2017年 | 1月号 | 2月号 | 3月号 | 4月号 | 5月号 | 6月号 |
7月号 | 8月号 | 9月号 | 10月号 | 11月号 | 12月号 | |
2018年 | 1月号 | 2月号 | 3月号 | 4月号 | 5月号 | 6月号 |
7 月号 | 8月号 | 9月号 | 10月号 | 11月号 | 12月号 | |
2019年 | 1月号 | 2月号 | 3月号 | 4月号 | 5月号 | 6 月号 |
7月号 | 8月号 | 9月号 | 10月号 | 11月号 | 12月号 | |
2020年 | 1月号 | 2月号 | 3月号 | 4月号 | 5月号 | 6月号 |
7月号 | 8月号 | 9月号 | 10月号 | 11月号 | 12月号 |
12月号 2020年
伊藤伊那男作品 銀漢今月の目次 銀漢の俳句 盤水俳句・今月の一句 彗星集作品抄 彗星集選評 銀漢賞銀河集・作品抄 綺羅星集・作品抄 銀河集・綺羅星今月の秀句 星雲集・作品抄 星雲集・今月の秀句 伊那男俳句 銀漢の絵はがき 掲示板 銀漢日録 今月の写真 俳人協会賞受賞 俳人協会四賞受賞式 |
伊藤伊那男作品主宰の8句今月の目次銀漢俳句会/2020/12月号 銀漢の俳句伊藤伊那男
|
◎関東の城址を巡る 新型コロナの蔓延を機に銀漢亭を閉じた。俳句についての今年の行事のほぼ全てが翌年に繰り延べになったので時間ができた。しばらくは自宅周辺の散歩などを楽しんでいたが、かねてから思っていた関東周辺の古墳や城跡巡りなどを始めた。 何といっても関東における戦国時代の城跡といえば、北条早雲に始まる後北条氏(鎌倉時代の北条氏と区別するための称)の城である。中核の城は小田原城(日本百名城)で、我々が今、目にするのは昭和35年(1960)に復興した鉄筋コンクリート造りの天守閣とその周辺だが、豊臣秀吉が天下統一の総仕上げに行った小田原征伐の時代のこの城は、過去に類例を見ない壮大な城塞であった。西洋や中国の城は市民の住む町ごと全部を高い城壁で囲む城塞都市が一般的である。その発想は日本に無かったのだが、小田原城は「 秀吉は簡単に攻略できない事が解っていたので、関東の支城を次々に陥落させた上で、兵員二十二万人で取り囲んだ。後北条の支城は三島の山中城(日本百名城)、行田の忍城、寄居町の鉢形城(日本百名城)、八王子城(日本百名城)などで、各々工夫を凝らした城であったが、城主が小田原に詰めていて守備隊が僅少であったため圧倒的な大軍の前に陥落していった。小田原城の兵員は五万二千人で、三ヶ月ほど籠城したが、秀吉の一夜城の出現を見て降伏、開城して後北条家は断絶した。 後北条家は年貢の税率を引き下げるなどの善政を敷いたといわれ、今も評判がいい。一族の結束も強固で内部抗争も無かった。敗退したのは時の運か、秀吉の知力と気迫に屈したのであった。 そんなことを考えながら関東近辺を巡っている。ちなみに秀吉が京都の町を「お土居」という土塁で囲ったのも、家康がお江戸八百八町を外堀で囲ったのも、その発想は小田原城の「総構」からであるといわれている。 さて俳句は? 頭の箪笥にしっかりと溜め込んで醸成されるのを待つつもりである。ちなみに日本百名城とは公益財団日本城郭協会が創設40周年記念事業として、文部科学省、文化庁の後援で平成18年(2006)に発表されたもの。一都道府県に一つ以上、五つ以内の基準で選定されている。 |
