HOME 句会案内 バックナンバー  

 2017年 1月号  2月号   3月号 4月号   5月号  6月号  7月号  8月号  9月号  10月号   11月号  12月号
 2018年  1月号  2月号 3月号  4 月号   5月号  6月号   7月号 8月号  9月号  10月号    11月号 12月号 
 2019年 1月号  2月号  3月号  4月号  5月号  6月号   7月号 8月号   9月号 10 月号   11月号  12月号
 2020年  1月号  2月号  3月号  4月号  5月号 6月号  7月号   8月号 9月号  10月号  11月号  12月号 
 2021年  1月号 2月号  3月号  4月号  5月号              

 5月号  2021年


伊藤伊那男作品     銀漢今月の目次  銀漢の俳句 盤水俳句・今月の一句   
 彗星集作品抄    彗星集選評  銀漢賞銀河集・作品抄  綺羅星集・作品抄
  銀河集・綺羅星今月の秀句 星雲集・作品抄  星雲集・今月の秀句    伊那男俳句  
銀漢の絵はがき 掲示板   主宰日録  今月の写真   俳人協会四賞受賞式
銀漢季語別俳句集


伊藤伊那男作品


主宰の8句









        
             

             
             

    

今月の目次









銀漢俳句会/2021/5月号


     







  







   



銀漢の俳句 

伊藤伊那男 


◎高野ムツオ氏の季語

 次に掲げる句は「俳句」令和三年三月号に発表された、小熊座主宰 高野ムツオ氏の特別作品「垂り雪」五十句から抜粋したものである。
 ⑴原発にコンビニありて水を売る
 ⑵陰毛も炉火も手をもて覆うべし
 ⑶水洟を垂らした神でなくデブリ
 ⑷汚染水タンク千体屠蘇こぼす
 高野氏は佐藤鬼房の弟子で仙台在住。東日本大震災を体験し、その後も一貫して震災の惨状を詠み続けている。震災直後に詠んだ句に
  車にも仰臥という死春の月
がある。津波にひっくり返った車を死者に譬えた凄絶な作品で今も私の胸に刻印されている。今回は震災後ほぼ十年を前に、福島第一原子力発電所構内に入った句群である。氏は現代仮名遣いであり、所謂伝統俳句からの脱却を求めている人でもある。私は氏とは違う作句方法であるが、氏の震災俳句については特別のものとして一目置いている。偽りの無い真実の声があるからである。
 そのことを認めた上で冒頭句について考えてみる。
⑴の季語は「水売」である。水売は江戸時代、夏に砂糖水に白玉を入れたりして「ひゃっこい、ひゃっこい」と売り歩いた。一茶に〈月かげや夜も水売る日本橋〉がある。季語の歴史を振り返ったとき、コンビニで売るペットボトルの飲料水を「水売」の季語にしていいのかどうか?
⑵の季語は「炉火」である。本来の炉火は日本家屋の囲炉裏の火を指す。ところが句の炉火は何と破壊された原子炉の火なのである。これを「炉火」の季語にしていいのか?
⑶のデブリは「燃料デブリ」のことで、原子炉の事故で溶融した核燃料や構造物が流失し固まったものである。句はこのデブリを「水洟」に見立てたのだが、これを季語としていいのかどうか?
⑷の「屠蘇」は言わずと知れた正月に飲む薬酒。ところが原発の汚染水のタンクの水漏れを「屠蘇こぼす」と形容しているのだ。これを季語と認めていいのかどうか?
 以上のような根源的な問題を含む句群なのである。だがこのような句を作る俳人がいることを知っておいてもよいと思って紹介したものである。高野氏は季語についての伝統的共通認識を根底から覆させる挑戦者である。だが私は真似をしないし、むしろ伝統的な季語の本意を追求していくつもりである。銀漢の皆さんも真似をしない方がよいと思う。高野氏のような一貫した信念を持った作家でないと大火傷をすることになるはずであるから。














 



  

盤水俳句・今月の一句

伊藤伊那男

 

  夜鷹啼き講衆酒に寝落ちたり          皆川 盤水


 出羽三山には私も五、六回は先生のお供をしている。宿は決まって手向集落の三光院である。大きな天狗の面を掲げてある大広間で宴会をしたものだ。その頃の兄弟子達には酒飲みが多かったように思う。句会があれば酒、打ち合わせがあれば酒、旅ともなれば尚更で、春耕はそれだけ楽しい集まりであったのだ。まさに「講衆酒に寝落ちたり」の様相であった。「夜鷹啼き」に羽黒の闇の深さが甦える。(昭和五十九年作『寒靄』所収)



 



 


  

彗星集作品抄
  伊藤伊那男・選

 雨垂れや涅槃図の歔欷隠すかに          武井まゆみ
 踏絵より今も漂ふ重き黙             末永理恵子
 叩き出す昨夜の悪夢や干蒲団           池田 桐人
 永き日の忘れものめく我が身かな         深津  博
 ふくら雀おのれの色の地に遊ぶ          渡辺 花穂
 手を出さず待つも介護や春隣           福原  紅
 初午や幟つらねて田んぼまで           中村 湖童
 谷戸ごとにたがふ風道春浅し           中野 堯司
 寒鰤の口に差し込む値札かな           保谷 政孝
 この枝や寒禽代はる代はる来て          中村 湖童
 二上山をつつみ込むやに朧月           武田 禪次
 一羽づつ少し離れて春の鴨            曽谷 晴子
 大利根の日輪隠す野焼かな            萩原 陽里
 物干竿ひと日休めて女正月            堀内 清瀬
 遠火事や振袖舞ひし江戸の空           橋野 幸彦
 敗れ荷風の名残のあばら骨            市川 蘆舟
 寒林の骨格標本さまざまに            中村 孝哲
 佐保姫の出囃子未だ調はず            坂下  昭
 補陀落の手前で目覚む春の夢           川島  紬



  

  













    
     

