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 10月号  2021年


伊藤伊那男作品     銀漢今月の目次  銀漢の俳句 盤水俳句・今月の一句   
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銀漢季語別俳句集


伊藤伊那男作品


主宰の8句















        
             

             
             

    

今月の目次









銀漢俳句会/2021/10月号














 
 
















銀漢の俳句 

伊藤伊那男 


銀漢の俳句
◎河合曾良の謎(4)

 前回はあの時代の日光東照宮に一介の旅の俳諧師が参詣できたことの不思議さを紹介した。『おくのほそ道』では越後の国を九日間かけて歩いているのだが、その記述は驚くほど少ない。山形県温海の「鼠の関をこゆれば」とある。ここを越えると越後なのだが、文章の続きは「越後の地に歩行(あゆみ)を改めて」と僅か十一文字があり「越中の国一ぶりの関に到る」ともう富山県に入ってしまうのである。追討ちをかけるように「此間九日、暑湿の労に神をなやまし、病おこりて事をしるさず」と散々であったと記して、新潟県人をがっかりさせているのである。ただ〈荒海や佐渡によこたふ天河〉の句を残しているのは大きな慰めである。その間については『曾良旅日記』に驚くべき記録が残されている。少し長いが原文を転記しておく。

  廿八日 朝晴。(中略)申ノ上刻ニ村上ニ着、宿借テ城中へ案内。喜
  平・友兵来て逢。(中略)
  廿九日 天気吉。昼時、喜平・友兵来テ(帯刀公ヨリ百疋給)、光栄寺
  へ同道。一燈公ノ御墓拝。(中略)喜兵御隠居ヨリ被レ下物、山野
  等ヨリ之奇物持参。又御隠居ヨリ重之内被レ下。

意訳すると、六月二十八日に村上城下に入り、宿に荷を解くと、すぐに迎えの者に村上城内を案内された。二名の旧知の者と会う。二十九日昼昨日の二名が来て帯刀公からの贈り物を頂く。光栄寺へ同道し、一燈公の御墓を拝す。御隠居より贈り物を頂く──というものである。
 一燈公というのは曾良が伊勢長島藩に仕えていた時の藩主松平公の三男良兼のことで、越後村上藩榊原家の家老榊原家に養子入りした。ところが良兼は二年前の六月二十九日に亡くなっている。まさにその三回忌の命日の前日に芭蕉と曾良は村上に着き、城内に案内され、翌日の祥月命日に墓参を果しているのである。帯刀公というのは良兼の遺児で家老職を継いでいる。御隠居とあるのは良兼の未亡人である。この二人から餞別を受けているのである。
曾良が伊勢長島藩に係わっていたことは確かだが、何故か武家台帳に載っていないという。加えて藩を致仕している者が、旅の途中で遺児を訪ねると、城内に招かれて丁重な持て成しを受けるというのは不思議である。また祥月命日の前日に村上に入るというのは偶然な筈はなく、十分計算され、緻密な連絡も取り合った上のことと言わざるを得ない。
 もっと言えば、『おくのほそ道』のこの場面では芭蕉ではなく河合曾良が旅の主役なのである。
 













 



  

盤水俳句・今月の一句

伊藤伊那男  

ひとり来て花野の視野をほしいまま       皆川 盤水

「花」といえば春、「花野」といえば秋、というのが俳句の決まりである。「ひとり来て」というような抒情的な上五の打ち出しは先生にしては珍しい。花野は多種多彩な花が咲いているが、どの花も小さく、色彩も淡々としていて、どこか淋しさがあるものだ。高原地帯でもあり、朝夕には風にも冷たさが加わってくる。「視野をほしいまま」と花野に君臨しているような表現をしているが逆に読後に孤独感が滲み出ているのである。(平成二十一年作『凌雲』所収)



 



 





彗星集作品抄
  伊藤伊那男・選

 置き場所を決めかねてゐる蝮酒         山田  茜
 貴船川床箸を落とせば濁世へと         中島 凌雲
 髪洗ひ鏡の中の母に会ふ            松代 展枝
 狗犬の口を開けたる大暑かな          山元 正規
 風にある昭和の音や氷旗            高橋 透水
 明方は手の早くなる踊かな           こしだまほ
 枯山水に池の生まるる大夕立          針田 達行
 ことのはの淡く消えゆくソーダ水        宮本起代子
 蚊柱の崩されやすく立ちやすく         森濱 直之
 絵扇を開けば鯉の泳ぎ出す           中村 藍人
 日本橋潜る真昼の舟遊び            新谷 房子
 夏痩をして言葉まで痩せぬやう         堀切 克洋
 書割の富士の痩せをり夏芝居          宇志やまと
 海霧深し鼻を濡らして岬馬           鏡山千恵子
 母渡り消えてしまへり虹の橋          西田 鏡子
 釣り舟の纜あづけ島涼し            尼崎 沙羅
 不死男忌の肴に開ける缶の蓋          橋野 幸彦
 子の駄々が今宵嬉しき夜店かな         中野 堯司
 蟬の樹下抜けて靖国詣かな           杉阪 大和
 またあした虹へと続く下校道          深津  博



















    
     

彗星集 選評 伊藤伊那男

伊藤伊那男・選

置き場所を決めかねてゐる蝮酒        山田  茜
 生け捕りにした蝮を少量の水と一升瓶に入れて一週間ほど置くと腸が綺麗になる。これに焼酎を注ぐ。以前吉野の藤本安騎生氏を訪ねた時に聞いたのだが、焼酎を注ぐときいきなり瓶底から立ち上って焼酎の紙パックの縁に噛み付いたという。生命力が強いのである。そんな蝮酒だけに、さて、どこで保管したものか……と作者が迷っている。私は蛇が駄目、どこであろうが家には置きたくない。安騎生氏の勧めは断り切れず少し舐めたが……。この句は蝮酒を作りながらも置き場所に躊躇するという矛盾をうまく詠み取っている。


