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 7月号  2015年

伊藤伊那男作品 銀漢今月の目次 銀漢の俳句 盤水俳句・今月の一句  彗星集作品抄  
  彗星集選評  銀河集・作品抄 綺羅星集・作品抄 銀河集・綺羅星今月の秀句 星雲集・作品抄    星雲集・今月の秀句   伊那男・俳句を読む 銀漢の絵はがき 掲示板 
  鳥の歳時記 井上井月 銀漢日録 今月の写真



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伊藤伊那男作品

主宰の八句

古茶        伊藤伊那男

一枚に始まる田打ち千枚田
並び漕ぐふらここいつも行き違ひ
泥仕合とも有明のむつの恋
蜃気楼記憶の町のみな歪み
箱根いま落花すなはち千仞へ
反骨の心も少し古茶淹れて
草餅化して鶯餅となる不思議
暮春なほ古稀近き身の里ごころ












        
             


今月の目次








銀漢俳句会/7月号












   



銀漢の俳句 

伊藤伊那男 

出羽三山② 羽黒山と手向

 私が最初に出羽三山を訪ねたのは、手元の記録では盤水先生の年譜とは合わないが、昭和63年晩秋とある。羽黒詣では私にとっても極めて印象深い旅であった。
まず先生の定宿である三光院とその周辺の手向(とうげ)と呼ぶ講宿の並ぶ街道から異次元の世界である。家の壁には恙虫と呼ぶ藁で綯った巨大な縄が飾られている。集落の奥の随身門からが神域となるが、くぐるとすぐに石段を急降下する設定にも驚く。祓川を渡ると思いの外広い平地となり、杉の巨木の中に重厚な白木造りの五重塔が聳える。平将門建立という国宝である。凡庸な私にも感じられる霊気があり、今までこの神域を知らなかった自分を愧じるほどの大きな精神的衝撃であった。
衝撃はまだまだ続く。その奥から羽黒山まで二千四百段ほどの参道が始まるのである。その距離は1.7㎞で鬱蒼たる杉の巨木に囲まれ、清浄な空気が満ち溢れている。八合分ほど登ったあたりで南谷への道が右に分かれる。そのすぐの所に盤水先生の句碑がある。南谷は今は廃寺で礎石と池が残るばかりだが、芭蕉が手厚い接待を受けた坊の跡である。更に登ると出羽三山合祭殿に到達する。車で行く迂回路もあるが、この参道を歩くかどうかで神の加護が異なると思うほどの凄味のあるアプローチである。
 出羽三山神社はその名の通り、羽黒山・月山・湯殿山の三山を集合して祀る拝所であり、開祖の能除大師の墓所や、大量の銅鏡が出たことから名付けられた鏡池などがある。
 さて我々が泊まるのは先述の三光院である。粕谷家が代々守る講宿であり、夫人容子さんは春耕同人で句集もある。私が最初に訪ねてからかれこれ30十年近く経つ。ご主人は亡くなられご子息の代に替わったが、容子さんは御健在で、今秋お訪ねするのが楽しみである。季節によって異なるが、夏なら月山筍と厚揚げを味噌で煮た椀物や山菜、栃餅などの郷土料理を用意してくれる。
 その時の旅での私の句は〈月山の胎内に入る茸採り〉であった。次の自註が残っている。「山麓の道筋から山襞の奥に入り込んでゆく茸採りの姿を此処彼処に散見した。たいがい1人ずつであった。その夜羽黒の講宿に投宿、窓外に月光が皓々と照り、神々しい雰囲気を漂わせていた。深更、眠れぬままに月光を浴びながら手向の村落を歩き廻り、この句を得た。月山は山そのものが御神体である。昼間見た茸採りの姿と、胎内めぐりをする修験者の姿とが想像の中で重なりあった」。この旅のあと盤水先生が何新聞であったか失念したが、出羽三山についての随筆を書かれ、その中でこの句を取り上げてくれた。まだ伊那男の俳号のつく前の本名で、新聞への私の句の初出であった

 


 









           


 



  

盤水俳句・今月の一句

伊藤伊那男

鯖鮨に雨うつくしき近江かな     皆川 盤水

 
私も先生のお伴をして近江の旅をしたことがある。若狭の同人総会の帰路であったと思う。近江八幡に宿泊した。私ならどうしたって「鮒鮨」にしてしまうところだが、それでは近江の地名と付き過ぎになってしまうのであろう。思えば比叡山の裏側に敦賀から朽木、花折峠を経て京都に入る鯖街道があり、そんな時代背景も句から浮かび上がってくるのである。「うつくしき」の直截的な措辞も近江の風土を思い浮かべると、異論はない。

                            (昭和55年作『板谷峠』所収)             
                                         

 







  
 

彗星集作品抄

伊藤伊那男選

赴任地に都忘れの花咲かす         屋内 松山
晩学の小さき文机鳥雲に          大沼まり子
長病みの父の忌日やしじみ汁        多丸 朝子
郡上産までを半ばの上り鮎         杉阪 大和
解かれし桑へ武甲山の風絡む        多田 悦子
何気なく振つて透かして種袋        渡辺 志水
散る木蓮風に重みを加へたり        清水佳壽美
予備校に校旗のありて遠霞         坂口 晴子
まばたきに毀れてしまひしゃぼん玉     小泉 良子
吾子摑む鶯餅は泣き顔に          川島秋葉男
隅々まで明るき家や合格子         大野 里詩
錆なきをひとつ拾へり落椿         鈴木てる緒
猫の子と山のやうなるその母と       土井 弘道
大小の夕日映して石鹸玉          大西 酔馬
筍の到着前の湯のたぎり          柴山つぐ子
幽明のあはひに花の散りてゆく       中村 湖童
割箸の裂け方も良し花筵          片山 一行
海鳴りの陣太鼓めく磯開          唐沢 静男
霧吹きの虹の小さき海老根売        小野寺清人
天下へとひねもすしづる甘茶かな      山下 美佐













           








