の作品で、前出句よりも少し主観が入った句といえよう。 


好物をちびちび食ひて遂に黴        生田  武
私も度々経験していることだ。好きなものを最初に食べてしまう派と最後に食べる派がある。後者がその過ちを犯してしまうのである。人間のささやかな欲と失敗を率直に詠んで楽しませてくれた句。 


麦秋や納屋の暗みに台秤          市川 半裂
黄金色に染まった明るい風景と暗い納屋の光のコントラストが巧みに捉えられている。特に台秤という長年使われているであろう重量感を持った「物」を捉えたことが句柄を高めたといえよう。 


葭簀掛けまだ半巻は解かずに        水木 浩生
 葭簀の準備をした直後の風景ということであろう。まだ本格的に暑くなる前なので、とりあえず半分までにして、あとは巻き止めてある。こんなところを詠み取るのは非凡な目である。

その他印象深かった句を次に
田と話すやうに田植機前進す        桜井美津江
けふ一日終へ残照にビール挙ぐ       岡田 久男
父の日や仏壇の酒お相伴          黒岩 清子
陽性の陽の字暗し夏日影          竹花美代惠
尺蠖や数字まばらな時刻表         石倉 俊紀






















伊那男俳句  


 伊那男俳句 自句自解(56)
            
父訪はな雪解雫に急かさるる

 開業医であった父は実に勤勉な人であった。朝から晩まで休むことなく診察をし、月の内半分位は請求書作成の仕事があり、12時位まで母と共に手作業で行っていた。耳鼻咽喉科は一人当たりの点数が少なく、患者数が多いのである。当時は子供が多く、蓄膿症も蔓延していたので夏休みなどは1日に200人位の来院があった。父が75五歳になった頃から兄や私は「そろそろ引退して悠々自適の生活に入ったら……」と勧めたが、生活を変えることはなかった。結局82歳の時の夜、急患が来て診察している最中に倒れた。脳梗塞であった。もともと不整脈を抱えていたが、紺屋の白袴、医者の不養生で、健康診断を受けたこともなく過酷な仕事を続けていたのである。倒れる少し前に、抱えていた植木鉢を落とすなど、病の兆候は出ていたようなのだが……。ともかく知らせを受けて信州へ駆けつけた時の句である。「父倒れるの報」の前書がある。父は半身不随の生活に入った。

風粗し鴨引く頃と言ひながら

 春耕の同人総会で若狭小浜を巡り、現地解散のあと有志でレンタカーで湖北に入った。十一面観音を訪ね歩くのが目的であった。加えてもう一つの目的は鴨鍋を囲むことであった。長浜には鴨料理の名店がいくつかある。思い切って一番高い店に上った。この時が鴨料理を食べた最初である。すっかり気に入って以後度々冬の長浜を訪ねることになる。琵琶湖は全域禁猟区に指定されているので鴨撃ちはできない。年の内は北海道から、そのあとは敦賀辺りから取り寄せているという。この句は鴨料理店を出たあとの長浜の町の嘱目である。春に入っているとはいえ、長浜に吹く伊吹颪はまだまだ突き刺さるようである。滋賀県は大津のある湖南と、この湖北では気候が大きく異なる。丁度同じ時期を詠んだ句に〈夕鐘や瀬田の蜆の太るころ〉があるが、ここにも気候の違いが出ているように思う。若い頃随分近江を歩いたが、この旅の頃から私の俳句のホームグラウンドになっていく。






     


 

伊藤伊那男  俳人協会賞受賞










 去る3月5日、平成30年度の俳人協会四賞の授与式が京王プラザホテルで行われました。
ご存じの通り、伊藤伊那男主宰が句集『然々と』で第58回俳人協会賞を、同人の堀切克洋さんが『尺蠖の道』で第42回俳人協会新人賞を受賞四、銀漢俳句会から4賞の内二賞を頂くという快挙となりました。2019/4/30/更新














俳人協会四賞・受賞式









更新で5秒後、再度スライドします。全14枚。


 二次会・店内に入りきれない人数でしたが,日曜日とあって店の前の通りも通行が少なく,穏やかな天候の下、外に溢れる受賞者の二人や他結社の方々と交流するなど、思い思いにお酒を楽しみながr懇談を深め,何時までも祝賀会の熱気は冷めることがありませんでした。









 受賞 祝賀会

 伊藤伊那男 俳人協会賞
堀切 克洋  俳人協会新人賞
2019/3/17 学士会館
銀漢亭(二次会)