彗星集 選評 伊藤伊那男

伊藤伊那男・選


雨垂れや涅槃図の歔欷隠すかに       武井まゆみ
 涅槃会は釈迦入滅の陰暦二月十五日(今は三月十五日に行われることが多い)、釈迦の遺徳奉讃追慕のために修さる法会。掲げられる涅槃図は衆生から鳥獣虫魚までが悲嘆に暮れている。絵であるのに泣き声が聞こえてくるようである。折しも外は雨。庇から落ちる雨垂れの音が、その泣き声を消すかのようだという。歔欷(きょき)とはすすり泣き、むせび泣きである。本来聞こえない歔欷ではあるが、それを掻き消すような雨垂れ。虚の声を隠す雨というのが眼目である。 

踏絵より今も漂ふ重き黙          末永理恵子
 遠藤周作の『沈黙』は名作であった。八百万神と一神教という宗教問題と、西洋の脅威という政治的鬩ぎ合いの結果であろう。踏絵は禁制となった寛永五年(一六二八)に長崎、五島、平戸、大村などで実施された。一月から三月頃まで行われた。最後は丸山の遊女が踏んで、その艶やかさに群集が集まったというが、信者には過酷な行事であった。今も残っている擦り減った絵踏板には「黙」が続いている。

叩き出す昨夜の悪夢や干蒲団        池田 桐人
夢が蒲団に籠っているわけではないけれど人の心というのはこういうものだ。験を担ぐという言葉がある。この句は「叩き出す」が眼目。どんなに科学が発達しても人間の心理は変わるものではない。

永き日の忘れものめく我が身かな      深津  博
 一年で最も日が長いのは夏至の頃なのだが、待ちに待った春に、日永が意識されるのである。冬の終りに「日脚伸ぶ」があり、三月下旬位に「日永」の雰囲気となる。温かさも増してきて、やや気の緩む気分もある。それを「忘れものめく」と捉えたのである。春風駘蕩たる一日を独自の表現でうまく纏めている。

ふくら雀おのれの色の地に遊ぶ       渡辺 花穂
「ふくら雀」は「寒雀」の副季語で、寒さを防ぐために全身の羽毛を脹らませている姿からその名がある。何分にも寒中のことであるから地面には茶色の枯草や土の色ばかりである。それを「おのれの色」としたところがこの句の眼目。さて私は動物や草や風の動きを「遊ぶ」と詠むことを実は好まない。人間が「遊んでいる」と勝手に決めつけるのはどうかな、と思うからである。それほど頑に言うつもりはないが、私なら「おのれの色の地を突く」という作り方になるだろうと思う。これは参考に。 

手を出さず待つも介護や春隣        福原  紅
 介護にはこのような事が大切なのであろう。なるべく手を出さず、相手の自力回復を待つ、やる気が出るのを待つということとの兼ね合い。「春隣」の斡旋が効いている。
 
初午や幟つらねて田んぼまで        中村 湖童
  稲荷は豊穣を叶える神様。田へ案内するのであろう。

谷戸ごとにたがふ風道春浅し        中野 堯司
谷戸の地形がよく解る句だ。農作業が始まる前の一景。 


寒鰤の口に差し込む値札かな        保谷 政孝
富山県氷見港あたりの嘱目か。「差し込む」に臨場感。 

この枝や寒禽代はる代はる来て       中村 湖童
鳥が好む枝が決っているのか、「この枝や」が面白い。

二上山をつつみ込むやに朧月        武田 禪次
大津皇子の悲話を持つ二上山。鎮魂の朧月か。
  
一羽づつ少し離れて春の鴨         曽谷  晴子
 帰りそびれた鴨。人間に置き替えて読むのも面白い。

大利根の日輪隠す野焼かな         萩原 陽里
板東太郎の名のある利根川だけに壮大な風景。 

物干竿ひと日休めて女正月         堀内 清瀬
女性の骨休めの一日。昔の女性の苦労が偲ばれる。

遠火事や振袖舞ひし江戸の空        橋野 幸彦
 明暦の大火が句材。「遠」に過去への想いもあるか。

敗れ荷風の名残のあばら骨         市川 蘆舟
ずたずたになった蓮の葉。まさに風の暴れた痕跡。 
 
寒林の骨格標本さまざまに         中村 孝哲
寒林となった枝ぶりを骨格標本と見た面白さ。 
 
佐保姫の出囃子未だ調はず         坂下  昭
 春を掌る女神がなかなか登場しない。擬人化の妙。

補陀落の手前で目覚む春の夢        川島  紬
 目覚めて良かった。補陀落は知らない方が良さそうだ。











  
 











銀河集作品抄


伊藤伊那男・選

紅梅や采女の古歌をたどる道      東京  飯田眞理子
頂上が落合ひの場所探梅行       静岡  唐沢 静男
山焼の中止の札が駅頭に        群馬  柴山つぐ子
松過ぎてまたふるさとを遠くする    東京  杉阪 大和
下萌や跳ね脚強き羊の子        東京  武田 花果
日蓮上人生誕八百年二句
本門寺界隈どこも梅日和        東京  武田 禪次
観音の胎の窓より初景色        埼玉  多田 美記
定位置に湯呑を置いて事務始      東京  谷岡 健彦
あられ酒南都の夜の深むまま      神奈川 谷口いづみ
達磨の目入れて四温の面差しに     長野  萩原 空木
花種を蒔きて話の種とせり       パリ  堀切 克洋
寒餅搗く道場けふは稽古なく      東京  松川 洋酔
存外に根の張りてゐる若菜かな     東京  三代川次郎
















         





綺羅星集作品抄

伊藤伊那男・選

寒餅の豆の散らばる一斗缶        東京  多田 悦子
寒餅の豆の抜けたるひとところ      東京  山下 美佐
金縷梅に燐寸程度の火力あり       千葉  白井 飛露
橋の名は町に埋もれ近松忌        大阪  中島 凌雲
空すこしづつ落ちてきて雪もよひ     愛媛  片山 一行
もう歳をとらぬ年寄年始         東京  坪井 研治
一寸先の闇に十年日記買ふ        東京  半田けい子
鳥雲になべて羽曳野墓どころ       東京  桂  信子
ふと降りてみたくなる駅春隣       東京  辻  隆夫
よその子の育つは早し年賀状       東京  鈴木てる緒
地吹雪や尊逃れし記紀の山        岐阜  堀江 美州
こけしにも故郷それぞれ春の雪      宮城  有賀 稲香
紅梅を見てゐるだけの見合ひかな     埼玉  秋津  結
裏おもてなき日の丸や建国日       埼玉  大澤 静子
古地図手に指が旅する去年今年      東京  大住 光汪
仲見世を一本逸れて遅日かな       神奈川 久坂衣里子
草萌もしくによしなき藤村詩       東京  小林 雅子