貴船川床箸を落とせば濁世へと        中島 凌雲
 京も北山の貴船川の上流に夏の間川床(ゆか)が設えられる。鴨川の川床よりも標高が高い分涼しく、流れも鮮烈で人気がある。この句はうっかり取り落した割箸が清流に流されていったという。川は下の加茂で高野川と合流して鴨川となる。その京の町を「濁世」とみたのである。着想の面白さ。
 

髪洗ひ鏡の中の母に会ふ           松代 展枝
鏡の中の母に会ふ、という発想は類想があるかもしれないが、「髪洗ふ」の季語との取合せがいい。髪を洗うのであるから当然飾り物は無い。また化粧なども落としているはずであり、素顔であるところが、この句の臨場感。 


狗犬の口を開けたる大暑かな         山元 正規
 狗犬には口を開けた阿像と、口を閉じた吽像がある。阿は字音の初め、吽は字音の終りで万物の初めと終りを象徴しているのである。この句は当然阿像を暑さに口を開いた犬などに見立てて大暑を感じているのである。そして吽像は永遠に口を閉じているのであるから成立しないのである。その矛盾がまた楽しいところだ。


風にある昭和の音や氷旗           高橋 透水
 確かに子供の頃自転車に旗を立てたアイスキャンデー売りが廻って来たものだ。端から吸うと着色したシロップが全部抜け出て白い氷だけが残ったりする粗悪品もあった。あれはもう戻ってこない昭和の風景である。高知の竜馬像のある桂浜にアイスキャンデーの旗が立っている、と聞いていたが、今はどうなのか?


明方は手の早くなる踊かな          こしだまほ
昔の盆踊は何日も続いたり、そうでなくとも夜を徹して行われたものである。今も各地にその名残はあるようだ。さすがに朝方ともなれば疲労も重なり仕上げに入るのであろう。伴奏も早い調子に替ってくる。 


枯山水に池の生まるる大夕立         針田 達行
近時の荒々しい気象でこんなことも起る。少し怖い句だ。 


ことのはの淡く消えゆくソーダ水        宮本起代子
 ソーダ水の泡粒が優しい言葉と重なる。


蚊柱の崩されやすく立ちやすく        森濱 直之
一塊の蚊柱のうねりを丁寧に詠み取っている。


絵扇を開けば鯉の泳ぎ出す          中村 藍人
扇を開くに従って絵の中の鯉が泳ぐように出現する。


日本橋潜る真昼の舟遊び           新谷 房子
違う角度から東京を見る。江戸があり、明治がある。 


夏痩をして言葉まで痩せぬやう        堀切 克洋
 この心懸けが大事。心は痩せてはならない。


書割の富士の痩せをり夏芝居         宇志やまと
 怪談物の多い夏芝居だけに富士が痩せて見えることも。


海霧深し鼻を濡らして岬馬          鏡山千恵子
下北半島の寒立馬か。「鼻を濡らして」がうまい。 


母渡り消えてしまへり虹の橋         西田 鏡子
 虹という不思議な現象の生んだ幻想のようだ。


釣り舟の纜あづけ島涼し           尼崎 沙羅
島の杭に舟を繋いで釣に興ずる。島涼しが安らぎ。 


不死男忌の肴に開ける缶の蓋         橋野 幸彦
不死男の代表句「鳥わたる」の本歌取り。佳句となった。 


子の駄々が今宵嬉しき夜店かな        中野 堯司
夜店は子供にとっては別世界。駄々もたまには嬉しい。 


蟬の樹下抜けて靖国詣かな          杉阪 大和
靖国神社の蟬であれば英霊の声とも重なるようだ。 


またあした虹へと続く下校道         深津  博
「また明日!」と別れて、虹の道へ入る幻想。 
 













銀河集作品抄


伊藤伊那男・選

うさんくさき軸もまじりて風入れす   東京  飯田眞理子
かたばみや田舎暮しに根を下ろす    静岡  唐沢 静男
沙羅咲いて一晩にして野に還る     群馬  柴山つぐ子
風鈴に昼間の音と夜の音        東京  杉阪 大和
パリ祭の日に生まれきて負けん気な   東京  武田 花果
閻魔詣まづ十王へ根廻しを       東京  武田 禪次
どくだみも百の一なる百花園      埼玉  多田 美記
末席に避暑客の座す朝の弥撒      東京  谷岡 健彦
梅雨茸を蹴るが日課の雨十日      神奈川 谷口いづみ
持ち上げて開く馬塞の戸大夏野     長野  萩原 空木
大阪の灼けてガラシャの死を思ふ    パリ  堀切 克洋
阿夫利嶺の行きも戻りも新豆腐     東京  松川 洋酔
竹夫人くびれゆるびて来たりけり    東京  三代川次郎










   










         