 月刊「俳句四季」に受賞の記事が掲載されました。
月刊「俳句四季」に受賞の記事掲載は
5月号(4/20発売)か6月号(5/20発売)のどちらかを予定しています。


然々と   伊藤伊那男

リンクします。

句集 「然々と」 伊藤伊那男

 
句集「尺蠖の道」
拡大します。

尺蠖の道  堀切克洋




linkします。



拡大します。



拡大します。


受賞祝賀会 3月17日 日時 12時 
会場 学士会館 東京神田 





haishi etc
↑link



         








銀漢の絵はがき


挿絵が絵葉書になりました。
Aシリーズ 8枚組・Bシリーズ8枚組
8枚一組 1,000円

ごあいさつにご利用下さい。




















掲示板















               
 
     

銀漢亭日録

 
6月
6月7日(日)
 4時前に目がさめる。時鳥の声しきり。雉子の声も。六時、清人さん迎えに来てくれて亀山山頂へドライブ。快晴の気仙沼を一望。カモシカがいる。光明寺に寄り、宿へ戻って朝食。9時半、畠山、清水氏と車二台で矢越山へ。今日は畠山さんの「森は海の恋人植樹祭」の予定がコロナで中止。ただし、10日ほど前、ごく内輪で植樹するとて声を掛けていただいたもの。新聞社の取材を含めて30人位。三浦組合長のもと10本の苗木を植える。〈森に礼海に礼して苗木植う 伊那男〉あと10人ほどで舞根の畠山さんの養殖場へ行き、昼食。振舞っていただいた帆立の刺身が何とも見事。美味。次のNHK朝の連続テレビ小説のディレクター梶原登城さん一行も一緒。気仙沼が舞台となる。あと、「気仙沼市東日本大震災遺構・伝承館」に入館。元水産高校の跡地で、まざまざと震災の痕跡を実見。17時、今日の宿「大鍋屋」へ入る。元防衛大臣小野寺さんの実家。近くの銀漢会員、斎藤克之さん(元「亀の湯」)を訪ねる。18時、「あさひ鮨」にて夕食。

6月8日(月)
 9時過ぎの大船渡線にて一ノ関。バスにて平泉。中尊寺、毛越寺を巡る。観光客ほとんどおらず、森閑。金色堂、毛越寺の庭園の浄土に感激。昼は蕎麦。十七時前の新幹線にて東京へ。

6月9日(火)
 「あ・ん・ど・うクリニック」、買い物など。「銀漢」7月号の校正。明日までとて没頭。3日ほど留守をしたので、郵便物など大変。「梶の葉句会」選句。「たかんな」主宰吉田千嘉子さんより『然々と』の勉強会をしたら好評で、『銀漢』『知命なほ』についても要望あり、とて、2冊送る。

 6月10日(水)
 10時、水道橋。武田、志水、いづみ、展枝さんと待ち合わせ。先日見た三崎町物件で移転の方向へ。6坪から九坪へ。13時、毎日新聞の今井竜さんと「俳句てふてふ」の打ち合わせ。私の連載エッセイは「俳句万華鏡」の題に決定。あと中華料理の「三幸園」で久々歓談。昼酒にまた乗り越し寸前。「大倉句会」選句。

6月11日(木)
 久々、農家の野菜買う。茄子、トマトなど出はじめている。唐沢句集序文の校正。発行所候補のトレース確認(いづみさん)。主宰仲間の「白熱句会」へ10句。「銀漢本部句会(ネット)」へ5句投句。

6月12日(金)
 俳人協会新会員推薦の件、杉阪、武田氏と打ち合わせ。手配を杉阪氏に依頼。8月号のエッセイ。自句自解、盤水の1句など書く。散歩。そろそろ梅雨入りか。新発行所、三崎町で決定す。

6月13日(土)
 梅雨突入。「春耕」へ10句投句。麦さんに手持ち現金の月次報告。通信数々。「早蕨句会」選句を坪井さんに。作句。

 6月14日(日)
 「井月顕彰会」の北村皆雄氏より、今年の「井月さんまつり」は中止となったが、ユーチューブで座談会をやりたいので出て欲しいと。さて、パソコンを触ったことない私である……。山田真砂年さんより鍵和田秞子先生、11日の夜逝去されたと。飯田眞理子句集『魚氷に上る』上梓。夕食、近所のU太さん一家来て会食。

