銀漢の俳句
伊藤伊那男
◎私と茶道
大学時代、茶道部に入っていた。
慶應茶道会は少し変わっていて、会で作法を学ぶのではなく、各自が勝手に先生に就いて作法を習う。その前提の上で、会では茶会を運営したり、作陶をしたり、茶道史を学んだりした。先輩には後に江戸千家を継いだ川上兄弟や、多分今財界で一番の茶人のG氏などがいた。G氏は三千家の一つの武者小路家のお嬢さんを娶った。もともと慶應の先輩茶人には電力王の松永安左衛門(耳庵)や三井の大番頭 益田孝(鈍翁)がいて、その道具も身近に使うことができた。十一月三日は根津美術館の全席を使って茶会を開いた。有力な道具屋の先輩もいたので学生には勿体無い道具が出た。たまたま手許に残っている会記を見ると、利休の消息(手紙)、光悦の色紙、遠州の軸、織部の消息、仁清の水指などが記してある。或る年の会の折、利休手製の茶杓が出た。ところがその茶杓を誰かが踏んで罅を入れてしまったというのである。先輩達が茶室に籠って出て来なかった記憶がある。どのような始末を付けたのであろうか……。
私は先輩に連れられて青山の表千家の先生の所へ通った。さすがに青山であるから綺麗な女性の生徒が多かった。ミニスカートの時代であるから、目の前の膝頭を見ながら「お道具拝見します」などと言っていたが、その内にお手前をする女性は踝まである前掛けをするようになった。私達の視線への先生の配慮のようであった。他の理由もあったのだが足が遠のくようになり、下宿の近くの田園調布の裏千家の先生の稽古場へ移った。下から三つ位の免状を貰ったが、私は左利きのまま育ってしまったので、茶筅を持っても細かな泡が立てられない。炭手前に到っては火箸がうまく操れないという致命的な支障があり、四年間で稽古は止めた。
卒業して赴任した野村證券京都支店には茶室があり、藪内流の宗匠の妹さんが教えに来ていた。私の運転で奈良の赤膚焼の窯元へ御一緒したのも懐かしい。四年間だけではあるが茶道を囓ったことはその後の人生でも随分役に立ったように思う。私は作陶班にいたので、あちこちの窯元を歩いたし、茶道の歴史や茶室や茶庭の設えなども学んだので、人よりも一歩立ち入った話ができる。だが一番役に立ったのは茶道の手前の、一つの無駄も無い合理的な動作であろうか。それは仕事の手順に繋がっているのである。また「一期一会」の思いで人に接するという心構えである。句会もまさにそうである。
利休忌の白一徹の障子かな 伊那男
|





彗星集作品抄
伊藤伊那男・選
田楽の串太々と伊賀の国 中島 凌雲
さざ波のいにしへゆかし人丸忌 中山 桐里
霾や水城のそなへ杳として 橋野 幸彦
羽化を待つ乙女の食める春キャベツ 橋野 幸彦
火の記憶あるかに立てり牡丹の芽 飛鳥 蘭
夜桜の途切れ濁世に戻り行く 川島 紬
涅槃会の猫派のわれは末席に 中村 孝哲
縁に沿ふ畳廊下や雛の間 鈴木てる緒
売られゆく牛の背に降る桜蕊 伊藤 庄平
鍋敷の両面に焦げ三月尽 白井 飛露
日輪に溶け込んでゆく揚雲雀 伊藤 政
発条の緩み玩具の目借時 白井八十八
古書店の二冊百円黄砂降る 箕浦甫佐子
