銀漢の俳句
伊藤伊那男
今、熱海にいる。
伊豆半島にはこれまで何回来たのであろうか。半世紀ほど前、私が20代の頃の熱海は団体旅行客で沸き立っていた。社内旅行で来たが、ホテルの広大な浴場の天井からゴンドラが下りてきて、数人のヌードダンサーが踊る趣向には驚いたものだ。
皆川盤水先生を囲む一泊吟行会に初めて参加したのは伊東だった。40歳位であったか、緊張して一碧湖の近くの宿に入った。〈鰺鮓や乗り継いでゆく伊豆の旅〉の句にそこそこの点が入り、先生から「私も同じような句を作ったが伊那男さんの句の方がいいね」などと褒められて舞い上がった。豚も褒めれば木に登る、である。
40代半ばの頃、唐沢静男君と伊豆の脊梁、天城山(万二郎岳)・万三郎岳を縦走したことも懐かしい。帰路、大室山の裾を通ったので「登ろう」と、神社の裏から一直線に駆け登った。後から登山禁止の山であることを知った。その夜は半島の先端、小稲の釣宿に泊まった。魚も酒も旨く、飯櫃を3回ほどお替りをして宿の人と唐沢君を驚かせた。健脚であり、また健啖であり、また無謀でもあった。夜、港を散策していると突堤の壁を伊勢海老が攀じ登ろうとしている。唐沢君が「蛸に追われているのだ」と言う。夜も海の中では熾烈な戦いが繰り広げられていることを知った。
癌になった妻が伊豆の断食道場に行くというので、武田禪次さんに手配して貰って同行した。人参林檎ジュースと生姜紅茶で数日を過ごすのである。魚の宝庫の伊豆に来てこれは酷なことである。たまたま元総理大臣の細川護煕氏が来ていたが、終日読書に没頭している姿には凜然とした品格があった。
唐沢君は釣りの趣味が昂じて伊豆の網代を終の地と定めて居を移した。この56、年は春に訪ねるのが私の恒例行事である。洋子夫人も伊那の人なので郷里に帰ったような安らぎを覚える。今年は自然に死後の話などになった。私は青山の墓を閉じて、妻のお骨ともども京都東山の大谷祖廟に合葬して貰うよう娘達に言い残している。唐沢君は伊豆の海に散骨して貰うという。唐沢君とは途中で途切れた時期があるものの、高校時代からの付き合いであるが、いよいよそんな話をする年齢になったのだな、と感慨が深い。今年は2月末に訪ねたあと、熱海伊豆山の眼下に海を見る宿で潮騒を聞いて二日ほど過ごした。すっかり気に入って、四月下旬の今、また同じ宿に泊まって潮騒を聞いている。
散骨の話など出て夕長し 伊那男
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彗星集作品抄
伊藤伊那男・選
白樺の傷あたらしき晩夏かな 小野寺清人
直角のものしか置かぬ夏座敷 塚本 一夫
相槌の間に間に痩せる氷菓かな 中島 凌雲
二上山を転げ落ちしかはたた神 西田 鏡子
薪積み終へしみちのく盛夏かな 武田 花果
落し文神籤のごとく開きけり 西田 鏡子
川風に紛るる祗園囃子かな こしだまほ
魂を呼び込む音色貝風鈴 島 織布
かうもりの飴色に飛ぶ日暮かな 片山 一行
似て非なる姉妹の話心太 松代 展枝
祗園暑し舞妓は欠伸噛み殺し 山口 輝久
絵日記のための大きな西瓜買ふ 坂口 晴子
灯に焦がれ溺るることも火取虫 岡城ひとみ
夾竹桃燃やし続ける平和の灯 末永理恵子
白玉や丸め上手は聞き上手 武井まゆみ
百幾代いまも滴る鵜戸神宮 今村 昌史
萍や世に浮くものと沈むもの 笠原 祐子
香水の一滴恋の大海へ 高橋 透水
胸をはる布留の社の羽抜鳥 山下 美佐
神鶏の枝より降りず油照り 松代 展枝