彗星集 選評 伊藤伊那男


赴任地に都忘れの花咲かす       屋内 松山
「都忘れ」とは何とも優雅な名の花である。承久の変で佐渡に流された順徳天皇がある日可憐な紫色の花に目を止め、昔の栄華も都恋しさも忘れさせる花だと称されたのがこの花の名前になったという。こんな故事来歴を知るとさて掲出句の赴任先はやや左遷気味であったのか、などと想像される。「花咲かす」の措辞からみると、自らが種をまいたのであろう。何とも奥床しい句である。 


晩学の小さき文机鳥雲に        大沼まり子
安住敦の句に通じる抒情のよさを憶えた。晩学とは何歳の頃を言うのであろうか。今の世だと定年退職後という感じか、「小さき文机」が何とも慎ましくていい。そんなに本格的な勉強という訳ではないであろう。鳥が帰った後も変わらぬ生活が続くのである。 


長病みの父の忌日やしじみ汁      多丸 朝子
物語性のある句である。長いこと病床の末亡くなった父上の忌日の蜆汁そして同じ血を受けた作者もまた酒飲みであるか。父を偲びつつ自戒を籠めてその日は蜆汁を作る習慣であるか・・・・。


郡上産までを半ばの上り鮎       杉阪 大和
岐阜県郡上八幡は鮎どころ。鮎の名産地は数々あるが、特に知られている土地である。その郡上へ遡上してくる若鮎。まだ郡上までの道のりは遠い。辿り着かなければ当然郡上産の上物の評価は得られないわけである。そうした面白さをもった句で「半ば」の把握が愉快である。 


解かれし桑へ武甲山の風絡む      多田 悦子
今でこそ桑畑を捜すのは難しくなったが秩父は養蚕で栄えた町である。秩父夜祭の豪華さも、養蚕業なしには成立しなかったことであろう。「桑解く」は春の季語。冬の間束ねておいた枝を解くとすかさず武甲山からの風が枝に押し寄せる。「絡む」の措辞が独自の表現である。 


何気なく振つて透かして種袋      渡辺 志水
種袋を見れば、ついつい振って音を確かめてみたくなるものだ。買うわけでもないのに振ってしまう事もある。この句は加えて透かしてみるところが面白い。そうしたところで、中が見えることもないように思うのだが、日光にかざしてみたりするのだ。心理と行動をよく捉えた。


散る木蓮風に重みを加へたり      清水佳壽美
木蓮だからこそ成り立つ句で、実感を深めた。 


予備校に校旗のありて遠霞       坂口 晴子
予備校にも校旗!目標の校旗はまだ遠霞の中か。 


まばたきに毀れてしまひしゃぼん玉   小泉 良子
しゃぼん玉の繊細さを強調したか。 


吾子摑む鶯餅は泣き顔に        川島秋葉男
幼児の無意識の仕種を捉えた。泣き顔になった面白さ。


隅々まで明るき家や合格子       大野 里詩
吉報がもたらせた明るさ。照明などなくても・・・・。 
 

錆びなきをひとつ拾へり落椿      鈴木てる緒
全く瑕疵のないまま落ちる椿。落ちても凛然と。 


猫の子と山のやうなるその母と     土井 弘道  
生まれたての仔猫と比べると母は山のよう。対比の面白さ。 


大小の夕日映して石鹸玉        大西 酔馬     
石鹸玉の様々な大きさを捉えた。各々に夕日が。 


筍の到着前の湯のたぎり        柴山つぐ子  
筍冥利ともいえる万端の準備。筍だからこその句だ。


幽明のあはひに花の散りてゆく     中村 湖童
確かに、日本人にとっての桜は生と死の間に咲く花。 


割箸の裂け方も良し花筵        片山 一行
幸先のよさそうな花見の始まりである。着眼点がいい。 


海鳴りの陣太鼓めく磯開        唐沢 静男
臨場感のある句。でも海に入るのにはまだ危ない感じだ。


霧吹きの虹の小さき海老根売      小野寺清人
この虹は季語になるかは異論も・・。だがよく見ている句。 


天下へとひねもすしづる甘茶かな     山下 美佐
天上天下唯我独尊から拝借の一句。「ひねもす」がいい。 



 



     
    
     
        







銀河集品抄

伊藤伊那男選

仏生会夜は甘露の雨かとも       東京   飯田眞理子
小魚を猫と分け合ふ啄木忌       静岡   池田 華風
たんぽぽや坂東太郎ささ濁り      静岡   唐沢 静男
種袋蒔かずに逝けり夫の文字      群馬   柴山つぐ子
なにするもなにか間の抜け春炬燵    東京   杉阪 大和
おのづから甘茶色せし甘茶仏      東京   武田 花果
春眠や迦陵頻伽のこゑの中       東京   武田 禪次
春塵やことに仁王の足の甲       愛知   萩原 空木
鷭啼きて古沼の暮色深めけり      東京   久重 凜子
孫の手のとどかぬ痒み亀が鳴く     東京   松川 洋酔
姥捨の田毎に雪の残りけり       東京   三代川次郎
すぐ裏に波郷生家や苗木市       埼玉   屋内 松山



    
   













綺羅星集作品抄

伊藤伊那男選 

敷藁の濡れて八十八夜寒        静岡   五十嵐京子
鉄棒の校舎さかさま落第す       神奈川  大野 里詩
新茶の荷頭を突き合せ評定す      東京   大山かげもと
もの思ふ人に乗られて半仙戯      和歌山  笠原 祐子
結び目のほどけるやうに弥生尽     愛媛   片山 一行
またと無き縁をあの日桜漬       東京   川島秋葉男
桜湯のぬるさ加減も良き縁       東京   畔柳 海村
桜湯の開くを言うて打ち解けぬ     東京   島谷 高水
お隣りと手の届く巾花筵        長崎   坂口 晴子
たそがれのいろにとけこむ花衣     静岡   澤入 夏帆
夜雨とはならぬ唐崎蜆汁        東京   白濱 武子
御開帳あつといふ間を有り難く     東京   武井まゆみ
吹き入るる心の形紙風船        大阪   中島 凌雲
エイプリルフールの口に紅を塗る    パリ   堀切 克洋
眼科医のみたてによれば霾ぐもり    東京   森 羽久衣
熊蜂の羽音の守る隠れ里        埼玉   森濱 直之
こゆるぎの里のさへづり西行忌     神奈川  吉田千絵子