先生は俳壇で「鳥の盤水」と言われていた。以前、中年前位までの句集を分類したことがあるが、句集の二割位が鳥を詠んだ句であった。詠まれた鳥は烏・鳩の他はほとんどが小禽で、逆に鶴や白鳥といった大型の鳥が少ないのが特徴であった。鶴に到っては晩年まで一句も詠んでおられなかったと思う。この句は網走の冬を訪ねた折の嘱目。白鳥の声が更に雪を呼び込むという発想がいい。白一色の北海道の風景である。(平成三年作『隨處』所収) |
彗星集 選評 伊藤伊那男伊藤伊那男・選草の実のはたいて呉れし人につく 島谷 高水
良夜かな天岩戸の開くかに 保田 貴子
声出せば消え入りさうな秋の虹 山田 茜
かまくらのふるきみなとや秋の風 武井まゆみ
粒の数だけ陽を留めぶだう熟る 小野 岩雄
終ひ湯といふ安らぎや虫の夜 笠原 祐子
ひぐらしの声そろひたる野辺送り 大沼まり子
ふるさとに残るは一つ墓参かな 伊東 岬
声に声重ね綱引く運動会 萩原 陽里
南朝廟ふところにして山眠る 伊藤 政三
脇役が妙に達者で村芝居 宮本起代子
雁の列みるみる山河連れ来る 堀江 美州
建前の棟木高々秋澄めり 朽木 直
起きてきてまづ虫籠を目の高さ 谷岡 健彦
マンホールの蓋に帆船雲の峰 三代川次郎
軽トラでお軽連れ来る村歌舞伎 坂下 昭
八日目も同じ木で鳴く秋の蟬 山口 一滴
不知火のあと海鳴りの変りけり 坂口 晴子
草雲雀葛飾を突く渡し舟 桂 信子
銀河集作品抄伊藤伊那男・選 月今宵芋やうかんを手みやげに 東京 飯田眞理子
鳴くほどに身が透き通るつくつくし 静岡 唐沢 静男 秋の水映す羅漢の皆思案 群馬 柴山つぐ子 家系図の末端にゐて墓洗ふ 東京 杉阪 大和 干網の小貝の綺羅に月あかり 東京 武田 花果 都府楼の礎石に座せば色鳥来 東京 武田 禪次 捕まらぬにはとり一羽夕野分 埼玉 多田 美記 どうしても段差なくせぬ盆の道 東京 谷岡 健彦 この 干すものは蛇籠に掛けて夏の川 長野 萩原 空木 一つ谷越し来て子らの地蔵盆 東京 久重 凜子 いささかのためらひもあり夜食とる パリ 堀切 克洋 夜の精の編みたる烏瓜の花 東京 松川 洋酔 川音や徹夜踊の果ててより 東京 三代川次郎 綺羅星集作品抄伊藤藤伊那男・選 故郷いま秋刀魚焼く頃われも焼く 埼玉 伊藤 庄平
一位の実嚙めば故郷ほろ苦し 埼玉 大野田井蛙 墓囲む田より稲刈終はりけり 東京 大溝 妙子 世の中が少し傾く秋簾 和歌山 笠原 祐子 心頭滅却冷房の利きすぎる 高知 神村むつ代 日陰より代はる代はるに墓詣る 埼玉 森濱 直之 老眼鏡外せば雀蛤に 広島 長谷川明子 橋姫を攫ひに来る秋出水 東京 橋野 幸彦 狂はねば黄泉へは行けず踊の輪 埼玉 萩原 陽里 噴水ののぼりきるまで懸命に 埼玉 夲庄 康代 噴水ののぼりきつては奔放に 埼玉 夲庄 康代 大の字に心で繫ぐ施火五つ 大阪 末永理恵子 はじめから競はぬ色よ吾亦紅 神奈川 大野 里詩 脳内に分け入るごとく鶏頭花 東京 朽木 直 地に足のつく暇のなき踊かな 神奈川 こしだまほ こほろぎの大奥跡を知り尽くす 東京 高橋 透水 口下手のままに入りたる墓洗ふ 大阪 中島 凌雲 蛇穴にこの世の景色見飽きたと 東京 中村 孝哲 幼子のうさぎ探せぬ月見かな 東京 相田 惠子 鰯雲声の飛び交ふ魚市場 神奈川 秋元 孝之 みちのくに住み古り親し無花果煮 宮城 有賀 稲香 墓参同窓会も兼ねてをり 東京 有澤 志峯 鶏頭花末広がりに畳む襞 神奈川 有賀 理 みすずかる信濃の秋の捥ぎ放題 東京 