伊藤伊那男・選
今回はお休みします。

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銀河集作品抄
伊藤伊那男・選
岬鼻に放つ黒牛大南風 東京 飯田眞理子
夜盗虫狼藉尽くし昼を寝る 静岡 唐沢 静男
盤水にメロンの句あり楽しさう 群馬 柴山つぐ子
羅に隠せぬ喜怒の息づかひ 東京 杉阪 大和
白南風を先達として多賀城趾 東京 武田 花果
入道雲覗き込みゐる遠野郷 東京 武田 禪次
梅漬くや重石に雨の音かさね 埼玉 多田 美記
草笛で吹く故郷のみな違ふ 東京 谷岡 健彦
川風といふ馳走あり鱧の皮 神奈川 谷口いづみ
夏の湖樺の影を余さずに 長野 萩原 空木
それぞれの卓に薔薇あり純喫茶 東京 堀切 克洋
ささくれの脚に触れたる竹婦人 東京 三代川次郎






伊藤伊那男・選
桜桃忌写真の父は斜に構へ 東京 飛鳥 蘭
激走のごとく脚出す百足虫かな 東京 有澤 志峯
柄の反りし手押しポンプや冷し瓜 神奈川 有賀 理
風鈴や親しき風を待ちゐたる 東京 飯田 子貢
逆上がりの影は回らず油蟬 山形 生田 武
岩を見て水の匂に鮎を釣る 東京 市川 蘆舟
余生にも紅を添へたく金魚飼ふ 埼玉 伊藤 庄平
故郷は海霧の向かうと指差され 東京 伊藤 政
枇杷剝けば種の転がる阿弥陀堂 神奈川 伊東 岬
九尾狐の群とも見ゆる栗の花 東京 今井 麦
火の島を蹴飛ばし子らは遠泳へ 埼玉 今村 昌史
晩夏光白樺の森透き通り 東京 上田 裕
釣糸の伸びて太平洋の夏 東京 宇志やまと
古茶淹れていつより似た者同士なる 埼玉 大澤 静子
恐竜の胸骨の中夏休み 神奈川 大田 勝行
かたつむり銀河の渦をせなに負ふ 東京 大沼まり子
蛍火の打ち合ふ音のしたやうな 神奈川 大野 里詩
山の子の海は湖夏旺ん 埼玉 大野田井蛙
黒南風やドブ板通り吹き抜ける 東京 大溝 妙子
風涼し昼夜を取り違へたる目覚め 東京 大山かげもと
羽抜鶏あはれ鶏冠のくれなゐも 東京 岡城ひとみ
麻服の皺の深さを嘆きけり 愛知 荻野ゆ佑子
父が来るいつも白玉浮くころに 宮城 小田島 渚
海鳥の墓処いづこに雲の峰 宮城 小野寺一砂
大川の風を浴衣の両袖に 埼玉 小野寺清人
島住まひ烏賊火を四方に灯を落とす 和歌山 笠原 祐子
衣更へて隠しきれざる病かな 東京 梶山かおり
丸き背を丸めて植田ととのへり 愛媛 片山 一行
白玉や寺町通りの突き当たり 東京 桂 説子
守宮ゐてどこか安堵の厨かな 静岡 金井 硯児
風にのる水の匂や鬼灯市 東京 我部 敬子
蠅帳のどこか一辺浮き気味に 東京 川島秋葉男
乙女らの原色多きかき氷 千葉 川島 紬
冷酒や戦話の途切れがち 神奈川 河村 啓
海鳥の見え隠るるや土用波 愛知 北浦 正弘
ぽつかりと空いた時間や青胡桃 東京 北川 京子
青杉の戸隠山の滴れり 長野 北澤 一伯
梅雨深し買ひ置き切れし乾電池 東京 絹田 稜
蛞蝓のかくも無防備なる構へ 東京 柊原 洋征
広島のこの日おほかた蟬の声 東京 朽木 直
風鈴の南部の風を連れて来し 東京 畔柳 海村
横顔のさびしく暮るる羽抜鳥 東京 小泉 良子
田植機の月に降り立つやうにかな 神奈川 こしだまほ
キャンプの火見詰める先の己が闇 東京 小林 美樹
小社に見上ぐるほどの茅の輪かな 千葉 小森みゆき
羽抜鶏農家の昼はどこも留守 東京 小山 蓮子
「蒙」来ると祖母に手引かれ蚊帳の中 宮城 齊藤 克之
湯の町の風の網戸や旅一夜 青森 榊 せい子
羽抜鶏つまづきさうで躓かず 長崎 坂口 晴子
木曽馬の腹をくすぐる夏野かな 長野 坂下 昭
剝製の猪や狸や登山宿 群馬 佐藤 栄子
十薬の匂親しく刈るほどに 群馬 佐藤かずえ
酢の香立つ板の間を踏む素足かな 長野 三溝 恵子