夕さりの酔ひにもつれし花衣      東京   相田 惠子
一湾を山盛にして白子丼        東京   有澤 志峯
瀬田の瀬に淡海の小鮎跳ねにけり    東京   飯田 子貢
袖振れば落花は飛花に二年坂      埼玉   伊藤 庄平
淀みへと光を運ぶ花筏         東京   伊藤 政三
故郷の記事にくるまる蓬餅       東京   大西 酔馬
声がはり未だせぬ答辞入学式      東京   大溝 妙子
噴火めく阿蘇の野焼を目の当たり    東京   小川 夏葉
おそ咲きの桜の下や歩もおそく     鹿児島  尾崎 尚子
水筒の磁石のままに野に遊ぶ      埼玉   小野寺清人
播き時はいまよいまよと花の種     神奈川  鏡山千恵子
花蕊に火種あるやもチューリップ    東京   影山 風子
ともすれば消ゆる縁や鳥雲に      東京   桂  信子
鶯の滑舌のよき頭上かな        長野   加藤 恵介
常盤会跡とや著莪の花明り       東京   我部 敬子
こはばりの絵筆の手入れ夕長し     高知   神村むつ代
藤花へ樹液のねぢれまがりて来     長野   北澤 一伯
こもごもに悲喜を重ねて桜漬      東京   柊原 洋征
由来書を石もて押へ出開帳       東京   朽木  直
みちのくの空の広さよ花辛夷      神奈川  こしだまほ
交ごもの念ひの一打鐘供養       東京   小林 雅子
へだたりは一間ほどに雀の子      千葉   佐々木節子
赤錆の放り置かれし猪の罠       山口   笹園 春雀
遠目して玩具めきたる花見バス     長野   三溝 恵子
しゃぼん玉ほつぺのはうがふくらみて  東京   島  織布
曲水の詩に斎王緩びたり        兵庫   清水佳壽美
咲耶姫の父神に会ふ桜東風       東京   新谷 房子
鯱の口より出でし親雀         大阪   末永理恵子
恋猫の水入りとなる朝かな       静岡   杉本アツ子
淡海のなべておほどか御開帳      東京   鈴木てる緒
佐保姫の触れし野の道母の国      東京   瀬戸 紀恵
ほほゑみし家族写真の春の塵      東京   曽谷 晴子
予後の身を気使ふ春の行き戻り     愛媛   高橋アケミ
たましひのまだ揺れてゐる半仙戯    東京   高橋 透水
引鶴の最終便に手を合はす       東京   多田 悦子
盆に音まろばせて選る豆の種      埼玉   多田 美記
砂かぶりかくれ上手の蜆かな      東京   田中 敬子
陽炎を子の出入りする隅田川      東京   谷岡 健彦
まだ雪の御嶽仰ぐ仔馬かな       東京   谷川佐和子
引鶴のこゑ韻々と井月忌        神奈川  谷口いづみ
葦切の去りて青べか物語        東京   塚本 一夫
はうとうや甲斐一国の春夕焼      東京   坪井 研治
春夕焼海へ嘶く放ち馬         神奈川  中川冬紫子
掛違ふ釦もどかし戻り寒        東京   中野 智子
好きな詩人ひとり存命あたたかし    東京   中村 孝哲
それぞれに離郷する日や春夕焼     茨城   中村 湖童
さくら散るおのおの帰る死者生者    東京   中村 貞代
日の光滑らせてゆく糸柳        愛知   中村 紘子
亀鳴くと言へどその声まだ聞かず    東京   沼田 有希
初恋の破れし土手やたんぽぽ黄     福岡   藤井 綋一
ハーシーのチョコやジープの春埃    東京   保谷 政孝
ドーナツの穴から覗く春の空      東京   堀内 清瀬
朝寝貪るふるさとに帰任して      岐阜   堀江 美州
蕨餅蜜すべり落つひとところ      埼玉   夲庄 康代
水音にしばし客待つ川床料理      東京   松浦 宗克
通学路外れて甘茶飲みにゆく      長野   松崎  正
馬の仔に溺るるほどの藁を敷く     東京   松代 展枝
呼ぶ父と応ふる母や夕桜        東京   宮内 孝子
若きらに先を譲りて青き踏む      千葉   無聞  齋
日のゆする雀隠れの中州かな      東京   村上 文惠
春かなし小川の流れ変はらぬに     東京   村田 郁子
さへづりや二つ耳持つ土耳古壺     東京   村田 重子
雅びたる箱に田楽鎮まらず       愛知   山口 輝久
神杉のあひの伊勢路の山笑ふ      東京   山下 美佐
火の山の春の鼓動を秘めをらむ     群馬   山田  礁
入相の一山一寺みな朧         群馬   山田 鯉公
散り際の闇めくるごと紫木蓮      東京   山元 正規
散りてなほ知覧の桜とこしへに     千葉   吉沢美佐枝
うらうらと揺るる幟や金丸座      愛媛   脇  行雲
亀鳴くや甲羅占ひ吉と出づ       東京   渡辺 花穂















     







銀河集・綺羅星今月の秀句

伊藤伊那男

熊蜂の羽音の守る隠れ里        森濱 直之
楽しい構成の句である。普通なら人の怖れる熊蜂だが、この蜂が里を守っているという。つまり、里そのものが、熊蜂の巣のように思われてくるのである。それだけ自然が豊かで、生き物が共生しているということであろう。「羽音の守る」の発想を褒めたい。 


鉄棒の校舎さかさま落第す       大野 里詩
一読破顔の句である。だが決してふざけた句ではなく、ちゃんと句の芯があるからこその面白さである。鉄棒で回転すると校舎はさかさまに映る。そのさかさまのまま落第!稚気を取り込みながら俳句形式を生かして見事。 


新茶の荷頭を突き合せ評定す      大山かげもと 
作者は茶商を営まれている。確かご子息二人が茶師十段の資格を持っておられる。その新茶の荷に親子がかがみこんで、色、香、縒りの状態などを点検し、評価しているのであろう。私達のように消費者ではなく、商売が絡むので、自ずから真剣で、句柄もことなる。「頭を突き合せ」が眼目。 