尾道の坂との別れ卒業す 清水佳壽美
鳥獣戯画抜け出したるか百千鳥 塚本 一夫
沖隠す海の気あらし実朝忌 唐沢 静男
山焼くや大きな灸を据うるかに 戸矢 一斗
干し網に残る鱗や春寒し 三代川次郎
み仏の甘茶の海へ立ち給ふ 武田 花果
蝌蚪の紐こんがらがりし縒り戻す 尼崎 沙羅





伊藤伊那男・選
今回はお休み致します。


|


銀河集作品抄
伊藤伊那男・選
神の田の注連張り直す穀雨かな 東京 飯田眞理子
花きぶし風にゆるびの天城越え 静岡 唐沢 静男
虚子忌けふ虚子山脈と人のいふ 群馬 柴山つぐ子
蓬摘む片手満たせば籠に入れ 東京 杉阪 大和
旅愁とも京の塔消す霾晦 東京 武田 花果
両神山の雪の名残りも灌仏会 東京 武田 禪次
春火鉢火の有るやうな無ひやうな 埼玉 多田 美記
手の届く段に女雛を置きたがる 東京 谷岡 健彦
春しぐれ百済観音とふ静寂 神奈川 谷口いづみ
わが代で絶ゆる本家や鳥雲に 長野 萩原 空木
雲雀野を歩めば喉の奥渇く 東京 堀切 克洋
国分寺国分尼寺や草青む 東京 三代川次郎







伊藤伊那男・選
夜は夜の色を見せたるさくらかな 東京 飛鳥 蘭
野仏の陽炎の中溶け込めり 東京 有澤 志峯
オリーブの木々春風と睦まじく 神奈川 有賀 理
雨予報最後の桜かも知れぬ 東京 飯田 子貢
永き日や落日浴ぶる鉄亜鈴 山形 生田 武
こそげたる鱗の微光春寒し 埼玉 池田 桐人
春満月金のしづくのこぼれさう 東京 市川 蘆舟
たてがみを東風に梳きゐる岬馬 埼玉 伊藤 庄平
春雨といへど湖北は侮れず 東京 伊藤 政
大輪の闇を震はす落椿 神奈川 伊東 岬
雲梯を摑む春雲を摑むかに 東京 今井 麦
謡ひ終へうしろ手に引く春障子 埼玉 今村 昌史
弥陀仏の膝を明るく春障子 東京 上田 裕
九九もまた数へ歌なり暮れかぬる 東京 宇志やまと
古墳よりながむる古墳青き踏む 埼玉 大澤 静子
藤房の百花それぞれ震へけり 神奈川 大田 勝行
ただそよぐてふ安らぎに竹の秋 東京 大沼まり子
飛花落花見ざるの猿はやや薄目 神奈川 大野 里詩
苗木植う糺の森の臍あたり 埼玉 大野田井蛙
彼岸会や父母の墓やがて吾の 東京 大溝 妙子
むず痒き鼻を抓みぬ四月馬鹿 東京 大山かげもと
ヒヤシンス水替ふるたび根の密に 東京 岡城ひとみ
鷹鳩と化しきらめきの胸を張る 愛知 荻野ゆ佑子
雁風呂に沈むとき羽ばたきの音 宮城 小田島 渚
三月十一日
松毬のふたつみつ降り震災忌 宮城 小野寺一砂
前足に蹴らるる板戸厩出し 埼玉 小野寺清人
時ならぬ時化に潮待ち雛の舟 和歌山 笠原 祐子
つちふると言ひて重たき瞼かな 東京 梶山かおり
春光や石庭の波そろひをり 愛媛 片山 一行
切り口の青味帯びたる初鰹 東京 桂 説子
陽を溜むる城の石垣おそざくら 静岡 金井 硯児
舟運の途絶えし町や花の雨 東京 我部 敬子
乾草のロール転がる牧開き 東京 川島秋葉男
絹の道終着点へ胡沙来る 千葉 川島 紬
夫々に道具持ち寄る筍掘り 神奈川 河村 啓
親鳥の木肌を走る森深し 愛知 北浦 正弘
生命線延びたるここち春の虹 東京 北川 京子