連れ出しぬ四万六千日の杖 東京 島 織布
やや浅き信心四万六千日 東京 島谷 高水
風鈴の音に休めぬ風一日 兵庫 清水佳壽美
日覆の深きに売りぬ陀羅尼助 東京 清水 史恵
蓮の葉に型を違へし雨の粒 東京 清水美保子
白南風や知覧の文は拾七歳 埼玉 志村 昌
梅雨晴間イギリスパンに山ふたつ 千葉 白井 飛露
出女や箱根の関のサングラス 神奈川 白井八十八
ちと深めにしてくれないか泥鰌鍋 東京 白濱 武子
掌に枇杷の滴を受けて食ぶ 東京 新谷 房子
百日紅落ちて水面の空揺らす 大阪 末永理恵子
毎年よ金魚掬ひのゐる場所は 岐阜 鈴木 春水
青簾屋根つたひ来る猫の客 東京 鈴木 淳子
早苗田のまだ触れ合はぬ丈であり 東京 鈴木てる緒
蛇苺蛇飲みたるか見えずなる 群馬 鈴木踏青子
高層や重ね町音アイスティ 東京 角 佐穂子
馬鈴薯の花や暮色の迫る村 東京 関根 正義
木下闇アリスの茶会ありさうな 千葉 園部あづき
焦げ臭き飯盒飯や星涼し 埼玉 園部 恵夏
切れさうで切れぬ縁や心太 神奈川 曽谷 晴子
背伸びして今日の始まる立葵 長野 髙橋 初風
鍵盤の黄ばみのままに夏館 東京 高橋 透水
ふんだんに夏雲を容れ浄土池 東京 武井まゆみ
父の日に訊く父の日の過ごし方 東京 竹内 洋平
夏蝶の渡りゆくてふ海光る 東京 竹花美代惠
歩むさま橋掛りめく羽抜鶏 東京 多田 悦子
振袖の舞を見るかに菖蒲園 東京 田中 敬子
山鳩の啼く声しきり朝曇 東京 田家 正好
黒揚羽飛び立つ影の遅れがち 東京 塚本 一夫
海霧深し修司語りし日々遠く 東京 辻 隆夫
キャンプの灯夜の訪れの足早に ムンバイ 辻本 芙紗
踏跡に定家葛のまた散りぬ 東京 辻本 理恵
霊木に蜘蛛の囲を張る大社かな 愛知 津田 卓
甚平やされどわれらが脛の傷 東京 坪井 研治
横にして刻む墓石日の盛 埼玉 戸矢 一斗
灯り消す籠の蛍を外に放ち 千葉 長井 哲
隅々に祝詞涼しき地鎮祭 東京 中込 精二
夜濯や吸ひ込まれたる愚痴一つ 大阪 中島 凌雲
空豆の加減よき店よき夕べ 茨城 中村 湖童
植田澄む苗のあはひの風の形 埼玉 中村 宗男
水折れて折れて滝壺飛沫きけり 東京 中村 藍人
竹の皮脱ぐ陣羽織脱ぐやうに 長野 中山 中
黒文字に軽き弾力葛桜 千葉 中山 桐里
皇子に咲く二上山の桐の花 大阪 西田 鏡子
かりそめの自由を得たり囮鮎 埼玉 萩原 陽里
序の舞と呼ぶには猛し火取虫 東京 橋野 幸彦
尾を跳ねる力余りて蛇の衣 広島 長谷川明子
埒もなき言の葉交はし夕端居 東京 長谷川千何子
廃れては興る祭を曳く童子 兵庫 播广 義春
観音の後光に消ゆる夏の蝶 埼玉 半田けい子
呼び鈴の遠くで鳴りて夏館 埼玉 深津 博
夏燕かかりつけ医の軒を借り 東京 福原 紅
夏祓町の外れの灯を囲む 東京 星野 淑子
合戦の重ねられし地植田澄む 岐阜 堀江 美州
縄となり鋼となりて蛇すすむ 埼玉 本庄 康代
日焼の子走る形に眠りをり 東京 松代 展枝
鉾立や京の通りにゆるぎなし 神奈川 三井 康有
父の夢見る父の日を過ぎてより 東京 村田 重子
束の間のソフトクリームてふかたち 東京 森 羽久衣
川沿ひの外湯七つや宿浴衣 千葉 森崎 森平
白南風に鬣梳きぬ岬馬 埼玉 森濱 直之
でで虫の全速力の身の長さ 長野 守屋 明
つつましき生活を訪へば花南瓜 東京 矢野 安美
名古屋場所暑し緩めの大銀杏 愛知 山口 輝久
高らかに祝詞は沖へ海開 群馬 山﨑ちづ子
葉隠れに色を重ぬる実梅かな 東京 山下 美佐
砂城を一気に崩す土用波 東京 山田 茜
打水や机ひとつの駐在所 東京 山元 正規
潮の香の匂ふ茅の輪をくぐりけり 愛媛 脇 行雲
みほとけの御手を借りたる蜘蛛の糸 東京 渡辺 花穂