結び目のほどけるやうに弥生尽     片山 一行
珍しい比喩の句である。弥生は陰暦三月のことなので、新暦に直すと今の四月末位の季感である。一斉に物の芽が芽吹くのだが、そうした開放的な様子を「結び目のほどけるやうに」と摑み取ったのである。確かに二月尽では早すぎるし、その他の季節でも違和感があるようだ。 


夜雨とはならぬ唐崎蜆汁        白濱 武子
近江八景の一つに「唐崎の夜雨」がある。この句は、訪ねてみたものの雨とはならず、瀬田蜆の汁が供されたという。期待を裏切られた若干の失望と滑稽感を醸し出している余裕のある句風である。〈辛崎の一夜の雨やほととぎす 井上井月〉がある。井月はしっかり雨を配して真面目である。 


眼科医のみたてによれば霾ぐもり    森羽 久衣
 作者は女医さんだが、この人の句だと思うとなおさらおかしみが増すようだ。「みたてによれば」とくれば当然病状の判定が出てくるのだが、句では「霾ぐもり」と天気の判断をするのであるから笑わざるを得ない。とぼけた風韻の句である。他にも
〈啓蟄のつぎつぎ来たる患者かな〉という不思議な視点、〈糊の効く白衣新入医局員〉と、この人ならではの作風を楽しませてもらった。


またと無き縁をあの日桜漬       川島秋葉男
桜湯のぬるさ加減も良き縁       畔柳 海村
桜湯の開くを言うて打ち解けぬ     島谷 高水
「桜漬」「桜湯」の句である。塩漬けにした八重桜に湯を注ぐとふっくらと開き、ほのかな香を漂わせる。いずれの句も結納の場面などを回想した句と思われる。秋葉男句は「またとなき縁」と臆面もない。海村句は「ぬるさ加減」の良さを言う。そうそう初めから熱い関係は危険なのである。高水句はまだあまり交流がなく、話の接ぎ穂もなかった両家が、桜湯が開きましたね、という会話をきっかけに一気に打ち解けていく様子を捉えている。俳句は体験が物を言う文芸であり、各々の経験を生かした句ということになろう。共通点は三家とも多分円満と思われる家庭を維持していることだ。 


御開帳あつといふ間を有り難く     武井まゆみ
今年は長野の善光寺の御開帳の年で賑わっているようだ。御利益を求めて人々は押しかける。行列の末にやっとのこと前に立っても拝む時間はほんの束の間。それでも「有難く」というところが善男善女である。御開帳の風景を切り取って、温かさを残した。 

  その他印象深かった句を次に

なにするもなにか間の抜け春炬燵    杉阪 大和
孫の手のとどかぬ痒み亀が鳴く     松川 洋酔
敷藁の濡れて八十八夜寒        五十嵐京子
もの思ふ人に乗られて半仙戯      笠原 祐子
たそがれのいろにとけこむ花衣     澤入 夏帆
エイプリルフールの口に紅を塗る    堀切 克洋
吹き入るる心の形紙風船        中島 凌雲
こゆるぎの里のさへづり西行忌     吉田千絵子
お隣と手の届く巾花筵         坂口 晴子









    

      
      


 
 



 



星雲集作品抄

伊藤伊那男・選

嘱託のわれのてのひら啄木忌      神奈川  宮本起代子
東京をふる里めかす春夕焼       埼玉   渡辺 志水
捨て舟の浸かる湖国や行々子      千葉   森崎 森平
御手綱の糸電話めく居開帳       埼玉   戸矢 一斗
現世のつむり数多や出開帳       埼玉   中村 宗男
みちのくの言葉やさしき雁供養     東京   中西 恒雄
羽衣を尋ねて啼くか残る鴨       神奈川  水木 浩生
良きことも悲しきことも花の下     東京   島谷  操
駅長の手旗信号初つばめ        東京   結城  爽
春筍の土ぬぐ朝の尼五山        埼玉   大野田好記
恩光を千手広げてご開帳        愛知   津田  卓
木の芽和輪島の椀の使ひ初め      埼玉   志村 昌也
鉄橋の響き間遠に行々子        神奈川  久坂衣里子
蕨餅和して同ぜぬ人と住み       神奈川  上條 雅代
返信の待たるる午後や花の冷      東京   大沼まり子
気持にも糊効いてをり新社員      神奈川  有賀  理
花の影授業の間にも増えゆけり     東京   上田  裕
開帳や秘仏はなほも暗がりに      静岡   金井 硯児
うそ泣きの如く止みたる春の雪     東京   豊田 知子
波音を遮つてゐる大葦簀        東京   松田  茂
強がりの住めば都や山笑ふ       長野   守屋  明