飯田 子貢 子は父を厭ひはじめぬ運動会 埼玉 池田 桐人 仰臥から寝返り打てば鶏頭花 東京 伊藤 政三 一葉落ち一葉の日向ありにけり 神奈川 伊東 岬 石段の上も石段墓詣 東京 今井 麦 刈草を万葉集の風過ぎぬ 東京 上田 裕 邯鄲の耳に残りて夢となる 東京 宇志やまと ぼうぜんと立ちつくしゐし終戦日 埼玉 梅沢 フミ 月光の踏みしだかれし獣みち 埼玉 大澤 静子 萩こぼる枯山水を波立たせ 東京 大住 光汪 甘え声残して別れ鴉かな 東京 大沼まり子 顎外るるまで欠伸して夏終る 東京 大山かげもと 豆腐屋を一つ曲れば虫時雨 東京 小川 夏葉 毒茸の胞子一村眠らしむ 宮城 小田島 渚 墓洗ふついでに海難碑もあらふ 埼玉 小野寺清人 江の島を遠くに置きて夏の月 神奈川 鏡山千恵子 巻き上げて夜は澄みにけり秋簾 東京 梶山かおり 黒揚羽湿つたままの舌を出す 愛媛 片山 一行 軽トラで家族親類村歌舞伎 東京 桂 信子 子規庵 文机に糸瓜の影の濃く淡く 東京 我部 敬子 利き腕はギッチョと鳴けりきりぎりす 東京 川島秋葉男 姨捨を芒のなでるのが見える 長野 北澤 一伯 少年老ゆ手花火弾け散る間にも 東京 柊原 洋征 回るたび沖見る木馬草の絮 神奈川 久坂衣里子 炎帝の居据る構へ大八洲 東京 畔柳 海村 波音を加へて踊太鼓かな 東京 小泉 良子 前略と書きてしばしの良夜かな 東京 小林 雅子 夏終る勿来関を越えぬまま 東京 小林 美樹 言の葉に母の温もり萩の花 神奈川 小林 好子 まばたきの間に秋の蚊を見失ふ 東京 小山 蓮子 飛魚北風や波止に男の立話 長崎 坂口 晴子 糸瓜忌を過ぎて糸瓜の棚解く 長野 坂下 昭 竹籠のあたり花野の風らしき 千葉 佐々木節子 水口の少し遅れて稲穂かな 群馬 佐藤 栄子 向かう山見尽し巻かるる秋簾 長野 三溝 恵子 住職は吾子ほどの齢葉鶏頭 東京 島 織布 潦秋空を切り取つたかに 東京 島谷 高水 湖に月光こぼす浮御堂 兵庫 清水佳壽美 親戚を一回りする墓参かな 埼玉 志村 昌 夜長かな街のひとつを遊びきり 千葉 白井 飛露 子規の忌や律手入れせし庭巡る 東京 白濱 武子 迷宮となりつつ渋谷の炎天下 東京 新谷 房子 地割まつ香具師の四五人秋祭 静岡 杉本アツ子 村役の草履が並ぶ施餓鬼かな 東京 鈴木 淳子 山鹿燈籠祭 夕星と人垣と待つ燈籠踊 東京 鈴木てる緒 秋の夜の度数の合はぬ眼鏡かな 東京 角 佐穂子 秋燕にはや暮れ色の蔵の町 東京 瀬戸 紀恵 くれなゐの押し合つてゐる鶏頭花 神奈川 曽谷 晴子 桐は実に早も話は下駄簞笥 長野 高橋 初風 につぽんよりにほんが親し敗戦日 東京 武井まゆみ 朝刊に日の斑触るるや糸瓜棚 東京 竹内 洋平 後ろから驚かさるる一葉かな 東京 多田 悦子 曼珠沙華墓石の姓の皆同じ 東京 立崎ひかり 秋の蟬戸口打ちつつやがて黙 東京 田中 敬子 この良夜手影のうさぎとび跳ぬる 東京 田家 正好 踊の輪抜けて小鉤を掛け直す 東京 塚本 一夫 影踏みの思ひ出遠き良夜かな 東京 辻 隆夫 独りでに走り出しけり走馬灯 東京 辻本 芙紗 夕映えの空に溶け行く赤蜻蛉 愛知 津田 卓 星今宵祈りの島の天主堂 東京 坪井 研治 秋暑し座席表めく墓地の地図 埼玉 戸矢 一斗 土地勘のなき者が来て墓参 東京 豊田 知子 ぎすの髭未だ落城嘆くかに 神奈川 中野 堯司 神名備の懐に汲む秋の水 東京 中野 智子 同名のご先祖もゐて墓洗ふ 茨城 中村 湖童 