綺羅星集作品抄

伊藤伊那男・選

風死すや呉に昭和の消え残る       神奈川 有賀  理
滝裏の声の届かぬうらみかな       東京  飯田 子貢
干網の鱗びかりや月見草         神奈川 伊東  岬
海からの跣足を洗ふ勝手口        東京  小林 美樹
鎌先に触れて丸まる蝸牛         長野  三溝 恵子
積まれゐて均衡保つ黴の書肆       東京  島  織布
ふるさとを指で感じる素足かな      東京  高橋 透水
墓移す父母に他郷の蟬時雨        千葉  中山 桐里
太宰忌の三鷹に来ればやはり降る     東京  森 羽久衣
夏暖簾父は馴染の客と聞く        埼玉  森濱 直之
大海を切り取る四角箱眼鏡        神奈川 宮本起代子
黴くさき二十五菩薩なれど拝む      大阪  西田 鏡子
十年も瓶から睨む蝮酒          長野  守屋  明
母と吾寡(やもめ)同士よ宿浴衣          東京  飛鳥  蘭
大のれんくぐりて土間へ泥鰌鍋      東京  絹田  綾
蟬しぐれこころ正座す無言館       東京  中村 孝哲
明易の終着駅に顔洗ふ          埼玉  秋津  結
意地秘めし卆寿の暮し今年竹       宮城  有賀 稲香
うなだるる洗濯物や梅雨曇        東京  有澤 志峯
下闇や没年同じ流人墓          埼玉  池田 桐人
神宿る石に爪立て蝉の殻         東京  市川 蘆舟
南風吹く摩文仁にひと日祈り継ぐ     埼玉  伊藤 庄平
手花火に見る一炊の夢ならむ       東京  伊藤 政三
蝙蝠や川辺の空はまだ暮れず       東京  今井  麦
牛冷やす引き綱土手に投げしまま     埼玉  今村 昌史
日も月も瓶に封じぬ水中花        東京  上田  裕
おほかたは余所を吹くなり扇風機     東京  宇志やまと
梶の葉に生くる励まし教へられ      埼玉  梅沢 フミ
半夏雨木曾の土産の百草丸        埼玉  大澤 静子
蛍火を包めば祈る手のかたち       東京  大住 光汪
梔子の香の怪しけりやや離る       東京  大沼まり子
樹齢不詳その幹に触れ涼しけれ      神奈川 大野 里詩
小刻みに飛んでは休む梅雨の蝶      埼玉  大野田井蛙
野の風情こはさぬやうに草むしり     東京  大溝 妙子
天上の栓忘れしか梅雨滂沱        東京  大山かげもと
跳びさうな構への長し蟇         東京  岡城ひとみ
玉葱に泣かされてゐる夕厨        東京  小川 夏葉
かはほりの一枚真闇よりはがれ      宮城  小田島 渚
未だどこかねむさうにして未草      埼玉  小野寺清人
掛軸の鯉跳ねるかや夏座敷        神奈川 鏡山千恵子
水煙の飛天のまとふ夕焼雲        和歌山 笠原 祐子
紫陽花の色あせてゐる渇きかな      東京  梶山かおり
舟虫や破船は砂に消えてゆき       愛媛  片山 一行
山門は別れの埠頭解夏の僧        東京  桂  信子
ねぶの花湖西の里は雨のなか       静岡  金井 硯児
木道を揺るがせてゐる牛蛙        東京  我部 敬子
端正な束ねの茅の輪天満宮        高知  神村むつ代
廻る時殻は遅れて蝸牛          東京  川島秋葉男
喝采の波くりかへす青田風        長野  北澤 一伯
来し方や瀬音に混じる河鹿笛       東京  柊原 洋征
坪庭に故山めく石夏の雨         神奈川 久坂衣里子
終身てふ保険証書も黴きざす       東京  朽木  直
落日を跨線橋より桜桃忌         東京  畔柳 海村
つちくれとならざるやうに蟇歩く     東京  小泉 良子
明易の何処かにラジオ深夜便       神奈川 こしだまほ
峡深き信濃の宿の洗鯉          東京  小林 雅子
脱ぎきれぬまま竹皮の乾びけり      東京  小山 蓮子
浜昼顔和紙の薄さの外ヶ浜        青森  榊 せい子
花街のうごき出したるかはほりも     長崎  坂口 晴子
分校は木造平屋立葵           長野  坂下  昭
思はざる夫のむかへに日雷        群馬  佐藤 栄子
声変り背丈も抜かれ休暇明        東京  島谷 高水
兄とただ海を眺むる帰省かな       兵庫  清水佳壽美
無口になる甲府盆地の暑さかな      埼玉  志村  昌
草引くに紅差し指の使はれず       千葉  白井 飛露
梅干して外出せぬは毎年よ        東京  白濱 武子
梅干してけふは三日の夜干かな      東京  新谷 房子
雨の日の図書館さらに黴臭き       大阪  末永理恵子
内堀はささにごりして蓮浮葉       静岡  杉本アツ子
熱帯魚羽衣めける尾びれかな       東京  鈴木 淳子
習はしのなくて夏至の日忘れがち     東京  鈴木てる緒
蔓茘枝配線工事の如く張る        群馬  鈴木踏青子
あつさりと夜は明けてをり月見草     東京  角 佐穂子
縁日の寺や風鈴の音高く         東京  瀬戸 紀恵
洗顔の泡のやうなり雲の峰        神奈川 曽谷 晴子
風鈴を鳴らさず風の怠けぐせ       長野  髙橋 初風
葉つぱより花のさみしき半夏生      東京  武井まゆみ
土器投げ初めは目指す雲の峰       東京  竹内 洋平
遣り水に廻る向き変ふ釣忍        東京  多田 悦子
当りくじ太鼓高鳴る夏祭         東京  立崎ひかり
青々と藍二番刈晴を待つ         東京  田中 敬子
砂日傘少し傾け富士も入れ        東京  田中  道
あぶな絵も父の蔵書に土用干       東京  田家 正好
短夜の夢読み止しの夢十夜        東京  塚本 一夫
雨垂れの音のすき間や吊忍        東京  辻  隆夫
吸ひ込まれゆくかに茅の輪くぐりかな   東京  辻本 芙紗
暁の残る蚊遣の香に睡る         東京  辻本 理恵
面目の無き顔をして羽抜鶏        愛知  津田  卓
豆腐屋の喇叭来る頃蚊食鳥        東京  坪井 研治
扇風機消すも付くるも足の指       埼玉  戸矢 一斗
父と似て父と語らずさくらんぼ      千葉  長井  哲
幾分は蒸されて四条涼みかな       大阪  中島 凌雲
本家とは疎遠の家郷蟬時雨        神奈川 中野 堯司
梅雨寒や青一色のピカソの絵       東京  中野 智子
風抜けぬ三年坂の扇子店         茨城  中村 湖童
蝙蝠や路地にかするるチョークの輪    埼玉  中村 宗男
身いつぱいかけて子の押すラムネ玉    東京  西原  舞
鰯雲長寿の国の一人たり         東京  沼田 有希
列島の地形崩して梅雨明くる       埼玉  萩原 陽里
去りがたし翡翠枝を去らざれば      東京  橋野 幸彦
白日傘人を拒みてはばからず       広島  長谷川明子
青梅の落ちてはじまる梅仕事       東京  長谷川千何子
亡き人を恋へば梟ふくみ鳴く       神奈川 原田さがみ
サングラス外し孔雀の雄眺む       兵庫  播广 義春
水底のしづけさにあり安居寺       東京  半田けい子
酔ひ醒めずここらで冷し中華でも     東京  福永 新祇
新茶汲む急須の役目知らぬ子に      東京  福原  紅
何処かに今雷神の平手打ち        東京  星野 淑子
葛城の雨蛙よく鳴きにけり        東京  保谷 政孝
はらからの逝きて邯鄲明けを鳴く     神奈川 堀  備中
ささやかな暮しの透けて軒簾       東京  堀内 清瀬
羽抜鳥一羽遠出を躊躇はず        岐阜  堀江 美州
夏館エレベーターに椅子のあり      埼玉  夲庄 康代
障子貼る広間粛たる三間続き       東京  松浦 宗克
決心の夏帯堅く締めなほす        東京  松代 展枝
疲れ鵜の喉幾度も擦りけり        京都  三井 康有
滑らせて無傷の真白冷奴         東京  宮内 孝子
山を恋ふ懸巣は籠の中に鳴く       東京  村上 文惠
玫瑰の紅濃き岬旅遠く          東京  村田 郁子
江ノ電の海へ一斉夏帽子         東京  村田 重子
酢漿草は錆びた線路の味少し       千葉  森崎 森平
やはらかき風に芯ある団扇かな      東京  保田 貴子
禿頭を啄む勿れ羽抜鳥          愛知  山口 輝久
青春をごくと吞み込むソーダ水      群馬  山﨑ちづ子
東京の川の濁りや桜桃忌         東京  山下 美佐
炎天の踏ん張りどころ鬼瓦        東京  山田  茜
罠繕ふ蜘蛛にも忙し五月晴        群馬  山田  礁
潮の香の網戸抜けくる島泊        東京  山元 正規
室戸岬
補陀落へ渡る潮路か朱夏の海       愛媛  脇  行雲
風にほふ庭のどこかに蟇の息       東京  渡辺 花穂
禅寺の庭に仕掛ける蟻地獄        埼玉  渡辺 志水