草青む海と空とも溶け合ひて       神奈川 秋元 孝之
氷上の君が転べば吾も転ぶ        東京  飛鳥  蘭
寒釣の奈落より返信を待つ        東京  有澤 志峯
冴返る盆地の底を這ふ瀬音        神奈川 有賀  理
紅梅や五風に乾く風のあり        東京  飯田 子貢
摺る墨の匂ひ鋭し雪催          埼玉  池田 桐人
行き詰りの多き家系図冴返る       東京  市川 蘆舟
涅槃図のやうには男泣き切れず      埼玉  伊藤 庄平
梅の香の忽然として男坂         東京  伊藤 政三
読経めく谷戸の奥より初音かな      神奈川 伊東  岬
三寒の名残四温の風にあり        東京  今井  麦
身半ばを風にさらして大根畑       埼玉  今村 昌史
大試験終へし上野のカツカレー      東京  上田  裕
塗椀は木箱に眠り旧正月         東京  宇志やまと
薔薇の芽の赤さ命の色なりし       埼玉  梅沢 フミ
春風やよく働いてよく眠る        東京  大沼まり子
蕗の薹探す四辺の明るさに        神奈川 大野 里詩
春告鳥谷戸の扉を開け来たる       埼玉  大野田井蛙
貝の道あらはになりぬ池普請       東京  大溝 妙子
福豆を煮豆に家計富む吾が家       東京  大山かげもと
海苔舟の潮待ちしたる筑紫潟       東京  岡城ひとみ
枝打ちや鴉ねぐらを失へり        東京  小川 夏葉
初御籤もつとも空に近く結ふ       宮城  小田島 渚
合はされて祈りの手とも御神渡      埼玉  小野寺清人
薄雲の切れ間に日脚伸びにけり      神奈川 鏡山千恵子
松の根の瘤に力や寒に入る        和歌山 笠原 祐子
群れ咲いて水仙歌ひ出しさうな      東京  梶山かおり
ひたひたと牛舎のなかを雪女       静岡  金井 硯児
子らのもの縫ひし日のあり針納      東京  我部 敬子
春耕の真似ごととして花壇かな      高知  神村むつ代
宝船波の高さに船酔ひす         東京  川島秋葉男
受験子の白目の青みがかりけり      長野  北澤 一伯
待春や窓辺に添へし干支土鈴       東京  絹田  綾
濡れ縁に色とりどりの靴四温       東京  柊原 洋征
母の座に母亡き後も炬燵猫        東京  朽木  直
待春や折目を付けし時刻表        東京  畔柳 海村
行軍のまぼろしを見し吹雪かな      東京  小泉 良子
臘梅の鼻の高さの咲きはじめ       神奈川 こしだまほ
己が影踏み踏み帰る遅日かな       東京  小林 美樹
くさめして頑固な顔のゆるみける     神奈川 小林 好子
交番の柱に吊るす輪樏          東京  小山 蓮子
雪が降る音なき音を立てながら      青森  榊 せい子
人妻のころのコートの重かりし      長崎  坂口 晴子
井月来三和土に杖と春泥と        長野  坂下  昭
赤飯の程よき紅や女正月         群馬  佐藤 栄子
いきいきと走り去つたる雉子の尾よ    長野  三溝 恵子
遠き城手に頂きぬ春霞          東京  島  織布
湯の町の配管くぐるかじけ猫       東京  島谷 高水
兄の席空きて久しき歌留多会       兵庫  清水佳壽美
余寒なほ水面の雲は動かずに       埼玉  志村  昌
大盃となりし齢や屠蘇の順        東京  白濱 武子
おどろきぬ寒の卵に黄味二つ       東京  新谷 房子
大和三山
とこしへに恋の鞘当て山笑ふ       大阪  末永理恵子
もがり笛窯守ねむる小半時        静岡  杉本アツ子
波の引くごとに薄れて寒茜        東京  鈴木 淳子
雪覆ふ浅間の怒り鎮めつつ        群馬  鈴木踏青子
鳥影を追へば山茶花こぼれつぐ      東京  角 佐穂子
風花やここは由布姫ゆかりの地      東京  瀬戸 紀恵
鬼やらひ我が鬼払ふ一人かな       神奈川 曽谷 晴子
湯の女将ゆきこと名乗り雪催       長野  髙橋 初風
古郷の昏く重たき雪解川         東京  高橋 透水
池普請足深く入れ重く抜き        東京  武井まゆみ
自分史に踏絵いくつや鳥雲に       東京  竹内 洋平
島に嫁しし子より届きし若布かな     東京  立崎ひかり
ひび割れの餅を浸せし寒の水       東京  田中 敬子
戒壇の一歩余寒を纏ふ闇         東京  田中  道
捕らはるる鯉のひと跳ね池普請      東京  田家 正好
仲見世の積もらぬ雪に暮れゆけり     東京  塚本 一夫
左義長の願ひに強くなる炎        東京  辻本 芙紗
寒木瓜の一つ二つと陽を集む       東京  辻本 理恵
津軽では下から降ると雪しまき      愛知  津田  卓
昃りて水に紛るる薄氷          埼玉  戸矢 一斗
寒鯉の水動かさず動きゐる        千葉  長井  哲
南座のはねて鴨川春浅し         神奈川 中野 堯司
都鳥川には川の物がたり         東京  中野 智子
檄文の一語一語や玉霰          東京  中村 孝哲
光琳と読めて怪しくなる屛風       茨城  中村 湖童
名を言ひて名ごとに刻む若菜かな     埼玉  中村 宗男
三寒の湯気より出づる杜氏かな      千葉  中山 桐里
寒雀手のひらほどの日溜りに       大阪  西田 鏡子
水紋の盛りふくらめる春出水       東京  西原  舞
東京は訛のるつぼ啄木忌         東京  沼田 有希
蠟梅や赤子の爪の透きとほる       埼玉  萩原 陽里
日脚伸ぶ廊下の隅のミシンへも      東京  橋野 幸彦
初風呂のはや長風呂となりにけり     広島  長谷川明子
高きより粗塩を打ち花菜漬        東京  長谷川千何子
水菜洗ふ富士湧水に膝揃へ        神奈川 原田さがみ
進駐軍を村誌にて読む寒の明け      兵庫  播广 義春
公魚を真青の空に踊らせる        東京  福永 新祇
町揺らし一気に目覚む鰤起し       東京  福原  紅
下萌へひつくり返す揚げボート      東京  星野 淑子
梅の香や偕楽園へ地図の旅        東京  保谷 政孝
涅槃絵を解けば嘆きの声こぼれ      東京  堀内 清瀬
その中に釘もまじれり針供養       埼玉  夲庄 康代
安曇野はアカシアの香ものびやかに    東京  松浦 宗克
ふる里の川よく曲がり猫柳        東京  松代 展枝
掛軸の旭日眩し鏡餅           京都  三井 康有
啞啞と声洩らしてしまふ余寒かな     東京  宮内 孝子
薄氷何か乗せたくなりにけり       神奈川 宮本起代子
探梅や木の間に遠く町光る        東京  村上 文惠
自粛とて声無き追儺の豆撒きぬ      東京  村田 郁子
紅梅や津軽塗なる三味の棹        東京  村田 重子
校庭の隅に吉書の燃え残り        東京  森 羽久衣
湯の峰を闇に沈めて寒昴         千葉  森崎 森平
幼帝の都を見たる河豚を食ふ       埼玉  森濱 直之
豆撒の泣く児に鬼の怯みけり       長野  守屋  明
三寒へ高く跳ぶには先づ屈み       東京  保田 貴子
ふぐり落し多賀の社へ馳せ参ず      愛知  山口 輝久
白鳥を見に長ぐつをはきにけり      群馬  山﨑ちづ子
魚は氷に上り風の名変はりゆく      東京  山田  茜
かまくらの火袋洩るる匂かな       群馬  山田  礁
字と書く手紙の宛名寒見舞        東京  山元 正規
春立つや大師産湯の海岸寺        愛媛  脇  行雲
初霞大和三山浮島に           東京  渡辺 花穂
池普請抜き足特にままならず       埼玉  渡辺 志水
