白蠟の垂れ細々と施餓鬼棚 埼玉 中村 宗男 煙立つまま門に入る魂迎 東京 西原 舞 茶の花の一壺一輪あれば足る 東京 沼田 有希 銀漢の苑に十年萩は実に 神奈川 原田さがみ 火袋の筒回り出す盆提灯 兵庫 播广 義春 小鳥くる 鹿鳴くや我が恋歌の拙くて 東京 福永 新祇 三階へ一段毎の残暑かな 東京 福原 紅 法師蟬声を尽くせば息短か 東京 星野 淑子 八月やぎらぎら還りくる昭和 東京 保谷 政孝 何の木と解らぬまでに霜囲 東京 堀内 清瀬 郡上をどり下駄で地霊を蹴り起こす 岐阜 堀江 美州 この薄き負真綿とて手離せず 東京 松浦 宗克 盆東風や仏花にもある裏表 東京 松代 展枝 大漁節港に育つ鰯雲 東京 宮内 孝子 脇役に台詞教はる村芝居 神奈川 宮本起代子 秋高し一つ買ひたる竹とんぼ 東京 村上 文惠 雨去れば時を隔たず鉦叩 東京 村田 郁子 月山の麓の水の今年米 東京 村田 重子 能登王の墓の麓へ墓参 東京 森 羽久衣 小突かれて鶏頭の赫また深む 千葉 森崎 森平 とぎ汁を根元にくれて大糸瓜 長野 守屋 明 休みつつ闇織り上ぐる螽斯 東京 保田 貴子 銀漢の片隅に我はぐれ星 愛知 山口 輝久 木槿咲き継ぐ一日を全うし 東京 山下 美佐 枯色の風をくれたる吾亦紅 東京 山田 茜 磔刑のごとく担がれ案山子翁 群馬 山田 礁 拭ひさるやうに雲ゆく野分あと 東京 山元 正規 菩提から涅槃への道秋遍路 愛媛 脇 行雲 思案の種よりも大きな枇杷の種 東京 渡辺 花穂 お隣の煙につられ秋刀魚買ふ 埼玉 渡辺 志水
銀河集・綺羅星今月の秀句伊藤伊那男 故郷いま秋刀魚焼く頃われも焼く 伊藤 庄平
一位の実嚙めば故郷ほろ苦し 大野田井蛙
墓囲む田より稲刈終はりけり 大溝 妙子
世の中が少し傾く秋簾 笠原 祐子
心頭滅却冷房の利きすぎる 神村むつ代
日陰より代はる代はるに墓詣る 森濱 直之
老眼鏡外せば雀蛤に 長谷川明子
橋姫を攫ひに来る秋出水 橋野 幸彦
狂はねば黄泉へは行けず踊の輪 萩原 陽里
噴水ののぼりきるまで懸命に 夲庄 康代
噴水ののぼりきつては奔放に 同
大の字に心で繫ぐ施火五つ 末永理恵子
はじめから競はぬ色よ吾亦紅 大野 里詩
脳内に分け入るごとく鶏頭花 朽木 直 地に足のつく暇のなき踊かな こしだまほ こほろぎの大奥跡を知り尽くす 高橋 透水 口下手のままに入りたる墓洗ふ 中島 凌雲 蛇穴にこの世の景色見飽きたと 中村 孝哲
星雲集作品抄伊藤伊那男・選秀逸
み吉野の水より旨し新豆腐 大阪 西田 鏡子
ついでにと本家の墓も洗ひけり 千葉 中山 桐里 くべ足して苧殻の焰高くせり 東京 岡城ひとみ 新涼や拭けば畳の匂ひ立つ 青森 榊 せい子 枯れてなほ熱ありさうな鶏頭花 千葉 川島 紬 鹿鳴くや飛火野の中風の中 埼玉 園部 恵夏 名月や団子の影と酒器の影 東京 市川 蘆舟 秋暑しとどのつまりは老いにけり 東京 渡辺 誠子 天の川遠流の島は黒々と 埼玉 渡辺 番茶 額縁に知る血縁や魂迎へ 東京 尼崎 沙羅 立ち話するうちに暮れ鶏頭花 東京 生田 武 鶏頭の種に翳なしかばかりも 東京 矢野 安美 地図に無き路のもてなし秋遍路 神奈川 大田 勝行 独り来てひと日の旅や吾亦紅 東京 須﨑 武雄 目を閉ぢて計るあはひやばつたんこ 千葉 針田 達行 借景の富士をも隠す稲架襖 東京 井川 敏 豆腐屋はさざなみを売り秋の暮 東京 荻野ゆ佑子 津軽路は北のまほらまちちろ鳴く 東京 釜萢 達夫 邯鄲の半睡の夢覚めやらず 神奈川 河村 啓 いちじくを割れば火山の断面図 広島 塩田佐喜子 星雲集作品抄 伊藤伊那男・選