        









銀河集・綺羅星今月の秀句


伊藤伊那男・選

風死すや呉に昭和の消え残る          有賀  理
私は歩いたことはないのだが、長らく海軍の街として発展した呉であるから、その痕跡は探せばいくつも残っているのであろう。戦艦大和も海軍呉工廠で建造されたのである。瀬戸内海に面する街は朝凪、夕凪と吹いた風がピタリと止む時間があり、「風死す」はその凪の状態を指すのだが、朝凪夕凪ではなく「風死す」の季語を使ったことで凄味を発揮しているようだ。 


滝裏の声の届かぬうらみかな          飯田 子貢
この句は滝の裏側に回ったところ滝水に遮られて声が届かなかったことがうらめしいというもの。ただし「うらみ」の平仮名が曲者で、「怨み」と「裏見」を掛けているようである。『おくのほそ道』でも芭蕉は日光の裏見の滝を訪ねている。その故事を踏まえた言葉遊びで成功を納めた句といえよう。


干網の鱗びかりや月見草            伊東  岬
安心感のある美しい風景である。それも漁村のごく平凡な景色から切り取ったもので、俳句とはこのようにして作ればいいのだという、典型的な例句として記憶しておいてよい句だと思う。干網に付いた鱗が乾いて夕日の中で光る。その脇に月見草が咲き初める。実生活の中の飾らない美。 


海からの跣足を洗ふ勝手口           小林 美樹
淡々と事実だけを詠んだ句で、作意、計らいが無い。無いというよりも計らいを見せない。そこがいいのだ。海の近くの宿で、裏口から海を見に行って戻る。ただそれだけなのだが、いくつかの小さな物語の想像を誘う。こういう呟きのような心情の吐露が俳句の妙味である。 

     

鎌先に触れて丸まる蝸牛            三溝 恵子
 まさに実感なのであろう。蝸牛も鎌先の鋭さとか、あるいは鉄気かに異常を感じたのであろうか。身を縮めて転がり落ちたのであろう。よく物を見ている句だ。構えて俳句を作るのではなく、日常の何気ない所作の中から生まれてくる新鮮な句である。 


積まれゐて均衡保つ黴の書肆          島  織布
神田神保町の古書店街は世界に誇ってもいい文化の象徴だと言う。天井高く、また通路にまで積まれた本の量には驚く。それが不思議な均衡を保って納まっている。この状態を「均衡保つ」とした表現は初めて目にしたように思う。俳句には皆が思っているけれど表現できずにいたことを発見するのが要諦で、それを叶えた句である。


ふるさとを指で感じる素足かな         髙橋 透水
素足を持ってきたのがうまい!足の触感でふるさとを感じ取るとは実にいい感覚だ。素足であるから当然夏の帰省ということも解る。生家の廊下や仏間から足の裏を通じて様々の回想が浮かび上がるのだ。


墓移す父母に他郷の蟬時雨           中山 桐里
 少子化や人口の都市集中化で墓の移転や墓仕舞が急増しているそうだ。この句の作者も先祖の墓を移したようだ。父母にとっては他郷の蟬時雨が降る。父母を思う作者の微妙な心境がしみじみと伝わる。「他郷の蟬時雨」が手柄!


太宰忌の三鷹に来ればやはり降る        森 羽久衣
太宰のファンであった私は大学に入った年の太宰忌に三鷹の禅林寺の墓を訪ねた。下連雀という地名を今も覚えている。今も太宰の文章の巧みさには舌を巻く。六月十三日に入水し、十九日に発見。その日が忌日となった。「三鷹に来ればやはり降る」が何とも……心に染みる。


夏暖簾父は馴染みの客と聞く          森濱 直之   
父親が好きだった店を訪ねる。この店のどこを父は好んだのだろうか、と夏暖簾を潜り店内を見廻す。店の主も覚えていて、いつもあの席でしたよ、などと話してくれる。温かな句だ。こんな馴染の店を持ちたい、と思う。 


大海を切り取る四角箱眼鏡           宮本起代子
箱眼鏡で大海を四角に切り取った、という機知の効いた句。大(・)海と打ち出したのがうまい。信州で育った私はもっぱら川を覗いていたので、発想の物差しが違う句だ。