別れ霜昴の玻璃に見えにけり 長野 北澤 一伯
蜂蜜の沈みし紅茶春深し 東京 絹田 稜
桜湯の咲ききらぬまま沈みをり 東京 柊原 洋征
門柱に表札の跡鳥曇 東京 朽木 直
なかんづく奈良三条の蓬餅 東京 畔柳 海村
便ひとつ遅らせてゐる日永かな 東京 小泉 良子
神仏にすがりし果の薬喰 神奈川 こしだまほ
雲雀野や対岸に沸く草野球 東京 小林 美樹
重たげな女形の睫毛目借時 千葉 小森みゆき
目隠しをまたさせらるる雛かな 東京 小山 蓮子
豆腐屋も風呂屋なき町燕来る 宮城 齊藤 克之
四月馬鹿畳の縁につまづきて 青森 榊 せい子
砲弾のやうなおにぎり野に遊ぶ 長崎 坂口 晴子
井月の筆の荒びか飛花落花 長野 坂下 昭
粥吹いて夫に貰ひし春の風邪 群馬 佐藤 栄子
浅間嶺の畑黒々と穀雨かな 群馬 佐藤かずえ
ふらここや漕げば昔の我に会ふ 長野 三溝 恵子
国分寺跡を眼下に鳥帰る 東京 島 織布
山並に御目を遠く御開帳 東京 島谷 高水
叡山の風乗りこなす初燕 兵庫 清水佳壽美
擦れ違ふときの良き香や春袷 東京 清水 史恵
目借時重き頭を支へかね 東京 清水美保子
武蔵野の名残の森に雉鳴けり 埼玉 志村 昌
花茣蓙に一升瓶の三周目 千葉 白井 飛露
魞挿しや舳先に揺れる比良の山 神奈川 白井八十八
英霊のえんぴつの文養花天 東京 白濱 武子
公園は平和の台地さへづれり 東京 新谷 房子
坂上がるたびに近づく花の雲 大阪 末永理恵子
春の泥罅割れすぐに始まりぬ 岐阜 鈴木 春水
行き帰りお茶を掛けたる花御堂 東京 鈴木 淳子
みづうみに影絵となりぬ蜆舟 東京 鈴木てる緒
霾ぐもり一日ぼんやり過ごしけり 群馬 鈴木踏青子
母の問ふ庭の物芽の次々と 東京 角 佐穂子
春潮の満つる柱状節理かな 東京 関根 正義
掌に蒲公英の絮捕まらず 千葉 園部あづき
面舵にうねる黒潮春怒濤 埼玉 園部 恵夏
実直で打たれ強くて紙風船 神奈川 曽谷 晴子
恋猫の爪痕あらは丸木橋 長野 髙橋 初風
春風や帆柱高き日本丸 東京 高橋 透水
この椀も四半世紀に蜆汁 東京 武井まゆみ
自分史の空白亀の鳴きにけり 東京 竹内 洋平
唐臼の音や陶器の里は春 東京 竹花美代惠
北窓開く心の憂さの晴れぬまま 神奈川 田嶋 壺中
宍道湖の入り日まぶたに蜆汁 東京 多田 悦子
したたむるインクの掠れ夜半の春 東京 立崎ひかり
雨よ来よ空に願ひの田打かな 東京 田中 敬子
春の闇絶対秘仏といふ秘仏 東京 田家 正好
紀ノ川と名を変へてより春の水 東京 塚本 一夫
囀に明けて目覚めの佳き一日 東京 辻 隆夫
雁風呂や残されし声聞くやうに ムンバイ 辻本 芙紗
玉砂利に足を取らるる花疲れ 東京 辻本 理恵
涅槃西風志功菩薩のふくよかさ 愛知 津田 卓
翼拡げ飛ぶふりばかり残る鴨 東京 坪井 研治
錘めく根もとを立たせ植木市 埼玉 戸矢 一斗
囀や言霊宿す森の樹々 千葉 長井 哲
うららかや犬は尻尾で返事をし 東京 中込 精二
大声のわりに揃はぬ卒園歌 大阪 中島 凌雲
石鹼玉弾ける前の色淡し 東京 中野 智子