銀河集・綺羅星今月の秀句
伊藤伊那男・選
今回はお休みします。






伊藤伊那男・選
秀逸
いつになく大き眼や羽抜鳥 東京 島谷 操
結願の口を漱ぐや濃あぢさゐ 埼玉 水野 加代
梔子の香り重たく日の昏るる 広島 小原三千代
噴水の止んで造作明らかに 神奈川 山田 丹晴
慣れるまで片足は地にハンモック 東京 幕内美智子
短冊を変へて風鈴賑やかに 埼玉 内藤 明
銀化せる鏡の月日半夏雨 栃木 たなかまさこ
奉納の謡や佐渡の蟬時雨 東京 伊藤 真紀
ででむしの来しは一筋光る道 愛知 住山 春人
胎内に身を置くやうにキャンプの夜 東京 北原美枝子
奥利根の源は雲鮎育つ 東京 上村健太郎
桑の実や野に還りたる桑畑 長野 池内とほる
夏館シフォンケーキのごときパリ 東京 髙坂小太郎
時の日も時刻まちまち時計店 愛知 黒岩 宏行


星雲集作品抄
伊藤伊那男・選
父の日や丸テーブルに上座なし 東京 尼崎 沙羅
青簾揺らして過ぐる雨意の風 東京 井川 敏
夏草や残念石は動かざる 東京 石床 誠
武蔵野の滴り集め桜桃忌 東京 一政 輪太
黎明や善し朝顔の苗植ゑな 広島 井上 幸三
青蔦の青さの守る町工場 長野 上野 三歩
住み慣れて好きな裏道額の花 埼玉 梅沢 幸子
夕凪に恐れたぢろぐ鞆の浦 長野 浦野 洋一
友逝きて握るこぶしや夾竹桃 静岡 大槻 望
墓の道唱へるごとき蟬時雨 静岡 小野 無道
烈日の深き叢青桔梗 群馬 小野田静江
若きらの汗の臭ひの文化祭 長野 唐沢 冬朱
時の日やいつも遅れる腕時計 東京 軽石 弾
遠くでもおほき泰山木の花 愛知 河畑 達雄
飛石を踏めば這ひ出る小蟹かな 東京 久保園和美
葭切の飛び立つ勢湖賊かと 東京 熊木 光代
見渡せば玉菜いつせい本気だす 群馬 黒岩あやめ
田植歌今は昔の昭和かな 群馬 黒岩伊知朗
不規則の雨垂れの音心太 群馬 黒岩 清子
この杖は最後の宝昼寝覚め 神奈川 阪井 忠太
先人の思ひ守らん水喧嘩 長野 桜井美津江
青田波涅槃像めく遠浅間 東京 佐々木終吉
真夏日は殊にあいさつ軽やかに 東京 清水 旭峰
窓辺より見遣る日傘よめげず行け 千葉 清水 礼子
雲取は無言なりけり御来迎 群馬 白石 欽二
入梅のかげりにたちぬ伎芸天 大阪 杉島 久江
叢雲を風追ひかけて山帽子 東京 須﨑 武雄
炎暑かな朝から猛犬のごとく 東京 鈴木 野来
鎮守社を清めて囲む麦茶かな 埼玉 其田 鯉宏
かくれんぼの鬼を見逃す木下闇 東京 田岡美也子
夕涼や湯屋の座敷のひと眠り 東京 髙城 愉楽
夏草や荷風の庭の竹箒 東京 寳田 俳爺
貸浴衣京都の路地を覗きけり 埼玉 武井 康弘
足裏に夏を吸ひ込み浜の砂 東京 田中 真美
植ゑ上げて天仰ぎ見る田植かな 広島 藤堂 暢子
郭公と朝の静寂を分かちけり 群馬 中島みつる
夏霧に波音のみの海沈む 神奈川 長濱 泰子
ふるさとにつづく線路や青田波 京都 仁井田麻利子