黴くさき二十五菩薩なれど拝む         西田 鏡子
臨終の際に阿弥陀仏と共に来迎するのが観世音ほか二十五菩薩。平安末期の藤原道長等も阿弥陀仏からの手網を摑んで死を迎えたという。今は信仰の対象というよりも美術品として見られることが多く「黴くさき」が俳諧味。 


 その他印象深かった句を次に

十年も瓶から睨む蝮酒             守屋  明
母と吾寡同士よ宿浴衣             飛鳥  蘭
大のれんくぐりて土間へ泥鰌鍋         絹田  稜
蟬しぐれこころ正座す無言館          中村 孝哲
大阪の灼けてガラシャの死を思ふ        堀切 克洋























                






 

星雲集作品抄
伊藤伊那男・選

秀逸

鰹捌く太平洋を逆しまに         宮城  齊藤 克之
をととひのままの日捲り梅雨に倦む    東京  清水 史恵
夏芝居女はいつも怨み役         東京  中村 藍人
真円にならぬ味はひ茅の輪かな      埼玉  内藤  明
蜘蛛の囲に搦め捕らるる機影かな     東京  矢野 安美
瓶ビール数だけ語る同窓会        神奈川 白井八十八
日の動き見はからひつつ梅を干す     東京  清水美保子
元祖てふ味付け冷し中華にも       神奈川 北爪 鳥閑
常温の酒がほど良き冷奴         神奈川 河村  啓
妻病めば空になりゆく冷蔵庫       宮城  小野寺一砂
滝水の数珠の如くや補陀落寺       埼玉  小野 岩雄
弁当も斜めに登山列車かな        東京  荻野ゆ佑子
三山は黄泉平坂夏炉焚く         神奈川 大田 勝行
打水の行き届きたる店構へ        東京  上村健太郎
夕焼雲筑波俄に浮き立ちて        東京  生田  武

砂日傘けふの居場所の生まれけり     千葉  川島  紬
夕焼や次の電停涙橋           千葉  吉田 正克
竿捨てて河童となりぬ夏の川       埼玉  渡辺 番茶
ひく波の砂のつぶやき貝風鈴       千葉  針田 達行
遠き日や家族写真に海の家        静岡  橋本 光子
打水の終ひは少しおざなりに       長野  桜井美津江
草笛は横顔見せて吹きにけり       東京  髙坂小太郎
ヨット駆る齢ならずも海に眼が      神奈川 小池 天牛








星雲集作品抄

            伊藤伊那男・選

水打ちて父の帰りを整へし       京都  秋保 櫻子
空耳の夫の声かと遠蛙         東京  尼崎 沙羅
激流の上に咲きたる合歓の花      愛媛  安藤 向山
ねくたれて寝覚めのこはき夏衾     東京  井川  敏
木天蓼の葉陰に小さき花匂ふ      長野  池内とほる
丁度合ふ袖丈はなし秋時雨       東京  石倉 俊紀
読み解きし国の当て字や鷗外忌     東京  伊藤 真紀
胡瓜もみ母ゐて叔母も伯母もゐて    広島  井上 幸三
子燕を軒に守りて老二人        愛媛  岩本 青山
炎昼のいつもの道にふと迷ふ      愛媛  内田 釣月
押し引きの波の音なり蟬時雨      長野  浦野 洋一
夏富士をしよつて帰れと云ひし叔父   埼玉  大木 邦絵
喪支度にまづ外し置く陶風鈴      東京  大島雪花菜
ソーダ水飲みつつ違ふこと想ふ     東京  岡田 久男
水遣りて向日葵飼つてゐるごとし    群馬  岡村妃呂子
盆路を夫辿り来る気配あり       神奈川 小坂 誠子
青畳踏みて確かむ素足かな       静岡  小野 無道
どぢやう鍋橋のたもとの老舗かな    東京  桂  説子
門前をよぎる夏蝶仁王の眼       埼玉  加藤 且之
水打てば喉鳴らすかに砂利の庭     長野  唐沢 冬朱
鳥渡る船の手すりに肘のせて      愛知  北浦 正弘
翅のまだはみ出て愛してんと虫     東京  北原美枝子
あめんぼう長雨はまだ続きさう     東京  久保園和美
眼の奥に朝の漁港や梅雨鰯       東京  熊木 光代
八の字に母に寄り添ふ夏越の輪     東京  倉橋  茂
頼朝公の野営の社蛍舞ふ        群馬  黒岩伊知朗
凶作を案ずる母の便りかな       群馬  黒岩 清子
田圃道太古の顔の蜻蛉かな       三重  黒岩 宏行
赫々と赤松の幹炎天下         東京  黒田イツ子
桜桃忌ラジオにメロス走りけり     東京  小寺 一凡
夕立や傘を斜めに裏路地へ       千葉  小森みゆき
雲海に足を沈めて泳ぎ行く       神奈川 阪井 忠太
グランドの白線けむる蟬しぐれ     東京  佐々木終吉
潦みるみる小さく夕立晴        群馬  佐藤かずえ
仏桑花働き者の水牛車         群馬  佐藤さゆり
麦熟れて目鼻溶けたる石仏       広島  塩田佐喜子
打水や我が身の熱をもてあまし     東京  島谷  操
いつ時の鳶の旋回梅雨晴間       東京  須﨑 武雄
百人の煮炊きをするも夏安居と     岐阜  鈴木 春水
山梔子の錆びついてなほ香りけり    愛知  住山 春人
紫陽花の円かに枯れて散りもせず    千葉  園部あづき
海境の群青眩し海開き         埼玉  園部 恵夏
掛け声の天にとどくや夏祭       東京  髙城 愉楽
売切れの豆腐屋の軒梅雨夕焼      福島  髙橋 双葉
蚊帳の中故郷の町を思ひ出す      埼玉  武井 康弘
端居して記憶の風の中にをり      東京  竹花美代惠
山荘に少し厚めの夏蒲団        神奈川 田嶋 壺中
子規の忌やその後の律を誰も云はず   栃木  たなかまさこ
風道を知らせるやうに青田波      東京  田中 真美
箸置きはガラスの魚夏料理       神奈川 多丸 朝子
白鷺の狩一瞬の間に終る        愛知  塚田 寛子
忙しなきひと日の暮れて冷奴      広島  藤堂 暢子
書き出せぬ友への見舞五月闇      東京  中込 精二
夕暮れに人の足止む白木槿       神奈川 長濱 泰子
打水に迎へられたり奈良井宿      長野  中山  中
空に月宵待草は眼をひらく       東京  永山 憂仔
絡繰の山車の揺るぎや山笑ふ      京都  仁井田麻利子
親鸞の筆跡自尊蓮の花         東京  西  照雄
蘇る絵はチビチリガマの夏       宮城  西岡 博子
再会の孫の背丈や夏木立        東京  橋本  泰
合歓の花まだ目覚めざる郷の道     神奈川 花上 佐都
雨樋に歩みのなごり蝸牛        長野  馬場みち子
父の日の気づかぬふりで過ぎにけり   長野  樋本 霧帆
蝙蝠が雲に喰はせる月夜かな      神奈川 日山 典子
あれこれの消えゆく母郷茄子の花    埼玉  深津  博
梅漬ける今も昔のノート出し      長野  藤井 法子
代重ねし仕立て直しの上布かな     福岡  藤田 雅規
風鈴売り音振りまきて路地めぐる    東京  牧野 睦子
夜詣や茅の輪の紙垂が闇に浮く     神奈川 松尾 守人
翡翠や一気の狩に細波が        神奈川 松崎 雅則
昼寝覚め畳模様の頰熱し        愛知  松下美代子
出張の途中下車なり鱧料理       東京  水野 正章
川床に鞍馬の渓の飛沫かな       東京  棟田 楽人
幟揺れ冷し中華の時と知る       東京  八木 八龍
風に乗り祭太鼓は隣村         東京  家治 祥夫
渓流の音緑陰に丸太椅子        群馬  山﨑 伸次
その辺り富士があるはず雲の峰     神奈川 山田 丹晴
暑き夜を過ぎ暑き日の上りけり     静岡  山室 樹一
対岸の街の灯や夕涼み         群馬  横沢 宇内
サラダボウル今日素麵を浮かしをり   神奈川 横地 三旦
杜子春のいまだに怖き我鬼忌かな    神奈川 横山 渓泉
夏めくや湖の碧木の緑         山形  我妻 一男
隊商の影絵連なり大夕焼        神奈川 渡邊 憲二
籐椅子の軋みを風の音と聞く      東京  渡辺 誠子
  






