 6月15日(月)
 梅雨の晴れ間。散策少々と買い物ほか雑用。「極句会」選句。「銀漢本部句会」選句。「俳句αあるふぁ 夏号」で「サヨナラ銀漢亭」と題して3頁写真入りを掲載してくれる。有難し。

6月16日(火)
 散歩。砧方面。炎暑。少々昼寝など。主宰仲間の「白熱句会」の選句を「りいの」主宰檜山哲彦氏へ送る。

6月17日(水)
 今日も梅雨晴れ。栗がもう青い毬を付けている。農家の野菜、空芯菜が出ている。トマトも。「ひまわり句会」選句。「高遠句会」選句。「銀漢句会」出句。

6月18日(木)
 終日家。午睡など。こういう生活は久し振り。テレビで「老人と海」を見る。伊那北高校同窓会会誌に俳句送る。

6月19日(金)
 東京都の休業要請協力金ようやく入金。「雛句会」選句。先日、気仙沼行った仲間で句会。

6月20日(土)
 2日酔い。酒を抜くための散歩。買い物。「銀漢本部句会」選句。

6月21日(日)
 狛江方面へ散歩。駅前で一万歩越えたので、バスで戻る。留守中に坪井さん、近江の鮎山椒煮届けてくれる。杏一家来て、父の日の集い。13人。父親は計3人。孫が手作りのケーキ2種。

 6月22日(月)
 雨の日。『銀漢』8月号の選句。「銀漢本部句会」の各人1句を武井さんに送る。

6月23日(火)
 「萩句会」選句。花果さんに送る。梅雨晴れ間、散歩、買い物など。「彩の国句会」選句を大野田さんに送る。

 6月24日(水)
 終日家。『銀漢』8月号選句。今日は昼寝などもして少々怠慢か……。

6月25日(木)
 散歩がてら農家の野菜買いに。「童夢句会」選句し湖童さんへ送る。日録をこしだまほさんへ送る。

6月26日(金)
 晴れ。散歩と買い物。今日は海鞘、とこぶしなど。風聞では、神田すずらん通り商店街の老舗「キッチン南海」、満州餃子「スヰートポーヅ」も閉店になると。何ということか!コロナ禍の傷は深い。8月号の選句稿、花果、直、妙子さんへ送る。

6月27日(土)
 散歩。野菜買う。今井聖さんより「街」誌同人評の依頼あり。夕方、家族は友人の家へ。久々、1人の夕食。とこぶしの酒蒸、海鞘と胡瓜など。

6月28日(日)
 同人集選評を朽木さん、会員評を大溝さんに投函。怜輔君、「ライオンキング」の集中レッスン。家で一番忙しい。

6月29日(月)
 8月号の原稿の目処が立ち、1日空いたので、日帰りの1人旅へ。天気良し。9時過ぎには宇都宮駅に降り立つ。初めての町。まず二荒山神社へ参拝。95の石段の上。茅の輪を潜る。喫茶店のモーニングサービスで町の地図など調べる。御橋から宇都宮城趾へ入る。戊辰戦争、昭和20年の大空襲で壊滅。近頃、本丸跡だけ復元。「カトリック松が峰教会」の大谷石の聖堂を見て、バスにて「大谷資料館」。大谷寺の岩壁に刻んだ千手観音は圧巻。バスにて駅に戻り、「宇都宮みんみん」の餃子定食(焼餃子2人前と水餃子1人前と御飯のセット)とビールで小さな旅を締める。土産に15人前の冷凍餃子。19時前に帰宅。

6月30日(火)
 都知事選期日前投票。買物。戻る頃雨に。娘達が父の日とて冷風送風機をくれる。

 7月

 7月1日(水) 彗星集選句選評を芙紗さんに送り、8月号終了。「鎌倉句会」「宙句会」選句。「十六夜句会」は事前投句。

7月2日(木) 7時半から散歩。伶輔が蚕を飼い始めたので、桑を摘む。華子が焼茄子好物にて1本焼く。十九時、神田、「十六夜句会」に出席。11人。あと親睦会。少々酒に酔う。














         
    






今月の季節の写真/花の歳時記



2020年9月20日撮影  センニチソウ  from hachioji





 
花言葉 

センニチソウ

日当たりのよい路傍や,山裾に自生するつる性の植物で,八月~九月にかけ白い花を咲かせる。花後にできる白い毛(実)が仙人の髭に似ていることから,この名がついた。

酔芙蓉 酔芙蓉 アニソドンテア 稲穂
       
 千日紅  葛の花  ファイヤワークス   ショウジョウソウ   センニチチソウ 

2020/9/21  更新