|
私ごとだが一昔前、吉野西行庵から峰入の道を延々と歩いて洞川の宿に辿り着いたことがある。そこは関西各地からわざわざ汲みに来る名水の地であった。宿の前に豆腐屋があり、外で食べることができた。それは今も思い出すほど旨い豆腐で、食事が付いている宿なのに、二泊の間に三回程食べに寄ったほどである。句は水も旨いが豆腐はもっと旨いという。これほど旨そうな新豆腐を詠んだ句は珍しい。同時出句の〈島々は瀬戸の飛石秋夕焼〉の静謐で豊かな風景、〈朱雀門のこして帰る燕かな〉の歴史に題材を取った抒情、〈去ぬ燕空がだんだん重くなる〉の感性の良さも称えておきたい。 |
「墓参」の句というと厳粛に詠んだ句がほとんどだが、この句は少し外して、ほのかな可笑しさを出している。もう分家して長い歳月があり、それほどの付合いも無いのかもしれない。だが厳然たる先祖であり、やはり詣でておこうという。「ついでに」という措辞は額面通りには取らないで、むしろ作者の遊び心だと思った方がよさそうだ。同時出句の〈墓洗ふ墓移すこと詫びながら〉は今日的世相を反映している。 |
迎火を焚いているのだが、「くべ足して」に先祖を迎える真摯な気持ちが出ているようだ。「焰高くせり」に魂の交感がある。同時出句の〈この年も組むに梃摺る盆提灯〉は、「この年も」の「も」が決め手。毎年毎年梃摺っているのである。 |
炎暑の夏が当り前のようになってきたようだ。それだけに「新涼」は格別の思いである。拭き掃除をして、作者の気持までもが一変した様子がよく出ている。同時出句の〈恐山の石みな仏風は秋〉は、いたこを訪ねる季節も過ぎて閑散としたこの山の様子が如実である。石も木も皆仏という信仰の山の秋風である。 |
鶏頭という字にも出ているが、何だか動物的なこの植物だけに「熱ありさうな」と捉えたのは、いい感覚である。枯れてもまだまだ命脈を保っているようだと、この花の本質をしっかりと詠み取っている。 |
春日大社全域に広がる「春日野」の別称で、長い歴史に培われ磨き抜かれた地名である。「飛火野の中風の中」と「中」をリフレインにしたことで抒情感を高めているようだ。 |
「月より団子」ということになろうか。団子を盛った折敷や酒器を前面に出して、その影を強調しているのだが、そのことによって月の光が一層際立つという仕掛けである。 |
今年の夏から秋にかけての異常気象を象徴している句である。しかもコロナ禍が続き、精神的にも疲弊したことがこの句の背景にあるようだ。「とどのつまりは老いにけり」とは実感があり、この述懐に賛同する人は多いことであろう。今年の夏から秋にかけての異常気象を象徴している句である。しかもコロナ禍が続き、精神的にも疲弊したことがこの句の背景にあるようだ。「とどのつまりは老いにけり」とは実感があり、この述懐に賛同する人は多いことであろう。 |
「遠流の島は黒々と」は単に実景だけではなかろう。過去の悲しい歴史を重ね合わせた表現である。同時出句の〈幼帝の入水に泣ける夜長かな〉も平家物語の安徳天皇の段。「泣ける夜長」に作者の人柄なども偲ばれるのである。 |
「遍路」は本来は春の気候の良い時に行われることが多く、春の季語。「秋遍路」にはどこか淋しさが付き纏うようである。この句も知らない道に迷い込んだようである。日の暮れも早く心細さもあるのだが、そこで受けた思わぬ接待。その安堵の心が出ている句。「秋遍路」だからこその味わいである。 |