人間を草臥れてゐる四月馬鹿 東京 中村 孝哲
逃水をコンテナ船に積む埠頭 茨城 中村 湖童
男あり墨田の流れ暮れかぬる 埼玉 中村 宗男
別れ雪くもる車窓に指のあと 東京 中村 藍人
春水や伊那の七谷梳る 長野 中山 中
去年買ひし木の話など苗木市 千葉 中山 桐里
宇治といふ名を有り難く一番茶 大阪 西田 鏡子
秩父路の花撒くわらべ花祭 埼玉 萩原 陽里
瀬田の橋いくたび落つや蜆汁 東京 橋野 幸彦
愛憎に濃淡のあり紅椿 広島 長谷川明子
風光る一音濁る古ピアノ 東京 長谷川千何子
深吉野の菱餅届く物日かな 兵庫 播广 義春
竜天に水占みくじ吉と出し 埼玉 半田けい子
とりあへずそこまで歩く日永かな 埼玉 深津 博
磯開き先づ触れてみる忘れ潮 東京 福永 新祇
待つ事も茶の湯の教へ利休の忌 東京 福原 紅
上げ潮に流れの変る花筏 東京 星野 淑子
蛇穴を出てひしひしと娑婆の風 岐阜 堀江 美州
ふと旅に発てるしあはせ雲雀東風 埼玉 本庄 康代
喉奥に花見団子の蓬の香 東京 松浦 宗克
おみくじの百の抽斗養花天 東京 松代 展枝
泥濘を跨ぎ損ねし花疲 神奈川 三井 康有
雁風呂の由来教はる長湯かな 神奈川 宮本起代子
花万朶交はす言の葉和らぎて 東京 村田 郁子
牛乳の甘き被膜や春の宵 東京 村田 重子
玉子焼の香に包まれてゐる朝寝 東京 森 羽久衣
手びねりの小皿の歪み花菜漬 千葉 森崎 森平
鷹鳩と化して行水日和かな 埼玉 森濱 直之
鳥の巣のそんな所といふ位置に 長野 守屋 明
近寄れど諍ひのなき蜷の道 東京 矢野 安美
ふらここに満ち来る浮力持て余す 愛知 山口 輝久
浅間嶺の薄き噴煙青き踏む 群馬 山﨑ちづ子
国引のあはひの海や蜆汁 東京 山下 美佐
喧嘩する友達できて豆の花 東京 山田 茜
近江路を行けば惜春おのづから 東京 山元 正規
蜃気楼もう出る頃や父母訪はな 東京 渡辺 花穂







銀河集・綺羅星今月の秀句
伊藤伊那男・選
今回はお休み致します。






伊藤伊那男・選
秀逸
いささかの撓みを枝へ牡丹雪 東京 久保園和美
白魚に白魚らしき骨のあり 広島 小原三千代
耳順にも蹉跌ありけり霾ぐもり 神奈川 日山 典子
亀鳴くや半信半疑の己が齢 栃木 たなかまさこ
牛の尻に打つ柏手や牧開 東京 伊藤 真紀
芽柳の長きに結ぶ御籤かな 千葉 平山 凛語
春の雪伝言のない伝言板 千葉 針田 達行
百千鳥森の呼吸も弾みけり 東京 田中 真美
晩年の今日の命や桜咲く 静岡 橋本 光子
髪よりも高く靡いて春ショール 東京 北原美枝子
欠伸のたび涙を拭ふ日永かな 長野 藤井 法子
夜桜の吸引力に遠回り 愛知 黒岩 宏行
遠き日や町に雛市ありし頃 埼玉 梅沢 幸子
父母の鴨居に在はす彼岸餅 広島 井上 幸三
辻風に連獅子のごと雪柳 東京 石床 誠

星雲集作品抄
伊藤伊那男・選
春耕や石に躓く鍬の音 東京 尼崎 沙羅
空海の心は東寺涅槃西風 東京 井川 敏
国盗りの美濃の山河や霾れり 長野 池内とほる
霾晦武蔵の国を鈍色に 東京 一政 輪太
村一つ杏の花に浮かびけり 長野 上野 三歩