空耳かつくし煮えたと母の声      東京   秋田 正美
風渡る茶摘の先の大井川        神奈川  秋元 孝之
たんぽぽの絮吹く頰の両ゑくぼ     東京   浅見 雅江
花冷や水琴窟は季(とき)刻む      宮城   有賀 稲香
札所まであと八丁と山桜        愛媛   安藤 政隆
日の差すも差さぬもひと日花かたくり  東京   飯田 康酔
囀りのあふれむばかり雨後の朝     東京   井川 敏夫
陽だまりに節のばしたる土筆かな    長野   池内とほる
野薊や分校の子ら脚はやし       埼玉   池田 桐人
花吹雪映して妖しお堀端        東京   市毛 唯朗
春風にさそはれ卒寿の杖はづむ     群馬   伊藤 菅乃
鶴引きし田んぼ島津に明け渡し     神奈川  伊東  岬
子規庵の硝子戸蒼き余寒かな      東京   今井  麦
過疎の里鶯谷と化しにけり       愛媛   岩本 昭三
たかんながリュックはみ出すローカル線 千葉   植竹 節子
畦起す棚田の朝や雲雀たつ       神奈川  上村健太郎
残花ちる本気で思ふこれからを     埼玉   大木 邦絵
風一夜庭一面の花むしろ        群馬   岡村妃呂子
庭先に日の陰り来る暮春かな      神奈川  小坂 誠子
歩く人走る人あり桜咲く        京都   小沢 銈三
花の雨幹黒々と立ち上がる       宮城   小田島 渚
春の海ロシア文字ある捨て浮標     静岡   小野 無道
桜散る雨近き夜は銀色に        東京   梶山かおり
騒がしくとも心地良き百千鳥      東京   亀田 正則
野遊びの子は明後日に六年生      長野   唐沢 冬朱
若鮎や故郷遠く逸れ雲         神奈川  河村  啓
騒がしき朝に眼を剝く木葉木菟     愛知   北浦 正弘
鳥のみの声の聞こえて朝寝かな     和歌山  熊取美智子
春の幸小鉢に盛りて次次と       愛媛   来嶋 清子
月遅れ寝仏浅間に花前線        群馬   黒岩 清女
杜若青が濃くなる雨上り        愛知   黒岩 宏行
踏切の陽炎短か都電来る        東京   小泉 良子
水上バス回る桜の隅田川        群馬   小林 尊子
白鷺の歩む嘴光らせて         東京   斉藤 君子
うららかや我が道風の吹くままに    神奈川  阪井 忠太
白黒の写真の匂ひ初彼岸        長野   桜井美津江
亀鳴くや草履の鼻緒すげかへる     東京   佐々木終吉
春風に導かれゆく矢立の地       東京   佐藤 栄子
浅間嶺や春の暁ひとり占め       群馬   佐藤かずえ
吾妻川の中州に群るるふきのたう    群馬   佐藤さゆり
桜咲く季節の栞挿むやう        東京   須﨑 武雄
寄り道をして片手分つくし摘む     東京   鈴木 淳子
盆栽に桜一輪入試の日         群馬   鈴木踏青子
からぶりの鳴らぬ口笛あたたかし    東京   角 佐穂子
目の前にたんぽぽの絮止まりをり    愛知   住山 春人
お向ひの子らの声聞く春休み      東京   田岡美也子
裸婦像の若さを讃へ山桜        長野   髙橋 初風
指先に真珠の光る春の宴        東京   髙橋 華子
黄泉のくにも花吹雪かと問うてみる   福島   髙橋 双葉
菜の花やしばし風聞く遠浅間      埼玉   武井 康弘
笑ひ声飛び跳ねてゆく春野かな     ニューヨーク 武田真理子
ふるさとを訪ねてみたき昭和の日    広島   竹本 治美
八方にお辞儀してをり枝垂梅      三重   竹本 吉弘
雨上がり春の匂ひの深まりぬ      東京   田中 寿徳
陽炎やいつまでつづく砂遊び      神奈川  多丸 朝子
大空に何を届けに揚雲雀        東京   手嶋 惠子
浮かび来る海女を待つ間の永き黙    千葉   土井 弘道
舟下りぬきつぬかれつ花筏       東京   徳永 和美
吹く風にふはりと乗りし紙風船     神奈川  長濱 泰子
封を切る合格通知春一番        埼玉   中村 宗男
秘め事をごまかす束のカーネーション  長崎   永山 憂仔
あれこれと花種蒔く日指折つて     群馬   鳴釜 和子
遠足の野に一面の色帽子        東京   西原  舞  
菜の花の沖にタンカー伊豆岬      東京   萩野 清司
桜蘂降る天平の焔いろ         埼玉   萩原 陽里
墨堤や桜吹雪をほしいまま       東京   長谷川千何子
富士山を借景にして花筵        神奈川  花上 佐都
湖の夕べの色に蜆舟          神奈川  原田さがみ
山笑ふ深吉野はしる雲一朶       兵庫   播广 義春
風船の糸のからまる薬指        神奈川  福田  泉
亀鳴くや七十男の夢見癖        東京   福永 新祇
西行の歌口ずさむ花の宵        東京   福原 紀子
畑の畝きらめく朝の犬ふぐり      愛媛   藤田 孝俊
旅立ちの空見上ぐれば雲雀かな     大阪   星野かづよ
夕映えの葦より響く鷭の声       東京   星野 淑子
通りまで調律洩るる花の昼       東京   牧野 睦子
山笑ふ村の床屋に客一人        愛知   松下美代子
痛きほど桜吹雪の窓を打つ       神奈川  松村 郁子
引鶴の空に愁ひを引く如く       東京   宮﨑晋之介
しなのぢの刈ばね踏めば秋の声     東京   家治 祥夫
軒下の何やらせはし雀の巣       群馬   山﨑ちづ子
風抜くる大楠の寺開帳す        静岡   山室 樹一
夏近しバイクの音を湾内に       東京   湯川 漁太
飛鳥仏花の夜明けを見そなはす     神奈川  和歌山要子










          


     





星雲集 今月の秀句

伊藤伊那男

嘱託のわれのてのひら啄木忌       宮本起代子
作者自身の境涯の句であろう。嘱託というのは正式な雇用ではなく、ある業務にたずさわることを言う。やや不安定である。そういえば石川啄木も地方新聞社などを渡り歩いた。「‥‥ぢっと手を見る」の歌があるが、この句はその本歌取り。ただし本歌に凭れない実感がある。同時出句の〈臨月の腹の向かうに山笑ふ〉のほのかなユーモアもいい。 


東京をふる里めかす春夕焼        渡辺 志水
私など田舎から出て来た者がみたら、ちょっと泣けるような句である。学生時代は下宿の物干台から信州方面の空を眺めたこともある。もちろん東京育ちの人達もこの半世紀の東京という「ふるさと」の変容はただごとではなかったことであろう。ひと時の春夕焼に回顧が深まるのである。同時出句の〈父母眠る上野の辺り花曇〉の抒情、〈振つてみて音で聞き分く種袋〉の確かな描写力も評価したい。 


捨て舟の浸かる湖国や行々子       森崎 森平
近江八幡の西の湖の水郷地帯や菅浦の集落などを思い出す。特に西の湖は葦の一大産地であり、行々子がその茎に斜めに足を掛けて鳴いている。そんな様子を的確に捉えているのである。半分水に浸った捨舟が発見である。 


現世のつむり数多や出開帳        中村 宗男
交通事情の良くなった今は出開帳は少ないが、江戸時代などは資金調達などの為によく行なわれたようである。現代は国立博物館での仏像展などが形を変えた出開帳であろうか。この句古い仏像に対比して「現世のつむり」の把握が出色。今も善男善女の祈りが続いているのである。