     







銀河集・綺羅星今月の秀句

伊藤伊那男


寒餅の豆の散らばる一斗缶         多田 悦子
寒餅の豆の抜けたるひとところ       山下 美佐
 いずれも豆餅を詠んだ句。私の田舎では青海苔も搗き込んで黒豆の入った海鼠餅であった。子供の頃は白い餅の方が好きであったが、今になると郷里の親戚から到来する豆餅の方に郷愁を感じている。多田句は断面から零れ落ちた豆が缶の底に溜まっている様子。山下句は豆の一つが抜け落ちた餅の断面、。何ひとつ主観を入れないで対象物を詠むという写生の基本を守った秀句である。食べ終わったあとに知る缶底の豆の数、断面の穴に抜けた豆の行方を思う心、そこからほのかに発する抒情、そこが決め手である。


金縷梅に燐寸程度の火力あり        白井 飛露
 春一番に「まず咲く」ことから「まんさく」になったという説がある。そのまんさくの活力を「燐寸程度の火力」と見た。少し乱暴な作り方だが妙に実感が籠るのは、感性の良さがあるからであろう。〈金縷梅に触れて感電しさうなり〉も同様。また〈鶯を何と聞きしか日蓮は〉は日蓮宗の声明と鶯の鳴き声を対比したものだが、日蓮が何と聞いたか、というのは今まで詠まれていなかった面白さである。


橋の名は町に埋もれ近松忌         中島 凌雲
大阪は橋が多かったことで知られている。実際は二百ほどであったらしいが「八百八橋」と呼ばれた。町の発展と共に流れを変えたり、埋め立てたり、暗渠となって変貌した。そんな往時の町を近松忌に触発されて回顧するのである。ちなみに大阪の路線図を見ると、淀屋橋、天満橋、日本橋、肥後橋、心斎橋、阿部野橋……何と沢山あることか.

空すこしづつ落ちてきて雪もよひ      片山 一行
「空すこしづつ落ちてきて」――には空がだんだん曇ってくる様子、雲がだんだん低くなってくる様子、湿気が感じられてくる様子、などの変化が籠められているのであろう。「雪もよひ」に集約させる段取りがいい。 


もう歳をとらぬ年寄年始          坪井 研治
一読破顔の句である。確かにこのようなお年寄りはいるもので、年寄りのままほとんど変わらずに、十年後に会ってもそのままの年寄りであったりする。子供の目で見たら尚更である。一句に「とし(歳・年)」を三つ入れた面白さもあるが、新年の挨拶でしげしげと見て、やはり変わらないことを確認したおかしさである。 


一寸先の闇に十年日記買ふ         半田けい子
 一昔前、五年日記を買ったことがある。そのあと三年日記も買った。七十歳も過ぎた今は先の長い日記を買うことは無いであろう。この句の作者はなかなかしぶとい人のようだ。混迷の続く世にあえて十年日記を買うという。この精神が大切で、きっと長生きをされることであろう。


 

鳥雲になべて羽曳野墓どころ        桂  信子
 大阪市の羽曳野は往古奈良への幹線道路である竹内街道が通り、応神天皇陵を始めとする古市古墳群がある。まさに「墓どころ」。この句は「鳥雲に」の季語の斡旋がいい。日本武尊が死後白鳥になって翔けていったように、鳥に魂を託する思念がある。おびただしい霊魂が雲間に消えてゆく。羽曳野の地名の「羽曳」が効果を高めている。


ふと降りてみたくなる駅春隣        辻  隆夫
春は旅心が高まる。桜の季節、芽吹きの季節など、ふと目的のないまま電車に乗ってしまったりするものだ。春も間近、作者は気もそぞろなのであろう。 


よその子の育つは早し年賀状        鈴木てる緒
最近の年賀状は家族写真が載っているものが多い。あれ、この前結婚した通知を受けたと思ったのにもう子供がこんなに大きくなったのか……などなど、人の子の育つのは早いのである。手の掛かる、掛からないの違いからであろうが、そんな錯覚をよく捉えている句である。 