花冷えや湯壺に続く長廊下 東京 上村健太郎
来年もまた送りたし行く春を 長野 浦野 洋一
海市の揺らぎに似たる眩暈かな 静岡 大槻 望
足場架く鳶の早わざ春疾風 東京 岡田 久男
頼朝の腰掛石や桃の花 静岡 小野 無道
桜咲く歳々欠ける知己の笑み 群馬 小野田静江
余熱吐く窯出しの口百千鳥 埼玉 加藤 且之
曇天に色増してをり老桜 長野 唐沢 冬朱
制服の少し大きめ春深し 東京 軽石 弾
上野へと夜行列車や鳥雲に 愛知 河畑 達雄
甦る珠洲の酒蔵木の芽時 石川 北出 靖彦
玄関に花片先に帰りけり 東京 熊木 光代
満開の肩ぶつけ合ふ桜かな 群馬 黒岩あやめ
雪解水太平洋へ長の旅 群馬 黒岩伊知朗
清明やまはり念仏唱へけり 群馬 黒岩 清子
花茣蓙の酔客諭す酔客が 東京 髙坂小太郎
春驟雨コーヒー店の一騒ぎ 神奈川 阪井 忠太
春愉し足湯の後の歩幅かな 長野 桜井美津江
盃を溢るる酒や初鰹 東京 佐々木終吉
雪解水溢れる想ひ流さるる 群馬 佐藤さゆり
二の腕へ風まつはりぬ夜半の春 東京 島谷 操
ひこばえの森にはためく大漁旗 東京 清水 旭峰
夕飯の仕度の頃か町朧 千葉 清水 礼子
春暁や飛脚の如く出勤す 群馬 白石 欽二
炭焼きの跡残りをり山笑ふ 東京 須﨑 武雄
故郷の列車離れぬ朧月 愛知 住山 春人
お岩木の上へ上へと花林檎 埼玉 其田 鯉宏
絶景に涙目となる遍路道 東京 田岡美也子
海女の小屋漁獲比べの姦しき 東京 髙城 愉楽
多情とはすなはち無情春時雨 東京 寳田 俳爺
水琴窟癒しの音や春動く 埼玉 武井 康弘
ま待人に仄と移り香沈丁花 埼玉 内藤 明
ゆく春や辻に双体道祖神 群馬 中島みつる
若楓翼果並べて風を待つ 神奈川 長濱 泰子
豆飯や故郷の匂ひ深く吸ふ 京都 仁井田麻利子
種糸に結ぶ三陸若布の芽 東京 西 照雄
方言のとびかふ門や卒業子 宮城 西岡 博子
逃水やあやふやな恋笑ふかに 東京 西田有希子
田起しの音とぎれなく暮れ泥む 神奈川 西本 萌
野遊や園児の点呼あやふやに 東京 橋本 泰
蕗の薹天ぷらとなり客を待つ 神奈川 花上 佐都
魚のつく漢字あまたや鰆焼く 長野 馬場みち子
仁王門は額縁なりし朝桜 千葉 平野 梗華
春耕や牛糞臭き野良着脱ぐ 栃木 星乃 呟
富士の山見上ぐる松の緑かな 東京 幕内美智子
新社員まづはお辞儀の角度から 東京 松井はつ子
雨戸引く沈丁の香を身の内に 埼玉 水野 加代
竜宮は浦島の夢蜃気楼 愛知 箕浦甫佐子
万葉歌碑ここだかなしき糸桜 東京 宮下 研児
鉢の下よりものの芽の出づるかな 東京 無聞 益
五百羅漢思ひ思ひの春の顔 宮城 村上セイ子
若夏の海に御霊の眠りをり 東京 家治 祥夫
柳絮舞ふ祇園白川咽びつつ 神奈川 山田 丹晴
飛び石を探して渡る春の川 静岡 山室 樹一
杯に映ゆる桜の宴かな 群馬 横沢 宇内
花三分酒が七分を許すべし 神奈川 横地 三旦
初つばめまだかと覗く橋の下 神奈川 横山 渓泉
魚河岸の定食海胆の棘動く 千葉 吉田 正克
都電より面影橋の花見かな 東京 若林 若干
船星や本文のなき物語 東京 渡辺 広佐
|