みちのくの言葉やさしき雁供養      中西 恒雄
「雁供養」――何と美しい季語であることか。こういう季語に接すると、俳句に親しんでいてよかったな、と思う。雁供養とは津軽は外ヶ浜の言い伝えで、浜に残る枝の数が、日本で命を落とした雁の数として弔ったという。武骨でありながら、実はやさしいみちのく言葉を配して感銘を深める。 


羽衣を尋ねて啼くか残る鴨       水木 浩生
 羽衣伝説に通じる句であろう。白鳥などの動物が若い女性の姿であらわれ、人間の男性がその衣を奪って強制的に妻とするが、女性は衣を取り返し、動物に復帰して飛び去るという物で、世界的に分布する説話だという。この句は残る鴨からそこまで連想を拡げたもの。「尋ねて啼くか」がうまいところ。鴨の声だからいいのだ。


蕨餅和して同ぜぬ人と住み       上條 雅代
普通俳句では詠み切れない部分をうまく詠み切っている。「和して同ぜぬ」は論語の「君子和而不同、小人同而不和」で、君子は意見が同じならば他人と協調するが、おもねって妥協することはしない、というもの。この句ではもっと皮肉に使っているのであろう。そうだそうだと言いながら何もしない夫‥‥蕨餅の季語が面白い。同時出句〈白粉を叩いて散らす春愁〉〈夕べにはねびまさりをる甘茶仏〉なども独自の季語の消化力を思わせる句群である。 


気持にも糊効いてをり新社員      有賀  理
この句、上五の「も」が大きな役割を果たしている。「気持にも」の「も」には、着ているワイシャツその他にもクリーニングが効いているということであり、「も」の一文字で省略されているのである。溌剌とした新入社員の様子を捉えて出色である。歳時記の例句より‥‥うまい! 


花の影授業の間にも増えゆけり     上田  裕
桜の開花は刻一刻に変化する。この句、一時間ほどの授業の間にも窓外の桜が開いていくと詠み取った。感性の鋭い人の句である。「花の影」と捉えたところが見事で、校庭に写る影によってそのことを知るのである。 


強がりの住めば都や山笑ふ       守屋  明
面白い句だ。「住めば都」は常套句だとしても「強がりの」はなかなか言えない独自の言葉だ。どこかで人は何かを我慢しながらその土地に馴染もうとしているのだ。「山笑ふ」には自然も人間も破顔一笑の共生感がある。 


波音を遮ってゐる大葦簀        松田  茂
本来太陽光を遮るための葦簀を、波音を遮っていると詠んだ視点を称えたい。このことによって海の近くの家であること、当然日当りも強いことも了解するのである。 

             その他印象深かった句を次に

良きことも悲しきことも花の下     島谷  操
返信の待たるる午後や花の冷      大沼まり子
うそ泣きの如く止みたる春の雪     豊田 知子
開帳や秘仏はなほも暗がりに      金井 硯児






        




新連載 【伊那男俳句を読む】

 伊那男俳句を読む       伊藤伊那男
  
  

回想―句集『知命なほ』の時代(14)    伊藤伊那男

 直近のできごとを挟む。5月12日、下腹部に鈍痛があったが、無理矢理朝昼兼食を摂って店に入った。「火の会」という私も出句する超結社句会が銀漢亭であった。いつもなら一緒に飲むのだが、この日は全く酒を欲せず、最後に焼酎のお湯割りを少し舐めただけであった。翌朝、今まで経験したことのない脱力感の中で目が覚めた。腹の痛みも増していた。長女がかかりつけのクリニックの予約をしてくれた。レントゲンの前に立つのも質問に答えるのもやっとという状態であった。院長が不在であったせいか明日、血液検査の結果を聞きに来るように言われ、胃腸薬数種を持たされて終わった。その日私が選句する三つの句会があるので行けない旨連絡を取り、休業の貼紙を頼んだが、その二、三の交信だけで全力を使い切った。翌朝クリニックに行き院長の問診を受けた。余談だが院長は大腸検査で定評がある。中年のイケメンで、長女の話によればそれゆえに成城のママ達は「あの先生には肛門を見せるわけにはいかないわよ」と違う所へ検査に行くという。さて院長は、「腸閉塞の疑いがありますね。ここでもう一回検査するよりも大病院へ行きましょう」「いつですか?」「今でしょ!」ということで30分後には関東中央病院外科の待合室にいた。CT検査の結果は虫垂炎(盲腸)であった。破裂しているという。翌日手術の段取りとなった。手術の手順の説明を次女と受け、質問があれば、というので「私の事例だと、江戸時代だったらどうなっていましたかね?」「アウトですね」。次女が「お父さんしょうもない質問をして――」。15日2時30分、真上に大きなライトのある手術台の上にいた。背中に麻酔薬が打たれていった。20数年前の国立がんセンターと同じ光景であった。手術後、摘出した患部を乗せたバットで説明を受けた長女は「前はお父さんの大腸癌を見て、今日は破裂した盲腸を見ちゃったよ」と。見舞いに来てくれた娘婿が「では回復を祈ります」「いや開腹はさっき終わりました」「――駄洒落が出るようですからまず大丈夫ですね」。
 過労、ストレス、いやいや、やはり延々と続いてきた暴飲暴食への鉄槌のような気がしている。何度言っても聞かない輩に痛棒を喰らわせてやるという神の配慮とも思われる。それこそ思い起こせば、江戸時代なら43歳の頃大腸癌で間違いなく死んでいたし、そうでなかったとしても今回で死んでいた筈である。そのような自覚を持って、生かされていることに感謝して、居ずまいを正そうと思う――のだ。
  麻酔醒む若葉の窓の眩しさに      伊那男
 銀漢誌友にご心配をかけた。以上が顚末である。


  平成十七年
桐の実は風の子ひと日鳴りとほす
焼いて煮て御饌の田鮒や秋祭
茸狩大きな鍋を背負はされ
路地の子のはたとかき消え秋の暮
皇子の山より木枯の吹きはじめ
新海苔の端正に裁ち切られをり
年賀状書きかけのまま父逝けり
新日記余命三月の妻に買ふ