地吹雪や尊逃れし記紀の山         堀江 美州
恐らく尊は日本武尊で、記紀の山は伊吹山であろう。千三百m台の山ながら日本海からの風をまともに受けて大雪をもたらす山である。日本武尊もこの山の白猪と戦って命を落とすことになる。山麓の吹雪からの歴史への追想句。 


こけしにも故郷それぞれ春の雪       有賀 稲香
皆川盤水先生はこけしの愛好家で、書斎には沢山のこけしが並んでいた。詳しいことは忘れたが、岩手、山形、秋田と各地に様々な流派があって、愛好家が見ると、産地や作者まで解るのだという。「故郷それぞれ」がうまい表現である。春雪の向こうにそれぞれの産地があるのだ。 


 その他印象深かった句を次に

紅梅を見てゐるだけの見合ひかな      秋津  結
裏おもてなき日の丸や建国日        大澤 静子
古地図手に指が旅する去年今年       大住 光汪
仲見世を一本逸れて遅日かな        久坂衣里子
草萌もしくによしなき藤村詩        小林 雅子














                






 

星雲集作品抄
伊藤伊那男・選

秀逸

初凪や(にえ)豊かなる島にゐて       宮城  小野寺一砂
引く糸に応へぬ高さいかのぼり     東京  清水 史恵
息をつめ大縄跳びへ入るを待つ     東京  中村 藍人
懸樋より紙縒めきたる寒の水      東京  矢野 安美
探梅や絵地図弓手に鎌倉へ       神奈川 白井八十八
谷戸の田の薄氷藁を嚙みてをり     東京  須﨑 武雄
飛梅の百里千年ひとつ飛び       東京  倉橋  茂
母に遣る寒九の水を白湯にして     神奈川 田嶋 壺中
かまくらの祈る形に火の灯る      東京  竹花美代惠

三冬尽く堂奥に闇置きしまま      千葉  川島  紬
敗戦忌今にして知る父の事       神奈川 小坂 誠子
長老の出番随所に池普請        神奈川 北爪 鳥閑
年の豆年喰うてゐる心地かな      神奈川 河村  啓
短日や世間話の無き床屋        東京  生田  武
遠縁の見合ひのうはさ旧正月      東京  伊藤  真紀

大阿蘇や今日は何処の野焼やら     神奈川 横地 三旦
咀嚼する長寿の祖母や春炬燵      東京  西  照雄
糸通し乞はれし祖母や針供養      長野  桜井美津江
山に入るうぐひすの声聴きたくて    千葉  小森みゆき
足湯する魚氷に上る諏訪湖畔      東京  釜萢 達夫








星雲集作品抄

            伊藤伊那男・選


三月の雲やはらかに丹州へ       京都  秋保 櫻子
荒波の育む岬野水仙          東京  尼崎 沙羅
節分の八十二粒の豆を嚙む       愛媛  安藤 向山
吹越や花散るごとく人里へ       東京  井川  敏
春暁に満ち来る潮や澪標        長野  池内とほる
恋猫になり損ねたか雨に鳴く      東京  石倉 俊紀
ふるさとにこの山河あり山笑ふ     愛媛  岩本 青山
夕暮を見尽くして閉づ春障子      東京  上村健太郎
ひく波の跡美しや桜鯛         愛媛  内田 釣月
籠り居に山茱萸の花待ち遠し      長野  浦野 洋一
板の橋少し危ふし蕗のたう       埼玉  大木 邦絵
冬ざるゝ美濃の里よりしづかな訃    東京  大島雪花菜
酒蔵に入つたままの探梅行       神奈川 大田 勝行
ままごとのやうなお供へ初稲荷     東京  岡田 久男
空つ風さみしく鳴けり換気扇      群馬  岡村妃呂子
横濱や銅鑼をふるはす春霙       東京  荻野ゆ佑子
老の眼の焦点遠く鳥雲に        静岡  小野 無道
春めくや地図で辿つてみる旅路     東京  桂  説子
湯治場の軋む廊下や冴返る       埼玉  加藤 且之
修学の旅は遥かに春の海        長野  唐沢 冬朱
山鳥の啼かずの恋か母衣を打つ     愛知  北浦 正弘
首といふ首にとどまる余寒かな     東京  北原美枝子
白魚の百の眼睨むすまし汁       東京  久保園和美
千曲川流れいつしか春めけり      群馬  黒岩伊知朗
厄払なればいとしき猿はじき      三重  黒岩 宏行
氷に上る魚の尾鰭の日を撥ぬる     東京  黒田イツ子
鎌倉に砂鉄の名残春浅し        神奈川 小池 天牛
鶯や樹下の団子屋四代目        東京  髙坂小太郎
初夢やここぞの時の三振か       東京  小寺 一凡
三月や姉の名さがす鎮魂碑       宮城  齊藤 克之
下向きにこの世覗くか黄水仙      神奈川 阪井 忠太
冬枯や枝を震はす谷戸の風       東京  佐々木終吉
凍解や黒土の畝際立たせ        群馬  佐藤かずえ
高台にとどく船笛春きざす       広島  塩田佐喜子
薄日さす中洲おほかた枯葎       東京  島谷  操
新しい朝やつて来る牡丹の芽      東京  清水美保子
蠟梅の香りほのかに雨上がり      東京  上巳  浩
搔巻を調法と知る齢かな        岐阜  鈴木 春水
豆まきの鬼の唸りのくぐもれり     愛知  住山 春人
終ふるまで独りの世界毛糸編む     千葉  園部あづき
老学の日々また楽し梅日和       埼玉  園部 恵夏
逝きし猫現はれさうな寒の朝      東京  田岡美也子
雲を突き天を焦がせし野焼かな     東京  髙城 愉楽
残心の弓道場に日脚伸ぶ        福島  髙橋 双葉
寒卵ころがりながら椀の中       埼玉  武井 康弘
富士塚の峰に登りて福寿草       東京  田中 真美
看取りゐる手の冷たさを詫びながら   神奈川 多丸 朝子
久女忌や自立の心今に継ぐ       愛知  塚田 寛子
烏賊の足焙ればくるつと春浅し     東京  手嶋 惠子
風光る絵馬に書かれし我が母校     埼玉  内藤  明
メモ帳に父母の寸法針供養       岩手  永井 むつ
冴返る手を切りさうな朝刊来      神奈川 長濱 泰子
等圧線蜘蛛の巣めきて冴返る      長野  中山  中
鼻歌も一瞬止まる余寒かな       東京  永山 憂仔
お遍路の結願といふ知らせかな     京都  仁井田麻利子
小春日や杖の動きも軽やかに      宮城  西岡 博子
星空の沖は漁火冴返る         静岡  橋本 光子
そこかしこ居住まひ正す御慶かな    東京  橋本  泰
知らぬ名の寒中見舞に喪の記載     神奈川 花上 佐都
年男未だに耳に順へず         長野  馬場みち子
寒明の証としての雲一朶        千葉  針田 達行
芽吹く枝芽吹かぬものもありにけり   長野  樋本 霧帆
歌ふ子は背に菠薐草は前籠に      神奈川 日山 典子
春雪や午後は賑やかなる雫       千葉  平山 凛語
里山に拙さ残る初音かな        千葉  深澤 淡悠
窓際のいやに明るき春の風邪      埼玉  深津  博
線香を買ひ足すことも年用意      長野  藤井 法子
夕べに摘む昨日見つけし蕗の薹     福岡  藤田 雅規
朝東風に赤べこいややと首振りぬ    東京  牧野 睦子
春浅し隣家の雨戸まだ開かず      神奈川 松尾 守人
年の数もう食べきれぬ福の豆      神奈川 松崎 雅則
恙なく家族揃うて雑煮かな       愛知  松下美代子
隣家から豆転がりし節替り       東京  水野 正章
畝の帯湯気立ち昇る霜日和       奈良  三村  一
妄想の初旅めくる時刻表        東京  棟田 楽人
金縷梅の今が見ごろの棙れかな     東京  八木 八龍
吟行はさくらトラムで梅二月      東京  家治 祥夫
故郷の父母いかに雪の夜        群馬  山﨑 伸次
初凪や鎌倉の海鳶舞ひて        神奈川 山田 丹晴
熱き白湯薬代はりに春の風邪      静岡  山室 樹一
凍蝶や切絵のごとく動かざる      群馬  横沢 宇内
艶々と一隅照らす実万両        神奈川 横山 渓泉
薄氷日当りながら消えにけり      千葉  吉田 正克
をんならの眉引き直し初稽古      山形  我妻 一男
三つ指の衿元清し寒明くる       神奈川 渡邊 憲二
水仙の花のしづけさ葉に力       東京  渡辺 誠子
春の雪童子も消えし八瀬駅舎      埼玉  渡辺 番茶





