星雲集 今月の秀句

伊藤伊那男

鰹捌く太平洋を逆しまに           齊藤 克之
気仙沼の人達の鰹の捌き方を見ると、頭を落して内臓を抜くと、尾鰭を持って魚体を垂直に吊るし、背骨に沿って一気に三枚に卸していく。豪快である。多分そのような捌き方がこの句になったのではなかろうか。まさに「太平洋を逆しまに」捌くのである。今のような説明をしなくても、句全体の持つ熱量から鰹の大きさ、大胆な調理法、ひいては漁港の活気までが伝わってくるのだ。


をととひのままの日捲り梅雨に倦む       清水 史恵
日捲りの暦というものは使ってみるとなかなか厄介なもので、規則正しい生活をしていないと滞ってしまう。今日は何々をしよう、という明確な目的を持っていないと捲ることを忘れてしまうのである。この句にはそうした雰囲気がよく出ているようだ。梅雨の鬱陶しさをうまく表出した。 


夏芝居女はいつも怨み役            中村 藍人
夏芝居は納涼気分を求められることから演目は怪談物が多い。四谷怪談、番町皿屋敷、牡丹燈籠‥‥などなど怨みを抱えた女の亡霊がさまよう。幽霊というものはどうやら女に限るようだ。 


真円にならぬ味はひ茅の輪かな         内藤  明
 茅の輪は丸く作るのだが、どんなに力を尽くしても真円にすることは難しいようで、どこかに歪みが残るものである。それもまた味わいの一つ、とみた作者のおおらかさがこの句の味わい、である。


蜘蛛の囲に搦め捕らるる機影かな        矢野 安美
見立ての面白い句、ということになろう。見上げる蜘蛛の巣の上を飛行機が横切ったという場面だが、これを蜘蛛の囲が飛行機の影を搦め捕ったと、壮大な風景に強調したのである。ちっぽけな蜘蛛の囲が巨大な飛行機を捉えてしまうという錯覚を、真実のように思わせてしまう佳句。 


瓶ビール数だけ語る同窓会           白井八十八
同窓会とあらば、生ビールではなく瓶ビールである。何回となく注ぎ合って、乾杯を繰り返さなくてはならない。そのようにしてビール瓶が林立していく。取り止めのない思い出話も積み重なっていく。同窓会の様子がよく描き出されている句だ。


元祖てふ味付け冷し中華にも          北爪 鳥閑
 冷し中華は昭和時代に入ってから日本で作られたものだそうだ。発祥地としては神田神保町の揚子江菜館、もう一つは仙台市青葉区の龍亭、という説がある。この句の冷し中華も元祖の流れを汲む正統な味を売り物にしているのであろう。歴史が浅く、簡単な食べ物だけに元祖と主張することに、ほのかなおかしさが漂う。


弁当も斜めに登山列車かな           荻野ゆ佑子
 日本各地に登山鉄道と名の付く鉄道がある。傾斜面を登っていくので、乗客の身体も荷物も当然ながら傾く。そのことを句に仕立てたのだが、この句が成功したのは「弁当」に焦点を当てたこと。人でもリュックでも駄目で、「弁当」の発見が眼目。俳句の肝はこの目の付け所。


打水の行き届きたる店構へ           上村健太郎
 大店とあれば、打水も斑であってはいけない。綺麗に前面全てに行き渡っていなくてはならない。「行き届きたる」にその様子が出ていて、経営状態も良く、構えも綺麗で、従業員の躾も行き届いている、という隙の無い様子がよく出ているのである。