海原に火照りの残る夜釣舟 東京 西 照雄
コーラスの心ひとつに夏至に入る 宮城 西岡 博子
輪になりて瞳にともるキャンプの火 東京 西田有希子
忽然と虹立つ空の広さかな 神奈川 西本 萌
お囃しの日毎整ふ夏祭 静岡 橋本 光子
影あらば一人にあらず簾越し 東京 橋本 泰
梅雨激し香典袋買ひ増す日 神奈川 花上 佐都
魂を空にあづけん大夏野 長野 馬場みち子
語るなかれ湯殿の山の老鶯よ 千葉 針田 達行
青蔦に風からませる喫茶店 神奈川 日山 典子
捕虫網まつしぐらにゆく真昼かな 千葉 平野 梗華
落ちてなほもの言ひ顔の夏椿 千葉 平山 凛語
涼しさやいよよ好きなるこの信濃 長野 藤井 法子
雨乞も積乱雲は肩透かし 栃木 星乃 呟
水平線重ねて透かすソーダ水 東京 松井はつ子
冷房のいさゝか強き純喫茶 東京 南出 謙吾
母となり妻の手やさし天瓜粉 愛知 箕浦甫佐子
通りやんせ凌霄径に散り敷ける 東京 宮下 研児
奥州の百文の山滴りぬ 宮城 村上セイ子
読経のくぐもる今日の暑さかな 東京 家治 祥夫
年に一度あいさつ交はす溝浚へ 静岡 山室 樹一
縁日の袖がふれ合ふ浴衣かな 群馬 横沢 宇内
水羊羹切る一口の正方形 神奈川 横山 渓泉
滴りの鳥居千本潜り抜く 千葉 吉田 正克
夜のしじまそれを破るは牛蛙 東京 若林 若干
ぼんやりと不安あるらし羽抜鶏 東京 渡辺 広佐






星雲集 今月の秀句
伊藤伊那男
今回はお休みします。





伊那男俳句 その10(令和7年10月号)
麦酒つぐ水平線の高さまで
軽薄であったことは認めた上だが、バブル期を中心にバリ島、ハワイ、グアム、フィリピン、沖縄などの海で遊んだ。ホテルやコテージのテラスから海を見ながら酒を注ぎ合う。グラスの喫水線と水平線が重なったりするのが楽しい。句にはそんな様子を詠み込んだつもりである。東京近郊でいうと江ノ島の奥津宮の先を過ぎて稚児ヶ淵へ降りる手前の左側の数軒の磯茶屋の海に張り出したテラス席が好きである。前面に相模灘が広がり、近くを鳶が舞い、眼下に波が砕ける。山国育ちの私はほとんど水泳の訓練を受けなかったので、足の着かない深さの水は潜在的に怖いのである。大学時代、日吉のプールで溺れかけたことがある。猪苗代湖でボートからほんの十mもない岸まで行こうと飛び込んで、全く進むことができず、友人に救われたが、底知れぬ恐怖を味わった記憶がある。海から少し距離を置いて、潮風や潮騒を聞いているのが私の海の楽しみ方である。
平成二十三年作『然々と』所収
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aishi etc




挿絵が絵葉書になりました。
Aシリーズ 8枚組・Bシリーズ8枚組
8枚一組 1,000円
ごあいさつにご利用下さい。



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