星雲集 今月の秀句

伊藤伊那男


初凪や贄豊かなる島にゐて         小野寺一砂
 「(にえ」とは、神に奉る土地の産物、特に食用に供する魚や鳥などを言う。作者は宮城県は気仙沼大島に住む。私は何度も訪問しているが、ともかく海産物の豊富さには目を見張る。牡蠣、海胆、帆立、鮑、鮫の心臓、まんぼう、海鞘……。「初凪」は元日の海が穏やかに凪ぎ渡ること。だが決して安穏であったわけではない。津波、地震、嵐、冷害と様々な試練が絶えず襲いかかってきた歴史がある。だからこそたまさかな静かな正月を寿いでいるのである。下五の「島にゐて」の納め方が盤石の重みである。同時出句の<日の本の朝の音とは葱切る音>も葱を強調する大袈裟な打出しが功を奏して、確かに!と頷くのである。  


引く糸に応へぬ高さいかのぼり       清水 史恵
私にも経験があるが、ある高さまで揚がった凧は、もはや引手の意志を離れて大空を泳ぐ。今度は自らが意志を持っているように自由に泳ぐのである。
「応へぬ高さ」が実に簡潔で的確な表現である。同時出句の〈おほらかな神々の恋建国祭〉も醜聞などものともせず、という神々の恋を建国日に合わせたところがいい。〈思ひきり叩きし夫の干蒲団〉もさらりと詠んだ夫婦の機微に味わいがある。 


息をつめ大縄跳びへ入るを待つ       中村 藍人
運動神経の鈍かった私は大縄跳びに入れたことは無い。息を詰めたまま終ってしまったことが多かった。そうした心理状態がよく解る句だ。同時出句の〈白鳥の翼大きく羽繕ひ〉も白鳥の仕種を無理なく描いている


懸樋より紙縒めきたる寒の水        矢野 安美
寒中は水が細る時期である。「紙縒めきたる」はそんな水の状況を清烈に捉えた比喩である。同時出句の〈波の音させて湯たんぽ蹴り出さる〉の比喩もいい。


探梅や絵地図弓手に鎌倉へ         白井八十八
句の眼目は「弓手(ゆんで)」。弓手とは弓を持つ方の手で、すなわち左手。作者は弓の替りに絵地図を持って鎌倉を巡るのである。この措辞によって鎌倉という往古の武人の町が生きてくる仕掛けである。


谷戸の田の薄氷藁を嚙みてをり       須﨑 武雄
谷戸(谷・谷地)は関東独特の地形で「やと・やち・やつ」と読む。扇状の低湿地で鎌倉が有名だが、あちこちにある。そうした一種の棚田に張った薄氷が藁を嚙んでいたという。事実だけを詠んでいるが、静かに風景を切り取った優秀な写生句である。「藁を嚙む」の把握が見事。、


飛梅の百里千年ひとつ飛び         倉橋  茂
菅原道真が大宰府で失意の内に死んだのは西暦九〇三年なので、かれこれ千百年ほど前のこと。飛梅とは〈東風吹かば匂ひおこせよ梅の花あるじなしとて春な忘れそ〉と詠んだ梅の木が京都から配所まで飛来したという故事がある。句は時空を超え、距離を越え、今現在も咲き継いでいるという。「ひとつ飛び」の飛躍した表現が面白い。


母に遣る寒九の水を白湯にして       田嶋  壺中
寒中九日目の水を寒九の水といい、寒の水の中でも特に服薬に特効があるとされる。その水を冷たいままではなく白湯にして母上に飲ませたという。肌理細かな情。