  平成十八年
信濃はも盆地の底の喪正月
山国は山の高さにどんどの火

大寒の妻に猫背を正さるる
凍蝶といふさながらに妻逝けり
久女忌に妻の忌日の加はれり
鬼やらふ妻なき家をおろおろと
妻呼べばたちまち春の星うるむ
焼畑に助走の長ききぎすかな
西行の山に拾ひし雉子の羽
墓残すのみのふるさと山笑ふ
たんぽぽの絮吹き故郷遠くせり
粗組みのあとこまごまと鴉の巣


 







       

  
   


 


銀漢の絵はがき


挿絵が絵葉書になりました。
Aシリーズ 8枚組・Bシリーズ8枚組
8枚一組 1,000円

ごあいさつにご利用下さい。



    


















掲示板
















     








 




鳥の歳時記


     






















  


             
 
  







井上井月/漂白の俳人


『漂白の俳人・井上井月』伊藤伊那男著

 伊藤伊那男主宰の近著『漂白の俳人・井上井月』が平成26年12月25日に(株)KADOKAWAから刊行されました。近年俳人としての井上井月に対する位置づけの見直しが進む中で、伊藤主宰は井月の俳句を通して謎の多い実像に迫る試みをされます。井月の人となりを知る一書として、また井月俳句への入門書として高い評価を得ております。著名な文人、俳人の方々が、いろいろな機会にこの著書を取り上げて紹介されております。是非、読んで頂ければ存じます。

 読売新聞夕刊版・井上井月の記事(2015/4/4)
そのまま忘れられておかしくない男が今、なぜか熱い。北村皆雄さん(72)の映画『ほかいびと伊那の井月』(2011年)の公開後、復本一郎編『井月句集』(岩波文庫)が出版され、作品を味わいやすくなった。伊藤伊邦男『漂泊の俳人井上井月』(角川学芸出版)、北村さんの『俳人井月』(岩波現代全書)など初学者向きの本も相次ぐ。記事から抜粋。
△PDFへリンクします。



記事全体画像。拡大画像に。


△『漂白の俳人・井上井月』伊藤伊那男著

画像上で拡大します。



 帯の紹介文から・・・
ひたすら芭蕉を慕い、山頭火に影響を与え芥川龍之介を唸らせた明治初期の俳人・井上井月。だがその正体は長い謎だった。酒好きで、家も財産も持たず、伊那を約30年放浪した男の知られざる素顔を、近年発見された日記、資料、俳句から探る。唯一の入門書。


画像上出拡大します。
 ひたすら芭蕉を慕い,山頭火に影響を与え、芥川龍之介を瞠目させた。その謎多き生涯を俳句と資料でたどる。井月の素顔が分かる唯一の入門書。135句の名句鑑賞付き。
              KADOKAWA HAIKU 『俳句』4月号から・・。








△KADOKAWA
「俳句」
2015年5月号 新刊サロン・コーナー. 242ページ
『漂白の俳人・井上井月』
「深い理解への第一歩」
相馬智様の紹介文です。


画像上で拡大します。




△KADOKAWA HAIKU
2015年3月号/俳人の時間から

画像上で拡大します。2015/6/5
巻頭3ページに写真が掲載されています。
新作5句
「奈良晩冬」が紹介されています。




△KADOKAWA HAIKU
2015年4月号/俳句の好きの集う居酒屋。P.140~145。

画像上出拡大に。
△俳句好きの集う居酒屋
銀漢亭で句会/火の会







シグネチャー 4月号 
SIGNATURE April 2015 Number 580
△旅先でこころに残った言葉
第81回
文 伊集院 靜氏の素敵なエッセイです。
春の日の一日、小さな旅にでた。から始まる・・。
伊藤伊那男主宰との関わりから井上井月の地、伊那谷への
旅の素晴らしいエッセイが掲載されています。


画像上で拡大します。



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銀漢亭日録

伊藤伊那男

4月

 4月14日(火)
2時、鳥居真里子さん句会の開錠。店「火の会7人。平塚から訪ねてくれた中戸川奈津実さん、「本部句会」に来たいと。吉祥寺から予備校理事長・高澤さん、「俳句」で私を知った、と来店。伊那の小池百人君久々。

4月15日(水)
「三水会」8人。西村秋夫君久々。好記、展枝、いづみ、文子、礼奈と餃子屋。

4月16日(木)
「銀漢句会」あと16人。あと、6人ほどで炒飯屋。

 4月17日(金)
「蔦句会」あと4人。21時30分閉める。体調悪く、帰宅。久々酒を抜いた1日。昨夜、炒飯食べ過ぎたか。

4月18日(土)
昼、成城の整体へ。引っ越し以来初めての整体。夜、上松さん一家と焼き肉屋。あと家に来て二次会。筍、カラスミなど。

4月19日(日)
朝から宮澤はラジオの収録2本。羽黒のエッセイ4回分。昼から宮澤、桃子と酒盛りとなる。だらだらと日没まで。京から2度目の筍到来。

 4月20日(月)
雨の一日。店、「演劇人句会」。対馬さん。ほか閑散。10時30分閉める。帰宅して宮澤・桃子と1時過ぎまで雑談。

 4月21日(火)
午後、食品衛生管理者の免許更新の講習。店、「雛句会」9人。内2人が、今日、「銀漢」へ入会手続き。22時半、閉めて「ふくの鳥」。今日から、宮澤の映画、109シネマズ二子玉川の杮落しの上映スタート。

4月23日(木)
久々、三輪初子さん手伝いの日。対馬康子さん、石井隆司さんと。石井さん近々、仕事に復帰予定と。西村麒麟、村上鞆彦さん。ポール・マッカートニーの東京ドーム公演あとのうさぎさん。

4月24日(金)
発行所は、11時から5月号発送作業。夜、「金星句会」。真砂年、洋酔、大野田さん……など。

 4月25日(土)
14時から「纏句会」。13人。あと、鰹の叩き、つぶ貝煮付け、題に出た目張の塩焼き、握り。酒は「底抜け」。6時より、アルカディア市ヶ谷にて「月の匣」(水内慶太主宰)5周年祝賀会。突然の指名で祝辞。終ってすぐ店に戻る。洋酔、いづみ、展枝さんに手伝って貰い、「月の匣」の二次会の受け入れ。どうやら50名程がなだれ込む。23時過ぎまで。何とも忙しい1日。