砂日傘けふの居場所の生まれけり        川島  紬
私などもそうだが、海水浴に行ってもほとんど海に浸かることが無く、砂日傘の中にいる。太陽が動けば、椅子の位置をずらすだけ。見ているとほどほどの年齢になるとそんな人が多いようだ。この作者も家族を海に遊ばせて本を読んだり音楽を聞いたりしているのであろう。「居場所の生まれけり」は類想感のない表現であった。


夕焼や次の電停涙橋              吉田 正克
「涙橋」は東京に二つあるという。一つは荒川区南千住の思川に架かっていたという。小塚原刑場の近くである。もう一つは品川区南大井の立会川に架かっていて鈴ヶ森刑場の近く。当時今生の別れの橋であったところから付いた名称である。「夕焼」の季語の取合せで深みが出た。

その他印象深かった句を次に

 

竿捨てて河童となりぬ夏の川         渡辺 番茶
ひく波の砂のつぶやき貝風鈴         針田 達行
遠き日や家族写真に海の家          橋本 光子
日の動き見はからひつつ梅を干す       清水美保子
打水の終ひは少しおざなりに         桜井美津江
草笛は横顔見せて吹きにけり         髙坂小太郎
ヨット駆る齢ならずも海に眼が        小池 天牛
















伊那男俳句


伊那男俳句 自句自解(69)
           
京に降る雪あたたかし蕪村の忌

 蕪村の句は今も新鮮である。〈愁ひつつ岡に上れば花茨〉などという句は、今句会に出てきても何の違和感もない。微細な心の内を表に出すことはほとんど無かったと思われる江戸時代の中期に、このような現代人と同じ感覚の句が詠まれたことは驚くばかりである。句は蕪村の「夜色楼台図」からの着想である。京の町に雪が降っている絵だが、明りの洩れている家もあり雪の中なのに穏やかで柔らかく家々の団欒が感じられるのである。さてこの句を作ったより後のことだが、京都の島原の角屋で行われていた蕪村忌俳句大会に招かれたことがある。まさに蕪村も遊んだ角屋の座敷での句会である。蕪村忌が兼題であったが、ここでの決まりは「蕪村の忌」と「の」を入れるのは禁止であった。あくまでも「蕪村忌」または「春星忌」で詠む。確かに忌日俳句に「の」は使わない方がいいと思う。極端に言えば「河童の忌」では困るのである。以来忌日俳句に「の」は使っていない。

(ふた)上山(かみ)へ羽化さながらの冬牡丹


 奈良の二上山の麓、当麻寺の近くに石光寺がある。中将姫が曼荼羅図の糸を染めた井戸があった寺だというので染寺の名もある。小さな寺だが、年末から二月頃までの寒牡丹で知られている。二上山を借景にした牡丹の庭は見事である。二上山には大津皇子の陵墓がある。大津皇子は天武天皇と天智天皇の娘、太田皇女との間の子である。一方天武天皇と天智天皇の娘鵜野讃良皇女(後の持統天皇)の間に草壁皇子がいた。天武天皇が崩御したあと持統が皇位を継承したが、持統は有能で知られる大津皇子が我が子草壁皇子の対抗勢力になることを恐れ、理由を設けて大津皇子を死に追いやったのであった。そのような悲劇の山の麓の冬牡丹である。少々気持が入り過ぎたかもしれないが、冬牡丹の薄い花弁が風に揺れて二上山に向って羽化するように見えたのである。大津皇子の姉、大来皇女の嘆きの歌〈うつそみの人なる我や明日よりは二上山を弟背とわが見む〉に触発されたようだ。









     


 



俳人協会四賞・受賞式





更新で5秒後、再度スライドします。全14枚。







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haishi etc
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銀漢の絵はがき


挿絵が絵葉書になりました。
Aシリーズ 8枚組・Bシリーズ8枚組
8枚一組 1,000円

ごあいさつにご利用下さい。






 
        








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「銀漢」季語別俳句集


26

拡大します。
銀漢季語別俳句集
待望の『季語別俳句集』が3月に刊行されました。



2021/3/25   更新













主宰日録  

  

7月11日(日)
角川「俳句」合評鼎談の校正。「こもろ・日盛俳句祭」の選句、小色紙に賞品として染筆9枚書く。父の弟、益夫さん昨日逝去、89歳との訃報あり。慶應の先輩で私に入学を強く勧めてくれた叔父。16時から近所の水産業者のN家、三家族集まる。三陸の海鞘、牛乳瓶に入った極上品の海胆、生鮑10ほど。たらば蟹など。私は野菜もの四種ほど持参。結局料理は私担当で、たらば蟹3匹ほどを解す。鮑は半分刺身。半分酒蒸し。蟹の殻、ほぐし身の雑炊は大好評。

7月12日(月)
眼科、目の傷治ったと。農家へ野菜買い出し。いくつかの句会の選句。S氏の句集稿点検。

7月13日(火)
気仙沼より、海鞘取り寄せ2回目。発行所にて「火の会」9人。久々、今井肖子さん復帰。

7月14日(水)
10時半、深谷駅。「伊那北会」。深谷城跡へ。今は小学校や市の施設。山内上杉氏の支流の九代続いた城跡。秀吉の北条攻めで廃城。あと徳川忠輝が入るが、江戸初期に廃城。あとNHK大河ドラマ「青天を衝け」巡り。誠之堂〜尾高惇忠生家〜旧渋沢邸「中の家」。隣の「麺屋忠兵衛」という店の「煮ぼうとう」実にうまい。旧渋沢邸の庭掃除のおじさんと話すと実に博識で、30分程説明を聞く。あと中山道深谷宿に出て「菊泉」の「滝澤酒造」で巨大煉瓦煙突。社長に説明を聞く。酒蔵の跡地の「七ツ梅」でお好み焼きなどで打上げ。駅近くでもう1軒寄って新宿まで眠る。
7月15日(木)
13時、田町の専売ビルにて「三田俳句丘の会」。禪次、洋征、研治さんが銀漢勢
。久々、行方克巳会長、ながさく清江さんと会う。