かまくらの祈る形に火の灯る        竹花美代惠
かまくらは秋田県横手地方の旧正月の行事。夕闇に火の点ったかまくらはまるで合掌をしたような形に見えたという。一面の雪の中の合掌の形。神々しく清浄な景。


敗戦忌今にして知る父の事         小坂 誠子
戦争の傷痕は大きい。私も父から戦争の話を聞いたことは無かった。思い出したくないことが一杯あった時代だったのであろう。この句と同じように今頃になって姉や親戚筋から聞いて、そうだったのか‥‥と思うこともある。戦争は七十五年を経た今も尾を引いているのである。


長老の出番随所に池普請          北爪 鳥閑
「出番随所に」が面白い。池底の様子なども熟知している長老の出番である。今日ばかりは尊敬される存在。 


大阿蘇や今日は何処の野焼やら       横地 三旦
私は伊豆大室山の山焼しか知らないが阿蘇ともなれば、あちこちで日を違えて行われるのであろう。古代からの放牧地であるから重要な作業。阿蘇の広大さを知る句である。
その他印象深かった句を次に

 

遠縁の見合ひのうはさ旧正月        伊藤 真紀
咀嚼する長寿の祖母や春炬燵        西  照雄
糸通し乞はれし祖母や針供養        桜井美津江
山に入るうぐひすの声聴きたくて      小森みゆき
足湯する魚氷に上る諏訪湖畔        釜萢 達夫
三冬尽く堂奥に闇置きしまま        川島  紬












伊那男俳句


伊那男俳句 自句自解(64)

捕物めく自然薯掘りの道具立て


 唐沢静男君が、知人に自然薯掘りの名人がいるが一緒に行ってみるか、と誘ってくれた。早朝出立の車の中でうとうとしていたので場所が不確かだが、着いたのは埼玉県の雑木林の中であった。地面を観察すると枯れ切った蔓があり、手繰った下にあるという。掘る道具は自然薯の丈に合わせたものか、いづれも見たことのない細長い形状であった。名人の話では全部鉄工所に特別注文で誂えたのだという。いざ掘ってみると、只事でない重労働である。林の中であるから土は固く地中には木の根が縦横無尽に走っていて、それを断ち切って掘り進まなくてはならない。また薯を傷つけないよう細心の注意を要する。身体の鈍っている私はすぐに音をあげて早々に見物に廻った。苦労して掘っても市販の長芋と違って太い牛蒡のようなものである。結局何もしなかった私だが、収穫物の分配に与った。極めて粘りが強く、また味も香りも濃い逸品であった。以来薯掘りはしていない。

火事見舞とて藁苞の生卵


 信州での子供時代、何度も火事を見ている。小さな町なのに五、六回は目撃しているのではなかろうか。思えば飯を炊くのも、風呂を焚くのも薪、ストーブは薪か石炭、炬燵は炭であったから、火種は山ほどあり、いつ火事が起こっても不思議ではなかったのだ。野原で遊んでいて火の手が上るのを見て、仲間と駆け付けたら、仲間の内の一人の家であったこともある。そのことを思うと、江戸の町で頻繁に火事が発生していたこともよく解る。さて当時のお見舞といえば生卵であった。卵は籾殻の上に並べて売られていた。昭和三十年代初めの記憶では、卵は大中小に分けられて、十一円、十二円、十三円というような値付けであった。当時の支那そば(ラーメン)が一杯三十五円位であったから、当時の卵は高価であった。編んだ藁苞に一つずつ卵を入れて括り、手土産にしたのである。その後急速に養鶏場が発達して大量生産され、卵は現在、物価の最優等生になったのである。
 









     


 



俳人協会四賞・受賞式





更新で5秒後、再度スライドします。全14枚。







リンクします。



haishi etc
↑link







銀漢の絵はがき


挿絵が絵葉書になりました。
Aシリーズ 8枚組・Bシリーズ8枚組
8枚一組 1,000円

ごあいさつにご利用下さい。





      

        







掲示板











               
 
     

「銀漢」季語別俳句集




拡大します。
銀漢季語別俳句集
待望の『季語別俳句集』が3月に刊行されました。



2021/3/25   更新











主宰日録  

  
2月

2月23日(火)
 快晴。伊那北会で、9時、幕張。同期の北原泰明君が、車で待機してくれて、高速道で館山へ向かう。館山城は眺望絶佳。海の向こうに三浦半島が見え、思えば日本武尊や源頼朝が走水から房総半島へ舟で渡ったということがよく解る。城下、また道の駅で、鯨のたれ、菜の花、スナップさや、野蒜、セロリなどを買う。「房総フラワーライン」で、海を見ながら鴨川を経由して、大多喜城へ。十万石の大城址。以上で見学を終えて幕張の北原家へ。庭でストーブを焚いてもらい酒盛り。今日は伊那谷へ帰るくらいの距離を走ったと。千葉県は広い。19時半頃、お開きとする。

2月26日(金)
 「銀漢」選評など。「春耕新年俳句大会」700余句の選、選評。永福町の銀行訪問し、打ち合わせ。あと小酌して帰宅。

2月27日(土) 「井月忌の集い 俳句大会」の選句。応募540句ほど。BSテレビで「ありがとう裕さん さらば石原軍団」3時間見る。裕次郎邸はすぐ近所。

2月28日(日)
 快晴、散歩。買い物して戻り、卯の花、里芋煮など作る。木蓮の花が咲き始めている。

3月
 
3月1日(月)
 彗星集の選評を書いて、4月号終了。と、入れ替わり、5月号の投句稿が届く。到来物の独活、ルッコラ、蕗の薹など春の香を味わう。

3月2日(火)
 Mさん句集稿、2度目の点検。

3月3日(水)
 13時、井上井月顕彰会の北村監督、平澤事務局長、井蛙さん集合。3月6日のリモート俳句大会の用意。小島健、藤田直子、水内慶太氏と繋ぎ、打ち合わせ。あと、井蛙さんと小酌。