 4月26日(日)
2日酔い、昼寝など。六月号の原稿。夜、家族で焼き肉屋。娘夫婦も『うみやまあひだ』の上映挨拶など多忙な数日。地味なドキュメンタリー映画ながら、連日満員で私の券も取れない。

 4月27日(月)
堀切克洋君、パリから帰国、挨拶。10日ばかり滞在と。皆川文弘さん、いわきの図書館に盤水先生とその仲間の図書コーナーを設置する話を持ってきて下さる。朝妻力さんより電話あり。お元気そう。閑散。あと文子、いづみさんと「ふくの鳥」。

4月28日(火)
角川「俳句」鈴木編集長と連絡、30日木曜日、店に入ってもらうが、その日が退職日であると!「萩句会」選句へ。

4月29日(水)
昭和の日。「早蕨句会」吟行に招かれて9時過ぎ、真鶴半島へ。大和、次郎さん同行。30人。突端、三ツ石まで吟行。午後、駅前「福浦屋食堂」にて句会。16時30分から親睦会。鰺フライなど楽しむ。〈鰺喰はむ相模の海の駅に降り〉の色紙残す。

 4月30日(木)
銀漢6月号の原稿終了。杏さん、睫毛メイクに来宅。その間、2時間ばかり。生まれたての雅斗君を預かる。店、角川「俳句」鈴木忍編集長1日ママの日。今日で編集長退任。角川退社と。佐藤文香、麒麟ほか若手俳人多数。北大路翼、村上鞆彦(2人とも最近句集上梓)、竹内宗一郎、天野小石、阪西敦子、相沢文子、山田真砂年、今井肖子、松川洋酔、菊田一平、三輪初子、谷岡健彦……激励に。国会議員のT先生、「銀漢」5月号を読みたいと!来店してくださる。環順子さん、こごみ、山独活届けてくださる。終って「大金星」で1人位で忍さんを囲む。

5月

 5月1日(金)
「ウエッブ俳句通信86号」に近作七句送る。店「大倉句会」13人。6月、清人さんの郷里、気仙沼大島行きを約す。あすから黄金週間にて5日間休業。

 5月2日(土)
家族は奥志賀高原へスキーへ。映画『うみやまあひだ』を見たあと築地へ。海苔、昆布など。波除神社に集まり、大野田好記君誕生祝いを六人で。

 5月3日(日)
伊勢神宮の河合真如宮司と宮澤の共著『伊勢神宮の知恵』が小学館文庫に。あとがきに私の句〈伊勢やいま女神の咲かす桜かな〉を取り上げてくださる。感激!午後、「春耕同人句会」あと「炙谷」もう一軒……。

 5月4日(月
終日家。「俳壇」7月号「星座俳人」へ写真と句。「俳句」7月号、団塊俳人特集へ八句とエッセイ。夜、成城で二軒ほど飲む。

5月5日(火)
久々、母訪問。親不孝者である。94歳。14時、成城学園澤柳記念講堂落成記念コンサート。ベートーベン第9ほか。途中少し寝る。夜一家で食事会。

5月6日(水)
連休最終日。買い出し、仕込み。店の清掃。

5月7日(木)
敦子さん入店日。今日から店13年目。よく続いたものだ!松山、うさぎ、真砂年、肖子、文子、池田のりを、凌雲大阪から。「十六夜句会」あと7人。いづみさん誕生日とてシャンパン。

5月8日(金)
堀切君、パリへ戻ると、清人さんと気仙沼行きの話。植樹祭のことなど。清人さん帰って数分後、「大倉句会」の清水医師がその植樹祭の主役、牡蠣養殖で有名な畠山茂篤氏を案内して来店。すぐ清人氏を呼び戻す。宮澤の『うみやまあひだ』の映画にも出演しており、何とも奇遇!明日の叙勲で上京の由。植樹祭でお会いすることを約束。

 5月9日(土)
10時、運営委員会・13時、「銀漢本部句会」53人。神田祭の囃子が聞こえる。女性3人初参加。あと「随一望」。帰宅するとサイパンで事業展開中のたかちゃん来宅中。一緒に飲み、サイパンの状況を聞く。桃子と莉子は「氣志團」のコンサート。

5月10日(日)
2日酔い。午後、宮澤事務所の助手、五十川君、独立退社にてその送別会、10数名来宅。自由が丘のレストラン、テツ君にバーベキューの材料一式。刺身類は私。延々22時過ぎまで。ヘアメイクの中川さんも来たのでカットしてもらう。

5月11日(月)
10時過ぎ、宮澤NHKラジオのインタビュー番組。映画と写真と。店、「東大学生俳句会」の句会7人。礼奈さん幹事。句会あと袋回しなどやっている。発行所「かさゝぎ俳句勉強会」あと10人。皆川文弘、大野田さんなど。水内慶太氏より月山筍到来。

 5月12日(火)
映画『うみやまあひだ』もう一週間、22日まで上映延長と。店、台風接近ながら「火の会」8人。腹部に鈍痛あり。食欲無し。








           
△『漂白の俳人・井上井月』伊藤伊那男著
          
  
    






今月の季節の写真/花の歳時記



2015年7月28日撮影  スモークツリー     TOKYO/HACHIOJI

ふわふわの綿菓子のような木を見たことがありますか?初めて見たときはとてもビックリしたことを思い出します。このふわふわした花木は「スモークツリー」または「ケムリノキ」です。
最近はよく見かけるようになり、知っている方も多いと思います。和名を「ハグマノキ」といい、ヤクという動物の尻尾に似ている事から付いたとされます。
煙のように見えるそれは、柄なんですね。花は黄緑色で小さく、先に咲いてその後柄が伸びて花序全体を覆い、煙のように見えるのだそうです。これが名前の由来となり、「スモークツリー」、または「ケムリノキ」といわれるようになったとか。



スモークツリのリース。

花言葉     「賢」「煙に巻く」「にぎやかな家庭」「はかない青春」

写真は4~5日間隔で掲載しています。 

2015/7/28更新


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漢亭日録