「吾亦紅」という始めから枯れているような風姿の季語との取合せがうまく嚙み合った句である。「独り」「ひと日」のリズムもよく、「独」「吾」の字面も秋の孤独感を深めるようである。 |
伊那男俳句 自句自解(59) 熱燗やあまた仏に会ひし夜は
30代の後半から奈良へ通うようになった。金曜日の夜行バスに乗り、日曜日の遅い新幹線で戻る。奈良の町に一泊するので夜は酒を飲みに出る。2年ほどして餅飯殿通りの外れに「蔵」という店を見付け、以来行けば必ず寄るので、ざっと30年ほどの付き合いとなる。当時の奈良は店仕舞も早く酒場の数も少なかったように思う。奈良の食べ物も、私の思い込みかもしれないが、西瓜と奈良漬と茶粥……。ある時入った店は女将さんが1人で切り盛りしていた。といっても客はいない。ビールを注文したあと「何か肴を」というと「病み上がりでね、3日ほど休んじゃったのよ、そうそう筍の煮たのがある」と入歯を直しながら冷蔵庫から容器を取り出した。「うーん、この筍、少なくとも3日以上前のものか……」と心の中で呟いて食べた。そのような失敗を重ねた末、「蔵」にたどり着いたのである。そうそう1日中仏様を訪ね歩いたあとの燗酒は心地よく腸を温めてくれた。 手鏡の中より妻の御慶かな
妻が亡くなってかれこれ14年ほどが過ぎた。薄情なことであるが、思い出の数々が遠ざかっていくように思う。ただし自分が14年間も長生きして、かなり幸せな日々を送っていることを申し訳なく思う気持は逆に募るような気がしている。妻は孫の顔を2人までしか知らないが、私はそのあとの5人、計7人の成長を目にしている。何年か前から長女の家に居候して7人家族で賑やかに暮らしているのであるから……。さてこの句は平成12年の句なので、20年ほど前、妻は40代の後半であったことになる。京都生れの妻は着物を着こなし、行事なども割合大事にしていた。京都の女性は13参りが済むと嫁入準備として着物を誂え始めるのである。この句、多分お節料理の盛り付けの合間に鏡を覗き込んだ時に、鏡越しに目が合ったという一景。55歳で死んだ妻は青山の寺に葬ったが遺骨の一部を京都東山の大谷祖廟に納め、里帰りをさせたのがせめてもの恩返しであった。 |
去る3月5日、平成30年度の俳人協会四賞の授与式が京王プラザホテルで行われました。 ご存じの通り、伊藤伊那男主宰が句集『然々と』で第58回俳人協会賞を、同人の堀切克洋さんが『尺蠖の道』で第42回俳人協会新人賞を受賞四、銀漢俳句会から4賞の内二賞を頂くという快挙となりました。2019/4/30/更新 |
二次会・店内に入りきれない人数でしたが,日曜日とあって店の前の通りも通行が少なく,穏やかな天候の下、外に溢れる受賞者の二人や他結社の方々と交流するなど、思い思いにお酒を楽しみながr懇談を深め,何時までも祝賀会の熱気は冷めることがありませんでした。 |
伊藤伊那男 俳人協会賞 堀切 克洋 俳人協会新人賞 2019/3/17 学士会館 銀漢亭(二次会) |
△ 月刊「俳句四季」に受賞の記事が掲載されました。 △月刊「俳句四季」に受賞の記事掲載は5月号(4/20発売)か6月号(5/20発売)のどちらかを予定しています。 |
△南天
中国では、南天のことを南天燭(なんてんしょく)や南天竹(なんてんちく)と呼びます。これを略して南天になり、音読みしたのが和名の由来です。
2020/12/26 更新