3月4日(木)
 「銀漢」5月号のエッセイなど執筆。「銀漢」四月号の校正。幾つかの句会の選句など。終日家。

 3月6日(土)
 13 時半より、新宿御苑の北村皆雄氏の事務所へ。「第8回井上井月忌の集い 俳句大会」のリモート開催。出演選者は、小島健、水内慶太、藤田直子、佐怒賀正美、矢島恵、伊那男。井蛙さんが司会。あと映画「金子兜太 故郷・人生・井月を語る」「守屋貞治の石仏傑作選」を上映。終わったあと事務所にてビールで反省会。あと井蛙さんと近所の居酒屋で1時間ばかり打ち上げ。

3月8日(月)
 孫の莉子、運転免許証取得と。今日は、結婚記念日。かれこれ45年ほど前のこと……。「俳句てふてふ」の歳時記例句拾いの件、谷口いづみ、松代展枝、大野田井蛙さんに協力戴いている。そのまとめの点検と修正。

3月9日(火)
 高坂小太郎さんの7月の絵画個展への祝辞。冊子用俳句の選など。夜、発行所にて超結社句会「火の会」7人。

3月10日(水)
 11時、小田急線向ヶ丘遊園に谷口いづみ、松代展枝、大野田井蛙さんと待ち合わせ。生田緑地の散策。住宅地を少し上った広福寺は辛夷の巨木、様々な椿ほか花の寺。頂上は鎌倉時代の城、枡形山。展望台から相模・関東が一望。「川崎市立日本民家園」に入る。日本全国の25の古民家などが、丘陵を利用して配置されたテーマパーク。全てが、国、県、市の文化財指定を受けており、圧巻。合掌造りの民家で蕎麦とビール。あと、長者穴横穴墓群を巡り、駅へ。5時間、1,5000歩ほどの散策。駅近くの焼肉店で、久々、親睦会。駅横でもう1軒。隣の若者の声が大きいので「危ない、危ない!」早々に退散。

  3月11日(木)
 本日は、銀漢10周年記念の「季語別俳句集」の発送日で、編集部の方大勢集まる筈にて、皆さんの顔を見に、昼に発行所訪問。10人位の仲間と久々挨拶。俳句集は実に見事な出来栄え。10年の記録。

 3月12日(金)
 作句。「俳句てふてふ」のエッセイ(俳句万華鏡)1本書く。

 3月13日(土)
 孫達を引率して、大山登山の予定であったが、雨の予報にて断念し、家で宴会に。先日、到来の鮪を捌く。刺身、胡麻と葱みじん切りの和え物。梅肉和え、芹和えと何種類か用意。独活のキンピラ、ニラのおひたし、からすみ大根なども用意する。酒は「」。夜、東大寺修二会の実況中継を見る。

3月14日(日)
 昨日と打って変わって快晴。祖師ケ谷大蔵方面に散策。買い物。スペアリブを漬け込む。本日、東京の桜、開花宣言と。

 3月15日(月)
 11時、八王子駅。伊那北会。バスにて八王子滝山城址へ。快晴。実に広大な城跡。20年ほど前に来ているのだが、記憶が薄い。鶯を聞く。芽吹きが始まっている。2時間半ほど巡り歩く。バス停の近くに、椎茸を売る家あり、ご主人が楢の木に菌を打ち込んでおり、見せてもらいながら話を聞く。肉厚の生椎茸を買う。乾燥品も。城址の曲輪に三葉芹が群生していたので、袋一杯摘み取る。うまそう。15時半頃、八王子駅に戻り、「梅蘭」で焼きそばなどで酒盛り。さらに、町の居酒屋、さらに沖縄料理店と梯子してしまう。でも極めて慎重に。

 3月16日(火)
 2日酔い。久々ながら、やってしまった……。『季語別俳句集』、贈呈先より、お褒めの便り何通もいただく。

3月17日(水)
 
今日も快晴。久々、調布の農家。ルッコラ、間引き大根、パクチーなど葉ものが出始めている。

 3月18日(木)
 本日も快晴。喜多見方面へ散策と買い物。桜咲き始め。戻って手羽先の黒酢煮、仔蛸煮など作る。

3月20日(土)
 明日、悪天候の予報にて、成城の桜並木を散策。かなり開花した木もあり。駅前の辛夷は終わり、山桜の風情がいい。上島珈琲店で一休みして、エッセイの下書き一本。買い物して帰宅。角川「俳句」合評鼎談の準備。4月号のゲラを読み込む。夕食は到来の秋田きりたんぽ鍋。

3月22日(月)
 散策。バスで松陰神社迄行き(先日に続き2回目)、参拝あと国士舘大学前から豪徳寺へ。久々。井伊家の墓参。すぐ近くの世田谷城趾公園へ。豪徳寺を含めた一帯の高台が世田谷城で、室町時代の吉良家の居城。後、北条滅亡と共に、吉良が退去して廃城。その後、江戸初期、井伊家の領地となり、豪徳寺が中心となる。蛍烏賊、梅干し、蒲鉾類、干物、茸など買って帰宅。桜の花を満喫す。庭の鉢植えのチューリップも綻びかけている。

 3月24日(水)
 11時、神保町の郵便局で銀漢の資金移動。喫茶店で、角川合評鼎談の準備。天気良し。歩いて靖国神社の桜見に。武道館周辺もかなりの人出。昼休みの時間のせいか、また、卒業式の後の袴姿も多い。13時、飯田橋の角川本社にて鼎談。2時間半位か。市ヶ谷まで外濠の桜を見て帰宅。腕に
よりをかけてだし汁を取り、筍と若布の炊き合わせ。
















         
    






今月の季節の写真/花の歳時記



2021/5/22 撮影    忍冬    HACHIOJI 





花言葉   「愛の絆」「友愛」。



△忍冬
スイカズラの名は、子供が花の甘い蜜を吸う「スイ」、ツル性の植物「かずら(葛)」であることが由来になっています。別名で「忍冬(ニンドウ)」とも呼ばれますが、それは冬の寒い中も耐え忍ぶように葉を残すことから付けられたそうです。
スイカズラ(ハニーサックル)は日本からヨーロッパに渡って品種改良されていった植物です。

御衣黄 桐の花 ライラック アスペルラ・
オリエンタリス
ムラサキサギゴケ
金蘭 鯉のぼり 銀蘭 口紅紫蘭 ニワゼキショウ
朴の花 白丁花
姫空木 桑の実 忍冬
     
     






写真は4~5日間隔で掲載しています。 
2021/5/20








HOME

漢亭日録