7月17日(土)
「銀漢夏の全国俳句大会」の選句。15時から、日本橋の「ここ滋賀」にて「てふてふ句会inここ滋賀」。何度も延期したが、ようやく第1回目を敢行。「銀漢」の仲間の支援を受けて13人の句会。16時半で終える。梅雨明けにて梅を干し始める。

7月18日(日)
午後、杏一家来て、私の誕生祝いをしてくれる。庭の木陰にテーブルをしつらえてバーベキュー。暑い日が続く。

7月21日(水)
数日、「銀漢」9月号の選句などに専念。昼、表参道の画廊。高坂小太郎さんの個展。見事である。絵の才能の無い小生は溜息をつくばかり。

7月23日(金)
夜、歯医者のK家一家来て食事会。コストコの料理持ち込み。私は岩井新一さんの茄子。焼き茄子、塩揉み。オリンピックの開会式を見る。

7月25日(日)
「銀漢」9月号の原稿全部終了。梅干し、10日ほどきっちり固めに干し上げる。「俳句」合評鼎談の準備。親戚の五日市さん久慈に帰省とて帆立、生海胆など送ってくれる。帆立のにんにくバターソテー。絶品。

7月26日(月)
新幹線で10時過ぎ、信州上田。駅前のホテルに荷を預けて散策。11時前、蕎麦の「刀屋」。何10年も前に池波正太郎の本で知って以来、待望の店。「大盛り!」と言うと「4人前入っていますが」と。で、「中」750円。いかにも信州の無骨ながら風格のある蕎麦。快晴で暑い。柳町の井戸端で司馬遼太郎の『街道をゆく』九の「信州佐久平みち」を読む。昭和五十四年以来の再読。北国街道を辿って上田城へ。真田は江戸初期迄ながら、真田一色の町の城内を見たあと、城の外周を巡る。17時過ぎ、駅近くの居酒屋に入る。あと町を一周してもう1軒。当地は肉うどんというと馬肉うどん。21時、就寝。


7月27日(火)
17時起床。8時前のしなの鉄道で長野市へ向かう。意外にも満員電車。ベッカーズで朝食。禪次さんは膝痛で欠席。柊原氏と落ち合い、バスにて志賀高原の「石の湯ロッジ」へ。「知音」の行方克巳先生一派。前日から来ていて、俳句合宿であることを知る。15時半に10句出し句会と。蛍を見る会と聞いていたので歳時記も持たず、泡を喰らう。作句しながら温泉に入る。15時半より句会。18時、夕食。料理、心が籠っている。20時、敷地の中の川に蛍を見に行く。雨中ながら、源氏蛍が沢山舞う。標高1,600ながら温泉が川に入るので生息できている、奇蹟的な場所とのこと。蛍の舞う期間が3ヶ月続くのも珍しいと。21時から袋廻しの句会、10人いたので10句。22時となる。夏炉を囲んで行方氏、ホテル社長とブランデーを楽しむ。

7月28日(水)
6時に起き温泉に入る。7時、朝食。うまい! 9時、田ノ原湿原へ。2時間ほど散策し、高山植物を見る。風がいい。昼、ホテルで昼食を取り、バスで長野へ出て、解散。柊原氏と善光寺へ。地下の「お戒壇巡り」など。子供の頃以来。駅近くの居酒屋で打上げ。洋征さんと2人だけで飲むのは初めて。

7月29日(木)
5時起、合評鼎談の準備。14時、リモートで鼎談。約2時間。あと雑務たくさん。

7月30日(金)
久々、農家の野菜。モロヘイヤ、枝豆、甘唐など。「NHK俳句」11月号、「一句旬菜 冬野菜編」。6種執筆。「俳句てふてふ歳時記」例句点検。

8月

8月1日(日)
「銀漢」10月号の担当原稿全部書き上げる。松山の「櫟」誌上講演会約八千字も書き上げる。

8月2日(月)
俳人協会の「第60回全国俳句大会」特選評。3句選んだが2句は類想句で没。先般、NHK学園の俳句大会でも秀逸佳作30句の内、6句が類想句。担当の方々も大変。口当たりのいい句は危ない。

8月3日(火)
買い物その他雑用。17時、発行所。森羽久衣、大野田井蛙、戸矢一斗さん来て、「銀漢夏の全国俳句大会」の選評や皆さんへの挨拶などのビデオ撮り。19時より「火の会」8人。

8月5日(木)
5句会ほどの選句。「銀漢夏の全国俳句大会」の特選句への色紙の染筆。「銀漢北軽井沢句会」第200回句文集、綺麗な仕上がりで届く。「銀漢」9月号の校正。

8月6日(金)
角川『俳句年鑑』に5句。羽黒山三光院様より、だだちゃ豆到来。16時、新宿駅で武田編集長と待ち合わせ。北辰社関係の捺印、校正原稿渡し


















         
    






今月の季節の写真/花の歳時記



2021/10/21撮影    零余子   HACHIOJI






△零余子
葉の付け根にできる、多肉で球状の芽。地上に落ちると根を出して、新しい個体となる。
鴨長明が日野山における晩年の隠遁生活などを綴った「方丈記」には、10歳になる近所の子どもと連れだって野山で遊ぶ楽しさも描かれている。その中に「またぬかごをもり、芹を摘む」という記述がある。今は多く「むかご」と呼ばれている。「名義抄」には「零余子、ヌカゴ」とある。和名の「ぬかご」または「むかご」が何に由来する呼称であるかは分からない。しかし漢名の零余子(レイヨシ)については大方の想像が付く。零は雨の滴(しずく)の意であり、転じて僅か・少ないの意となった。零余は残りが極めて少ないの意である。端た金の「はした」の意もある。なお零は静かに、こぼれるように落ちるさまを表すときにも用いられる。


彼岸花 酔芙蓉/午後 午前/酔芙蓉 鶏頭 お茶の花
オオセンナリ 吾亦紅 紫紺野牡丹  紫苑 オリーブ
十月桜 忍冬 姫蔓蕎麦 サラシナショウマ ツリフネソウ
ツリフネソウ ミヤマシキミ 零余子






写真は4~5日間隔で掲載しています。 
2021/10/22







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